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2章20話 「過ぎたるは及ばざるが如しの話」


どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。

どんなに健康に良いものでも、適量以上に摂取すると体に毒だというのはどれも同じです。

栄養だって同じです。ビタミンを取り過ぎたらお腹を壊すとか、糖分を摂取しすぎて太るだとか。

何事も適量が一番です。




「あのー、もう次のデザートに移っても……よろしいでしょう……か?」


俺は本日何度目かの質問を女性陣に投げかけたが、その声は自分でも情けないくらいに弱々しかった。


あれから俺は、石焼き芋の状態で食べようとする女性陣をなだめすかし、サツマイモをマッシャーで潰し、丸めた上で卵黄をツヤ出しのために塗り、そしてオーブンで焦げ目をつけてホクホクの状態のスウィートポテトを完成させた。完成させ続けた。一人で。


そんな俺の声が多少弱々しいからと言って、誰が責められると言うんだ。

俺は誰ともなしに言い訳しながらも料理の手を止めずに、マダムたちの方をうかがう。


俺が作ったスウィートポテトを、貪るように喰らう彼女たちの姿は正に鬼。

マダムですら上品に口に運んでいるが目は笑っておらず、そのスピードはわんこそばを彷彿とさせる。フレアさんも、もっきゅもっきゅ口に運んでいるし、トントンさんに至っては両手が残像を残すほどだ。


誰も彼も鬼気迫るものがある。


試食のつもりで提供したのに、気づけば追加分を山のように作らされ、止めようものなら羅刹のような鋭い眼差しx3を向けられる。

何度もこのやり取りをしていれば心も折れるというものだ。


『君が余計な事を教えたからだね?』


ルナが嬉しそうに言ってくる。

俺が困っているのが楽しいんだろう。

腹がたつが、今回ばかりは完全に同意。

余計な事を言ったと後悔していたところだ。

だが過ぎた事を嘆いても仕方がない! リカバリーすればいいのさ!

強気に行こう、強気に!


「あのぉ、さっきも言いましたけど、ビタミンCはたくさん摂取したからと言って、そんなに体に吸収されるわけではないので、沢山食べてもいいことはないって言うか……」


語調が弱々しいのはサツマイモをマッシャーで押し潰しすぎて腕がだるくなってきたからであって、決して女性陣が怖いからではないのであしからず。


「でも、ビタミンCにはシワやシミを予防する働きがあるのよね?」

「老化を食い止める効果も期待できるんですよね? 抗酸化作用ですよね?」

「水溶性の食物繊維は食べたら食べた分お通じが良くなるのよね?」


「「「だったら、食べるべきよね?」」」


さっき俺が教えたばかりの内容を、この世の真理であるかのようにハモりながら断言してくる三人。こちらを一切見ようともせず、ひたすらにスウィートポテトから目を離さない。


「ソウデスネ……」


ゴメンやっぱり怖いです。

もはや抵抗は無意味と悟った俺はイモを潰す作業に戻った。

何がいけなかったのか……?


あれかな。老化防止と言ったのがいけなかったのかな?

それともシワ? シミの事かな?

トントンさんは便秘解消のために食べるのは間違いではないけど。

その話してから、3人の気迫が違うもんな。


全部教えたらダメな内容だったんかな?

でも、商品の説明は必要な事だし、何が正解だったのか……。


『このまま彼女たちが満足するまで、食べさせるが正解だね?』


ルナがあえて目をそらしていた現実を突きつけてくる。

知ってるけど、腕がもう、もげそうなくらい辛いから回避したくて言ってんだよ!


『わかってて言っているんだよ?』


なんでちょっと驚いてんだこのやろう。

俺に対して嫌味を言うのが呼吸をするくらい当たり前だとでも言いたいのか!

知らなかったの? と目を見開くルナに抗議すると、今度は哀れみの目で見てきた。


『……疲れているんだね?』


俺が自明の理を殊更に強調している可哀想なだとでも言いたいのか!

あと疲れてるっつってんだろ! 腕が! 現在進行形で!


『わかってて言ってるんだよ?』


無限ループっ!!

ここまでくるとただの嫌がらせの線もある。


『嫌がらせだよ?』


お前なんか死んじゃえ!

人を小馬鹿にしたニヤニヤ笑いをするルナに真摯な願いを叩きつける。


はぁ、だけどやっぱりそうなるよなぁ。

結局は彼女たちが満足しないことには始まらなさそうだ。

仕方ない……。


俺は諦めの溜息を吐きつつ、スウィートポテトを皿に乗せる。

一つ積んではマダムのため。

二つ積んではフレアさんのため。

三つ積んではトントンさんの方を向き、(しきみ)ほどなる手でイモを丸め、商売繁盛、金の為と皿の上に泣く泣く積み上げるのである。


『さしずめ、彼女たちは賽の河原の石積みを邪魔する鬼と言ったところだね?』


いくらスウィートポテトを積み上げても平にされちゃうしな。


『地蔵菩薩が助けに来てくれるといいねぇ?』


悪魔のお前に仏教ネタが通じると言うことに違和感を覚えるがまあいい。

あいにくと理不尽なドタキャン、リテイクは前世で慣れっこでね。

石の塔を崩されたぐらいではへこたれないんですわ!

お地蔵様を待つ必要もねぇ! 俺は自らの手で道を切り開く!


「あのー、もう次のデザートに移ってもよろしいでしょうか?」


俺はもみ手をしながら再度お伺いをたてる。

下の手は動かさず上の手を大きく動かすところが美しいもみ手のポイントだ。

卑屈な笑顔をブレンドするとなおよし。


『大見得切って結局それなんだね?』


苦笑するルナだが、甘いな。

この68個目のスウィートポテトよりも甘い。

そしてそれらを食っている女性たちの口の中も甘ったるくなっていることだろう。

本来のサツマイモの甘味以上に。


「まだ食べられるますし、美味しいですし抗酸化作用ですから、まだ食べましょう!」


そう主張するのは、スウィートポテトで両方のほっぺをリスのように膨らませるフレアさんだ。フレアさん抗酸化作用をよくわかってないな? 言いたいだけだろ。


「そうね♪ 美味しいし美容と健康に良いなんて最高よね♪」


それをトントンさんが追認する。

両手は未だに残像が尾を引いている。

やっぱり食べているところが認識できない。

飲んでんのか? 芋を飲んでんのか?


だけど、けんこうねぇ?


「そうですねぇ。確かにスウィートポテトは熱してもビタミンCが壊れにくく食物繊維も豊富ですから健康に良いですねぇ」


俺はウンウンと頷きながら同意する。

フレアさんとトントンさんも嬉しそうに一緒に頷く。

マダムだけは手を止めて俺の方を見る。その目には警戒が浮かんでいる。

その様に俺はニッコリと微笑むと、


「ただまぁ、いくら美容にいい食べ物でも砂糖が増し増しで入っていたら、意味ないですよねぇ? 美容にいいわけがない。プラマイ、ゼロだ。むしろマイナスかもしれない」


「……なんですって?」


マダムがスウィートポテトを皿に戻しながら聞いてくる。

おやおや、マダムにしてはお行儀の悪いことで。


「砂糖を摂取しすぎると太っちゃうんですよねぇ。一気にたくさん摂取した場合は特に」


不穏な空気にフレアさんとトントンさんも動きを止める。

太るというキーワードに恐れ慄いているようだ。

その額にはじっとりと汗が滲みでているのが見て取れる。


「砂糖は……今回使わないと言っていたわね?」


マダムが恐る恐るとたずねてくる。

心なしか手が震えているように見えるな。

まぁ? 芋を潰しすぎた俺の腕はもっと震えているが?


「確かに試食には(・・・・)使わない予定とは言いましたねぇ」


仕方ないよね。試食の量を超えているものこの数は。

俺はやれやれと肩をすくめる。


「一体、いつから……?」


いつから砂糖を入れていたかということだろう。マダムが聞いてくる。


「51個目の時点で少しずつ砂糖を入れ始めました。バレないようにねぇ。今皆さんが食べているものは通常の2倍の砂糖が入っています」


本当はもっと早くから入れていきたかったんだけど、砂糖は高いからそんなに用意できなかったのだ。


「裏切ったんですね?!」


今まで黙っていたフレアさんが声を上げる。

手にはまだスウィートポテトを持っている。それでも手放しがたいようだ。


「裏切るとは人聞きの悪い。私は確かに言いましたよ? 試食で作る分には砂糖を使わないってね?」


俺の言葉にマダムがハッとした顔をした。


「最初から私たちが試食で済むはずがないとわかっていたのね?」


悔しそうなマダムも美しい。


「いやぁ、わたくしなんぞがあなた方を推し量るなどとてもとても。食べることを選んだのはあなた達ですよ」


俺は何も強制していない。彼女達が食べたいというから求めに応えただけだ。

それを謀略のように扱われるのは心外である俺がそういうとマダムが口を開く。


「何が望みなの?」


「くっくっくっ。話が早くて助かります」


大量にスウィートポテトを作らされた意趣返しもできたし、本題に入ろう。


「今、あなた方の体の中には栄養が過剰に摂取されている状態です。このままでは体がその栄養を蓄えとして脂肪に変えてしまいます」


脂肪という言葉に3人の顔から血の気が引く。


「では、どうすればいいのか?」


俺はそう言いながら机の下から新たなフリップを取り出す。


「その答えがこちら! 寒天ゼリーで腸内の余分な栄養を脂質や糖分の吸収を抑えれば万事解決!」


「「「おおー」」」


3人の賞賛の声を聞きながら俺は続ける。


「ということで次は寒天ゼリーを作ってまいります!」


俺はそう宣言するのだった。


お読みいただき誠にありがとうございます!


先日、妹の先輩である脚本家の方が、私の小説を褒めてくださったそうです。

なんかメッチャ嬉しく感じました。自分やるじゃんと思え小躍りしました。


作者は大概褒められると喜びます!

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