2章 19話 「まさかのクッキング(準備)だけって話」
ただただ石焼き芋の説明をする回ですw
どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。
昔から家庭の味というものは、口伝であることが多く、あまりレシピで残すことはしなかったと思います。
もちろんレシピを残している場合もあるでしょうが、受け継がれていくうちに段々と姿を変えていく、それが家庭の味の醍醐味なのでは無いでしょうか?
なんて、もっともらしい事を言ってみましたが、多分いちいち書き起こすのが面倒だというのが真実じゃ無いかなと思います。
だって、お菓子一つ作るのだって文章にすると、とても長文になるのですから。
「それでは、早速デザート作りを始めたいと思います!」
「わーわー♪」
「楽しみです!」
パチパチと拍手するのは、お馴染みトントンさんとフレアさん。
二人ともエプロンを身につけ三角巾も頭に装備している。
少し離れたところで椅子に座ってマダムもいるが、調理には参加しないようだ。
まぁ、この二人が楽しそうなので譲った感じかな?
対する俺もクレア母さんが作ってくれたエプロンを装備し、パピヨンの厨房に立っている。
母さんの趣味で危うくエプロンをピンク色にされそうだったが、断固として黒を所望し、なんとか説得に成功した。
長く辛い戦いだった。途中で胸元にハートマークをつけられそうになった時はもうダメかと思ったりもしたものだ。
だがピンク色だと可愛らしくなって、男の俺には合わないからな。
それだけは阻止できて俺は満足だ。
『フリルがついている時点で可愛らしいと思うけどね?』
俺が母さんとの攻防を思い出していると、ルナが揶揄うようにいう。
それも一理あるが、男である以上ピンクは避けねばならぬ。
ピンクかフリルなら俺は後者を選ぶね。
『僕はどっちもどっちだと思うけどねぇ?』
首をかしげるルナだが仕方あるまい。
女、子供にゃわかるめぇ。
『君も女だし子供だね?』
ちょっと何言ってるかわからない。
俺は男だし大人だよ?
『もう、自分で自分に言い聞かせているレベルだねぇ?』
憐れむような眼差しでルナが言ってくるが、マジ卍 。
最近ルナは、度々俺が女の子であると言ってくる。
違うと言っているのにしつこい奴だ。
言っても聞かない奴は無視するに限るね。
そう判断した俺は視聴者の皆様に、キキちゃん3分間クッキングの開始を告げる。
「まずは調理が簡単なスウィートポテトをご紹介いたします。材料はこちら」
ワクワクした表情で、目をキラキラさせているフレアさんとトントンさんに材料の書かれたフリップを見せると、二人は熱心にメモを始める。
その間に俺はテーブルの上に食材を用意するとしよう。
まずは当然サツマイモ。
あれからルナが南の方まで行って見つけ出してきた。
ぶっちゃけ存在しない可能性も十分にあったんだが、ルナも悪魔としての矜持があるのか、契約を遂行する為に超頑張ったようだ。
本当に見つけ出したのか、悪魔的なパッワーで作り出したのか知らんが、手に入ったならどちらでも良いだろう。
まぁマジで一度南に探しに行ったのは間違い無いと思う。
だって最初持ってきたのは甘くないサツマイモだったから。
野生の物だと甘く無いらしく、日本のサツマイモが甘いのは品種改良されたかららしいし。
だが、俺が欲しいのは甘いサツマイモだった為、何度かリテイクしたら、甘いのを持ってきてくれた。
リテイクのたびに悪魔らしい眼光で俺を射抜いてきたが、スウィートポテトを定期的に進呈する事で納得させた。
奴も所詮は女よ。サツマイモの魅力には勝てまい(偏見)。
そんな悪魔じるしのサツマイモと、あとはバターと牛乳と塩。見た目を良くするために卵も用意する。
本当は砂糖も使いたいけど、この世界だとエルフしか砂糖を作れないことになっているから高級品なので今回はパス。高いと日常で食べれないからね。
サツマイモは産地の関係で実際に仕入れるとなると高くつくだろうが、ルナに掘りに行かせたので元手がタダ。芋は育てやすいので、今後は種芋から増やしていく予定だ。極秘で。
そしてバターと牛乳、塩も普通に売っている。卵も普通に安く仕入れられるから問題ナッシング。俺も家で食べられるお値段となっております。
ひとしきりフレアさん達がメモを取り終えたところで、作業工程を説明していく。
「えー、通常の作り方では、こちらのサツマイモを蒸していくのですが、今回は試食のスウィートポテトには砂糖を使わない予定なので、焼いていきます」
蒸すの部分で一瞬悲しそうな顔をした二人だが、焼くと言うとキラキラした表情に戻る。
多分、蒸すと時間がかかるため、すぐに食べられないと思ったからだろう。
焼くならすぐだと思ったのかな?
それならば、二人には告げなくてはならないな。
日本ではお馴染みの調理方法を。
「えー、直火で焼くと高温すぎて中まで火が通らず、甘みも増しませんので、石焼で1時間かけて焼いていきます」
ガーン! と音がしそうな表情で目を見開く二人。そして動かなくなった。
……フリーズするほどかね?
というか、他のお菓子、例えばクッキーだってそんなにすぐ作れないだろうに、何故そんなに驚くのか。
俺が疑問に思っていると、マダムが苦笑しながら言ってくる。
「最初に調理が簡単と言われたので、すぐにできると思ったのよ」
なるほど。俺は特別な技術がいらないという意味で簡単と言ったのだが、二人は簡単だからすぐに出来ると思ったのか。悪いことをしたな。
「一つ聞きたいのだけれど、石焼と言うからには石で焼くのかしら?」
俺が申し訳なく思っているとマダムから質問が入る。
まぁ、石焼なんてのはあまり馴染みのある調理法ではないかもな。
石器時代はともかく、鉄で料理器具が作られるようになってからはそっちを使うだろうし。
さもありなんと俺が思っていると、マダムから補足が入る。
「スラムでは調理器具がない事もあるから、大きな石を熱してその上で焼くことはあるわよ?」
……今も現役の調理法だったらしい。
俺もスラムの人間なんだけど、見たことがなかったので少し驚いた。
だが、それとはちょっと使い方が違うとマダムに伝える。
「フライパンのように使うのではなく、どちらかというと竃のように使います」
俺はそう切り出し、マダムに石焼き芋の作り方を説明する。
まずは蓋つきの鍋と炭、炭を乗せる鉄板のようなものと、直に鍋に火が当たらないようにするために五徳のようなものがあると良いな。
焚き火でもいいんだけど火力調整が難しいので今回は炭火だ。
甘い焼き芋を作るためには温度が命! ここはとことんこだわっていきたい。
そして綺麗に洗った小さめの黒い色の石を用意し、鍋の底に敷き詰める。
さらに敷き詰めた石の上にサツマイモを乗せ蓋をする。
この時少しだけ蒸気の逃げる隙間を開けるのがコツだ。
そして鍋の中が70度くらいを保つように弱火でじっくり焼いていく。
火が強くなりすぎたら、炭を乗せた鉄板を鍋から遠ざけるなどして調節すると良いだろう。
「そして、じっくりじっくり時間をかけて焼いた石焼き芋がこちらです」
俺はその言葉とともにあらかじめ焼いてあった石焼き芋を、包んでいた新聞紙とともにテーブルの下から取り出す。
「「え?!」」
クッキング番組でお馴染みの展開にも、異世界の住民であるフレアさんとトントンさんは嬉しいくらいのリアクションをしてくれるな。
二人はフリーズが解かれて前のめりになる。
そして俺が蒸らすために包んでいた新聞紙を取り去ると、えも言われぬ、石焼き芋独特のあの匂いがあたりに充満する。
中から出てきたのは小豆色をした石焼き芋。
じっくりと火を通したおかげで、皮の表面は焦げる事なく、中の身がギュッと凝縮された事を示すように、シワが出ている。
「「ふわぁ〜」」
フレアさんとトントンさんはその香りに恍惚とした表情を浮かべる。
マダムですら目をつぶり香りを楽しんでいるようだ。
やはりサツマイモに女性は弱いってはっきりわかんだね。
更に俺は焼き芋を手に取ると中央から半分に折る。
すると中から現れたのは黄金に輝く身の部分。
蜜が濃縮された事を示すその輝きは、食べる前から極上の甘露である事が察せられる。
そしてそこから立ち上る湯気が実がまだ暖かい事を主張し、先ほどよりも暴力的な甘い香りが辺りを包む。
「あの、あの……。もうこのまま食べてしまうのはダメでしょうか?」
おずおずと控えめにそう発言するフレアさんに、名案とばかりに手を打つトントンさん。
二人の目はギラつきながらも、石焼き芋から離れない。
口からは今にもヨダレが溢れ出そうだ。
試しに焼き芋を左右に動かしてみると、一緒に二人の顔もバッチリついてくるな。
そして澄まし顔のマダムも目で追っているのが丸わかりだ。
サツマイモには女性を魅了する魔法がかかっているのかもしれないな……。
「まぁ、このまま食べても食物繊維を摂取するという意味では問題ないんですが、原型そのまますぎるので、他で真似されないようにお菓子に加工したいんですよね」
トントンさんの便秘解消のために始めたことではあるが、こっちも商売に繋げたいので速攻で真似されるのは避けたいのだ。いずれは真似されるとしてもそれまでは、独占したいというのが正直なところ。故にお菓子に加工したいのだ。
そう告げると渋々ながらも二人は頷いてくれる。
マダムも残念そうにしているのが印象的。
そのうち我慢できなくなるだろうから、さっさとスィートポテトを完成させてしまおう。
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