2章15話 「邪智暴虐の話」
どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。
似て非なるものという言葉がありますが、似ているけど本当は全く違うという意味です。
しかしながら往々にして人は、似ている部分が先に目につき、違いに気づくのに時間がかかります。
近似する部分が理解しやすいからでしょうか?
そして、後になってその違いをスルーした事につけを払うことになるのです。
「なんかもう、怖いのでなかったことにしていいですか?」
美容について知識チートしたら、エルフに命を狙われる危険性が出てきた。
何を言ってるかわからねぇと思うが、俺もわからねぇ。
なので、自分の心を正直に吐露してみた。
「え? デザートは?」
焦るようにトントンさんが声を上げる。
俺の命がかかっているとい言うのにデザートを優先するなんて……。
まだ生きたい子がいるんですよ!
「デザートはなくなりました。以後その話はしないでください」
「ええっ!」
そりゃそうでしょう。
軽い気持ちで知識を賢しらにひけらかしてただけなのに命を狙われそうなんですよ?
流石に寒天ゼリーとスウィートポテトと自分の命なら後者を取りますよ?
そう淡々と告げる俺に、なおもトントンさんが食らいついてくる。
「大丈夫よ! デザートの話じゃなくて、カクセイなんとかの話で命を狙われるんだから!」
いや、どちらにしろ命を狙われるんだから大丈夫ではない。
「大丈夫! 命を狙われててもデザートは作れるわ!」
鬼かな?
貪欲すぎるトントンさんに戦慄を覚えていると、フレアさんがおずおずと手をあげる。
「あのぉ、マダムはエルフの方々に命を狙われると仰いましたが、私たちが今の話を黙っていれば、なんの問題もないのではないでしょうか?」
そしてこちらをチラチラと伺いながら、自信がなさげにマダムに問いかける。
「そうね、隔世遺伝の話を外に漏らさなければ大丈夫だと思うわ。むしろ外にこの話を出したら、聞いてしまった私たちも危ないと思うわ」
そう言いながらため息をつくマダム。
その姿も絵になるが、俺をみる目は厄介事を持ち込んだトラブルメーカーを見るかのようだ。
「かのようではなくて、そのものでしょう?」
おっと、こりゃ失敬。
肩をすくめて謝辞を体で表現しておく。
まぁ、そんな事せんでもナチュラルに思考を読まれますけどね。
一々言わなくていいって便利だね?
「そもそも、何故命を狙われるなんて物騒な話になったのかしら?♪」
トントンさんが小首を傾げながら、至極もっともな質問をする。
その仕草が嫌味にならないところがトントンさんのすごいところだ。
「それはエルフの生業が関係してくるから」
「生業……ですか?」
イメージではエルフは森に住んでて、狩とかをしてる印象だな。
この世界で森になんて住んだら、四六時中魔物に襲われ続けて速攻で死ぬだろうけど。
「ええ、エルフは植物の育成を生業としているの。街で食べられている野菜や果物、紅茶や小麦。それらは全て彼らの秘匿された技術で作られているわ」
はぁ? それはつまり農業はエルフが担っているってこと?
俺は驚きとともにそうマダムに尋ねると、端的な回答が返ってきた。
「そうよ」
まじかぁ。
つまり品種改良の技術の根幹である遺伝子という概念が、エルフの生業を脅かすと。
この世界に独占禁止法はまだないだろうし。多分だけど。
なら技術は独占しておくに限るよなぁ。
でも、そうすると一つの疑問が浮かぶな。
「それなら、なんでエルフの立場はそれほど強くないんです?」
生きて行く上で必須の食べ物を独占できてるなら、それはもうものすごい権力なのではなかろうか?でも実際は獣人を頂点として、その他の人種は横並びだ。
まぁ、人間はちょっとしただけど。いや、だいぶ下だけど……。
とにかくエルフが強権を有しているというわけではない。
それが不思議でたずねてみる。
「エルフの作るものはどれも嗜好品でしかないからよ。最悪なくても困らないから」
当然のことでもいうかのようにマダムが答える。
しかしピタリと動きを止めると何やら考え始めた。
それよりも気になければならない言葉があった。
なくても困らない?
そんなわけあるかい。冗談はよしこちゃん。
野菜食わにゃ死ぬわ。
ビタミン舐めんなよ? 食物繊維舐めんなよ?
摂取せにゃ身体に不調をきたすん……だぞ。
と、そこまで考えて、俺ははたと気づいた。
気づいてしまった。多分マダムも気づいた。
これだ。これが原因だ。
みんなが、そう考えていたからパピヨンで今回の問題が発生した。
それがこの世界の常識なら、野菜や果物が生きて行く上で必要では無いと思っているなら、パピヨンだけではない、様々なところで同じことが起きているんじゃないか?
そう思い俺はマダムを見る。彼女の顔からはいつもの笑顔が失われている。
「栄養を初めて知ったと言いましたね?」
「……ええ、言ったわ」
おかしいとだろう。
汽車が走るほどに科学が発展しているなら、そこに到達するまでの過程で誰かが発見しているはずだ。
だがマダムは知らないと言う、それは一般的に知られていないのと同義と考えて良い。
しかも、一般人どころか栄養学の有る無しが直接死活問題になるであろう職業の筆頭、医者も知らないと言う。
そして、同じく栄養学と密接な関係の職業……
「農業はエルフが担っていると」
「ええ」
マダムが短く返事をする。その声からは感情がうかがえない。
農業は生半可な仕事じゃない。
安定して収穫するために様々な技術が必要になるはずだ。
野生のままの植物なんて、すぐに病気になったり実を付けなかったりするのだから。
土壌の改良、肥やしの配合、更には品種改良は必要不可欠。
どれもこれも栄養学や遺伝子の研究と共に発展してきた技術だ。
そんな優れた技術を有していても、
「エルフの立場は強くはない。それはなぜ?」
もちろん俺たち新移民よりは立場は上だ。
だがそれは新移民に対してましな程度。
獣人のそれに比べるべくもない。この世界では金も力であり力こそ全てなのにだ。
農業を独占できるなら獣人に迫る権力を持っていてもおかしくないはずだ。
だがマダムは言う。
「野菜や植物は重要ではないから。
彼らが人間よりも強い立場なのは、あくまでポーションを作れるからに過ぎないわ」
本来ならあり得ない。
国があり町があり、そこで人が密集して生活しているなら狩猟だけでは賄いきれない。
家畜を飼育するにも餌は植物だ。そして人は肉だけでは生きられない。
そして農耕の技術がエルフだけにしかないなら、この世界の人間は……
「彼らがいなければ生きていけない」
ビタミンの摂取量が極端に減って、壊血病を始め様々な病を招くだろう。
そして前世のように医療の発達していないこの世界では、殆どの病が命を脅かすのだ。
そしてその事を……。
「私たちは知らない」
マダムが険しい顔で呟く。
この世界に住まう人たちが、植物を食べても生きる糧にならないと考えているならそうだろう。ましてやスラムの人間ならポーションの恩恵に預かることも稀だ。
自分たちの命を繋いでいるのがエルフだなんて夢にも思わないだろう。
「ねぇ? もし私たちが野菜を食べることで栄養を取れると知っていたなら、助かった命はたくさんあったんじゃないかしら?」
マダムが俯き目を伏せながら聞いてくる。
質問の体裁をとっているが、すでに答えは出ているんだろう。
だから俺は率直に告げる。
「少なくとも血吹き病で死ぬ人間は激減したよ。
野菜を定期的に食べるだけで救えたと思う」
「でも私たちはそれを知らなかった……」
だから救えなかった。と責めるのは酷と言うものだ。
不知の知を自覚できるのは一部の天才だけだ。
マダムとて天才だろうが分野が違う。
では責められるべきは誰だ?
「それを知れなかったのは、エルフが秘匿しているからか?」
「いいえ、彼らが栄養のことを秘匿する理由は薄いわ。恐らく自分たちの意思で秘匿しているのは技術だけ」
マダムが顔を上げ言う。
「俺もそう思う。栄養学は医学にも通じる。
民衆が栄養学を認識すればエルフたちの地位が相対的に向上する。
農民の地位は低くとも医者はどんな時代でも重宝される」
だから栄養素の事を知るなら、広く知らしめたいはず。
では何故誰も知らない。
「エルフは栄養ことを知らないから?」
無いとわかっていながらも聞いてくる。
万が一エルフも知らないなら、責任を負うべきは時代ということになる。
そこに悪意はない。だが……
「ありえない。彼らはポーションを作る。砂糖を作る。
成分という概念を知らなければそれはなし得ない。
そして成分という概念を知るなら、栄養素にはすぐ行き着く」
そして今から、エルフが栄養を知っているという事が確定する。
「間引きという言葉を聞いたことは? 剪定という言葉は?」
これは農業をするなら当たり前に知っている言葉だ。
栄養を強い個体に集めるために、予め弱い芽をつむ間引き。
特定の枝や実に栄養を集めるための剪定。
人間が美味いと感じる野菜は絶対にこれをやっている。
それぐらい当たり前の技術だが、マダムの答えは否。
「……知らないわ」
暫く考えてからそう言う。
真実知らなかったのだろうと言うのが、その表情から読み取れる。
彼女ほどの人物が知らないなら、そんな技術がこの世界にはないのかもしれないとも思った。
だが、ルナのだらしなさが功を奏した。
意味がわからないではなく、知らない。その事実がそれを否定する。
間引きと剪定という言葉自体はこの世界に存在する。
存在しない言葉なら、通じないとうバグが起きているはずだからだ。
そしてもう一つずっと彼女達に通じている言葉がある。
ルナに感謝するのは癪だがファインプレーだ。
___栄養。
マダムには栄養素も栄養学も意味が通じている。
それはその言葉自体がこの世界にある証明なのだ。
とは言えそのまま伝えられないので、その技術は栄養素を知らなければ思いつかない技術だと伝える。
「じゃあ、やっぱり隠されてたのね?」
マダムが鋭い目つきで問いかけてくる。
心なしか声が震えているようにも感じられる。
感情を把握し予測し、コントロールすることに長け、他人のそれすらも操れる彼女が抑えきれていない。
「確定といってもいいと思う。一般人はおろか、マダムが知り得ず、それを求めて止まなかった王虎やその構成員達もたどり着けなかった」
ではマダムや王虎ほどの人物が、栄養素という答えにたどり着けなかった理由とはなにか。
それは、厳重に秘匿されているからだと俺は考える。
なぜ秘匿するのか? そうすることで利益があるからだ。
それはエルフじゃないと結論づけた。
ドワーフでも無いとおもう。エルフに強権を振るえるほどドワーフも立場が強く無い。
当然人間でも無い。
一つ一つ可能性を潰していくごとにマダムが握りしめた拳が硬くなっていく。
そしてその体の震えも。
「では秘匿しているのは誰? それを秘匿する事で利益を得るのは誰?
そのために血吹き病を生み出したのは! 奈落にあの子を落としたのは誰?!」
そう叫ぶ彼女に今までの超然とした雰囲気はない。
もう隠しようの無いほど発露しているその感情は怒り。
そしてその目の奥にあるものは憎しみ。
『彼女……。やっぱりいいね? 僕の好みだ』
それは悪魔をも満足させる、黒い黒い炎。
憎悪と怒りとそして、殺意。
俺のにはそれが感じ取れる。
『そして、当然君も』
下弦の月のような笑顔で俺を見るルナ。
俺の中に渦巻く怒りと殺意を感じているんだろ?
俺とマダムが殺意を抱く相手。
もとより国民全員相手に情報を秘匿し続ける事ができる存在が一団体であるはずがない。
それができる存在はたった一つ。
___頂点で居続ける為に。
___エルフの台頭を防ぐために。
___自分たちだけがその恩恵を得るために。
___体良く人口を減らすために。
沢山の理由が絡み合っているんだろう。
俺からしてみたらクソみたいな理由が。
王虎が豚どもと表す、権力と暴力と暴虐の権化。
国民相手に情報を秘匿し続けられる存在。
それは国そのものだ。
そして、このステイテッドで国とは、この国を支配している存在と同義だ。
つまり……。
「旧移民。……獣人だ」
お読みいただきまして誠にありがとうございます!!
祝! ユニーク人数 3000人越え!!
ありがとうございます!!
自分の作品を読んでくれる人がいるんだなぁと思うと、凄く嬉しい気持ちになります。
これからも面白いものを届けられるように精進いたします!!
と言いつつ、今回の話と次回の話は、どうだ?! 受け入れられるか?! という感じですw
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