2章 7話 「事前の根回しは重要にして不可欠って話」
徹夜のテンションで書きました。
どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。
有名人の友人って、色々頼まれごとをされるものです。
サインをもらって来てとか、ちょっと呼んでよとか。
本人に頼むよりも、なんだかそっちの方が成功率が高そうに見えるからでしょう。
でも実際は間に、配慮や義理が入りますので、むしろ失敗することが多いんですけどね。
というわけで、私は今、ステイテッドの公娼「パピヨン」に来ております!
なんとここまで来るのに、車を使用しております!
恥ずかしながら私、この世界で初乗車でございます!
だってうちは貧乏だから車なんて持ってないからね。
そして前に建物が見えるわけですが、これがパピヨンなんですねぇ。
外観は、いうなれば、白い洋風の屋敷。
特別に看板が掲げられているわけでもなく、そうと知らなければ誰かの家だと思うような作りだ。ただし金持ちの家。
まぁ、看板がないのは、一応この世界でも人目をはばかる職業ということか。
っていうか、なんか見た事ある建物だな。
『忘れたのかい? 前に君が娼館に来たのに銀貨しか持っていない男から、スリを行った現場だよ?』
ルナが親切なことに嫌味ったらしい笑顔で教えてくれる。
おい。スリの現場って言うと外聞が悪いだろ。
恵まれない子供への福利厚生にご協力いただいた場所と言いなさい。
しかし、そうかあの時の場所はパピヨンだったのか。
あぁ、その時に目をつけられたのかなぁ……?
過ぎたことではあるが、軽率だったかな。
『君が軽率じゃない時ってあるのかい?』
アホか。俺はいつでもはぐれ刑事慎重派だわ。
しかし、うちからここまで車で来たが、距離期にはそんなに遠くないのか。
車だと通れない場所がスラムにはあったりするし、徒歩できてもいいかもな。
「さぁ、キアーラさん。お待たせいてしました。中へご案内いたします」
俺が頭の中で地図を描いていると、ここまで車を運転して来たフレアさんが、車庫から戻ってきた。
ちなみに、トントンさんは準備があるとか言って先に中に入って行ったよ。
……一体なんの準備なのかね。
フレアさんに促されて玄関を潜ると、大きなサロンになっていた。
前世でも映画でしか、お目にかかったことのないような調度品の数々。
窓にかかっているカーテンだけで一体いくらするのだろうか。
座り心地の良さそうなソファがいくつもある。
ここでお相手を見繕うのかな?
なんて言うかセレブリティ感が半端ない。
そしてそんな空間にいるのは、身だしなみのきちんとしたスーツ姿の男性たちと、薄い生地のドレスを纏った女性たち。
一見すると、どこぞの社交界のようだ。
娼館というイメージからはかけ離れたきらびやかさがある。
強いて娼館らしさをあげるなら、一人がけのソファに座った男性の上に、女性がしなだれかかっているのが、らしいと言えばらしいくらいか。
「俺って場違いすぎませんかね?」
周りの煌びやかさに、貧乏人特有の謎の劣等感を覚えた俺は、フレアさんにそうたずねる。
だって、みんな金持ちのオーラがこれでもかって言うくらい出てるんだもの。
俺に問われたフレアさんは一瞬驚いたものの、微笑んで言った。
「キアーラさんでもそんな事を気にするのですね。意外です」
どう言う意味だよと問いたい。
「だって、キアーラさんは、人の目なんて気にしていないものだと思っていましたから」
フレアさんが、ふふと口に手を添え上品に笑う。
その笑顔は眼福ではあるが、周りにお客の目があるため、お仕事モードだな。
「俺だって人の目は気にしますよ。
例えば今も向けられている、好奇の目とか好色的な紳士どもの視線とかね?」
サロンにいる男性客は十数人だが、誰もが女性といちゃつく傍ら、横目で俺を意識しているのがわかる。
まぁ、支配人の側近が俺みたいな幼女を連れて来たら、好奇な目を向けてしまうだろうし、娼館で女相手に(俺は男だが)エロい目を向けてしまうのも仕方ないかもしれないがね。
だが仕方ないのと、俺が不快なのは別問題だ。
俺がムッとした顔を見せると、フレアさんは慇懃に礼をしながら言う。
「いっときの辛抱ですよ。貴方がマダムのご友人であると分かれば、そのような目で見られることはなくなるでしょう」
フレアさんが俺をマダムの友人と言った瞬間、紳士たちの目つきが変わった。
見るから観るに。俯瞰から観察へ。
難敵を前に注意深く観察しようとする目に変わった。
緊張した空気がその場を支配する。
フレアさんの発言で一瞬にして場が情報戦の場に変わったのだ。
この場に居るものは、マダムの友人と言う駒の価値を正しく理解しているのだ。
他を出し抜いて俺を抱き込みたいに違いない。
だが、そんな思惑もフレアさんの次の言葉で牽制されることとなる。
「ここは選ばれた上流階級の方達の社交場でもあります。そんな場所でマダムのご友人をないがしろにする方など、この場にはいません。えぇ、そんな方は選ばれるはずがありません」
断言するように、宣言するようにフレアさんが告げる。
それを聞いた男性客たちは浮かせていた腰をソファに深く沈め直す。
動くつもりがないというアピールだ。
……どうやら、主導権はフレアさん側にあるらしい。パピヨンに選ばれることがステータスになるのかな? そして選ばれない、追い出されたなどの場合は恥になるとか?そんな感じと見た。
「それに、マダムのご友人ではなくとも、キアーラさんのお召し物はとても可愛らしくて、うちの娘たちの注目の的です。場違いどころか、主役ですね」
フレアさんが周りの動きを見て、冗談めかした発言をすることで場の空気が元に戻った。
今回は警告に止めると言うアピールだな。
しかし、フレアさんがこんな駆け引きができるなんて、まるで有能みたいじゃないか!
多分マダムのシナリオだろうけど。
ふぅむ。これは借りができてしまった感。
マダムに会うのが億劫になるなぁ。
ちなみにフレアさんに装いを褒められた、俺のお召し物はゴスロリ服だ。
流石に部屋着みたいな服で来るのは違うかなぁと思って着替えていたのだ。
フレアさん曰く、シックなドレスが元なのに、可愛くデザインされ直してるのが良いらしい。
周りを見ると、女性陣が来ているドレスは質素なデザインと言えるかもしれない。
まぁ、そに代わりに脱ぎやすそうではあるけど。機能性重視かな?
「今日は直接マダムの部屋にお通しするように仰せつかっていますのでご案内いたします」
騒つくサロンを尻目に、俺は案内されるがままにフレアさんについていく。
高そうな手すりがついた階段を上がり、これまた高そうなシャンデリアを横目に2階へ。
そして階段を上がりきったところですぐに気づいた。
……どうやら、2階が仕事場のようだ。
階段の先に伸びる廊下。
その両脇に高そうな扉が備え付けられた部屋がいくつもあるようだが、その中から嬌声が漏れ聞こえてくるのだ。
前世では国によって言い方が違ったけど、異世界だとなんて言うのかね?
はい、尽きる、終わる、行く、来る、おほぉ。どれだと思う?
『知らないよ。僕にセクハラとか頭おかしいんじゃないかな?』
しかめっ面でそう言うルナだが、悪魔とエロの組み合わせは全くおかしくないと思うんだ。
お前って男キライだったり変に潔癖だったりするよね。
『君みたいな万年桃色思考の人間と一緒にいれば、忌避感も出ようと言うものだよ?』
……確かに。定期的におっさんの桃色妄想を発信されたら、嫌になるかも。
『だろ? だから今後はクローズチャンネルで妄想してくれないかな?』
だが断る。
『なんでさ?!』
発信されるのは激しく嫌だが、発信する側なら問題ない。むしろ見てくれは美女のお前が俺の妄想で顔を顰めるのならば良いまである。
『上級者が過ぎるよ?! だいたい君の妄想はおかしいんだ!
小さくなって女性の胸に吊り下げられたブランコを漕ぐとか、もう猟奇的と言っていいね?!』
おい! 発信されるのは嫌だと言っただろう! 言葉に出して言うんじゃない!
『君の妄想だろう?!』
俺の妄想でも、おっさんの妄想だから却下だ!
俺がルナと、わいのわいのやっているうちに、どうやら目的地に着いたようだ。
一際豪華な扉の前でフレアさんが振り返る。
「ここがマダムの私室です」
途中で扉から色々聞こえて来たが全く気にしていないようだな。
まぁ、この状態が日常だろうから、変に意識することもないか。
ちょっと普段の調子から恥ずかしがったり、興奮したりするものかと思ったが、残念。
『残念なのは君だよ?』
うるさい、くらえ! おっさんの妄想、おっぱいヒルクライム!
『もう意味がわからない?! やめなよ?!』
やーめーない! ほーらバイクでお前のおっぱいを登っちゃうぞー?
『気持ち悪い!』
さて、程よく狂った思考になったところで、マダムに会いますか。
嫌悪で悶えるルナを見ながら俺は気合いを入れる。
『あ、狂っている自覚はあるんだね?』
あの人相手にまともな思考で行くと良いように利用されちゃうからな。
狂ったくらいでちょうど良いんだよ。
一部の上流階級の人間を牽制してもらった代償に何を強請られるのかね?
戦々恐々としながらも、俺は扉を潜るのだった。
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