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4話 『首締めから始まる全く新しい交渉の話』改

2021年9月18日 そこそこ改稿しました。

2025年2月17日大改変しました。

 俺は激高しやすいたちでな、敵と認定したらすぐに攻撃するようにしてるんだ。

 そのせいで世間様には迷惑をかけたけど。


 うちの家系は「敵・即・殺」だからな。失敗作の俺でもそう教え込まれてる。

 それだけは俺にも苛烈に引き継がれている。

 それだけしか受け継がれていないとも言う。


 俺は殺意の発露全開で、まんまと近づいて来た悪魔に飛びかかり、首を掴んで引きずり倒す。


 どんな奴でも転ばせてしまえば体重乗っけて頸動脈しめて締め落とす自信がある。


 伊達に毎日配送業者を手伝ってクソ重い荷物を運んでない。

 握力には自信があるぜ。

 十円玉曲げられるし。


 絞め落とすまで約7秒くらいか?

 そのあとは煮るなり焼くなりだ。


 そう考えて力を更に込めようとしたところで違和感。


 悪魔は微動だにせず、されるがままで


 俺は___体が動かない?


『やはり。 やはり君には悪魔の素質がある』


 背後からそう声がする。


『普通は害されたからとからといって、そう感じたからといって、そう思ったからといって、いきなり殺しには来ないものだよ? 日本人なら尚更ね』


 目の前の悪魔の姿かが霞ががったようにボヤけていく。


『イタリアンマフィアじゃぁないんだからさ? この場合の君を表す例えとしては、殺すと思ったらすでに行動は終わっているっていう感じかな? マトモじゃぁないねぇ?』


 俺の首にに悪魔の手がヒヤリと添えられる。


 どういうことだ?

 何故こいつは俺の後ろにいる?

 何が起こった?


『it’s My Afterimage! ……残像だ。ってやつさ。 アニメでよくあるだろう? 知ってるかい?』


 何だそれは……。

 俺は首を締めたと思っていたが、それが残像だったというわけかよかよ?!

 質量を持った残像だと?!

 クソ!考えてみれば悪魔なんだからそんな隠し球があっても不思議じゃないな。

 頭に血が上りすぎていた。

 また失敗した!

 なんで俺はいつもこう___


『どうだろう? もう一度考えてくれないか。 憎しみを持って世界に復讐をする手伝いをしてくれないかい?今回失敗した分を取り戻そうじゃないか』


 俺の首を指先で弄ぶようになぞりながらしつこく悪魔が言ってくる。

 憎しみ憎しみウルセェな。憎しみ村の村長かよ。


 ガタガタガタガタ聞きたくもない口上述べやがって。

 誰がお前の思い通りになるか。


 誰がお前の引いたレールをたどるかよ!

 今際の際に決めたんだ! もし次があるなら、全部自分で決めるんだってな。

 自分で考えて、自分で決める。何かを必ず成してやるんだってな!

 そして大切な人は守る!

 それと俺のことを分かったように言ってくる言葉が気に入らん!


「何度も言わせるな。 憎んでなどいない。俺は確かに失敗したのかもしれんが、それは誰かのせいじゃない。俺がしくじったんだ。 俺が上手くやらなかったから失敗した。それだけだ」


 何をしても無駄だと言われた。

 何を考えても無駄だと言われた。

 

 実際何かがうまく行ったことはなかった。 

 せめて周りに合わせていろと言われた。

 それからは何も考えず、なにも自分からはしなかった。

 その結果がこれだ。


 なら憎むべきはだれだ?

 責任の所在すら他人に預けるのか?

 それはごめんだ。それじゃあ、本当に俺がなくなっちまう。

 それは嫌だ。

 だから、憎むべきは自分だ。

 それを受け入れ続けた自分だ。


 そう決めた。


 思いを込めて睨みつけてやると、悪魔は残念そうにしながら、またため息をついた。


『ここまでの目にあって、ここまで裏切られ続けて、他者を憎まないなんてことがあるのかね? 君おかしくないかい? 』


 呆れた風な声とともに、悪魔が手を離すと体の自由が戻ってくる。

 誰がの頭がおかしいってんだよ。逐一イラっとする。


「そんなことはない。 そういう人間もいるってことさ。勉強になったな」


 俺は立ち上がると悪魔に向き直り周りを観察する。

 謎の真っ黒空間。

 相手の土俵だ。この場ではブッ殺せないか。


『___わかった。 なら、それを証明してくれないか』


 悪魔がまた俺の眼を見つめて言ってくる。

 存在証明か? フェルマーの定理の証明とかだときついが。


 嫌な感じはしない。今度は妙な力は使っていないな。


「___何をだ? 」


 油断なく俺が構えていると、悪魔はまたも芝居がかった動作で頭を下げた。


『まずは謝罪しようじゃあないか。 僕はわざと君の仲間を侮辱したんだよ』


 は? わざとだと? 意図があってのことで本音は別だとでもいうのか?

 嘘つくな死ね。


『君がどういう人間か試させてもらった。 僕も悪魔だからね? 人間の心の弱いところをつくのは得意なんだ。わざと逆上させて反応を試した。 試した結果、君は取引に足る人間だと結論づけたよ』


 そんなわけあるか。取ってつけたような言い訳すんな。死ね。


「そいつはどうも。 こっちはお前は取引にあたいしないと結論が出たところだ」


『すぐにその結論は覆るさ。 この問答に決着をつけるため僕と賭けをしよう。 ゲームをしよう。もし君が裏切られ続けても、何がなんでも世界を憎まず、相手にも憎しみを抱かないというなら、僕にそれを証明して見せてくれないか?』


 何がなんでも憎まないとまでは言っていないんだが。

 ただ、自分の不甲斐なさを憎むと言っただけなんだが。

 うまく行かないのは自分のせいだと言っただけなんだが。


『そんなはずはないんだよ。裏切られたのなら裏切った方が悪い。自分が悪いはずがない。そう思わない奴がいるはずがない。憎しみを抱かない奴はいない』


 んん? なんだ? 今会話が微妙に噛み合わなかったような?

 あと少し雰囲気が変わったか? さっきまでと違うような気がする。

 そうだ、目が違うんだ。

 なんだか悪魔の眼は怒りに彩られている様で、だけどなにかを諦めきれないような___


 だが真意を探りきる前に、悪魔に表情を笑顔に戻されてしまった。

 そして今度は提案ではなく決定事項という風にいってきた。


『君にもう一度現世とは異なる世界で新たな生を受けてもらう。 そこで君が裏切られても相手を恨まず、憎まず、そして失敗せずに、生きることができるのかを見させてもらおう』


 新たな生ときた! 異世界転生って奴だな! ウッヒョー!

 なんて喜ぶとでも思ったか? バカめ死ね。


 だが___こいつがアホなのは置いといて、異世界転生になんの意味があるんだ、こいつになんの得があるんだ? 意味がわからなすぎる。そう思い真意を探ろうと悪魔の顔を見る。


『様々な困難が君を待ち受けるだろう。 また裏切られるかもしれない。理不尽な目にまた会うかもしれない。 だが、それでも君が人を恨まずその一生をやりきれたのなら……』


 悪魔は肩をすくめ嘆息すると、ありえないだろうけどと頭につけながら続けた。


『___認めよう僕の負けだ。 君の望み通り僕の命を差し出そう』

 

 異世界転生の真偽は別として、なに勝手に話を進めているのか。 

 コイツの人の話を聞かないのは演技じゃなくデフォだったらしいな。

 あと俺は今すぐお前をぶっ殺したいのだが?


「取引には応じないと言ったばかりだと思うが? 」


 そう言いながら前傾姿勢。もう一回首を絞めてみよう。

 大体失敗失敗って失礼なんだよ。

 誰の人生が失敗作だ。事実でも言っていいことと悪いことがあるのを知らないのかよ?


 しかし俺の抗議も虚しく、悪魔はますます笑みを深めて言う。


『悪魔の魂を使えばなんでも願いが叶うよ? 例えば大恩ある人が死ぬ前に戻ってやり直すとか、母親と妹が死ぬ前に戻るとか___ね?』


 ___ッ!


 ……時が凍ったかと思った。

 奴は今なんと言った?

 

 落ち着け……。

 

 ___喉が渇く。 

 

 あの時に戻れる?

 救うことができるのか?

 

 ___手が震える。


『当然リスクもある。 僕の厚意を一度は断り、ここまで無下にしたんだ、君が失敗したら代償として君の魂をいただく。 当然だろう? 僕は悪魔だぜ? 』


 息を飲む俺を気にもせず悪魔が続ける。

 落ち着け。ペースを乱されるな。

 相手をよく見ろ。


 そうして見やると、これぞ悪魔冗句と言わんばかりの満面の笑みだな。

 こいつがバカで爆乳である以外は何も読み取れない。


 あと、どこかに厚意があったのか?

 煽られた記憶しかないが。

 だめだ、混乱すると考えがとっちらかるのが俺の悪い癖だ。

 考えをまとめる時間を稼がないと。


「俺が自分の命を賭してまで取引に乗るとでも?  」


 ___自分でも白々しい返しだ。元々死んだ身だ魂云々はノーリスクに近い。


 悪魔は分かっているとでも言った風にニヤニヤしながらうんうんと頷いている。

 さっきの言葉からこいつは俺の望みを知っている。

 心を読んだのかなんなのかしらんがな。


 クソ!完全に相手のペースだ。


『乗るさ! わかるよ! 君は最期に願ったよね?』


 ……そうだとも。自分が終わってみて初めてわかった。

 俺は、俺を必要としてくれた人達に報いたかったんだ。

 家からは出来損ないと疎まれた。

 そんな見捨てられた俺を必要としてくれた人を救いたかった。恩返しがしたかった。


 そうやって生きてみたかったと最後に思ってしまったんだ。

 そうすれば俺の人生にも意味が生まれたんじゃないかと思ってしまった。

 もう一度やり直せるのなら救えたんじゃないかと思ってしまった。

 

 そう思ってしまったなら聞くしかない。

 本当にもう一度チャンスがあるなら、コイツの話を聞かないと言う選択肢は選べない。


 俺は負けを悟って大人しくため息まじりに話を進める。


「分かった。話を聞こう。第二の人生を失敗せずにと言ったな? ……失敗の定義は? 」


 だが、無条件で飛びつくわけじゃないぜ?

 悪魔なんてどうせ悪意の塊だ、騙そうとしてくるに決まっている。

 だから重箱の隅をつつくようにして、不利益を被らないようにしてやる。


『一つ、君が仲間を裏切ったら。二つ、君が世界を恨んだら。そして三つ、君が敵対者にまた負けて死んだら。ゲームは失敗だ。まぁ、三つめはオマケだね?』


 またってなんだよ。今世でも負けたつもりはないぞ!

 世界を恨むってなんだよ。十五の夜か? 厨二か?

 しかし来世でも敵がいるのが前提なんだな。


 どうやらこいつは、どうしても俺に誰かを憎ませたいらしい。

 趣味が悪いと言わざるをえない。


「仲間の定義は? 」


『質問が多いね。慎重だねぇ? 』


 悪魔が呆れたように言う。


「当たりまえだ、悪魔との契約なんだ慎重にもなるさ。 ルールは明確にしておかないといけない。それで? どこまでが仲間だ? 」


 明確にしないと穴をつかれてあっという間に負けてしまうからな。

 契約は慎重で臆病で、そしてしつこいくらいでちょうどいい。

 ただでさえゲームの内容を向こうが決めるという大きな不利を背負ってるんだからな。


『君が信頼して目的を同じくした場合は仲間とする。 君の職場の同僚のようにね? 例えば君をはめた後輩くんとか』


 いちいち煽ってくるな。その後輩は目的を同じくしていない。

 ミエミエな挑発には乗らん。でも睨むくらいはいいよね?

 

「裏切りの定義は? 」


『悪意を持ってその人物を害した場合。これは直接的でも間接的でも摘要される』


 悪意ってなんだよ。曖昧すぎるだろ。

 俺が注意をして、相手は悪意ある悪口と受け取って気分を害したら裏切り認定か?

 そんなの、それこそ人の顔色を伺う人生になっちまうぞ? 


「それが悪意であったかどうかの判定は誰がする? それが裏切りに当たるかの判断は誰がする? 」


『もちろん僕がするさ』


 いや、無理筋だ。話にならん。


「お前は悪魔だ。信用することはできない。 自分の都合によい判定をするかもしれない。そんな話には枚挙にいとまがない。特に悪魔が出てくる話にはな。簡単にアウト判定を出せそうだ」


 例えば何か競争が発生した時なんかは、もろにこの条件を満たしてしまうからな。

 ギャンブルの時に相手を出し抜いて勝ちを狙ったら、俺が仲間を裏切って害したことになる。

 いたずらしただけで即ゲームセットなんてのもあり得る。 


「そうでなくても悪意なんてのは受け取る側の問題で、判定がファジーにすぎる。条件の追加と変更をお前に求める」


『………つまり? 』


「まず悪意ではなく殺意を持って相手を害した場合に変更してもらう。 つまり殺そうという意思の有無を前提にする」


 これならそうそう起こらないだろう。俺が殺意を持って害そうとするなら敵対者だろうし。こちらの方が明確で判断がしやすい。

 

『では、その場合の害とは、対象の生命を脅かす事だけでなく、財産や周りの人間に危害を加えることも含むこととしてもらおうかな?』


 なるほど。そうしないと、兵糧攻めにしたり、家族を狙ったり出来ちゃうからな。家族や仲間に対する殺意も含めとかないとやりようがいくらでもある。追い込みをかけるてやつだ。

 

 いや、仲間にそんなことしなくね? どう言う状況?

 だが痛手でもなんでもなくても追加の提案には変わりなし。

 こちらも上乗せさせてもらおう。


「ならこちらも追加の条件だ。仲間であっても生命の危機に瀕しない程度の喧嘩はOKにしろ。つまり半殺しまではセーフだ」


 河川敷の喧嘩とかあるかも知れないからな。拳で育む友情みたいな。異世界転生だとありそうなイベントだ。

 せんじて潰しておく。


『ふむ。随分君に都合が良さそうだねぇ? まぁいいだろう。だがそれなら僕もさらに条件を追加するがいいね?』


 悪魔が当然のように主張をしてくるが、まぁ織り込み済みだ。

 俺は渋々頷く。この渋々というのが肝だな。

 向こうも譲歩して、こちらも譲歩したという形にできる。

 商談の基本だってラノベで読んだからな。


『二つ目の条件に追加だ、裏切り者であっても憎しみを抱いて相手を殺害した場合はアウトとさせてもらう』


 悪魔が無茶苦茶なことを言い出す。

 そして、分かった。こいつの本命はこの条件だ。

 これを通すためにの布石だ。


「……裏切り者は敵対者に含まないと? 俺に振りすぎるルールにならないか?」


 やられた。 

 相手は俺を殺せるのに、俺は相手を殺せない。

 リスクが高すぎる申し出だ。飲めない提案だ。

 だが悪魔はかぶりをふる。


『ならない。最初から言っているだろう? 裏切られた君が相手を憎むかどうかの賭けだよこれは』


 断固とした口調で悪魔がいう。


『更に君の母親と妹の魂もベットしてもらう』


「ふざけるな! そんなことが飲めるわけがない!」


 これを飲めば3つめのルールが重すぎる。裏切り者を殺しても負け、裏切り者に殺されても負け。

 リスクが高すぎる。


『飲むさ。なぜなら僕が更に掛け金をレイズするからね』


 目も口も弧を描くような笑みを浮かべながら悪魔は言う。

 文字通り舌なめずりをしながら。


『もし君が勝ったら過去に戻るだけでなく、確実に君の母親と妹が死なないようにしてあげよう。その後の生活も保証しよう。家のしがらみから解き放たれた安心を提供しよう』


 安心だと……?


『君は分かっている筈だね? 過去に戻っても彼女たちを救える可能性が低いことを』


 ……そうだ。あの家にいる限りあの二人が救われることはない。

 実力主義の冷徹冷酷な血の通わない人間しかいないあの家では。


『安心しろよ。契約は絶対だ。必ず履行する。彼女たちが生きる筈だった何十年間を幸せなものとしようじゃないか?』


「……お前に魂を奪われたらどうなる?」


 悪魔の目を見ることができない。どうするべきか判断がつかない。あの二人が幸せになるなら……

 だが、負けたらどうなる?


『僕の食糧になり輪廻の輪から外れる』


「輪廻……もしかしたら、生まれ変わって幸せな人生を送れるかも知れないってことか?」


 俺は顔をあげて悪魔に問う。そうであるならばこの賭けは受けるのをやめよう。

 あの家に関わる人生よりもそっちの方がいいに決まっている。


 だが悪魔はそんな俺の考えを嘲笑うかのように告げる。


『あの家の人間にそれはない。断言しよう永劫に君も含め全員地獄行きだ。あそこは血を流しすぎている。関係者は全員だ。例外はない』


 それを聞いて俺は、あぁそうだろうなと思った。あの家は血塗られすぎている。

 家の繁栄のためならなんでもする一族だったから。

 また俺は俯きながらそう思った。


『ある意味で彼女たちは君が勝っても負けても幸せかもね? それこそ地獄の苦しみから解放されるのだから』


 それもそうかも知れない。ずっと苦しみが続くくらいならそっちの方がいいかも知れない。


『そうさ、安心しなよ。大丈夫さ。何も問題ない』

 

 悪魔が近づいてくるのがわかる。そしてまた俺の顔を覗き込む。

 ふと甘い匂いが漂ってくる___


 その瞬間にすでに俺は悪魔の首を掴んでいた。


『ぐっ……?!』


 おぉ。我ながら凄い反射神経だ。心の中で思う前に、行動が終わっていた。

 不意をついたおかげか今度はちゃんとダメージも行ったみたいだし。


「お前またなんかしたろ?」


 俺は首を掴みながら睨め上げる。ガンつけるともいう。

 人の弱いところばっかり突いてきやがって、流石悪魔だと関心するがどこもおかしくはない。

 だが催眠的なムービングをドゥイットしてきたのが運の尽きだ。

 その辺は子供の頃に耐性をつけさせられている。

 

 まぁそう言う家だってことだよ。


「なんか言えよ」

 

 俺が首を締め上げたまま無茶を言うと、悪魔はするりと俺の手をすり抜けた。


『ふぅ……。なんか』


 悪魔は首を撫でながら怨みがましい目で睨んでくる。


「なんか言えとは言ったが、なんかと言えとは言ってない」


 俺は取り合わず手をプラプラさせながら、逆に冷静になった頭で考える。

 そして結論づけた。簡単なことだった。


「つまり……裏切り者は憎まずに殺せと?」


 悪魔は一瞬ポカンとしたが爆笑しながら腹を抱える。


『ッ! 裏切り者は殺すのが前提な時点でよっぽどだけどね? 憎しみが君の心になければ良しとしよう。クククククッ』


 胡散臭い笑いではなくマジ笑いで爆乳を上下させながら悪魔が答えてくる。

 粛々とキラーマシーンが如く殺せと。

 ふむ。まさかこんなところで家の教えが活きようとは。

 ならイージーだな。

  

『ちなみに殺害しなければセーフだよ?』


 悪魔が可笑しそうに笑う。まるでそれがありえない事の様に。

 だが、まぁそれは間違いでは無い。

 今の俺なら目的のために殺意を持って攻撃してくる裏切り者は殺すだろうから。

 しかしそうなると、気になること出てくる。


「もし、俺が裏切り者を憎まず粛々と処分した結果、実はそれが俺の勘違いで実際には裏切っていなかったら? 」


 流石にそこまで俺はジェノサイドマシーンではないが念のためだ聞いておこう。


『その場合はもちろん君のミス。君が誰かに処分を指示した時点でその結果が未遂だったとしてもアウト。君の魂は僕のものだね。というか本当に処分前提なんだねぇ』


 やはり楽しそうに笑う悪魔。そしてやっぱり思ったよりも難しい条件だった。

 なぜなら誰かにミスリードされたら終わる。あいつが裏切ってましたよってな。

 今世では出来なかったが、来世では信用に足る人間かどうかを見極めることが最重要課題となるな。


 しかしなんだよ処分を指示って。俺はどんな組織を作るのが前提なんだ。悪の黒幕かよ。

 ……一応保険もかけておくか。


「誤って事故の様な形で、相手を害してしまった場合はノーカンにしてもらいたい」


 もしかしたら銃弾飛び交う戦時中真っ只中の世界かもしれない。

 そうなればフレンドリーファイアの恐れもある。

 殺意を持って地雷を仕掛けたら仲間が引っかかったとかがあるかもしれない。


『それって事故に見せかけて憎い相手を殺害っていう手段が取れるよねぇ? 』


 悪魔は不服そうに言ってくる。

 だが心外だな。


「そんなことはしない」


『誰でもそう言うだろうさ。そして追い詰められた人間は容易く前言を撤回するものだよ?』


 悪魔が断言してくる。絶対にそうなるという強い意志を感じる。


 その強い意志に俺はまた迷いを覚える。


 ……俺もそうなるだろうか?

 追い詰められれば憎しみを持って人を殺すためにあらゆる手段を講じるだろうか?

 

 あの時は家の奴らに復讐してやろうなんて思わなかった。

 ただもっと力が欲しいとは思った。

 

 俺がもっと優秀であったならば、母と妹は死なずに済んだかもしれなかったからだ。

 母と妹が死んだのは俺のせいだ。

 そこに憎しみはなく、ただただ無念があるだけだった。

 ただただ悔いが残るのみだった。 


 『なるほどね。それが君の人格の根幹をなす部分だね?』


 いつの間にかそばっまでやってきていた悪魔が俺の顔を覗き込むように見上げてきた。


「心を読むなんてプライバシー侵害だぞ。コンプライアンスはどうなってる」


 俺は心を読まれた焦りをおくびにも出さずに悪魔の肩を掴んで遠ざける。

 それとともに一人脳内会議を開催。思考を煩雑なものへと変える。

 心を読めるやつと駆け引きとかハーミットパープルの援護がないと無理ゲーだ。


『悪魔にコンプラなんてあるはずないだろ? 悪魔だぜ?』


 そりゃぁそうか。

 無駄な抵抗かも知れないが、肩をすくめる悪魔から距離を取る。


「話を戻す。賭けの大前提をもう一度確認しよう。俺が仲間に裏切られても相手を憎まないか否か。そうだな?」


『まぁぶっちゃけ根幹はそうだね?』


「なら、大丈夫だ。俺は憎しみを覚えれば即そいつを殺す。事故に見せかけたりしない。つまり俺が憎しみかられている時点でお前の勝ちだ」

 

 俺にもそう言う面があった。

 生まれてからずっと憎しみと無縁だったわけではない。

 前世で憎い敵対者は蹴落とせ。

 出来ないなら殺せ。そう教えられて育ったのだから。そしてそうしたこともある。

 それが悪いことだと母に教えられてからだ。人を憎まなくなったのは。


『本人のご意見は参考にならないねぇ?』


「俺は一度でも失敗すればアウト。 お前はいくらでも勝利をこじつけられる。こいつは圧倒的に俺の不利だと思わないか? フェアじゃない。 賭け(ゲーム)はフェアであるべきだ。せめてこれくらいのハンデはもらう」


 少しでも成功に近づけるために有利にしたい。

 万が一にも負けてはならない。

 失敗例が思いつくものはなるべく潰しておきたいんだ。


『ふぅん、フェアねぇ? ……分かった。 いいよ。賭け(ゲーム)はフェアに。それでいこう』


 ……拍子抜けするほどあっさり通ったな。

 もしかしてまだいけるのか?


「……これはいわゆる異世界転生という奴だろう? 何かチートはもらえないのかい? 」


 ならば図々しく行くくらいでちょうどいい!


『ちょっと図々しいねぇ? これは賭けだぜ? お互いにフェアじゃないと成立しない。ん? そうだろ?』


 ドヤ顔で言ってくる悪魔。

 うぜぇ。


『これでチート能力なんかを与えたらアンフェアだと思わないかい? ん? 違うかい? 』


 これは通らないのかよ。

 いや諦めるな。諦めんなよ!

 頑張れ頑張れ出来る出来る!


「もっともだ。 しかしイタリアンマフィアは殺す相手にプレゼントを贈るというぜ? 」


 ワンモアチャンス!

 これはゲームを楽しむためのアクセントだぜ?!

 そんな意思を込めて悪魔を見つめると、悪魔が笑い出す。


『ふふふ、悪魔から搾り取ろうとするなんてずいぶんと君は強欲で豪胆だねぇ。 ……良いだろう。 能力をプレゼントしよう。 そっちの方が楽しそうだ。それに母親の教えを守っているって言うのが良い』


 やった通った! なんだ? コイツマザコンか? チョロいぜ!


『ただし、これは悪魔からもらった力だ。 もちろんデメリット付きだ。与える能力も今は教えない』


 そんなに甘くなかったよ……


『さて。 せっかくの悪魔との契約だ。 らしくいこうじゃぁないか。 きちんと言葉に出してもらうよ? 感情を込めて』


 ……覚悟を決めよう。

 さぁ。自分で考え自分で決める。

 その第一歩だ。


「いいだろう。 おれの魂を賭けるぜ」


『グッド! よい異世界転生を! 』


 そうしておれの意識はそこで途切れた。

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