42話『変わっていく世界と人の話』
こんにちはキアーラ・カサッツァです。
人間は忘れていく生き物であると誰かが言っていました。
と言うことは物事を忘れてしまうのは人と言う生き物として間違っていないのではないかと、そう思う次第です。
俺は脳みそをフル回転させ出口までの数秒の間にビンゴ大会遅延の様々な言い訳を考えた。
主催の俺のせいでスタートが大幅に遅れたとなると、今後の運営に問題をきたすかもしれない。
これから始まる大仕事の第一歩であるビンゴ大会だ、なるべくなら瑕疵なくスタートしたい。そのためには素晴らしい遅刻の言い訳を考えねばならぬ。
そう思い考えを巡らせたが、何も思いつかずダメだこりゃと言う結論に達した。
素晴らしい遅刻の言い訳なんてあるわけないよね。
人間とはかくも度し難い生き物なのだと悟りを開き、これが生き物のサガかと諦観したところで外に出たが、なにやら外が騒がしい。
ビンゴ大会の会場の方からだな。
すわ、またも何かの問題か? と思い、店の横手に回ると、そこで俺を待ち受けていたのは思いもしない光景だった!!
果たして俺が見たものは?!
次回! チェーンソーでバラバラになる神! 乞うご期待!
はいすいません。嘘です。
いや思いもしない光景なのは嘘じゃない。
ちょっと驚きすぎて嘘次回予告をするくらい思いもよらない光景だったのだ。
ポーラさんの店の横、そこにその光景は広がっていた。
「ブラボー!」
「いいぞぉ!」
「新しい!」
人、人、人。
まさに芋洗い状態。
ポーラさんの店の横には駐車場があり、場合によっては屋外パーティの会場にすることができるほどの広さだ。
建物と建物が密接に隣り合っているのが普通の国で、大きめの駐車場があると言う事が彼女の経営手腕を物語っている。彼女はただふとましいだけのショタコンのオバさんではないのだ。
俺は今回そこに簡易的な舞台を用意した。
天井も袖もなく、大人の腰くらいの高さの舞台と、後方にビンゴの結果を張り出すための板の壁があるだけの、なんの飾り気もない珍しくもないステージだ。
そんな粗末なステージを中心に人の生垣ができ、みな興奮に大声を張り上げている。
100人以上いるんじゃないかこれ?
ポーラさんの店は人気があるらしいが、一気に人が押し寄せるタイプの店ではない。
どちらかと言うと落ち着いたカフェという趣きだ。
だがそんな店の軒先に人が集結している。
スーツを着ているものもいれば、作業服を着ているものも居る。
男もいれば女もいる。職種も様々でだが一様に共通してステージの方を向いて歓声を上げているようだ。
しかも、よく見れば人間だけではない。獣人もドワーフもいるし、多種族とあまり関わらないエルフですら少数だがいるじゃないか。
獣人達は吠えているかのような大声をあげ、身長の低いドワーフによじ上られているが気づいていない。その隣には、普段は獣臭いなどと言って獣人から距離を取るエルフが一緒に声を上げている。
つまり、新移民も旧移民も混在しているのだ。
別段それが特別なことではない。
新移民と旧移民が一緒に仕事することだって、獣人とドワーフが一緒にいることだって、皆無と言うわけではない。……エルフはあんまり一緒にいないかな?
だが、それ以外は基本的に自分たちのコミュニティで集まっている。
こんな風に騒いでいることは稀なのだ。
これには寡黙なゴロッリオですら足を止めて驚いている。
そして俺はそのゴロッリオの肩に乗っているためその人垣の向こう側、つまりこの騒ぎの原因が確認できた。
結論から言うと……うちのチームの奴らがライブをしている。
前世で有名なバンドの曲を歌っている。
紅に染まったり慰めるやつがいなかったりしている。
それに……人が群がっているのだ。
群がった人々は誰に教わったわけでもなかろうに体を激しく揺らし、中にはヘッドバンキングをしている者までいる。
獣人は飛び跳ね、ドワーフは自分の腹を太鼓のように叩いてリズムを取り、キャーキャー言っている。……男だよな? あのエルフ達。
……歌はいいねぇ、歌は人間がのこした文化の極みだよ。
そして俺は混乱の極みだよ?
始まらないビンゴ大会に場は冷めきっていると思っていたがこれは一体?
そう思い目を白黒とさせていると舞台上の少女と目あった。
彼女は我がチームがバンド「スター☆プラチニス」のメインボーカルだな。
名前はアヴェルラだったはずだ。
ここは一つ説明せなばなるまい。
俺は現在進行形でスラム改善計画の一環として子供達に芸術を学ばせている。
うろ覚えだが、ならず者どもをマシにする為に信長が茶道を普及させたとか、どっかの国のスラムで芸術を子供に教えたら、希望を失った子供達にいい影響があったとかなんとか前世で聞いたので物は試しとやってみたのだ。
一応は一定の効果が認められ、ヤサグレあらくれ度合いが減った。
子供らしい表情でキラキラと自分の作品や特技を披露する子も増えた。
その中でも彼女は音楽を選んだのだったなぁ。
そして同じような境遇の仲間とバンドを組んだんだっけ。
___ちなみに楽器は一部ボイス&ボディパーカッションです。
ドラムはタヌキの獣人で、ベースは牛の獣人が。
エレキギターはコヨーテでシンセサイザーの代わりはスズドリの獣人が担当しております。
舞台上では歌が進み、走り出す何かに追われているあたりまで来ているな。
……彼女は鳥の獣人だが澄んだ声が出せないからと親に捨てられた少女だ。
一括りに獣人といってもその種類は多く、虎の一族なら強さが尊ばれ、鳥の一族なら澄んだ歌声を持つものが尊ばれたりと独自の価値観がある。
そしてその枠から外れたものは一族の面汚しとして蔑まされ、時には彼女達のように親に捨てられることもある。
一族の価値観に合わないから捨てられた。
一族の都合で捨てられた。
……なんとも俺の琴線に触れるワードだろ?
お前らには分からん価値がこの子にはあるわい!
そう思ったのも俺が子供達に芸術関連を教えるきっかけになった。
そんなアヴェルラは親に捨てられたこともあり、自分に自信がなく引っ込み思案でいつも誰かの影に隠れているような女の子だった。
先日あった時もオドオドしていたと思う。
そうだったんだけどなぁ?
大衆を前に物怖じ一つしない彼女からは微塵もその様子はうかがえない。
今もイカれたメンバーを紹介している。
もし俺が彼女の変化の一助となったのであれば色々やった甲斐があると言うものだ。
俺が感慨にふけっているとメンバー紹介が彼女の番になり___
音が爆発したかと思った。
大声援。どいつもこいつも大声で彼女の名前を叫んでいる。
獣人たちは声もデケェんだな……。あとドワーフも。
あ、一番前に狼男がいる。
あの野郎目を覚ましたのか。
しかしどのツラ下げて最前列にいるのか。
どう言う神経してんだ? 馬鹿なのか?
あ、馬鹿だったわ。
しかしなんだ、どうした!
この人気ぶりはなんだと言うんだ!
これはもしかして商機なのか?!
ビッグなウェーブが来ちゃっているんじゃないのか!
もう獣人は興奮のあまり、ただジャンプを繰り返す変なおもちゃみたいになってるし、それに捕まってるドワーフは空中に放り出されてるし、エルフの黄色い声援はもはや高周波の域に達している。
なんだこいつらのテンション?!
もしかして、Xな日本の曲がこいつらの心にぶっ刺さってるのか?
クラシックやジャズ、ラグタイムが主流の世界でロックが世界と時空を超えて魂を揺さぶっているというのか?!
考えろ! 考えるんだ俺!
これはチャンスぞ!
滅多にない転生知識チートの出番ぞっ!
しかしどうすればこのチャンスを最大限に活かせるんだ?!
どうすれば儲けにつなげられるんだ……っ!
ぐぬぬぬぬぅ、プロデュース経験なんてないからどうすればいいのか分からん!
しかしこのチャンスを逃す手はないぞ……!
そんな半ば混乱状態の俺に天から声が届いた気がした。
『汝、握手券を配布し利益を求めよ』
秋◯康先生……!
俺の目には確かに天に浮かぶ眼鏡のふくよかな男性が見えた。(気のせい)
これぞ天啓。
よし。ビンゴ大会はこのまま彼女に任せよう。
彼女手ずからビンゴシートを販売したら、コレいけちゃうんじゃないの?
ルール説明とか、大勢のみんなとやらないとビンゴは楽しくないとか、最初のハードル高いから失敗しちゃうかもと思ってたけど、この一体感ならやれちゃうでしょ!
彼女と握手するためにシート買っちゃうでしょ!
成功しちゃうでしょ!!
だって、もう観客がステージギリギリまでつめ寄っちゃっているもの。
俺は鼻息荒くゴロッリオに舞台裏に向かうように指示を出そうとしたところで次の曲が始まる。
「YouはShock!」
この出だしは水晶の王様達の愛を取り戻すShockな歌だ。
イントロ一発でわかったね。だって当然俺が彼女達に教えたからね。
あの歌俺が教えたんすよ。
と、俺がドヤをかましていたら、舞台上に突如として現れた謎の人物!
そうか! 水晶の王様は二人組! ボーカルが二人必要なのは自明の理!
舞台袖から歌いつつ、回転しながら現れたあの人物は一体、何兄さんなんダァ!
うま! フレド兄さん歌うま!
しかもフレド兄さんが低音担当だと……っ。
甘いマスクと力強い歌声のギャップにお姉さん方が黄色い声援を挙げている。
それ以外の奴らもユーはショックの部分を一緒に歌ってる。
キタコレ。
もう勝ったわ。
最強だわ。
なんだかわからないけどウケにウケている。
お姉さま方にはフレド兄さんからビンゴシートを買ってもらおう。
グフフフ! これは笑いがこみ上げてくるぜ!
「なにを怪しい笑い声をあげてるんだ? 悪徳商人みたいな笑い方だぞ?」
後ろから聞こえた声に振り向くと王虎が呆れた顔をして立っていた。
「失礼な。人聞きの悪いことを言うんじゃない」
「事実だろう」
「事実とか関係なく人聞きの悪いことを言うなと言っとるんだ」
まったく。イメージが悪くなっちゃうじゃないか。
総合プロデューサーであるこのキキ元康大先生のよぉ!
俺の言葉に王虎は肩をすくめると舞台の方を見る。
……ゴロッリオの上にいる俺とほとんど目線が変わらんな。
「しかし、歌なんてものは眠くなっちまうだけのもんだと思ってたが、お前のところの歌はなんか気分が良くなるな!」
そう言いながら筋肉からミシミシ音を出し始める王虎。
あぁ、ゴロッリオからもおんなじ音がし出した。
「激しい太鼓の音と早いテンポがたまらねぇ! 今なら指先一つで敵を倒せそうだぜっ」
……なるほど。
多分これは異世界あるあると見た。
生きるので精一杯で娯楽に割く余裕がないからそう言う分野が発展しなかった的な。
いや本当のところは知らんけど。
そんな事より重要なことはだ。
この手の音楽がこの世界の住人に受けると言うことだ。
きっとアップテンポなダカダカ系音楽が獣人の闘争本能を刺激しているに違いない。
いや知らんけど。
これは俺たちの主力商品になる可能性がある。
元よりマフィアと芸能は切っても切れない間柄、むしろなぜ最初に思いつかなかったのか。
いいぞ……。俺の考えは間違っていなかった。
やはりこの世界の隙間産業は娯楽だ。
例えば、人によっては下らないと断じるような無駄な事、生きていく上で必須でないもの。これが今後の我々の商売になり得る。
支配と暴力と搾取と差別。
あとは酒と薬と性的快楽くらいか? この世界の娯楽は。
本もあるしクラシックもあるけど、教養の一部で娯楽じゃないみたいだし。
映画はなぜかまだ無い。多分トーマスエジソンがいないのかも。
天才がこの世界にいないのなら仕方がない。
強者だけが楽しむ下らん娯楽に唾吐きかけて、本当の娯楽をこの世界に知らしめてやろう。
あらゆる方向からこの世界のシステムに喧嘩を売ってやる。
それが可能だとうちのバンドマン達が教えてくれた。
俺にその光景を見せてくれた。
俺が指示したわけでもないのに、自分たちで考えて場を繋いでくれたんだろう。
自分たちの新しい可能性、新しい価値、新しく手に入れた武器を持ってして。
俺が変わったようにスラムの仲間達だって変わっていってるんだ。
強く逞しくなっている。
俺の血も滾るようだ。どんどん元気が湧いてくるってもんだぜ!
「よし!ゴロッリオ舞台裏にダッシュだ!」
「ウッホ!」
早速アヴェルラとフレド兄さんにビンゴ大会のMCと販売をしてもらわなければ!
ここまでお膳立てされたんだ。このイベントは絶対に成功させてやるぜ。
そうでなければみんなに合わせる顔がない!
俺はゴロッリオに乗って舞台裏へと急ぐのだった。
お読みいただきありがとうございます。
すいません、もしかしたらこの話改稿するかもしれません。
ただするとしても大幅にではなく描写の部分になると思いますので、ストーリー的には変わりませんのでご安心ください。
あと先日のPVが上がった件ですが、多分サブタイトルがエロい感じだったためと思われます。
読者様が上級者だったわけではなさそうですw




