3話 『お前の生を寄越せと要求する話」改
だがしかし。理性的でクールな俺は湧き上がる衝動をグッと堪える。
見敵必殺は現代ではあまり芳しくない。
法に触れるし何より、もしかしたら敵かと思ったら違うかもしれない。
例えば味方だと思ってたやつが敵だったようにな。
見たところ悪魔(爆乳)だからな。
偽悪的な物言いがデフォなのかもしれない。
悪気はないのかもしれない。
『君も惨めな人生で悔しくはないかい?』
……となれば、まずは挨拶からだ。
日本人なら基本だな。
これでも善良なサラリーマンだ。
失礼な奴にも笑顔で対応。
これ大事。
「どうも初めまして。 爆乳の人。 お日柄もよく、こんな真っ黒いところでどうお過ごしですか? 私の気分は、見るもの全てを傷つけるほど尖っているので発言に気をつけろ。」
そんな俺の爽やかな挨拶を聞いてるのか聞いていないのか、
悪魔(推定)はなおも続けてくる。
『なに、正直に言ってくれて構わないんだぜ? 何せ君はもう死んでしまったんだから。 心の内を僕に吐露してくれて構わない。 どんな情けない君の、情けない発露でも僕は受け止め切ってみせるとも! 愚かな仲間の愚痴でもいい!』
聞こえてねぇな。そして俺の忠告も聞いてねぇ。
『君の一生はみじめでひどい人生だったねぇ? だぁれにも愛されることなく歩んで来て、やっと人から必要にされたとおもったら、信頼していた上司にも、かわいがっていた後輩にも裏切られて? 自分の人生はなんだったんだ? そう思っても仕方ないさ!』
一人語りの達人か?
芝居掛かった物言いがムカつくな。
母と妹は愛してくれたわい。
___短い時間だったけど。
だがそんなことよりも___こいつから漂う甘ったるい匂いが気に入らない。
『世界を憎んだろう? 人が嫌いになっただろう?その恨みを晴らしてやろう! さぁこの手を取って! 今一度君に生をあげよう! 僕はそのためにここに君を呼んだんだから!』
悪魔(憶測)は恍惚とした表情で俺に手を伸ばす。
驚きの事実だな。
俺がここにいるのはコイツの仕業らしい。
さすが悪魔だ(仮定)。
しかも生き返らせてくれるらしい。
とても魅力的だ。
爆乳の話じゃないぜ?
まぁこいつの言葉を信じるならばだけどな?
___ちょっと距離が遠いな。
『不条理な世界に君の叫びをぶつけてやろう! さぁ! さぁさぁさぁ! 素敵な慟哭を聞かせておくれ!』
奴のテンションはクライマックスを迎えたのか、満面笑顔の口元は眉月の様に限界まで弧を描いている。
どうにも俺の心の叫びとやらを言葉に出してもらいたいらしい。
きっとそうしないと先に進まないやつだなこれは。『▷はい』しか選べないやつだ。
はぁ、仕方ないな。
円滑なコミュニケーションのために俺が折れてやろう。
そっちの方が早く結論が出せそうだ。
だから奴の質問に答えるとしよう。
心のうちとやらを吐露してやるよ。
「惨めな気持ちもある。 絶望もある。 裏切った上司は許せないし、なぜ俺が死ななければならないんだという気持ちもある。 裏切り愚かな選択をした結果死んだ後輩を哀れに思う」
俺の発言に悪魔(憶測)は益々嬉しそうに言った。
『そうだろう、そうだろうとも。 よくわかる。 僕はね? そんな人間をたぁくさん見てきたんだ。 同情じゃぁないんだぜ? 僕もね君と同じように裏切られたことがあるんだ。 だから君の気持ちが、よぉくわかるんだ』
やっと俺の言葉に反応したな。
俺の優しさ満載のおとなの対応が功を奏した。
しかしまぁ、俺の気持ちがよくわかると。
『さぁ、私たちにこんな仕打ちをする憎い憎い憎い憎い世界に復讐をしよう! キミも悪魔になれる素質がある! それだけの力を得ることができる!』
やっぱり悪魔(確定)だったか。知ってた。
だが能力的には二流悪魔なんだろうな。
なにもわかっちゃいない。
「そうだなとても憎い」
俺の答えに悪魔は嬉しそうな顔をする。
さらに満面の笑みって奴だな。広角で丸ができそうだ。
ずっと合わせてた目も妖しく瞬いている。
だが残念ながら続きがある。
「賭けに出てくれた仲間に報いることができなかった。 目的を完遂できなかった。 間抜けにも上司と後輩の企みに気づけなかった。 あの日、社長と同じ顔をしていた仲間を助けることができなかった」
もしかしたら三流かもしれない。
一流悪魔なら人の心を読むくらいできるだろう。
そして読めたならわかるはずだ。
この身の内にある憎悪がどこに向かっているのか?
「なにより恩がある社長を助けることができなかった」
___俺は誰かに流されるだけで何も成せない自分が嫌いだ。
「いつもいつもいつも期待に応えられない負け犬」
きっと俺が親や兄弟と同じように優秀だったら、自分で決めて最高の結果を残せたんだろうと思う。
俺だからダメだった。
何故俺だけが無能なのか。
何故俺だけ価値がないのか。
何故俺だけ何もできないのか。
___何故俺だけ家族と違うのか。
あぁ。
あああああああああああぁあああ!
何故何故何故何故何故何故何故何故!!!
だから俺は___
「___殺したいほど自分が許せない。 自分が……憎い」
一瞬静寂が訪れて。
悪魔は俺の答えがきにいらなかったのか、殊更驚いた顔をしてため息をついた。
『はぁ…。 なんて殊勝な考えなんだ。 誰から見ても相手が悪いだろう? 普通は殺した相手を憎むよ。 相手を憎んでも、だぁれも君を責めたりはしないよ? むしろ共感をしてくれるだろう。 それが健全な人間ってものさ』
なんか勝手に慰め出した。
そして一々腕を大きく広げたり、かぶりを振ったりと言った、芝居がかった動きが益々オーバーになっていく。
『だけどねぇ。 君のそれは卑屈ですらある。 不健全で不自然ですらある。 良くない。 良くないよ? だから健康的に行こう。 建設的に行こう。 復讐の為にこの手を取れば後悔をさせないよ? もう一度君に生をあげよう』
まるで聞き分けのない子供を諭すようにまた悪魔が手を伸ばしてくる。
近づいてくる。
お前さんの望みの通り俺の望みを伝えてやろう。
どんなものでも受け止めてくれるらしいからな。
「だが断る」
ダメな俺でも一つだけよかったって思えることがある。
社長のおかげでそう思えるようになった。
仲間に出会えて良かった。
みんなに出会えた俺はそれだけは誇れる。
だからみんなを利用するような物言いや、やり方は許さない。
その眼から感じられる嫌な感じはなんだろうな?
さっきから漂ってるこの甘ったるい匂いは?
ゆっくりとした大きな動きはどんな効果を狙っている?
答えは洗脳だ。
「お前___アイツとアイツら同じように俺を都合よく使おうと思ったな? アイツがみんなを搾取したように、アイツらがそうしたように俺を搾取しようとしたな?」
悪魔が今度こそ笑みを消して無表情になる。
やっぱり。じゃあ仕方ない。 残念だが仕方がないよな?
こいつは___敵だ。
「俺の生はいらないから、お前の生を寄越せ」
俺は悪魔をブッ殺すために飛びかかった。




