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29話「森がどんだけヤバイのかって話し」

ちょっとだけ長いです。

 

 こんにちは、キアーラ・カサッツァです。

 いつでも第一歩を踏み出す人は世の中に、そんな事は不可能だと馬鹿にされるものです。

 鉄の船を浮かべた人、空を飛んだ人、月にいった人。

 枚挙にいとまがありませんが、思いつけたなら実現は可能だと思うのです。



 誰かがヒュっと息を鋭く吸う音が聞こえた。

 ソニー兄さんは大きく目を見開き、王虎は逆に目を閉じて腕をこまねいている。

 そしてゴロッリオが不安げにこちらを見つめて怯えている。

 先の呼気は彼のものだったようだ。


「無茶だ。馬鹿げてる」


 王虎が静かに言った。

 誰だってそう思うだろう。

 森に手を出すとどうなるか?子供でも知っているからな。


「ふざけるなよ? 森に手を出すだと?

 それがどう言うことかわかっているのか?」


「ふざけてないし、分かっているとも」


「いいや。分かっていない」


 今度は王虎が俺を諭すように言ってくる。


「いいか? 森を相手にすると言うことは幾千万の化け物どもを相手にすると言うことだ。それはマフィアを相手にするのとはわけが違う。

 獣人が魔物を相手にするための専用の訓練を受け、チームを組んで装備を万全にし、支援も最高に手厚くした上でなお死者が出る」


 あまりにも当たり前すぎて、わざわざ語るほどのことでもない事実。

 それを話す事自体が馬鹿げていると言わんばかりの顔だ。


「森に手を出すのがどういうことか、一つ俺が授業をしてやろう。

 過去に森を焼いた王がどうなったかは知っているな?」


 王虎が皮肉げな表情で言ってくる。

 それは当然俺も知っていたので答えてやる。


「そうだ、レッドドラゴンに国を滅ぼされ、逃げ出すはめになった」


 そう言った王虎は森と人との戦いの歴史を語り出した。


「レッドドラゴンから逃げ出した強き者達は、国を追われることとなり海を渡り新しい国を起こすこととなる。その強き者の民が旧移民である俺たち獣人で、新しく起こされた国が俺たちが今いる国がステイテッドだ」


 まぁそうだろうとは思った。

 完全に強き者の国が滅んだのならば伝承が残っているはずもなく、と言うことは生き残った語り部がいると言うことなのだから。


「まず俺たちの先祖はこの森の空白地帯を探し出し、森の反撃を受けぬように慎重に開拓を進めた」


 そこで俺はふと疑問に思ったことを聞いてみた。


「この大陸には人は住んでいなかったのか?」


 前世のアメリカだったらインディアンがいたが……


「いや……国の奴らはいなかったと言っちゃあいるが、実際にはいただろうな」


「……国が隠すってことは」


「あぁ。多分胸糞悪いロクでもねぇことをしたんだろうな」


 今まさにロクでもない目にあわされている奴らの事を思うとムカッ腹が立ってくるが、その結果であるこの街に住んでいる以上、俺たちに何もいう資格はない。


 歯ぎしりをするだけにとどめておく。


「……話の腰を折ってすまなかったな。続けてくれ」


 内心複雑に思いながらも俺は王虎に続きを促す。


「森の木を伐採し開拓を進めていったが、幸いこの国の森には人の手が入っておらず、魔物も獣人で充分に対抗できる程度の強さのままだった」


 その辺りのことは当然俺も知っている。


「どれくらい強い魔物が現れるか、森の侵食が始まるかどうかの基準は、開拓した土地が森全体のどれくらいの割合を占めるかで決まる……だったか?」


 森を開拓使過ぎれば森の成長速度が上がり侵食されるし、また森の広さと反比例して魔物の強さが跳ね上がっていくらしい。


「そうだ。どこまでなら大丈夫なのか?

 これを確認するために、強くなりすぎた魔物に多くの者が殺された。

 そして何度か街が森に飲み込まれた」


 命がけのトライアンドエラー。

 どれだけの命を森に差し出したのか。


「多くの犠牲を払いこの国は作られた」


 王虎が重々しく言う。


 それほどの犠牲を払ってでも森の中に国を作るのはなぜか。

 なぜ魔物の脅威と隣り合いながら生きていかねばならないのか。


 その理由を俺が告げる。


「魔物から魔石を取るために」


 ___魔石


 この世界で燃料として使われる、いわば電気や石油の代わりになる物。

 魔物から取れるこの天然素材はその魔物の強さによって出力が変わってくる。


 例えばゴブリンから取れる魔石では単三電池ぐらいの出力しかない。

 命がけの攻防の末得られるものが単三電池では如何にも具合が悪い。

 だから有用な魔石が取れるランクの魔物が出てくるラインまで森を開拓する。


 本当はもっと生活圏を広げられるはずなのだ。

 この大陸の森を全て焼き尽くす事だって可能なはずなのだ。


 だが森を開拓しすぎると今度は強すぎて魔物が倒せなくなり魔石が手に入らなくなる。


 だからあえて限界よりも少なく開拓をする。

 森を開けばそこに人が住めるようになり、スラムにぎゅうぎゅうと人を押し込めなくて済むとしても魔石のためにそうする。


 そして開拓地の広さにはもう一つ意味がある。


 森の魔物をある程度の強さにすることで、強い獣人以外が魔石を手に入れられないようにするため。つまりは獣人が魔石を独占するためだ。



 専用の訓練を受け、チームを組んで装備を万全にし支援も万全にした獣人でなければ魔物の相手はできない。

 この世界で常識の事だ。

 誰かが意図的にその常識を国民に植え付けていたとしても、完全に間違いでない以上、それは真実だ。


 そして、このシステムこそが旧移民である獣人がこの世界の支配者たり得る所以だ。


「俺たちバンビーニなら数体までなら相手にできるが、森の奥まではいけない。

 そして森の浅瀬は貴重な資源として既に抑えられている。

 手を出せばそれこそ商売人達を敵に回すことになるだろう。

 そしてその時に刺客として送り込まれてくるのは他のファミリーだ。

 俺たちが全滅するまで手を緩めはしないだろう」


 そうだろうと俺も思う。

 もともといたマフィアを壊滅させてのし上がったバンビーニが他のマフィアに狙われないのは一重に旨味がないからだ。


 得られる利益がスラムと奈落を抱えている旨味のないシマしかなく、そのために王虎を筆頭とする超武闘派集団を相手にしたくなかったからだ。


 だが流石に利権を侵されるとなれば話は別だ、きっちりと商人達は報復措置を取ってくるだろう。その際に他のファミリーの構成員(ワイズガイ)が雇われる。

 下っ端構成員(ワイズガイ)はいつでも金儲けに飢えている。

 きっと嬉々として雇われるに違いない。


 そうしてそいつらに負けたその時には腕を切られ胸の上に置かれることになる。

 盗っ人の烙印として。


「そして森の奥に手を出したことが世に知れ渡れば、どこの店も俺たちに法外な値段で物を売ってくるだろよ。

 今以上に食い物が手に入りにくくなる。

 行きつけの肉屋や贔屓のレストランで後ろから一般人に刺されるかもしれん。

 森を起こすなとね」


 四方八方ありとあらゆる人間が敵になると言うことだな。

 王虎は憮然とした表情を見せている。

 俺の提案に納得がいっていないのだろうな。

 期待していた答えがメリットらしいメリットもない夢物語だったのだから。

 確かに金も物資も人員も気が遠くなるほど必要となるだろう。


「だが、それがどうした?

 今言ったことはクリアすべき障害であったとしても、やらない理由にはなり得ない」


 俺は憮然とした顔からあっけに取られてような顔になった王虎を睨みつけながら言う。


「つまるところあんたがなさなきゃいけない事は『差別の根絶』と『平等主義』だ。

 限りある資源を独占せず、貧しい者でも新移民でも、差別せず平等に生きていけるようにしましょうと言う主張だ。

 だが実際のあんたの考えるやり方はどうだ?

 あるところから配ってもらおう、おこぼれをもらおう、施してもらおうと言う甘ったれた考えだ」


 それが闘争の末にあるのもであるにしろ、善意によるものであろうにしろ、もらうと言う立場は変わらない。

 その規模が変わるだけで残飯を漁っている今と変わらない。

 漁る先がゴミ捨て場から役人かマフィアになるだけだ。


「……黙って聞いてりゃあ、お前随分いい調子でさえずるじゃねぇか、えぇ? おい」


 俺の侮辱とも取れる言葉に、王虎から殺意が発せられる。

 今までの威圧するような怒気ではなく冷たい抜き身の刃のような鋭い殺意。


 ソニー兄さんもゴロッリオもそれに当てられ硬直してしまう。


 ___だが俺には関係ない。


「落ち着けよ。

 怒りは危険だぜ? 人を馬鹿な行動に走らせる。

 今のお前のようにな」


 王虎が俺に怒りを覚えたように、俺もやる前から諦めるような物言いをした王虎に少し怒りを覚えているのだ。


「……俺が子供に手をださねぇと思って舐めた口聞いてんのか?

 俺だってマフィアやってんだ。行き過ぎたガキの躾ぐらいはするんだぜ?」



「舐められたと思うのは、テメェが何も見えてねぇからだ。

 わかっちゃいねぇのはテメェだよ」


 俺は一歩も引かずに王虎を睨み返す。


「足りねぇのよ。あんたの敵を滅ぼしたくらいじゃ全然足りねぇんだ」


 前世でも闘争だけじゃ解決しなかった。

 交渉だけでもダメだった。

 両方あっても難しかった。


 だが国が豊かになれば、少しは平等と呼べるものは成せたし、差別も減らせた。

 そこまでいくのですら、多くの困難があったのだ。

 敵を投げっておしまいなんてのは絶対にあり得ない。


「……もういい。お前に期待した俺が馬鹿だった」


 そう言って王虎は席を立とうとする。

 簡単に伝わることではない。

 言葉を尽くさねばと俺は言葉を重ねる。


「安易な道に逃げんな。

 お前がやるんだ。お前の手で生み出すんだよ。

 何かを壊すんじゃなくて、みなが平等に生きていける社会を生み出すんだ」


 目を逸らさずになおも俺は王虎に投げかける。


「誰かにもらうんじゃなくて、お前が配る側になれ。

 誰かの立場や持ち物に依存することなく、お前が産み出した物をお前がみんなに与えてやるんだ。

 ……金持ちの豚でもなく、腐れたジジィどもからじゃなく、他でもないお前が与える側になれ。お前がみんなの希望の光(・・・・)になるんだ」


 俺がそう言うと王虎は目を見開くと驚いた顔をして硬直した。

 何に驚いているのかと問いかけようとすると、ドカリと椅子に座り言った。


「……その為に森に手を出すってのか?」


 先ほどとは変わって落ち着いた王虎は静かに俺に問うてきた。

 なんだ? なんでいきなり聞く体制になった?

 なにか、コイツの琴線に触れるものが今の言葉にあったのか?

 だとしたら、どれだ?


「……そうだ。平等主義を謳うには資源が足りなすぎる」


 疑問に思う事はあったが、聞いてくれる気になったと言うなら逃す手はない。


「今のまま無理やり実現しようとしても、誰かがもらうはずだった分を奪っているだけの見せかけの平等しかなし得ない。平等にみんなが困窮するだけだ」


 街の中だけで資源を回してもいずれはどこかで回らなくなる。

 そうなればまた貧富の差が生まれ元の木阿弥と化すだろう。


「だから本当にことを成すためには今を平均化するのではなく、底上げを図る必要があるんだ」


 平等にみんなが不幸では話にならない。

 少ないパイを取り合っているだけでは意味がないのだ。


「でもそれって、もともとキキがスラムでやってたことと同じだろ?

 キキはスラムの子供に食料や着るものや仕事を与えていただろ?

 それで随分みんな楽になったと思うんだぜ」


 王虎が落ち着いたことで、殺気から解放されたのか、動けるようになったソニー兄さんが聞いてくる。

 少し手が震えているのがこちらから見えるが、声は震えていない。

 流石は俺の兄さんだ。肝が座っている。


「全然違うんだ。俺は商売をしたかっただけで目指すところは金儲けだ。

 そのために色々スラムの子供たちに与えたに過ぎない。

 その金でスラムでも生きていけるようにしようってだけで、スラムの人間の立場は変わらないんだよ」


 金が稼げる程度には弱くないんだと言うアピールをしてごまかしているだけだ。

 金を稼げるうちはいいだろうが、商売に失敗しようものならこれもまた元の木阿弥だ。

 そして一度失敗すればもう二度とスラムの人間は浮かび上がることはできないだろう。


 だがそれでも俺は家族が生きていけるようにこの賭けにでた。

 言うなれば俺は俺のためにやっただけに過ぎない。


「だが王虎はだれもがありのままで生きていけるようにしたいんだ。

 子供だから新移民だから女だから。

 そう言う理由でが頑張っても手に入れられない何かがあることを否定したいんだ。

 奪われる何かをなくしたいんだ。……そうだろ?」


 先ほど吐露した王虎の言葉から伝わった思い。

 それを俺は改めて確かる。


 そして王虎は俺の問いかけに確かに頷いたのだった。


お読みいただき誠にありがとうございます!


提案営業をかけるキキと、リスクマネジメントの観点からお断りしたい王虎の話ですね。

要約すると


キキ「御社の掲げてらっしゃる目標は、その手法だと難しいかと……」

王虎「しかし君の提案はリスクがねぇ?」

キキ「御社のやり方では失敗してしまいます!」

王虎「なんだと!失礼だよキミィ!」

キキ「弊社のやり方なら出来ます!王虎社長なら間違いありません!」

王虎「話を聞こうじゃないの、キミィ」


という話ですw


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