27話『郷愁の思いと羨望の思いの話』
タイトル変更いたしました。
本日午前0時にお詫び1話を上げております。
ご注意ください。
予約投稿をしくじりました……。
これが今日のお昼の分です(^_^;)
どうもキアーラ・カサッツァです。
虎男が困難な目標を前にして浮かべた表情に、前世の大恩ある人物が重なりました。
見た目はもちろん違いますが、きっと魂とやらが似ているのかも知れません。
___社長
似ても似つかない前世で世話になった社長が王虎に重なる。
まっすぐで、正直で。いつも俺らのために苦労を一人で背負い込んでいた社長。
人はここまでありのままの自分をさらけ出せるものなのだろうか?
「わからねぇなりに色々やってはみたが、ご覧の通りだ」
次にうかべるは凶悪な笑み。
それがどうかしたのかと言わんばかりに、ニヤリと口角を上げ歯をむき出しにする様は、虎が威嚇する表情そのもの。そこから出る言葉は簡潔。
「まぁ、芳しくはないわな」
そんな一言で表せるようなものじゃないだろう。
そんな簡単なことではないはずだ。
きっと七難八苦とでも言うべき道のりだったはずだ。
前世で子供の頃から絶望と向き合ってきた俺だからわかる。
そんなもんじゃないんだ。
絶望に苛まれると、本当に眼に映る世界は暗くなる。
音も聞こえなくなって体も動かなくなっていく。
昼間だろうとなんだろうと関係ない。
只々暗い。
血が凍ったように感じられ、息は苦しくなる。
言葉も出せなくなって手と足が痺れていく。
意味もなくうめき声が漏れる。
普通ならとてもじゃないが、笑うことなんてできやしないはずなんだ。
それなのに半分も生きていないであろう幼女に、笑いながら馬鹿正直にわからねぇと言ってくる。
「わからねぇから、苦労ばっかりでよ。
色々あったよ。……本当に色々あった。
沢山の仲間が先に逝っちまうし。」
そう言ってまた笑った。
なんだぁ、こいつは。
「色々あったのに変えられねぇ変えられやしねぇ、納得いかねぇってガキみたいに駄々こねてたよ。俺らみんなが。
そうしたら突然、奈落の奴らを治した奴がいるって報告があってよ。
しかも治した奴らを集めて金儲けしようとしているっていうじゃねぇか」
王虎の俺を見る目にさらに熱がこもる。
度重なる絶望を味わっていながら、まだこんなに熱を持っているっていうのか。
すげぇ。
「俺たちにできなかったことを、平然とやってのけたそいつに痺れたよ。
どたまのてっぺんから雷受けたみてぇにさ」
こんなに痺れた事はないと王虎が興奮気味に言う。
これほどの男に褒められると何やらこそばゆい気持ちになってくるな。
「だから俺はここにやってきたんだ。アンタにならやれるとそう思ってな」
なるほど。こいつは諦めていないのだ。
言語に絶する経験をしてきても、五里霧中の状況であってもなお答えを探しているのだ。
どうすれば夢物語を実現できるのかと言う答えを。
なんで俺みたいな幼女にと思ったが、こいつは夢を叶えるために貪欲にあらゆる手段を講じているって言うわけだ。
壊血病を治療したと言う実績を加味して俺を取り込み、まずはスラムの救済から始めるつもりなのか。
機を見るに敏。この辺は前世の社長よりも優秀かもな。
そのためには幼女に頭も下げるし腹を割って自分をさらけ出す。
……俺には到底真似できない。
俺は弱みを他人にさらけ出せるほど強くはない。
これが器ってやつなんだろう。
こりゃぁ、男は惚れるだろうな。
そりゃぁ、マフィアのボスでもやれるだろうさ。
「俺たちを助けてくれやしないか」
またしても自然に下げられる王虎の頭。
直球実直な口説き文句。
前世ではスカウトなんてものは、転職サイトですら終ぞなかったけれど……。
人生わからんものだね。人生の妙を見た気がしてついつい苦笑いが溢れてしまう。
王虎とソニー兄さんがハッと息を飲んだ気がするが、幼女が浮かべる表情ではないかもな。
そして王虎は我が意を得たりとばかりに俺に期待の眼差しを向けてくる。
「アンタならどうやるか教えてくれ」
そこまで俺に期待してくれるというなら、俺もそれに応えよう。
___この虎の王が足元をすくわれないように現実を突きつけよう。
___王虎がどれほど困難で恐ろしい道を選んでいるのかを教えよう。
想いだけでは進めぬ道なのだから。
「……いいか? スラムをなくし、弱者が弱者のままでも生きていけるようにするには、全部を手に入れる必要がある」
俺の抽象的な物言いに王虎は訝しげな顔をする。
少し結論を急ぎ過ぎたか。
ならばと俺はゴロッリオの肩の上から見下ろすように王虎に問いかける。
「まず、なぜスラムができるのか答えられるか?」
「……行き場のない奴らが集まるからだ」
突然始まった俺の質問の意図が計りかねるのか、王虎は怪訝そうな顔を上げて言う。
「半分正解だ。ではなぜ行き場のない奴らはスラムに来るのか?
ひいては弱者が爪弾きにされるのか?
それは……他に行き場がないからだ」
禅問答のような俺の回答に王虎がますます怪訝そうな顔をする。
「結論から言うとだ、人間が住める場所が限られているせいで、数が増えると困るわけだ。街がパンクしてしまうから。だから間引くために弱者が切り捨てられ、追いやられる。
人口を減らすためだ」
先に述べた適応戦略云々の話だ。
「全滅をするくらいなら、少数を捨てて大多数を取る。
限られた資源を優先順位をつけて配布していく。その結果スラムがある」
ともすれば現状を肯定するかのような俺の発言に、王虎は驚きそして睨みつけてくる。
皮肉に聞こえたか?
ファミリーの生存を優先し奈落を切り捨てた自分に対する当てつけのように聞こえただろうか?
だが俺はそれを冷めた表情で一瞥し続ける。
「要するに足りないんだよ何もかもが。
食い物が豊富なら飢える奴はいないし、土地が広大で資源が豊富なら住む所を追われるものもいない___」
「そんな事は分かってる。だからそれをどうにかしたいと言ってんだ」
王虎が俄かに苛立ちながら言葉を挟んでくる。
確かにそんな事は百も承知だろう。
その上で王虎は全く新しい画期的な解決方法を望んでこの場にいるのだから。
だから俺は答えてやる。
「簡単だ。足りない分を補うならあるところから持って来ればいい。
……それが何処かわかるか?」
「……金持ちの豚どもと腐れジジィどもだ」
王虎がギラリと目を光らせ答える。
おそらく王虎が何度も出したであろう結論。
金で街を支配している官僚と、数と暴力で裏から街を支配する最古参のマフィア。
自分たちを虐げてきた者たちから奪って、復讐と現状打破の一挙両得を狙う。
それが王虎がやりたくてもやれなかったこと。
それが王虎が一番実行したくて、しかし真っ先に却下した一手だ。
だがそれは俺が打つ一手ではない。
「違うな。その筋はない。
そこから奪っても報復されて終わりだ。答えとしては三流以下だ。
報復の矛先はあんたらではなく、あんたの弱いところに向けられる。そうだろ?」
俺は確認するように王虎に言う。
だから王虎はその手を打たなかった。
打てなかった。
「そうだ」
それは王虎も分かっている。
俺でも王虎がスラムにこだわっているのが分かったくらいなのだ。
そいつら最古参のマフィア達が王虎のウィークポイントを知らないはずがない。
相手は威信をかけて全力で潰しに来るだろう。
当然、正々堂々ど汚い手も打ってくる。
その矛先が真っ先に子供に向けられるのは必至。
目の前に欲しい餌がぶら下がっているのに手に入らない状況。
だが他に餌はなく、しかし手を出せば酷いしっぺ返しが待っている。
そしてなにより___
「まともにやったら勝てないだろ?
あんたらバンビーニでも最古参の奴らにはさ」
それこそが王虎が手詰まりになった本当の理由だと俺は気付いた。
もし王虎がそいつらに勝てるほどの力がであれば、打開策を思いつくはずだからだ。
伊達に奴らはこの街を支配しているわけではない。
この世界で曲がりなりにも森を切り開いて、人が住む場所を作り出した猛者たちの直系だ。
何もないところから化け物どもを相手に命懸けで戦い、街と国を作った奴らなのだ。
その戦闘力と結束は決して侮っていいものではない。
「あぁ。普通だったら無理だ。
無理だから俺たちが勝つための特別な手段が必要だ。
奴らの喉笛を噛みちぎってやる致命の一撃が必要なんだ。
その為に俺たちは命を張ることも厭わない」
そう歯を食いしばりながら言うこの男は諦めていない。
何かあるはずだと思い、そして俺がその一発逆転の手段を持っているのではないかと期待しているのだ。
「無いよ」
だがそれは甘いと言わざるを得ない。
「一発逆転の冴えた手段なんてものはない」
俺は王虎に現実を突きつけてやろう。
足掻き続けてきた王虎にとって辛い現実を。
そもそもやっていることが間違っていると告げてやろう。
俺は明らかに意気消沈する王虎を見ながら、そう思った。
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