25話 「憎むべきは何かというの話」
こんにちはキアーラ・カサッツァです。
自分のあずかり知らぬ場所で自分が注目されていると、ソワソワしますよね。
芸能人がエゴサーチをするのも仕方ないのかもしれません。
なんだか色々な人に自分がマークされている事が、今日1日で分かった。
みんなスラムの住人の動向に興味なんてないと思っていたけど、そうでもないみたいだな。
王虎にうちのチームの子に奈落の住民がいるのバレているみたい。
いくら自分のシマだからって、奈落の住人の動向を把握しているものかね?
この世界から見捨てられた場所だぞ?
王虎の子供を守りたいというのは、俺の思う以上に強いのでは?
これは確かめる必要があるかもな。
と言うことで、ちょっと正念場なので真面目に行きたいと思います。
「……なんのことだ?」
王虎の質問に動揺を出さぬように頑張ってみたが、成功したとは言えないだろう。
自分でも顔がこわばっているのがわかる。
さらにソニー兄さんの目がバシャバシャ泳いでいるのでことさらだ。
ゴロッリオは何考えているのかわからん。
だが例え見え透いていたとしても、誤魔化すしかない。
彼らが奈落の住人であったことを知られるのは駄目だ。
画期的な目新しい服装に身を固めても、ボランティアで街を綺麗にしたとしてもだ。
不治の病であったと言う事実をこの世界は容認しない。
ゆえに知らぬ存ぜぬで通すしかないのだ。
だから俺はこう告げねばならない。
「ありえないな王虎。知らないのか?
奈落にいるモノはもう戻ってこれない。常識だぜ?」
俺は肩をすくめて呆れたように王虎に言う。
「……そうだな。常識だ。
血吹き病が治って戻ってくるなんてのはあり得ないことだな」
王虎が続けざまに低い声で言う。
「もし奈落から出てくるやつがいたら、この辺を仕切っている身として、他の奴らに血吹き病が感染らないように対処しなきゃならん。」
ソニー兄さんがまた何か言おうとするが、テーブルの下で足を押さえて制する。
いくら俺たちが完治を声高に主張しても、誰の耳にも届かない。
むしろ忌避感と嫌悪感を持って排除にかかるだろう。
当人である奈落の子供たちと、俺の身内である俺の家族やスラムの子供以外は、血吹き病であると知られたと同時に敵意をむき出しにするだろう。
そして敵になった街の奴らにスラムの子供と奈落の子供を見分ける手段は無く、あったとしても、わざわざ区別せず、全てを排除の対象とするだろう。
だから全てのスラムの子供が標的になってしまわない様に、バンビーニのボスである王虎が非情の判断を下すのは仕方ない。
この世界の人間が、死の病にを感染すかもしれないモノに優しくできるはずがない。だから被害を少なくするためにも俺のチームの子供たちを処分するのも仕方ない。
俺の前世と同じだ。
___異物は容認されない。
いつだって自分の無力さを思い知らされる。
だから俺は___
『……いいねぇ。その感情は』
久しく聞いていなかった声色が頭上から降ってくる。
人を食ったような、嘲笑うかのような音色。
指を鳴らす音それと同時に周りの喧騒と色が失われる。
『やっぱり憎いよねぇ? 不条理な世の中は。
世界が変わってもなぁんにも変わらないよ。
人間って言うのは。酷いね、非道いね、醜いねぇ?』
他の人に見えていないのをいいことに、いけ好かない悪魔がテーブルに腰掛けながらのたまう。
どうした? 今更だな?
『いや、君の中から随分と憎しみが染み出てきたモノだから』
悪魔が嬉しそうに、あの時のように下弦の月のような笑顔で言ってくる。
『奈落の子供たちはとの出会いは良かった。世の理不尽の体現だったからねぇ。
彼らに出会った時も中々の憎しみが感じられたけど、治療ができる見込みがあったからね? そこまでじゃぁなかった』
さらにしたり顔で悪魔が続ける。
『今この瞬間。もしかしてクライマックスじゃぁないかい?』
……何が?
『とぼけるなよ。ゲームだよ。君と僕の!
……忘れてないだろう? 敗北の条件を』
悪魔が人差し指をたてながら左右に振りつつ言ってくる。
あぁ、忘れていないよ。忘れるわけがない。
俺が仲間を裏切ったら。もしくは敵対者に殺されたら。
裏切りの定義は殺意を持って相手を害したら。
『そうさ! 仲間の定義は君が信頼して目的を同じくした人間とした。
おやおやぁ? この王虎君も仲間に定義されているのではないかなぁ?』
今度はわざとらしく、顎をさすりながらのニヤケ面。
まだ仲間じゃないぜ?
『誤魔化すなよ。君は王虎君がスラムの子供のために動く人物だと確信してだろう?
スラムの子供を救うと言う目的を同じくした同士だと感じただろう。
信頼できると思っただろう?
それはもう、仲間じゃぁないか!』
今度は大きく腕を開いて諭すようなリアクション。
ふむ。まぁそうだな。しかし俺は仲間を裏切っていないが?
『これからそうなるさ!
君は奈落の子供たちが処分されるのを容認できない。
だから君は必ず王虎君を排除するね?
君は誰一人として見捨てられないんだから!」
ルナは嬉しそうな顔で断言する様にいう。
「だけど王虎君は君が憎くて子供達を処分するんじゃなくて、仕方なくするんだ。
スラムの子供を守るためにそうするんだ。
と言うことは彼は君の信頼を裏切ってはいないね? 仲間のままだね?』
そしてテーブルから降りてあえて歩きながら後ろを向く。
___なるほど。そう言う考えもあるのか。
『子供達を連れて逃げても無駄だよ。
病に怯えた住民たちは必ず君たちを狩るだろう。
君達を殺しにくる明確な敵。
敵対者がもたらす死! こちらでもゲームオーバーさ!』
そして振り向き大演説。
俺の魂が定着しないとゲームが始まらない話はどこに行った?
『君が世界を憎んで敗北するなら話は別さぁ。そう言う話だっただろう?
君が世界を憎むか憎まないか』
今度は近づいてきて下から睨めあげるようにしながらのウィスパー。
肉体が欲しいんじゃなかったか?
『それについては惜しいが、世界の不条理に子供が犠牲になる瞬間、君の憎しみは最大限まで高まるだろう。
その君が世界を憎んでいる状態の魂が欲しいんだ!
限定レアものなんだぜ?』
と思ったらフレド兄さんのように回転しながら離れていく。テンションたけぇな。
___なるほどな。この世で肉体を得るよりも、俺の魂が優先と。しかもこの世界を憎んでいる状態限定で。
『さぁ、エピローグを始めよう!
王虎君は次に、お前が奈落の子供達を救ってくれたことはもうわかっている。と言う!』
腰に手を当てこちらに指を突きつけつつ、バァン!と効果音が出そうなポーズ。
そして続けざまに指をパチンと鳴らす。と同時に喧騒と色が戻ってきた。
俺が王虎に視線を戻すとちょうど口を開くところだった。
「お前が奈落の子供達を救ってくれたことはもうわかっている」
『大正解だ!』
悪魔が満面の笑みで、なにかほざいているがもういいや。
お陰でネガティブ思考からも脱せたし、考えもまとまり冷静にもなれた。
だから俺は毅然と次のセリフを言える。
「それで? あんたは感染を防ぐために彼らを処分すると?
そしてそれはファミリーの在り方と反するから、彼らを救った俺に対して仁義にもとるから、ボスの座を降りるとそう言いたいわけか?
___それがあんたの筋の通し方だと?」
俺が睨みつけながら言う。
「……そうだと言ったら?」
ルナの言ったことは一部正しい。俺のチームの子供達を殺すことは許さない。
「殺すよ? あんたを殺す。
ボロ雑巾のようにぶっ殺した後で、あんたのファミリーも悉く殺す」
『勝った!』
俺がなんでもないことのように言うと、ファミリーを殺すと言われたのにイラついたのか王虎も睨みつけてきた。あと悪魔がなんか言ってた。
「できるとでも?」
「できる。その場合は住民にも被害が出る方法になるがこの際仕方ない。
感染が怖くて襲ってくる前に一緒に間引くさ」
幼女が吐くには少し刺激的なセリフに驚いたのか、王虎の動きが止まる。
ついでに兄さんも驚きに目を見張っている。
『いいねぇ! やはり君は悪魔向きだ!』
悪魔が喜んでいる。
そして再起動した王虎が呆れたように言ってくる。
「戯言だ。できるわけがない」
「試すかよ? 恐ろしい病気が感染るかもしれないからって、守るべきものを手にかけようって腰抜けの子猫ちゃんがよ?」
俺は王虎に問う。
伊達や酔狂でなく本物の殺意を持って。
こいつの覚悟を問うために。
そのあとは静かに、ただ睨み合う。
最初に聞こえてきたのは木が軋むようなミシミシという音。
そしてガタガタと椅子の揺れる音。
前者はあまりに強く握った拳が軋む音。
そして後者は全身が怒りに震え、それが椅子に伝わった音。
そして奥歯を砕かんばかりの歯ぎしりの音が聞こえてきて
「感染るものかよ」
獰猛な猛獣のうなり声のようなとても低い声が聞こえてきた。
「血吹き病は感染する病気じゃねぇ!」
空気を震わせる衝撃を伴うような虎の叫び。
「だってのにクソどもは、あいつらをあんなところに!
ゴミを捨てるように! 隔離しやがる!
あんな寂しいところで死ねと言いやがる!」
激情を抑えきれなかったのか王虎はテーブルに拳を叩きつけ天板をへし割る。
「死ぬしかねぇんならせめて暖かいところで死なせてやりてぇのに!
可能性があるから! 感染るかもしれないから!
ゆるされねぇと言う! クソどもが! あいつらの方が許されねぇ!」
その勢いでテーブルを横に蹴り退けると、俺に掴みかからんばかりに近寄ってくるが、間にソニー兄さんが割って入ってくる。そしてゴロッリオが俺を担いで肩に乗せてきた。
静止する暇もないほどの早業だった。
しかし王虎は俺の眼だけを見て
「だがよぉ……。
本当に許されねぇのは……俺だ」
まるで懺悔のするかのように膝を床に落とすと、今までの激昂が嘘のように静かに告げる。
「分かっているのに、あいつらを守れなかった。
力が足りなかった。ファミリーとスラムの奴らを守るために、仕方なかった。そんな自分が許せねぇ」
こいつも俺も。
憎いのは。
許せないのは。
世界なんかじゃなくて、いつだって弱い自分自身。
___王虎は俺に似ている。
『……おや!? 王虎君のようすが……!
こんな展開は予想していない……!』
多分この悪魔は立ち位置的にねずみ男なんじゃないかなと思う。
欲望が先に出て失敗するタイプ。
俺は蚊帳の外だったのに勝手にはしゃいで勝手に落ち込んでいる悪魔を無視し、心情を吐露した王虎をじっと見つめる。
この男の心を見極めるために。
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