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21話 『体重✖️握力✖️スピード=破壊力の話』

 

 どうもこんにちはキアーラ・カサッツァです。

 古来より物理的な力がないなら奸計を巡らせるのが常ですが、卑怯闇討ちは嫌われがちです。

 まぁ勝利すればよかろうなのだとも言いますので好みの問題かなとも思います。


 さて、こんなに俺が評価してもらっていたとは露にも思っていなかったが、嬉しい誤算ではあった。

 そしてある意味で(・・・・)お世話になってきた狼男とのお付き合いも必要性がなくなってきたな。


 こんな瀟洒な場所にまで現れてしまうなら、もはやデメリットの方が大きい。

 丁重にお引き取りいただくことにしよう。


 そんなことを考えながら、俺は来たばかりだと言うのに店の外に戻った。

 燦々と照りつける太陽が眩しい。

 絶好のピクニック日和ってやつだな。


 そんな陽気にふさわしくない男が二人。

 一人は当然お馴染み狼男。

 こいつが店の前で準備をしているチームの子供に絡んでいた。


 まぁ絡むといってもガンつけておうおう言っているだけだが。

 一応周りの目を気にしているのか?バカのくせに。


 だが問題はもう一人。

 一言で表すのならば、デカイ男。

 多分……ゴロッリオより身長がデカイ。

 二言で表すのならば、虎の顔が乗ったデカイ筋肉の塊。


 身体を覆っている筋肉は見ただけで胸焼けしそうなほどにムッキムキだ。

 腹筋は激しい自己主張をしてくるバッキバキのシックスパック。

 太ももなんかは、もしかして俺の横幅より太いのでは?

 首も腕も只々太い。あんな腕では俺なんか撫でられただけでへし折れてしまうだろう。

 そしてそのぶっとい首の上に乗っかっているのは虎の顔だ。


 前世でもライオンと並び肉食獣の最上位に君臨する哺乳類の覇者。

 普通の子供は出会っただけで泣いてしまうのではなかろうか?

 その凶悪な容貌をした虎男がチームの子供を睨んでいる。


 ……ふぅむ?

 あれは子供を睨んでいると言うよりは、どちらかというと狼男の方を睨んでいるような?

 しばらくこちらが虎男を観察していると、その視線に気づいたのか奴は俺の方を向いた。


 ___ッ!


 俺と目があった瞬間、野郎はニヤリと口角を上げた。

 ただでさえ凶悪な面が倍率ドン! さらに倍の極悪スマイルをかましやがる。

 おかげで形容しがたい悪寒が俺の背中を走る。


 こいつはヤバそうだ。

 あれは日常的に暴力の世界に住んでいる奴の面構え。

 オラついたチンピラとは訳が違う。

 恐らくは本物のマフィア。この街を暴力と権力で支配する俺たち新移民の敵。


 奴の纏う雰囲気は前世でも見たことがある。

 日本ではなじみが薄い職業だが、俺が出会ったそいつは傭兵をやっている男だった。

 そいつの纏う雰囲気に似ている。


 俺も本当にそんな奴が日本にいるのかよと思ったが、どうやらファンタジーではなく実際にいるものらしい。

 金で雇われて武力を行使する特殊な存在。

 そんな男と同じ、いやそれ以上の雰囲気を感じる。


 だが、臆するわけにはいかない。

 想像以上に大物が出てきちまったが、狙い通り(・・・・)なのだから。

 あの筋肉は計算していなかったが……。


 俺と虎男がガンを付けあっていると狼男もこちらに気づいた。


「おう? おうおうおうおう!

 いつも募金をしてくれるお嬢ちゃんじゃねぇか!

 こりゃまた上等なおべべを着てるもんだなぁ、おい!」


 そういながら何度もチンピラ特有の一端下を向いてからしやくり上げる、ガンつけムーブをかましながら近づいてくる。


 ……首痛くないのかな?

 しかもさっきから服のことしか言ってない。

 羨ましいのか……?


『バカだから目に入ったことを脊髄反射で口にしているんじゃぁないかな?』


 ……ありうる。


 狼男……名前は何だっけな? が近づいてきたのでソニー兄さんが俺をかばうため前に出ようとするのを手で制する。


「おうおうおうおう! 今日はよぉ!

 ここでガキどもがなにやら金になりそうな事をやるってよぉ!

 タレコミ(・・・・)があったんで来てみたんだがよぉ! こりゃぁ当たりかよおい!」


 タレコミねぇ?

 なんでお前みたいな下っ端に密告するんだよってはなしだ。


「おい! おいおいおいおい!

 お金を稼ぐなら、いつもお前らを守ってやっているこのリロ様によぉ!

 感謝の気持ちってのをよぉ! 示してもらわなきゃいけないなぁおい!」


 そうだ、リロだ。南国に住んでそうな名前だなと思ったんだった。

 そのリロは相変わらず首をガックンガックンとガンつけムーブでアホみたいな事を言ってくる。


 アホだけど一応こいつの腕っ節はこの界隈じゃそこそこ上の方だ。

 それを知っているチームの子供達は割とビビっちまってる。


 ソニー兄さんは何かあった時に助けに入ることができる距離を保ちつつ、密かに子供達とリロの間に入る。


 そういうとこが自然とできるあたりモテそうなんだけどなぁ。

 いや、モテはいるか。好みの年齢の女性にモテないだけで。


「なぁ! なぁなぁなぁなぁ! お嬢ちゃんもそう思うよなぁおい!」


 アホが同意を求めてくる。

 だがまぁ、こいつに守られてるってのは全部が嘘ってわけじゃない。

 こいつはアホだが強い。

 だから他のチンピラが俺たちに手を出してこないという意味では防波堤の意味があった。


 力こそ正義。


 この世界の不文律で言えば、このアホも一応他のチンピラに一目置かれているわけだ。


 このアホは人を殴るのが好きなだけで、それ以上の事はしてこない。

 子供を攫って売り飛ばしたり、殺すまで嬲るなどもしない。

 業腹だがまだマシな方なのだ。


 だから今までは従順な羊を演じてきたが、街の女性たちやポーラさんという後ろ盾ができた今、もはや羊である必要はない。


 ご婦人方にも示さなければならない。

 俺たちが決して羊ではない事を。

 力を示さねばならない!


 だから俺は狼男を睨みつけながら言ってやる。


「アホが。お前に払う金なんぞない。

 アホな犬っころは自分の尻尾を追いかけてそこらでグルグル回ってろ」


 俺の啖呵を聞いた狼男が固まる。

 そして狼男だけではなく周りで固唾を飲んで注目していた観衆や子供達も固まる。

 虎男だけがにやけヅラを深めている。


「どうした? アホな犬っころは人間様の言葉が理解できなかったか? アホだから」


 可憐な幼女であるこの俺から出たとは思えぬ罵倒に周りの時が動き出しざわめき出す。


「あの娘殺されちゃうわよ……」


「なんて無謀な」


「獣人に逆らうなんて」


「弱者は蹲って強者の言われた通りにするべきじゃ」


『自分のことを可憐だとか言うのはどうかと思うよ?』


 周囲のこの上ない説明モブトークに一種のおかしさを覚えながらも、最後の悪魔はスルー。

 周りのざわめきに合わせて狼男がだんだんと震え出す。


「どうした? 寒いのか? 随分震えているが?」


 さらに煽る俺に周りはもはや悲鳴に近い声を上げている。


「おい……! キキ! やりすぎだ! 殺されちまうぞ!」


 焦りながら俺の元に戻ってきて庇おうとするソニー兄さんに俺は不敵な笑みを返す。

 確かに、マジで殴られると俺なんか跡形も無くなっちゃうから生命の危機には違いない。

 だが獣畜生との喧嘩はマウントを取らなければならないと相場は決まっている。

 ちょっと勢いに任せすぎてどちらかというと大ピンチだったとしてもだ。


「なぁ。なぁなぁなぁ?

 俺様をよ? ここまでコケにしてくれたんだからよぉ?

 覚悟はできてるってことだよな? なぁおい」


 俺に煽り倒された狼男。

 いつもは鼓膜を破らんばかりに震わせる胴間声も鳴りを潜めて、その分怒りに大きく体を震わせている。


 弱者は強者の言う通りに……か。


 ___そうだな今回ばかりは賛成だ。


「なんの覚悟だ?

 あぁ、犬っころがブルブル震えてションベン撒き散らすから、汚れちまう覚悟かな?」


 俺はそう言いながらゴロッリオに目配せする。

 それを狼男は怯えと取ったか怒りを爆発させる。


「羊みてぇに毛をむしられて、グチャグチャのミンチにされる覚悟だよボケェ!」


「キキ!!」


 そう奴が言い放ち、ソニー兄さんがこの後の惨劇を思い悲鳴をあげた瞬間には、すでに俺の目の前一杯に奴の拳が広がっていた。


 俺の顔面を奴の拳が生み出した拳圧が叩く。

 それだけで俺は数歩後退させられた。


 ひゅぅう! 当たってないのにどういうパワーしてんだマジで……。

 縮地? 縮地なの? なんでまばたきしてないのにもう目の前にいるの?


「あ?」


 拳の向こうから狼男の間の抜けた声が聞こえる。


 こわっ!

 防いでくれる(・・・・・・)と信じていたけどさぁ!

 まばたきする間もないじゃん!

 この距離で煽るのは控えよう……。


 戦略的撤退を訴える生存本能と、ガクガク震える脚をなだめすかしてなんとかその場にとどまりつつ密かに俺がビビっていると、目の前の拳が段々と上に上がっていく。

 見上げると狼男の腕を掴むゴロッリオの姿。


 ナイスだぞゴロッリオ! 信じていた!

 絶対止めてくれるって!


 おうコラ狼男! ビビらせよってからに! おう!

 ここまでビビりながらも、ずっと狼男を睨みつけていた俺を褒めてあげたい!


「ぐぅ! てめぇこのデクノボウがぁ!

 放しやがれぇ! 邪魔すんなやぁ!」


 そう言いながら狼男は腕を振り払おうとするが、逆にミシミシと軋むような音が奴の腕から響いてくる。


「がぁああ! この殴られるだけのサンドバッグがぁ! このクソゴリラぁ!」


 狼男もこと暴力に関しはさるもので、折れそうな腕を無視してゴロッリオに逆の腕で拳を叩きつける。


 タイヤを叩くような重い音をさせながらも、ゴロッリオは眉ひとつ動かさない。

 この後に及んで無口なゴロッリオさんに代わりキキさんが物申す!


「俺たちが羊だといつから錯覚していた?」


 ひゃっはー! すかさず俺の強者ムーブ!

 そして俺はゴロッリオの太ももを軽く叩く。

 ……本当は背中を叩きたいけど身長が足りない。


 それを合図にゴロッリオは狼男を掴んだまま、空いている逆の右腕を大きく後ろに引く。

 後ろを振り返るぐらいに上体を捻りその右腕が頂点へと到達すると、狼男が情けない声を上げた。


「おいぃ。おいおいおいぃ。

 ちょっとまとうや。な? おい?」


 毛に覆われていて確認できないが、声が震えている狼男はさぞかし顔が青ざめていることだろう。


「俺たちは羊じゃねぇよ」


 声をかける俺に狼男はすがるような目を向けてくる。


 俺はニンマリと笑ってやると


「俺たちはゴリラだ!」


 その瞬間。

 空気を叩く音と肉を叩く音が同時に聞こえたかとお思うと、通りの向こうで派手な破砕音。


 気づいた時にはゴロッリオの腕には狼男はおらず。

 派手にぶっ飛んで通りの向こうに旅立っていった。


『あれだけ大口叩いといて、人任せなんだねぇ?

 あとゴリラって。カッコ良くはないよねぇ?』


 馬鹿が。

 ゴリラかっこいいだろが。

 森の紳士ぞ?


 俺は目が飛び出しそうになっている周りの観衆を満足げに眺めながらひとつ頷くのだった。


お読みいただき誠にありがとうございます!


もしちょっとでも面白い! 続きがきになる!と言う方がおられましたらポイント評価とブックマークもよろしくお願いいたします!


感想なども随時受け付けておりますので、よろしければ、そちらもお願いいたします!


作者にとってとてつもない励みになります!

引き続き頑張っていきます!

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