クリスマスイブSS
「24日にフレアさんを貸して欲しいんですけど」
俺は目の前でカウチソファの膝掛けにしだれかかっている、傾国傾城というに相応しい美女にお願いをする。
その美女は自分の絹の様に滑らかな金髪の一房を弄びながら、首を傾げると不思議そうに聞いてくる。
「そっちのお仕事かしら?」
そっちのお仕事とはマフィアとしての仕事のことだろうが、俺は被りを振る。
「そっちの仕事ではないです」
そう答えるとマダムは一つ頷く。
「そうよね。あなたは何故かその辺りから休みに入るものね」
隠してもいないが、当然のように俺の情報を持っているマダムに、だよなぁ。という感想を抱きながら俺は答える。
「我が家は25日に家族と過ごす掟があるのです」
俺が断言すると、マダムは可笑しそうにしながら言う。
「けど、その掟はあなたが作ったんでしょう?」
当然の様に看破してくるが、俺は胸を張る。
「誰が作ろうとも掟は掟です」
俺の断固たる回答にマダムは、ふふっと笑うと俺に問いかける。
「その掟では24日はどんな意味があるのかしら?」
面白半分、興味半分という感じで楽しそうにマダムが聞いてくる。
「家族以外の大切な人と過ごす日です」
俺がそう答えると、マダムは人差し指を頬に当て、また小首をかしげる。
しかし他の人がやれば、あざとく見えるがこの人がやると様になるなぁ。
俺が見惚れていると、マダムが口を開く。
「それってアフターってこと?」
「アフターじゃないです。デートです」
何やら商売っけを孕む単語が出てきたので、即座に訂正する。
しかしマダムは困ったように眉をひそめると、諭す様に言ってくる。
「パピヨンをどこだと思ってるの。女の子が体でお金を稼ぐところよ? デートだってお仕事よ」
珍しくマダムに諭された俺は面食らうが、口を尖らせて弱々しく反論する。
「今までもデートしたことありますけど……」
「それはお散歩程度の事でしょ? お友達ならそれくらいなんでもないけれど、今回は違うのでしょう?」
断言するように言ってくるマダムに、俺は唸る。
マダムの後ろからも唸る声が聞こえる。
確かに元日本人である俺にとってクリスマスイブは、特別なイベントと言える。
前世ではついぞクリスマスイブを楽しむことは出来なかったので、今世では体験しても良いんじゃないかと思い立ったのだ。
その思いを的確にマダムは見抜いてきたのだろう。
いつも微笑をたたえて、柔和な雰囲気を醸し出している彼女だが、そこはパピヨンの総支配人。生馬の目を抜く側面もまた持ち合わせているのだ。
「わかりました。お支払いします」
お仕事としてと言うのは少し引っかかるが、フレアさんとは今までの関係値がある。
それでも楽しむことはできるだろうと思い、それならばと俺は答える。
しかしまたマダムは困った様な顔を見せると口を開く。
「フレアは娼館でのお仕事はとっていないから、特別料金で高く付いちゃうけど、大丈夫かしら?」
仕事とってないならデートでお金取るのは、おかしいやんか! と思いながらも俺は毅然と答える。
「大丈夫です。お支払いします」
俺の回答にマダムは驚いた顔をする。
「……。あなたにはあまり蓄えがないんじゃない? まさか、お仕事の方のお金を使うつもり? あんなに公私混同はしないって頑なだったのに」
マダムのいう通りだ。俺はマフィアとして稼いだ金を私的流用したことはない。
それは、その金を使うことで家族に危険が及ばない様にとの思いと、厳格なる態度を見せることで、構成員の模範となり、また突然ボスの座に王虎から取って変わった小娘として、舐められない様にする仕掛けの一つだ。
そんな俺がそこまですると言っているのだ。マダムとて驚くだろう。
しかし、今でも俺のその考えは変わらない。家族のためにも強く思う。
そして、改めて俺が決意を固めたことで、俺が彼女の思惑に気づいたことに、彼女も気づいた。
「そこまで覚悟を決めているなんて、プロポーズでもするのかしら?」
マダムが今にも笑い出しそうに口角を上げながら言う。
そしてマダムの後ろからまた唸り声が聞こえる。
「俺、まだ幼女なんでプロポーズはちょっと……。いって婚約ですかね?」
俺もまた肩の力を抜きながら軽口でかえす。
そしてマダムはコホンと咳払いを一つして真面目な顔を作って言う。
「よろしい。合格です。見事な男ぶりでした。キキちゃんにならフレアを任せられます」
「女です」
ここ大事。実際に心は男だが、女ということにしておかないと、色々問題が出る。
パピヨンに来れなくなるし。フレアさんの好みから外れる。まぁ、その他にも理由はあるが割愛。
「あと、任されました。で? なんで試す様なことを?」
最初からおかしかったのだ。自分の思い通りに会話を誘導できる彼女が、問い詰めるように会話を重ねること自体があり得ない。一言二言発言して、あとは相手に話させる。それが彼女のやり方だ。
だから途中で試されていると気づけた。
「純粋にどれくらいの想いでお願いしてるのかが知りたかったの」
ブスッとした表情をしている自覚はあるが、俺の顔を面白そうに見ながらマダムがいう。
「マダムなら見ただけでわかるでしょう」
そしてそれを見て益々ブスッとした顔で俺が言う。
マダムは益々面白そうだ。
「キキちゃん、うちにいる時、たまに暴走してる事があるから、どこまで本気なのかわからない時があるのよ」
それはおっぱいを見ている時ですか?
もしくはお尻を見ている時ですか?
暴走はしていません。真理の探究をしているのです。
ん? って事は、おっぱい目当てでフレアさんとデートを要望してると思われてたって事?
「流石にそこまで外道じゃないですよ。俺だって」
もう、ブスッとしすぎて顔がシワクチャになっちゃうよ。
「わかってるわ。半分冗談よ」
お約束な回答あざす。
「あと正直、年末年始は忙しくなるし、警護もしてるフレアがいなくなると困っちゃうの。だから軽いお誘いなら断ろうと思って。何よりどんな反応があるのかと思って」
あ〜。そうか。
確かに普段はポンコツなフレアさんだが、一度本気を出せば王虎とやりあえる、パピヨンいちの武闘派だった。
女性しかいないパピヨンで、フレアさんが繁忙期に抜けるのはキツイか。
これは軽率だったなぁ。
頭を掻きながら自省していると、マダムが頬を膨らませ言ってくる。
「もう! 合格って言ったじゃない。反省じゃなくて、ここは喜ぶところよ?」
喜ぶところって言われても、迷惑かけるわけにはなぁ。
「警備はどうするんです?」
むしろ俺が困ったように切り出す。
それにマダムは腰に手を当てながらこたえる。
「1日くらいなんとかなるわ。当日はトントンに警備をお願いします」
「トントンさん?!」
トントンさんてあのトントンさんだよな?
あの温和で柔和で朗らかなトントンさん?!
豊満我儘ぽっちゃりボデェのトントンさん?!!
俺の開いた口が塞がらないでいると、マダムが誇らしげに言う。
「トントンは強いのよ? 手のひらくらいの石を粉々に砕けるんだから」
花山薫かな?
ドラゴンボールでも誰かやってなかったっけ?
「粗相をした何人ものお客様のナニかが粉々になったわね」
ヒエッ
ヒュンってなった。
付いてないけど、ヒュンってなった。
「トントンさんを見る目が変わりそうです」
俺が怯えながら言うと、マダムは古拙の微笑みでゆっくりと言い聞かせるように言う。
「大丈夫よ? 粗相をしなければね? 粗相を」
ヒエッ
「そ、そろそろお暇しようかな?」
俺が冷や汗を流しながら席を立つと、今度は普通の微笑をたたえながらマダムも席を立つ。
「じゃあ、24日ね? フレアを空けておくわ。もちろん無料でね?」
ウィンクをしながら揶揄うように言ってくるマダム。そんな仕草も様になっている。
そんなマダムの後ろに立っている人物に向かって俺は声をかける。
「じゃあ、フレアさん。24日の夕方くらいに迎えにくるので、おめかしして待っててくださいね?」
顔を真っ赤にしながら蚊の鳴くような声で、フレアさんが了承したのを聞いて、俺は執務室をでる。
うん。マダムの秘書兼、護衛の彼女は通常時はずっとマダムの側に控えてるんだ。
だから、全部本人の前でやり取りするっていうね。
ずっと一緒にいるから仕方ないね?
俺は鼻歌を口ずさみながらパピヨンを後にする。
……。何か忘れているような。
あ、そうだ! 喫緊の問題があったんだ!
___なぁなぁ、ルナ
頭の上に浮いている半透明の悪魔に心の中で声をかける。
『なんだい?』
今日は茶々を入れてこなかったので静かだったが、ちゃんと今日も浮いている。
『それじゃあ、なんだかボクが集団に馴染めていないみたいじゃないかい?』
馴染めていないと言う意味では、あっているのでは?
『ふむ。そんな事より問題があったんだろう?』
そうだ!問題だ!
なぁ、ルナよ。
『なんだい?』
___どこからが粗相だと思う?
『……。深刻そうな顔をして何を聞いてくるのかと思えば、そんな事かい?』
ばか、お前ばか!
大事でしょうが!
俺のゴールデンボールの一大事でしょうが!
『君にはついていないよ? 他でもないボクが保証するよ?』
俺はいつでも心にイチモツのゴールデンボールを抱いているんだ!
『一抹の間違いじゃないかな?』
どうしよう?! おっぱい見たらダメかな?!
お尻ならセーフかな?!
いや、やっぱり、おっぱい見れないのは無理だわ……。
おっぱい見れないのと同じくらい無理だわ……。
『というか、君もう粗相しているよね?』
……。してたわ。
『当然彼女には伝わっているだろうし、今更なんじゃないかな?』
そうね。今更だったわ。
考えて見たら俺にはゴールデンボールないし、砕かれても頭くらいだべ。
『さっきボクが言ったよね? あと頭を砕かれたら死んじゃうよね?』
ちなみにそれで死んでも、俺本望だからお前との賭けは俺の勝ちになるから。
『理不尽じゃないかい?!』
その理不尽なゲーム吹っ掛けてきたのはお前ですよ〜。
そんなことを思いつつ。
当日用の服の用意と、レストランの個室の予約と、女子会をするための場所の予約をしに行くのだった。
ちなみに余談ではあるが、当日は女友達の家に泊まりに行くと家族に伝えたところ、女友達がいたんだ! と驚かれたのは些末なことである。
スーパー・ハイパー・ウルトラ・エキセントリック・ゴッド・エクストラ・バージンオイル・お久しぶりです。
死んだと思った?
残念! 生きてます!
3年? 更新せずにすいません。
ちょっとばっかし鬱かましてまして。
しかも原因がブラック企業なんですよ!
転生せざるを得ない。
多分、またしばらくは更新止まると思います。
理由は自分でも内容を忘れたから!
あと純粋に文章が書けなくなってます。
リハビリがてら新作でも書こうかなぁと思ってますので、その時はよろしくお願いします。




