12話『天使が誕生した話』
どうもこんにちは、キアーラ・カサッツァです。
母親は自分の体の中で人間を育てていく訳で、控えめに言ってその所業は神の如くだと思うのです。
と言うことはですよ?神から生まれたのなら、その子は天使だと思うのですよ。
いやーゴブリンは強敵でしたね。
あれからは何事もなく町に戻ってきまして、今はお母さんが出産する病院に来ております。
貧乏な我が家がこのような施設を使えることに疑問を覚えますが、その疑問を解消するよりも足のしびれを解消したくおもてとります。
はい。ただ今私正座をさせられております。
正座って日本の文化じゃないですか?
この世界は土足文化なので正座が存在するのはおかしいと思うんです。
ましてやこんな幼気な幼女に強制するというのはなんともはや。
自分としては和の文化を持ってして傾聴姿勢を保ちつつ、禅の心を持って自分と向き合うことができるのでいいと思いますよ?
だけど床が硬いのはいただけない。
禅の心は畳とセットであるから育まれるのであって、イグサ魂の欠ける硬質な床は正座に向いてないんですよ。ですから早急に現状の改善を求めたいわけでありまして非常に遺憾であります。
「キキ。何か不満があるなら言ってみなさい」
俺の表情に何かを感じ取ったのか、ドルネオ父さんが珍しく大声を張り上げずに俺に聞いてくる。
いえ。不満というほどのものはございませんが、弁解の余地はあると思うのですよ。
そりゃぁ、ちょっとみんなが目を離したすきに黙って出かけたのは悪いかなと思わないこともないですよ?
ましてや行き先が森ともなると、その罪はひとしお。
だが聞いて欲しい。仕方がなかったのだ。
今日の朝方お母さんに陣痛が始まった。
もうすぐ妹が生まれる。
前世でも末っ子であった俺にはじめての妹。
頼れるお兄さんとして気合を入れねばならぬ。
出産といえば、場合によって母子ともに生命の危機が迫るほどの一大事と聞く。
近所のお婆さんが言っていた。
だというのに、四人目の子供ともなれば慣れたものなのか、お父さんは眠そうにしている。ソニー兄さんとフレド兄さんはあたふたと慌てふためくだけで役に立たず、使い物にならない。
この危機にキキちゃんが立ち向かわずして誰が立ち向かうというのか?!
昔の出産は不衛生な状態で行われ、感染症などのリスクから生命の危機が発生すると聞いたことがある。近所のお婆さんに。
医学知識のない俺に出来ることは少ない。
仁義あふれる医療の先生のようにペニシリンを作ることもできなければ、酒を蒸留して消毒薬になるアルコールを精製することもできない。
ではどうするのか?
科学が無理ならファンタジーの力を借りればいいじゃない。
俺は消毒薬になる薬草が存在するとの情報をキャッチ。
ファンタジック薬草は細菌の種類を問わずに効果を発揮し、人体に悪影響を及ぼさないという画期的な効果を持つらしいのだ。
ドラゴンなクエストの勇者が使用する毒消し草はこれに違いない。
しかし購入するとなるとそれなりのお値段がかかるとのこと。
我が家の家計では少しの出費も負担になりうる。
ましてやこれから妹が生まれるのだ。お金はいくらあっても足りない。
だが我が方は森の浅瀬にくだんの薬草が自生しているという情報を突き止めたのだ。
『大層なことのように言っているけど、それも近所のお婆さんに昔話で聞いた情報だよね?』
突き止めたのだ!
ならば行くしかないでしょ? 森に!
役に立たぬ男どもの代わりに立ち上がった俺を誰が責められるというのか?
こりゃぁ、俺は悪くないと断言できますよ!
その旨ドルネオ父さんにお伝えするしかない!
「ということで、お母さんの生命の危機に立ち上がった私は悪くないと思う」
「いや、なにがということでなのかはわからんが、母さんの生命の危機とはどういうことだ?」
ふむぅ。無知蒙昧なる我が父よ。出産の危険性を認識していないとは嘆かわしい。
腕を組みながら訝しげな表情をする父に、今ここにある危機を伝える。
「出産は母子ともに危険が伴う。少しでもリスクを低減させなくては命の危険がある」
俺の真剣な表情に父の片眉が跳ねる。
「低減とか難しい言葉を知っているな……。しかし出産に危険が伴う? 昔ならともかく今は色々魔術と医療が確立されていて、殆ど危険はないんだぞ?」
……なんですと?
「でも、近所のお婆さんが……」
「あぁ、ヴォーチェ婆さんだな? あの婆さんは昔話が大好きだからな。昔の事を大袈裟にお前に教えたんだろう」
父さんはあの婆さんは全くとため息をつく。
「じゃあお母さんは?」
「心配することはない。今回も産婆を務めてくれる方はベテラン中のベテランでな。この国に来る前から何百人もの子供をとりあげてきた実績があるんだ。こと出産のことにかけては右に出るものはいないぞ?」
ドルネオ父さんが言うには、この世界では産婆のみが使える魔術が存在するということで、消毒・止血はもちろんのこと、なんと逆子の状態をリスクなく正常に戻すこともできるとのこと。
たとえ帝王切開になったとしても麻酔は完璧、傷も魔術で跡形もなく回復するらしい。
ちなみに妹だって生まれる前にわかったのもこの魔術によるものだって。
なんだそれ。奇跡か?
俺の能力と比べると生産性がダンチだな……。
『使い方次第だと思うけどねぇ?』
一応制限があって、なぜか出産の時にか使えないんだって。
ただ怪我をしている人だと回復できないらしい。
不思議に思うが限定条件でしか発動できない魔術は結構あるらしいし、そんなものなのかな?
ただ、その分強力な効果があるらしい。
いやー。しっかし知らなかったんですけど、陣痛来てもすぐに子供って生まれてこないんですねぇ。まだ妹は生まれてこない。
こりゃぁ、ドルネオ父さんが眠そうにしてても仕方ないと言えるな。
うん。仕方ない。
『無知蒙昧な君は何にも知らないねぇ?』
無視を決め込まれた仕返しに、ここぞとばかりにルナが攻めてくる。
何にも知らないわけじゃない。知らないことだけ。
あと、無知蒙昧とはなんだ。そんなこと言われたら傷つくだろうが。
『さっき君もお父さんに言ったじゃないか』
残念でしたー! 思っただけで言ってないからセーフですぅ!
『うわぁ』
ダメダメ悪魔がドン引きしているように見えるが、正座による疲労が見せたうたかたの夢。
気にしてはならぬ。
「お前が森に行った理由はわかった。母さんの為に何かしようと思ったことは良いことだ。……しかし森は本当に危険な場所なんだ。母さんも自分の為にキキに何かあったら悲しむ。わかるな?」
父さんがお説教の厳しい表情から、泣きそうな表情に変わる。
……俺に何かあったら悲しむか。
そんなことがあるのだろうか?
理屈では知っている。
子供に何かあったら親は悲しむ。
___だが、それは俺にも当てはまるのか?
前世の両親なら俺に何かあっても、なんの痛痒を感じないだろう。
俺が死んだことにもなんの感情も抱いていないだろう。
仕方ないことだ。実際に俺は無能な役立たずだったのだから。
俺にそれほどの価値はない。
だから俺が危険だろうと森にいって薬草を取りに行くのは何も悪いことじゃない。
微々たるリスクでお母さんが安全になるのなら、リスクをとるのは当然のことだ。
俺がその事をドルネオ父さんに告げようとすると、不意に抱きしめられた。
「もちろん、父さんだって悲しい。ソニーやフレドだって悲しむ。
キキにもしものことがあったら……」
いつもは馬鹿みたいに大きな声がか細く震えている。
体も震えている。
___俺が死んでしまったらと、そう考えているのだろうか?
心配……してくれているのか?
こんな俺を本気で?
「頼むから、もうこんなことはしないでくれ」
父さんはしゃがみこみ俺と視線を合わせながら懇願する様に言う。
俺はその目を見た瞬間考えるよりも先に口を開いていた。
「わかった。ごめんなさい」
自然と言葉が口からこぼれてきた。
俺は悪くないはずなのに。当然のことをしただけなのに。
お父さんの震えと同じように、俺の胸の中で震える感情はなんだろうか?
昔に感じたことがあるような気がするこの気持ちは?
俺が自分の気持ちを持て余していると、別室からお母さんのうめき声が聞こえてきた。
「うぅううううあぁあああ!!」
「ほら! がんばんな!」
いつもは優しいお母さんの声が苦痛にあえいでいる。
ど、どうしよう?! どうすればいいのか?!
助けなくては!!
しかし、お父さんに抱きしめられて身動きが取れない!!
「お父さん離して! お母さんの所に行く!」
「今行っても邪魔になるだけだ」
あんなに苦しそうに呻いているのだから何かしてあげないと!
俺は母さんの元に向かおうとするが、微笑ましいものを見るかの様な表情の父さんに止められる。
「うあぁああ! 痛いい!」
あぁ! またお母さんの叫び声が!
「痛くて当たり前だよ! ほら! まだいきむんじゃないよ! 息を吐きな!」
「むりぃ!あぁぁぁ!」
くそ! あのババァ! お母さんになんてことを言うんだ!
ぶっ飛ばしてやる!
俺が別室に飛び込もうとするが、お父さんがそうはさせじと俺を持ち上げる。
「大丈夫だからここで待つんだ」
なんて薄情なんだ!!
大丈夫なわけがない! あんなに苦しんでるんだぞ!
呆れ顔になった父さんに、俺は驚きを隠せない。
「痛いい!」
「じゃあ産むのやめるかい?!」
「やだぁ! うむぅ!」
「じゃあ頑張るんだよ!」
もはや我慢の限界! お父さんを殴り倒そうと思ったその時。
「おぎゃあ!! おぎゃああ!! おぎゃあああ!」
___世界が震えたかと思った。
実際にはそんなことはあり得ないが、その泣き声が聞こえてきたときに確かに世界が変わったんだ。
そう感じた。
「産まれたか?!」
お父さんが俺を離すと別室のドアに駆け寄る。
……俺を押さえつけていたくせに。
自分が先に行ってしまうとは。
俺も急いであとを追うと、ドアが開く。
中から産婆の婆さんの助手をしていた女の人が出てきた。
「おめでとうございます。無事に産まれましたよ」
「そうか!!! 産まれたか!!!!」
お父さんがいつも通りの大声をあげながら、部屋に突撃しようとするのを助手の人が押しとどめながら魔術を使っている。消毒の魔術かな? 俺もかけてもらわなくては!
お父さんが室内に消えたあと俺も消毒してもらって中に入る。
お母さんが布に包まれた赤ん坊と思われるものを抱っこしている。
「ほらキキ。こっちにきてお姉ちゃんの顔を見せてあげて?」
俺は恐る恐る近づいて妹の顔を見る。
心臓が大きく跳ねた。周りにドンっという音が響いたんじゃないかと思うほど。
___あぁ。確かに世界は変わったんだ。
___どんなに差別があろうとも。どんなに貧富の差があろうとも。クソッタレたこの世界は今素晴らしいものに変わった。
___このかけがえのない妹がいる素晴らしい世界に変わったんだ。
さっき俺の胸の中で震えていた感情がなんなのかわかった。
家族。家族と離れがたいという想い。
守らなくては。
俺はこの人生でこの妹を守りぬかなくてはと。
そう思った。
俺が決意を新たに周りを見回すと家族の向こう側、離れたところにルナが見えた。
いつものニヤけた表情ではなく、感情が抜け落ちた様な顔で見ていたルナの体がいつもよりハッキリと見えるようになっているのきがしたが、いまはどうでも良いことだなと思った。
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