11話 『森を探索する話』
どうもこんにちは。
キアラ・カサッツァです。
前世ではよく、自然と触れ合うことで日々の喧騒を忘れて、癒されてみませんか?みたいな事を言っていた気がします。
しかし私からしますと、それは自然を舐めすぎだと思うのです。
虫はいますし、ただ歩くだけでも疲労しますし、迷うと遭難します。
雨が降っている山奥で放置されると死んだりもします。
それはどこの世界でも同じだと思うのです。
___昔の人間が住む場所は今よりもっともっと狭かったそうだ。
俺は先日ドルネオ父さんが寝る前に話してくれた語りきかせを思い出していた。
昔はこの世界の大半が森で覆われていて、その森の中にある木の生えない土地があってひとはそこに住んでいたらしい。
え?なんで木が生えないかって?
それは父さんも知らない。
……ため息をつくんじゃない。
とにかく、理由はわからないが森に住む魔物が何故か近づかない場所あったそうだ。
そんな場所が森には点々とあって、そのほんの小さな土地にひっそりと村を作って俺たちの先祖は住んでいたらしい。
だけど、いくら村に魔物が近づかないと言っても、食料や水を手に入れるために森に入らなければ生きていけない。
だから人類の歴史は森との戦いの歴史だった。
いや戦いというのは正しくないかもしれない。
人類は一方的に狩られる側だったのだから。
森に住む魔物は人間を見つけると必ず襲いかかってくる。
魔物は物を食べずとも生きていけるとされている。だが魔物は人間を襲い殺し喰らう。
ただ殺し命を奪うために喰らう。
人間は動物を狩りに出ては魔物に狩られ命を落とし、川に水を汲みに行っては川に引きずりこまれて命を落とす。果物を取りに行って命を落とし、薪を取りに行って命を落とす。
沢山の犠牲があったそうだ。
それでも人類が生き残れたのはその繁殖力ゆえにだった。
犠牲があればその分だけ子を産み育んだから生き残れたんだ。
___お前たちも育ててくれる母さんに感謝しなきゃダメだぞ? ん?女性が子育てしている間、男は何をしていたかって?
男衆は森に入りその恵みを手に入れるため命をかけていた。
その命がけの森での仕事は全てが男衆のものだった。
だから自然と先に男衆が死んでいく、そして村には女子供衆が残される。
男衆が減って滅びそうな村があれば、他の村の男衆がその村に出向き残された女衆と子をなす。
もちろん村から村への移動も命がけだ。だから出向く者は生き残れる可能性の高い強き者が選ばれる。
その強き者と女衆の間にできた子もまた強き者だった。
そうやって繰り返していくうちに生き残る者の殆どが強き者の一族となった。
だがいくら強き者と言っても魔物と比べるべくもない。
依然人間は狩られる立場だった。増えては狩られ、狩られては増えを繰り返す。その立場は変わらなかった。
そんな時だった。一人の強き者が突然その手から火を放った。
___魔術
それは突然変異だったのか、はたまた人を哀れに思った神の慈悲だったのか。
森と戦うなかで突如手に入れた異能の力。
どちらにしろ、そこから魔術を発現する者が増えていき状況は一変した。
狩られるものから狩るものへ。
人間はやっと森への対抗手段を手に入れたんだ。
木を切り倒し立派な家を建てられるようになった。
土を掘り返し田畑を作ることができるようになった。
山を削り鉱物を手に入れ優れた道具を作れるようになった。
そうやって手に入れた物を使って人間は魔物を狩り、着実と版図を広げていったんだ。
広がっていく生存区域。
そこに住んでいた人間を取り込んでいき、村は街へと成長し、そして街と街が合わさり国になっていった。
当然国の王は強き者の一族から選ばれた。
そこからの人類は栄華を極めた。
強き者の王を頂点に文明を進めていき、長い長い昼の時間が訪れた。
だがやはりというべきか、その国にも夜の時間がやってきた。
最初に異変に気付いたのは農民だった。
農民がいつものように畑仕事に向かったある日の朝。農民は違和感を覚えた。
どうにも様子がおかしい。そう思って農民は辺りを見回すがその原因がわからない。
しきりに首を傾げたが、結局その日は不思議に思いつつもいつものように畑仕事をした。
そして次の日。当然農民は仕事をするために畑に向かったが、やはり違和感を覚える。
そんなことが数日続いた朝。
農民はとうとう違和感の正体に気付いた。
___森が自分を見ている。
人間の手で遠く追いやられたはずの森が畑のすぐそばまで来ていたんだ。
その木々の隙間から魔物がこちらを狙っていたんだ。
農民は慌てて逃げ出しこの事を皆に知らせた。
そんな馬鹿なと、最初はみんな信じなかったが、しばらく経てば信じざるを得なくなった。
何故そうなったのか原因はわからなかったが、人間に切り倒され焼かれてきた森が復讐を開始したと言われているな。
それともちろん一緒に魔物達も復讐を開始した。
恐るべきスピードで国の領土を侵食し始めた森に、強き者の一族は総力を持って対抗した。
鉄のオノを使い木を切り、魔物を駆逐せんと鋼の剣で切り捨てた。
だがいくら切っても切っても切ってもその侵食を止めることはできなかった。
襲ってくる魔物が桁違いに強くなっていたんだ。
人間に追いやられた森はその腹の中で虎視眈々と魔物を育てていたんだ。
兵はもちろん民衆も討伐に加わった。
壮絶な戦いだったそうだ。
俺らの先祖は今よりも魔術の扱いに長け、その身体能力もまた優れていたと言う。
たとえ兵士ではなくとも魔物と戦うに充分な力を持っていたらしい。
だがそんな彼らでも襲いくる魔物には歯が立たなかった。
昔と同じようにどんどん子をなしていったが、産まれくる数より死にゆく数の方が上回っていった。
国はどんどん疲弊していった。
もはや後のない強き者の国王は、このまま魔物に食い殺されるくらいならと最後の手段に出ることにした。
森に国の総力を持って火を放ったんだ。
魔術を使える者は火の魔術で、それ以外のものは油や焼けた鉄を使って。
火は瞬く間に燃え広がり森を押し戻し、それとともに魔物も後退していった。
国の民は我ら人類の勝利だと大いに湧いたそうだ。
だが、何日も何日も燃え続けるた炎が弱まり燻る程度になった頃にそれは起こった。
もはや遠くに見ることもできないほど離れた森の中心から、天まで届く巨大な火柱が突如として屹立し轟音が巻き上がった。
この世の終わりかとそれを見ていた民の前でそいつは現れた。
火柱の中から悠然と姿を見せるそいつは一見するとトカゲのようだった。
ただトカゲと決定的に違っていたのは、はるか遠くにあるはずなのにはっきりと姿形が見て取れるその巨大さと、背中に生えたコウモリのような羽を羽ばたかせて空を飛んでいると言うことだった。
そいつは後にレッドドラゴンと名付けられた化け物の中の化け物だった。
徐々に国へと向かってくる化け物に民は我先に逃げ出した。
強き者の一族が、戦うことを誉とする者達が一瞬の躊躇もなく背を向けて逃げ出したのだ。
その中には強き者の王も含まれていたと言う。
そうして数刻の後、レッドドラゴンの影が強き者の王の城に覆いかぶさった後。
レッドドラゴンの顎門から放たれた地獄の業火により滅びを迎えたのだった。
第一部完
そんな歴史を経て人類はこのことを教訓に森とうまく付き合う方向にシフトしたそうだ。
父さんが何を思って寝る前の子供にこの話を聞かせたのか分からん。
ソニー兄さんは涙目でフレド兄さんは泣いていた。そしてトイレに行けなくなり二人とも漏らしていた。
父さんに悪気はなかったんだろうが、兄さん二人にトラウマを植え付ける結果に終わっただけだったな。まぁ、森と魔物の恐ろしさを伝えようとしたんだろうと思うがね。
我々は狭すぎる世界で色々なコミュニティを構築して生きている。
魔物や森の脅威を潜在的に感じながらね。
まったく……。魔物は出るし、世界は狭いし。マジヘビーな世界だよ。
あ、ちなみに魔物は森からしばらく離れると死んじゃう不思議仕様なのでレッドドラゴンが暴れても国が滅ぶ程度で人類滅亡には至らなかったんだって。
『僕もその場にいたわけだから、説明してくれなくてもいいんだよ?
それにこの世界のことはよく知っているしね?』
ルナが珍しく困り顔で俺に言ってくる。
知ってる話を永遠と聞かされると困っちゃうよね。わかりみが深い。
まぁ、なんで俺が父さんの昔話を思い出したかというとだ。
魔物が、そこに在わす。
「グギャギャギャ!」
毎度おなじみ、ゴブリンさんだ!
身長は5歳の俺と同じぐらいに小柄で1m前後。カーキー色の肌。
尖った耳に鷲鼻。血走って瞳孔の開きまくった目。
自然から発生したくせに、なぜか装備しているナイフと赤い帽子。
あとは裸。事案です。
なんでここだけファンタジーかなぁ?
出てくるにしても時代背景的にヴァンパイアとかフランケンシュタインの怪物でしょ?
いや出てこられても勝てないけども。
しっかしなぁ。
魔物はまずいんだよなぁ……。
こいつらは明確な人類の敵とされている。
だからまずい。そこがまずい。敵なのがまずい。
殺意も悪意もマキシマム。
つまり、俺にとっても敵対者。
ルナは敵対者からの悪意ある攻撃から俺を守れない。守らない。
ルール違反だからね。
こんな生き物に襲われたら、5歳児の俺なんか瞬コロですよ。瞬コロ。
まさに俺の生命の危機!
大ピンチの俺はキキ!
逃げ出したい今!
かけたくない手間!
現実逃避するには十分な理由!
求めるものは当分の自由!
『君って現実逃避が多いよね?』
うるせー!
脊髄反射で動かないようにするための賢者のムーブなんだよ!
考えてから動く賢い選択!現実逃避なんかしたこともないんだよ!
『さっき現実逃避するには十分な理由とかいっていったよね? 情緒不安定なの?』
生命の危機に瀕していれば誰でも情緒不安定になるの!!
大体、魔物は自然から発生したのだから、災害に分別してくれればいいのに。
ケチくさい!
『いや、街にいれば魔物に出会うことはないんだから、自業自得だろう?
そこまで面倒みたらイジーモードにすぎると思わないかい?』
人生はいつでもハードモードだぜ?
それにこんな森の浅瀬で魔物に会うなんて思わないじゃない?!
『ギャア! ギャア!』
おっと。全く怯えない俺を警戒していたゴブ夫さんが焦れてしまったご様子。
今にも襲いかかってきそうな現状。
まぁビックリしすぎて固まってたけど、たった一つだけ策はある!
答えはいつだって、先人の築き上げてきた歴史の中だ!
『……その策とは?』
いいか、周りをよく見てみろ。
ここは森のごくごく浅瀬だ。
そして奴は一匹だけ。そこがつけめだ。
『つまり?』
逃げるんだよォ!
「グギャギャ!!(動くな!!)」
「ギャッ?!」
俺から発せられた突然の制止の声に驚いたゴブリンは混乱し足を止める。
それと同時に俺は森の外に向かって猛ダッシュ!
素晴らしいスタート!
だが、ゴブ夫もすぐに我に返り追いかけてくる。
ただ逃げただけでは身体能力に劣る俺はすぐ追いつかれてしまう。
でもこいつらアホの極みなんだよね。
「グギャ! グギャギャ! (危ない! 伏せろ!)」
「ギャウッ?!」
俺が振り返ってゴブ夫に向かってそう叫ぶと、ゴブ夫は素直に伏せてくれる。
基本魔物に欺瞞工作とかないからそのまま受け取っちゃうんだ。
アホ可愛いね。いや可愛くないけど。
何が起きているのか分からないゴブ夫は、頭を抱えながら周りをキョロキョロしている。
その間に俺はスタコラサッサだぜー!
『……一応翻訳の魔術はチートとして君に上げたのではないんだけどね?』
森を抜けた先で呼吸を荒くしている俺にルナが話しかけてくる。
ゴブリンは弱い魔物だから森から出たら数秒で死ぬのでもう追ってこない。
『おまけの能力でこういう切り抜け方をされると、思うところがあるね?』
不服そうな顔をするルナに俺は得意顔で言ってやった。
「それはラノベの読み込みが足りないな。鑑定、翻訳、アイテムボックスはファンタジー世界の3大チートだぜ?」
周りに人がいないので声に出して答える。
翻訳魔術はこの世界の言葉を全部翻訳すると分かった。
動物は難しいがコミュニティを形成しているタイプの人型魔物だと行けるらしい。
この前どこまで翻訳できるのかルナに聞いたら教えてくれた。
どこまでから人型かとか、その辺のルールは曖昧だけど。
ルナも興味がないから知らないみたい。
普通の人間に魔物の言葉は話せない。研究されたこともあるらしいけど、魔物の発する魔力の波みたいなものも関係しているらしく、発音だけでは意味がわからないらしい。
なので突然人間がゴブリン語?を話したらゴブ夫でなくともびっくりしちゃうわけだ。
「いやぁ! ノーコストチート美味しいです」
ルナはそれを聞いて渋面だ。
「まだ俺に死なれたら困るだろ?」
それを聞いてルナの渋面が倍率ドン、さらに倍。
『そう思うなら、早く魂を定着させて欲しいね?』
「くふふふ。いやぁ俺も頑張ってるんだけどなぁ? なかなか定着しないよね〜? なんでだろう?」
そう、ご察しの通りまだまだルナは俺の魂が定着した時のパワー(長いので定着パワーとする。)を手に入れられていない。つまり未だに肉体を手に入れられていない。
『はぁ。悪魔を出し抜くなんて、本当に君は素質があるよねぇ?』
「そうか? 古来より割と悪魔って出し抜かれているイメージがあるけどな?」
もうルナも肉体を手に入れる事が重要な目的であることを隠そうともしなくなった。
俺がわざと魂を定着させないように日々男の心を忘れずにいるため、ゲームスタートが大幅に遅れているとのこと。最近は泣き落としまで使ってくる。
泣くほどのことなら、契約を破棄してもっとふさわしい奴と一緒にくればいいじゃないと思う。その際はもちろん報酬はもらいますけど。
でもなんか取引としてゲームを宣言しちゃったから勝手に契約を打ちきれないんだって。
それに5年も俺を守っていたので、悪魔パワー(超人かな?)が減りに減っているらしい。
悪魔だから守るという行為のコストパフォーマンスが悪いんだと。
もう俺が憎悪の塊になったくらいの状態で魂を定着させないと、肉体を手に入れても仕方ないらしいよ?
やっぱり、アホの子だ。
『ほら。言葉遣い。もっと女の子らしくしてよ』
最近ルナはお小言ばっかりだ。
男の魂に女の子の体。
その差異をなくすため、事あるごとに女らしさを押し付けてくる。
男女差別ですよ?
『君だってゲームを早く始めたいって言ってたじゃないか……』
「いやぁ、俺の勝利条件って人生をやりきることじゃない? つまり寿命で死ぬ事が条件なわけで、スタートが数年ズレても誤差でしょ。」
『はぁ。失敗だったかぁ? 君との取引。どう転んでも僕の利益になると思ったんだけどね?』
「経営指南の書物の読み込みが足りないな。そんなにうまくいく商売はないんだぜ?」
『人間っておっかないよね……?』
ルナは諦観の表情で肩をすくめている。
肩をすくめた際にルナの山脈が上下に揺れた。
ゲヘヘ。ごっつあんです!
『そういうところだよ?定着しないの』
ルナがジト目で俺を見る。
エロは俺を救う!! 男性のリビドー万歳!!
「そんなことより、抜け出したのがバレる前に早く帰るぞ。なんといっても今日は妹が生まれる日なんだから!!」
そう!なんと今日は新しい家族が誕生する予定なのだ!
___この時はまだ家族という存在が、俺の魂の歯車を回すことになるとは思いもしなかった。
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