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9話 『ロクでもないスラムの話』

長いかもです。

 

 どうもこんにちはキアーラ・カサッツァです。

 晴れが良い天気っていうのはなんででしょうね?

 雨だって色々な恵みをもたらすのに。

 体を冷やすと風邪ひくからですかね?

 それならば風邪は万病の元なので晴れの勝ちですね。

 ということで晴れは良い天気とします。


 ____________________________________



 今日も良い天気だ。


 俺は天を仰ぎながら独り言つ。


 雲ひとつない晴天。

 いまにも落ちてきそうな空の下で、晴れやかな気分になりそうなものだが、今の空気は悪い。

 呼吸に必要な空気的な意味でも、その場の雰囲気を指し示す意味でもだ。


 俺が今いるのは街の路地。

 それも俗にいうスラムの裏路地だ。


 5歳になった可憐な幼女である俺にはとても似つかわしいとは言えないフィールドだが、現世での俺にはここがホームといっても過言ではない。

 つねにすえた匂いが漂う薄暗い空間。暴力と差別の跋扈する掃き溜めのような場所。

 呼吸的な意味での空気の悪さはそのためだ。


 賑わう表通りの光の裏側。ここが俺たちのフィールドだ。


 今もその洗礼を受けた哀れな子羊がその体を横たえている。

 その(かたわ)らには若い男が一人。


 ___さて。どうしたものかな。


 衝動的に行動を起こして後悔せぬように、まずはちょっと俺の今の立ち位置について考えていこう。

 人間は考える動物だからな。

 逆説的に考えることで人間たり得るといっても過言ではない。

 人間らしくいこうじゃないか。


 俺が転生してお船で目が覚めてから5年の月日が流れた。


 俺たち家族がお船に乗ってどんぶらこっこだったのは、この国ステイテッドに移民するためだったらしい。移民するに至った経緯はとりあえずは置いておこう。

 全然裕福な家庭ではなかったと言うことは言っておく。


 さて俺はどんな国に来たのでしょうか?


 ステイテッドにある俺が住む街、ニューオーガは近代化が結構進んでいる。

 まぁ俺が生きていた前世ほどではないけどさ。


 この目で町並みを確認してみたら、いわゆる異世界転生テンプレ中世ヨーロッパではなかった。それよりも全然近代化が進んでるという感じ。

 多分、産業革命が起きた直後ないしは少し経ったあたりといったイメージかな?


 木より背の高い建物もあるし、窓ガラスも嵌っている。

 金持ちが住んでいる豪邸には庭にプールがあったりするし、町にはレストランや喫茶店などもある。水道は上下水道があるし、道も石畳が敷き詰められ区画整理がされていて歩きやすい。


 中級層が住む安アパートはコンクリートでできており、労働者の家族でひしめき合っている。そしてその労働者の職場はこの国の産業を担う工場で、様々な部品製品が日夜製造されている。


 しかし現代のように超高層ビルがあるわけではないし、アスファルトに道が固められているわけではない。

 近代的な建物は立っているが、その前の道を進むのは電気自動車ではなく、魔力を動力とした車が走っている。


 街灯は夜の街を照らしているし、レストランや喫茶店やバーの看板はネオンできらめいている。そして窓には大きく透明なガラスがはめ込まれている。


 最初に町並みを見たときに、なんというか普通にアメリカだなぁという感想を抱いたものだ。


 無理やり前世のイメージに当てはめるなら、大正時代の日本。

 ただし、電気で動く機械が全く存在しないと言う差異があるけどな。


 あと特出すべきはそこを行き交う人々だな。

 まず道を歩く男性たちの格好は大体二種類くらい。


 ひとつ目は紳士装備。

 スーツを着て、ハンチング帽やポーラーハットという少し丸みを帯びている麦わら帽子の布バージョンみたいな帽子をかぶっている。


 もう一つは親方装備。

 ジーパンかオーバーオールに汚れたワイシャツ、サスペンダーをつけている。手がごつく筋肉質な人間がおおい。男ならゲンコツで通らざるを得ない。

 いわゆる労働者階級って感じの格好だね。


 女性はシンプルなワンピースをきてたり、シンプルなシャツとロングスカートを着ている。

 俺は始めて目にした時に、メリーポピンズだ!と思ったし、ローマの休日のオードリー・ヘプバーンだ!と思った。


 びっくりしたけど、異世界にありきたりな村人の服という感じからはかけ離れてたなぁ。


 しっかし異世界転生といえは中世ヨーロッパがセオリーなのに、この世界は知識チートができない近代というクソ仕様だ。


 前世の知識があるアドバンテージはないに等しい。

 車の部品の作り方とか全くわからないし、なんならガラスの作り方もわからん。


 学のあるやつがこの世界に転生したらきっと驚きの革命を起こすんだろうけどなぁ。

 生憎俺は四則演算くらいしかできない。経済なんて全くわからん。


 あぁ、そういえばちゃんと金融も株もあるみたいだよ。

 貧困層である俺には関係ないけど。


 まぁ、つまり知識チートでお金がザックザクキャンペーンは無理ってことだ。


 ワンチャンあるとすれば、この世界は魔術があることによって、前世とは違う文明を推移していることかなぁ。


 代表的なところだと、おらの街には電気がねぇ!

 この世界にはワットさんもエジソンさんも生まれなかった模様。

 静電気や雷なんかはもちろんあるんだけど、エネルギー源としてのエレキテルはない。

 さっき街灯の話をしたが、全て魔術によるもので、電球の代わりに魔光球が使われているわけだ。


 ほとんどのことが電気の代わりに魔力が使われるので、その差によるなにがしかの抜け道的なサイエンステクノロジーで科学ってスゲーができれば、きっといつの日か俺にも転生主人公的超絶資産運用ができるようになるだろう。


『君、科学得意じゃないよね?』


 世知辛い真理が俺を打ちのめすが無視して進めよう。


 そんな進んだ技術で一部の人間にとっては割と便利な街ニューオーガに住んでいる俺。


 しかし俺は魔法がある世界で魔法が使えない劣等生。


 そのことが原因で俺の人生はハードモードでスタートするかに思われた。

 だがしかし魔法が使えない程度なら生きていく上で不便はあれど、大した問題にはならなかった。

 なぁに、もともと魔法がない世界で生きてきたんだ、なんとかなる。


 じゃあ、人生イージーモードでスタートかというと勿論そうではなかった。

 ルナの言う通りだったよ。


 有り体に言ってベリーハードモード。

 なんならHellモードまである。


 なぜか?


 ___俺が移民だからだ。


 その手のことに詳しくてなくても、その語感だけでやばそうな雰囲気が伝わるのではなかろうか?


 さて。ここからは歴史のお勉強だ。


 元々この国はこんなに大きな街はなかった。

 小さな集落がいくつかあり細々と人々は生きていたそうだ。


 しかし、そこに突然現れた侵略者。


 一番最初にこの国に来たそいつらは原住民を蹂躙してこの土地を我が物とした。

 原住民を奴隷とし、侵略したそいつら「獣人族」は、この土地をステイテッドと名付け国を興した。


 他の追随を許さぬ身体能力をふるい、どんどん勢力をましたステイテッドは大いに栄えた。他国から羨望と嫉妬を受けるほどに。


 多くの人々が自らも栄光を掴むべくこの国に移住しようとするのは当然の帰結と言えた。

 だが悲しいかな富は有限だ。全ての人がその恩恵に預かれるわけではない。

 当然ながら富の偏在がおこる。そして富の偏在は差別を生む。


 この国を支配した獣人は、後から移住して人間に対して、自分の国に住まわせてやっているのだからと見下し差別し始めた。

 そうして見下され差別された人々も後から来た移民を差別する。

 その移民たちもまた自分たちが差別されたのだからと、差別が差別を生む悪循環が形成されていった。


 これも必然なのだろうか?

 前世の移民時代のアメリカと全く同じ事をしている。


 人類は愚かな選択を同じようにして、愚かな道程を同じように進んでいる。

 人間は異世界にあっても本質は変わらず愚かだと、そういうことなのだろうか?


 そしてこの国の最後の移民。

 特出する技能を持たない能無しの種族言われている。

 前世ではこの種族しかいなかったけどな。


 ___人間(ヒューマン)


 俺たち人間は最下層を義務付けられてこの国にやってきた。


 そして俺の目の前で体を横たえている子供もその一人だ。

 奪われることが当たり前の一人。


 ___前世の俺と同じように奪われるだけだった。そういう人間のうちの一人。


 そしてこっちを見てニヤニヤしている若い男。

 奪うことに慣れきった濁った目をしているいかにもな野郎だ。

 銀髪の間から獣の耳が生えていて、ニヤける口元からは鋭い牙も見える。


 今しがた徴収したであろう金を右手でチャラチャラ弄んでいる。

 そして左手には他から徴収した金だろうか?バックパッカーが背負うくらいのデカイ袋を振ってジャラジャラ鳴らしている。


 チャラチャラジャラジャラ演奏でもしてるつもりかよ。

 頭に耳なんか生やしやがって。

 ケモミミ野郎は需要がないのがわからんのか。


 こいつはこの街の絶対的強者である獣人。おそらくオオカミ型。

 普通に逆らえば生きてはいけない。


『言うまでもなくわかってると思うけど、この場合は君のことは守れないよ? 』


 俺に取り憑いている悪魔のルナがルールの確認をしてくる。


 ___敵に殺されないこと。


 ゲームの敗北条件の一つだ、言われるまでもなくわかってる。

 このクソ野郎は俺的に許されざる敵だ。


 事故ではないのでルナは俺を守れない。守らない。


 そして残念ながら今の俺では(コイツ)を殺せない。

 無駄死にするだけだ。


 だから改めて俺は自分の立ち位置を確認した。

 俺は弱者だと改めて確認した。

 そうしないと今にもこいつに飛びかかってしまいそうだからだ。


「おいおいおいおい! なんだよその目はぁ? なんか文句あんのかぁ?」


 獣人の男が俺を挑発するように言う。


 こんな幼女に恫喝とか頭腐ってるとしか思えん。ぶっ殺したい。

 だがダメだ。堪えなければならない。


「よぉよぉよぉよぉ! そんなにビビんなよぉ! 俺は子供には優しいんだぜぇ? 」


 俺が怒りに震えているのをビビっていると思ったのか、そんなことを抜かしてくる。


「今もよぉ! この蛆虫が金を払えねぇってほざいたけど、こうしてお仕置きするだけで許してやってるんだぜッ!」


 そういうと同時に横たわっている子供を蹴る。

 何度も何度も蹴る。


「ほらほらほらほら! 俺の優しさを味わえよぉ! 」


 ___もう限界だ。殺そう。


 そう思って狼男に近づこうとすると、不意に蹴られている子供と目があった。

 男の子だ。

 その目は今まさに自分が暴力の嵐にさらされているといのに、こちらを心配するかのように揺れていて、そして澄んでいた。


 ___この子を殺させてはいけない。


 そんな確信めいた思いを俺は抱く。

 理由はわからないが強くそう思った。


 ちっ。このクソ野郎を殺してはダメだ。

 冷静に考えれば、きっと他の仲間が報復にくる。

 そのとき対象になるのはこの子供に違いない。


 ___ならどうするか?


 冷静に考え指針が決まったら即行動。


「あの……」


 俺はクソ野郎に声をかける。


「おぉ? おぉおぉおぉ?! なんだいお嬢ちゃん? もしかして俺の優しさに触れてぇのかい? 」


 狼男は男の子を蹴るのをやめこちらを向く。


『気持ち悪いね』


 ルナが俺の思いを代弁してくれるが、全くの同意だ。


「お金……」


 そして俺はそんなことを考えているのをおくびにも出さず、ポケットに入ったなけなしの金を差し出す。


「はぁ?! はぁはぁはぁ!! こりゃぁいい! コイツの代わりに払うってのか?! いいぜぇ! いいぜぇ! お嬢ちゃん! 」


 何が楽しいのか益々ニヤニヤしながらクソ野郎が近づいてくる。


「そうしたらこの袋に入れてくれるかなぁ? あくまで! 自主的に! 」


 顔を近づけんじゃねぇよ、可憐な幼女の俺にクセェ息がかかるだろうが。


 ……俺からは奪い取らないってことは、彼からはみかじめ料の回収かなんかの仕事で金を取ってるてことだな。

 これはあくまで仕事中の出来事で、無駄に暴力を使っているわけではないと言うアピールだ。


 つまりこいつはマフィアだ。


 気ままに暴力を振るうのはチンピラで、マフィアは仕事で暴力を使う。

 節操なく暴力を使っていたら、マフィア同士の抗争になる可能性があるし、警察にしょっぴかれることもあるからだ。そうすれば無駄な金がかかる。


 やはり手を出さなくて正解だったか。今はまだマフィア相手に戦争はできん。


 ___だが泣き寝入りはしないぜ?


『おや。 使うのかい? 』


 ルナが意外そうに聞いてくる。


 おうよ。クソ野郎! 俺のチートを喰らえ!!


 俺は袋に触りながら金をその中に入れる。

 硬貨のぶつかる小気味良い音がする。


 それと同時に野郎の後ろで子供がびっくりするのが見えた。


「よしよしよしよし! 蛆虫のくせに素直で偉いじゃねぇか! お嬢ちゃん! えぇ? おい!」


 人間全員蛆虫かよ。まぁ殆どの獣人がそう思ってるんだろうけどな。


「おうおうおうおう! 蛆虫! 今日はこのお嬢ちゃんに免じてこれくらいにしてやるけど、次はちゃんと全額耳を揃えて持ってこいよぉっ! 」


 そう言って意気揚々と去っていく。


 ちっ。(つら)覚えたからな。


『その物言いだと君の方が三流の悪党みたいだねぇ?』


 悪党さ。ここでは強い奴が正義で弱者が悪だ。

 気に入らないがそういう世界だ。


 だが、それは今だけだ。

 今だけ。必ず俺はやりきってみせるさ。


『期待してるよ』


 ルナが白々しい笑顔で言ってくる。


 ……ぬけぬけと心にもない事を言うぜ。


 よし。クソ野郎はいなくなったな。

 子供の容体を見なくては!


『今は君の方が子供だよ? 』


 俺がルナを無視して子供に駆け寄ると同時に、その当人がムクリと起き上がった。


 お? おぉ? デケェな!

 幼い顔していたし、縮こまってたから分からなかったが、これ180cmくらいあるんじゃねぇの?!


 あまりのデカさに一瞬驚いたが、それよりもやることがあると気を取り直す。


「傷を見せて」


 あんだけ蹴られたんだ、最悪骨が折れててもおかしくない。

 俺は了承を得ずに服をめくる。


「あれ?」


 俺は服をめくってみて驚いた。


 あんなに苛烈に蹴られていたのに、痣の一つもない。

 触った感じ骨も折れていなさそうな?

 っていうか筋肉、硬!!

 タイヤかよ?!

 え?もしかして無傷?!


『いや。膝に擦り傷がある。うずくまった時についたんだろう』


 いやいやいや! 実質クソ野郎からのダメージゼロじゃん!

 なに? ダメージ無効のチート?!

 マジかよ!マルクス主義は死んだ! ここにこのようなチート能力の偏在が!!


『そのネタはこの世界でいうとシャレにならないよ……?』


 俺がビックリして、能力の差を嘆いていると、大きな子供(大きなお友達にあらず)が虚空を指してボソッと呟いた。


「……これ。……なに?」


 あ、俺のチート発動してたんだった。

 いや、ダメージ無効に比べたらチートなんて大げさなものじゃないな。

 チープだな。チープスキル。


『能力を上げた本人を前に、その言い草はないんじゃあないかい?』


 じゃあ、一番いいのを頼む。


『ダメ』


 俺はもののあはれを思いながら子供と見つめ合うのだった。


お読みいただき誠にありがとうございます!


もしちょっとでも面白い! 続きがきになる!と言う方がおられましたら

ポイント評価とブックマークもよろしくお願いいたします!


作者にとってとてつもない励みになります!

引き続き頑張っていきます!

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