九二話 厄災
四川風のピリ辛料理をしたら口が…かりゃひ…
明日なんですが、ちょっと物件を見に行くことになりましたので、小説更新が時間的に厳しいです。
お休みなりますので、申し訳なくです。
グドゥルフか得た情報の中に、過去に厄災と呼ばれた魔獣を呼び出そうとしているというものがあった。
厄災とは果たしてどんなものだったのか?
魔族自体もそれがどんな者なのか知る者はいない。
いや、最初から厄災の存在について、この世界に知る者はそもそも一人もいないという方が正しいかもしれない。
厄災に関わった者は勿論のこと、見た者は誰一人として生きてはいないということもあるが、そもそも厄災の自体の持つ、特殊な生態が原因だ。
時間も空間も厄災には関係なく、そのときに感じた何かを求め現れ、その地にて、ただただ本能の赴くままに、暴れ、壊し、喰らい、蹂躪する。
それが表すのはどういうことかというと。
「な…何故我らを襲う!クソッ!聞いてないぞ!」
既に部下二人を食われた上官の魔族は、魔法陣から現れた禍々しい腕。そこから生えた、口を携えた手から、逃げ惑いながら、その状況に狼狽えていた。
「あれは魔族の書物にあった、世界を滅ぼす魔神ではないのか?そうであるなら、何故今の滅びを求め、全てを支配せんとする我らを襲うのだっ!」
そんな声は微塵も届かない。
その無慈悲な手は自身の赴くままに、魔法陣からより這い出ようと藻掻き、魔法陣に阻まれるため、自身を傷つけながら、黒い血を吹き出しつつも、その動きを止めないのだ。
やがて吹き出した黒い血が魔法陣を侵食し始める。
空間に大きなヒビが入り、そこを無理矢理拡げ、もう一本の腕が這い出てくる。
両の手が揃い、自らを呼び出したであろう愚者に、無慈悲に襲いかかった。
「ガハッ!…く…離せぇっ!」
魔族は襲い来る両の手を交わしたのだが、その巨大な手の指先が、僅かにかすったのだ。
かすった瞬間に指先が割れ、隠された口を開き、すれ違いざまに脇腹の肉をかすめ取っていったのだ。
「あぁ…?…な…んだ…?これ…?」
衝撃の大きさから、体を殴られたと思い、下腹部にて思わず当てようとしたのだが、そこにはあるはずの自身がなかった。
喰い奪われたことを自覚した瞬間に、激しい嘔吐感に襲われ、血を吐いた。
鈍った動きを瞬時に感じ取った腕は、間髪を入れずに襲いかかる。
「く、く…くく…来るなぁあぁぁぁぁあぁぁぁあああああああああああああああああああああっ!」
感じたことのない恐怖が魔族を染めあげる。
声にならない、正しく発狂という奇声と共に、自身に残る本能に突き動かされ、デタラメに魔法を乱れ撃つ。
方向も威力も全てデタラメ。
ただただ生き残りたいという、根源とも言うべき本能が、彼を突き動かしたのだ。
響き渡るのは爆炎と爆雷の音。
本能による叫び。
しかし、自身の叫び声は、その衝撃に掻き消されてしまい、叫んでいるのかすら自分ではわからない。
「あぁァァァああああああァァァァァァァァァ…あ…はぁ…はぁ…はぁ…」
全てを出し尽くしたため、構えた手からは打とうとしても、もう何も出ない。
魔力切れのため視界が霞む。
あちこちがガクガクと震えている。
それでも構えは解かずに迎撃の姿のまま、両手を構え続けている。
自身の魔法により、視界が黒煙に染まる。
魔力は尽きたものの、油断なく警戒を続ける。
しかし、その黒煙に飲まれたまま、自身がいつ喰われたのかすらわからぬまま、魔族は飲み込まれてしまった。
厄災は迫る爆雷を包む様に、その手と指で檻を作るように覆うと、その手首から自身を喰らうように混ざり、大きな口を成形し、その空間ごと一飲みにしてしまったのだ。
自身を呼んだ者は消えた。
しかしその渇きと飢えは治まることがない。
魔法陣は黒き血の影響と、魔力の供給元を失くしたためその力を失い、開いた門を閉じようと動き出す。
意思を持ったその腕は、それに抗うように暴れだす。
まだだ、まだ足りない…
血肉を…この飢えを…渇きをどうにかしなければ…
ただただその本能のみの腕は、近付いてくる大きな力を感じる。
先程喰らった者など、比べ物にならないその気配。
本能が閉じる空間を上回る。
その喰い意思だけで空間を破り、理と隔たりを越える。
その場に一早く着いたシリウス組は、黒き雲から生える異形の双腕の放つ禍々しさに驚愕した瞬間、その腕に襲われた。
シルフィの力により、間一髪その腕を避ける。
「な、何じゃ!あの口だらけの腕は!?」
「あれが…厄災?」
「二人共!呑気なことを言っている暇はありません!」
腕が更に速度を上げ、三人を襲いかかる。
「き…気持ち悪…」
攻撃を避けたシリウス。
彼女が先程までいたところに突き付けられた腕が、地面を舐め尽くすように、全てを喰らうかのように、咀嚼して飲み込んでいる。
「さ…流石の我でも…これは知らんぞ…」
その声に反応したのか、今度は両の手が襲いかかってきた。
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