八三話 谷底
最近YouTubeの投稿も始めたのですが、身バレが怖いので、こっそりと活動を。
編集や撮影は難しいですが、したことないことやるのは、良い刺激です!
ジークだけでなく、荷台の中からも叫び声が轟く。
緊急回避のため、不安定な状態ながら、ジークは翼竜の姿に変わり、何とか荷台を持ち上げようと踏ん張る。
しかし、落下中での変身のため、荷台を引く綱が翼に絡まり、上手く飛べなかった。
荷台が岩にぶつかり、転がる進路を変える。
「え!?わっ!ちょっとまっ!」
『ゴォーーーーーーーーン!』
ジークはそれに引っ張られる形で頭をぶつけ、昏倒してしまう。
「いやぁーーーーーーーー!」
「きゃーーーーーーーーー!」
「と、ととと、これはやばいのぉ〜」
ヤバいと言いつつ、余裕のあるシリウスの声は、二人とは対象的だ。
ルーシェはというと、全力で荷台を補強するだけではなく、衝撃を緩和させるために、空気をクッションの様に張り巡らせている。
一瞬でも気を抜けば、魔力と霊力のバランスが崩れてしまう、針穴に通すような制御を、必死に冷静さを保ちながら行っていた。
荷台に大きな衝撃が走る。
転がる先の岩にぶつかったのだ。
その衝撃で、セレナスとエリスは肺の空気が抜けて、叫び声すら上げることが出来なくなる。
『ミシミシミシ…』
強すぎる衝撃と角度が悪かったため、荷台に亀裂が走る。
更に衝撃で飛ばされた荷台は、転がるのやめて、宙に放り出された。
激しい回転運動から打って変わって、急に襲ってくる浮遊感。
「不味い!」
ルーシェの体も浮いてしまい、荷台への補強やクッションの効果が切れてしまう。
真っ逆さまに地面へと落ちていく。
自分だけなら魔力と霊力の展開で、助かることは可能なのだが、エリスとセレナスは確実に死んでしまう。
視界はやたらとスローモーション。
自身の動きもやたらとスローモーション。
思考に体が追い付かない。
いや、実際体を動かそうとするも、上手く動けないのだ。
(どうする…どうする…どうすれば…)
そんな思考の中、実際の荷台は更に速度を上げながら、高速で落下。
(もうダメだ!)
そう思った瞬間、胸元に閉まっていたアクアマリンが、強い光を発した。
暗闇の中、何処かから声が聞こえる。
その声を手繰るように藻掻く。
「……ル………さ…………ルー……ルーシェさん!」
「イ…リス…さん?」
「よかった!」
膝にルーシェの頭を乗せていたイリスは、ルーシェの顔を包む様に抱き付いたのだった。
意識が戻ってからも、暫く力を使いすぎた反動で、上手く動けないルーシェは、イリスから開放されるまで、されるがままの状態だった。
羨まけしからん。
何とか動ける様になったルーシェは回りの様子をみる。
「あちゃあ…荷台が…」
目に飛び込んで来たのは、辺りに四散した荷台の破片。
「あ、他のみんなは?」
「大丈夫ですよ。みんな無事です。今はみんなで周辺確認に行ってます」
エリスもセレナスも無傷のようで、落下から少しすると、意識が戻ったらしい。
シリウスに至っては、気絶すらしなかったそうで、元気に高笑いしながら、
「あぁ!面白怖かった〜」
と、言っていたそうだ。
「ところで…どうやって助かったのかな?」
「あぁ。やっぱり覚えてませんか?」
地面との衝突直前、イリスがアクアマリンから飛び出し、水で衝撃吸収してくれたらしい。
「本当にぎりぎりだったので、調整し切れず荷台を壊してしまい、申し訳ないです」
「いや。命あっての物種だからね。全員無事なのはイリスの御蔭だよ。ありがとう」
素直に心からの感謝を伝えた。
そうこうしているうちに、周辺確認から戻ってきた面々。
「とりあえず軽く見たけど、この谷底は相当な距離みたいね」
「有無。軽く走って確認したのじゃが、端では到底たどり着けんなんだ」
「なるほど。ジークはどう?」
「ごめんね。さっきの落下時に翼を傷付けてちゃって、上に飛び上がるのは、今できないんだ」
岩にぶつかっただけでなく、牽引用の綱により、思ったより深傷を負ってしまったらしい。
「あ、すまぬが我からも。ここでは我の地の力も上手くは使えんでな。申し訳ないのじゃが…」
「「「えっ?」」」
「そんな三人してハモらなくても…いやぁの、ここはエアリアスの管理下であろう?いくら格下の者の管理下とはいえ、地を司る我と風では相性が悪くての。力が上手く発揮出来んのじゃ」
相反する属性のため、それは仕方のないことだった。
「私からも。少し飛んで確認したのですが、上の方は風が乱れていて、私の羽根では飛ぶのはかなり厳しいです」
「上空からの探索も難しいってことか」
「すみません」
「いや、どのみちセレナスだけ飛べてもどうしようもないからね。それより大丈夫そうな荷物を仕分けして、周辺探索、もう少し詳しくしてみよう」
それぞれに荷物を背負い、谷底を進む。
「様子が変だな…」
「どうしたの?」
「いや…小精霊も妖精も、いるにはいるんだけど…」
今まで出会った精霊や妖精と違い、何処か澱みと歪みを感じるのだ。
そのせいなのか、空気がねっとりと絡み付いて来るように感じる…
「前方と真上から、魔獣が接近してます」
イリスの声に反応し、それぞれの方向を見るが、敵影は見えない。
エリスはわからずに、妹に確認を取ろうとした。
「イリス。どこ…」
「アクアエッジ!」
姉の問いに応える前に、水刃を空に放つ。
「「ぴぎゃ〜〜〜〜〜〜!」」
何もない空間に、悲鳴とともに鮮血が飛び散る。
「どうやらこの辺りの敵は、擬態化が得意の様ですね」
何事もなかったかの様に話すイリス。
「ど、どうやったのよ!?」
「アクエリアス様との特訓の成果です。大気中の水分を感知して、索敵することが出来ます。これで動きを事前察知することも出来るので、以前より早く。確実に魔法を当てることが可能になりました。と言っても、アクエリアス様に比べれば、まだまだ効果範囲も短いですが」
そう言いつつ、はにかみながら謙遜するイリス。
その瞳には言葉とは裏腹に、以前にはない自信が、満ち溢れていた。
「凄いわね…一体どんな修行したのよ?」
「……さぁ。進みましょうか」
思い出したのか、顔を青くしたイリスは、姉の質問には答えずに、歩き出してしまった。
その小さな背中が聞かないでくれと、物語っていた。
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