八二話 砂塵の道
ほぼ毎日投稿を頑張っているんですが、早くて3月。遅くて4月頃から、本職が忙しくなるかもで、もしかしたら投稿頻度が遅くなるかもです。
何とか頑張りたいんですが、もしそうなってしまった場合、また報告させて頂きます。
消えても尚、消えたエアリアスのいた場所を見つめ続けるジーク。
その表情から、すぐには誰も声をかけることができなかった。
「みんな待たせてごめんね」
「いや、それはいいんだけど。ジークは風の大精霊と知り合いなの?」
「封印される前に、僕の教育係をしてくれてたんだ」
向こうの方を見つめるジーク。
その瞳には優しさが溢れていた。
「僕たち竜の王族は、ここの近くに棲家があるんだ。僕が生まれて少ししたころ、教育係として父が彼女を連れて来てくれたんだよ。勉強だけじゃなくて、それこそ人の言葉や、竜族以外の生活まで、彼女は何でも教えてくれたんだ。何でそんなに何でも知ってるの?って聞いたら、『風の大精霊ですから、色んな情報が入るだけですよ』って、笑いながら話してたっけ…最後まで僕が封印されることを、反対してくれてたんだよ。父と大喧嘩したんだけど、まさか父が負けるなんて思わなかったなぁ」
思い出し笑いをしつつも、その声と姿はやはりどこか湿っぽい。
「あ、そうだ。お兄さん達。これを」
そう言って、ジークはルーシェに口を近付けて開いた。
歯には鮮やかな緑の色彩を放つ、エメラルドのネックレスが引っ掛かっていた。
「さっきエアリアスが渡してくれた物だよ」
「…ジークが持っておかなくていいの?」
「僕じゃサイズ的に無理だからね。エアリアスの力を感じるから、それがあればたぶん砂嵐の中も平気なはずだよ」
暫くジークの目を見つめるルーシェ。
そして無言で頷き、それを受け取った。
もうその日は遅く、近くの岩場で一晩明かすことにした。
ジークの元気のなさに、皆心配していたのだが、夕食を一口食べれば、いつものジークに戻ったため、一同に胸を撫で下ろしていた。
そして夜は過ぎ、朝を迎えた。
「さぁ。みんな乗って乗って!」
ジークの声に促され、皆で荷台に乗り込む。
「さぁいくよ〜」
気合一発、尻尾を地に叩きつけたあと、荷台などないかのように、軽快な走りを見せる。
御者の席にはルーシェが付いている。
そして荷台の中では…
「ジークが元気そうでよかったわね」
「そうですね」
「ところでじゃが…やはり、エアリアスはジークの初恋相手じゃろうか?」
「いきなりぶっ込んで来るわね…」
「そういう話はジークさんに失礼かと」
「心配せずとも、走っておるのじゃから聞こえないじゃろ?」
下卑た顔でニヤつくシリウスに、微妙な表情を浮かべる二人。
「中で話してるけど大丈夫?」
ルーシェがジークを心配して問いかけた。
「ははは。問題ないよ〜。それくらいの話なら、特に痛くも痒くもないしね。それより、今は助けることで頭がいっぱいなんだよね」
「一人で溜め込まずに、僕らに便ってよ?」
ジークからは特に何も返ってこなかったのだが、ほんの少し速度が上がったことを、ルーシェは見逃さなかった。
気恥ずかしさから来るものだろう、
ルーシェはシルフィのことで、頭がいっばいになっていた時のことを思い出していた。
(あぁ。傍から見てると、こんな感じだったんだな…)
今になって、よりちゃんと皆の気持ちを理解しつつも、シルフィのところまで後少しであるということ事実が頭にチラつき、どうしても気が流行ってしまう部分もある。
男二人の気持ちだけ、ひょんなところでシンクロしてしまっていた。
「お兄さん。そろそろ荷台の中に」
眼前には砂嵐が広がっている。
「うん。あ、このネックレスはどうしたらいいのかな?」
ルーシェがそう言って袋から取り出したところ、エメラルドが輝く。
一閃。
エメラルドから放たれた光刃が砂嵐を斬り裂いた。
「み、道が出来てる」
その言葉通り、砂嵐の中に一点だけ、ジークを受け入れるためだけに開かれたような風の道が出現した。
「いくよ〜!」
そう荷台へ言いながら、返事も待たずに走り出すジーク。
念の為ルーシェは荷台の中へ入り、皆に状況を話した。
「一応大丈夫とは思うけど、念の為にみんな備えておいて」
そういったルーシェ自身も、荷台の補強がいつでも出来るように構えていた。
ジークは一人砂塵の通路を、鼻息荒く走っていた。
(絶対に助けなきゃ。助けるんだ。前に助けらてもらったんだ…今度は僕がっ!)
前だけ睨み付けるような目。
決意を越えた執念。いや、それは怨念のようなレベルかもしれない。
そう思わせるほどの意思を宿していた。
「はっ!後を見てください!」
後方確認をしていたセレナスが声を上げた。
「あれは…!」
後方から道がどんどん塞がりながら、荷台に追い付き喰らい付かんと、迫って来ていた。
ルーシェがエメラルドを取り出して見ると、その輝きが少しずつ弱くなって来ている。
「ジーク!急いで!」
その声に、ジークは無言のまま速度を上げる。
しかし、砂塵の刃はそれよりも更に足早に迫る。
ルーシェはどうするべきか、悩んでいる余裕はないと、荷台に付与魔法をかける。
荷台が軽くなり、ジークの負担がその分軽くなる。
それだけでは足りないと、牽引用のロープを介して、ジーク自身にも付与をかけ、更に速度を上げさせる。
砂塵の刃との距離が、それでも僅かに詰まっていく。
(ここまでか?いや…あの光は…!?)
「ふん…ぬ…ぐぐぐぅ…………あぁぁっ!」
最後の体力を振り絞り、乱れる呼吸と荒れる心臓を無理矢理押さえつけ、この姿では限界の速度で駆け抜ける。
「そこだぁーーーーーーー!」
砂塵の刃に荷台が追い付かれ、その牙に引き裂かれる直前。
ジークは何とか抜け出すことが出来たのだが…
「え…?あ、ちょっと!待って待って!」
抜けた先に出てきた物。
それは大きな渓谷だ。
何のとか止まろうと急ブレーキをかけるも、その限界を越えた速度と、付与魔法による軽量化の影響もあり、止まることができず、ジークと荷台は、その渓谷へ真っ逆さまに落ちていった。
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