七九話 竜巻
冷えますねぇ…
河豚のひれ酒飲みたいな…
空の旅は順調に過ぎていった。
「みんな〜。ついたよ〜」
「どれどれ?」
広がる景色。
そこは荒涼とした風景。
「緑がないわね」
「空気が砂っぽい」
「ケホケホ…喉に来ます」
口に布を当て、防塵準備をしながら、空の上から目的地を探す。
「あれは…!みんなしっかり捕まって!」
ジークは何かに気付いた用で、上空へ急浮上していく。
幸い荷物に関しては、ジークの気まぐれ急降下を何度か経験したため、しっかり固定していたため、問題はなかったのだが、急過ぎたため、反応出来なかったセレナスだけ、人間シェイク状態になりかけた。
「あっぶなっ!…ジーク、何があったの?」
「外を見て」
「なっ!」
飛び込んだ景色。
それは地を削り、空を裂かんと天まで届く、巨大な…それは巨大な竜巻だ。
「あの竜巻が急に空から伸びてきて、一気にあそこまで大きくなって、それで慌てて飛び上がったんだよ!」
まだ慌てた感の残った、捲し立てるような口調。
よっぽど焦ったのだろう。
「ごめんね。中は大丈夫だった?怪我してない?」
「あぁ。大丈夫。あれに巻き込まれていた方が大変だったからね。いい判断だったよ」
竜巻発生から一時間ほど立ったが、、今だに猛威を奮っている。
有用な対処方など情報が少なすぎるため、先ずは情報をと。
ジークに頼み人里を探してもらうことにした。
「お兄さん。人里かはわからないけど、あそこに何人かいるみたいだよ?」
「ん?どの辺だろ?」
「ほら!あそこだよ!」
指を指し示すジークだが、ルーシェの目では判断のつかない距離。
「僕には視認出来ないから、近付いてもらえるかな?」
「おっけ〜」
ジークは風を掴み、流れるように空を滑る。
「あれは…ジーク。気付かれないように高度を保って」
「?何かあったのかな?」
疑問に思いながらも、素直に飛行を変えるジーク。
「理由を聞いても?」
「動きが変なんだ。真っ直ぐ進んでない」
馬が落ち着かずに、蛇行しながら進む。
「少し様子を見よう。中の皆にも伝えてくるね」
「くっ!言うこと聞いてくれよ!頼むから!なぁ!」
ボロボロの服を着た男が、慣れない手綱を握りながら、馬に懇願している。
「あれは!くっ!」
男の目の前に現れたのは、武装された騎兵団だ。
手綱を引き無理矢理進路を変えさせる。
「止まれぇ!逃がすと思うてかぁ!」
騎士団の先頭の男が叫び手を上げる。
隠れていた騎士達が現れ、馬車を取り囲む。
「二度は言わない。大人しく馬車から降りて来い」
槍を向けながら、そう告げる騎士。
ボロの服の男は、手に食事用のナイフを握り、精一杯の抵抗の意思を示していた。
「無駄な抵抗はやめろ」
「い、嫌だ!俺達は自由になりたいんだ!」
「まぁ気持ちもわからんではないが、奴隷に生まれた境遇を呪え。俺達だってこんなところまで無駄な行軍をさせられて、イライラしているんだ」
そう言って槍を構えたまま近付こうとする。
「来るなぁ!これが目に入らねぇかっ!」
男の手には何かが、握られている。
「それは…!?」
「逃げるときに掻っ払ってきた、魔石爆弾だ。捕まるくらいなら、まとめて死んでやる!」
「ま、待て!それは洒落にならん!」
魔石の力を利用した爆弾。
その威力は、半径500m内の物を破壊し尽くす。
「み、皆!すまねぇ!」
男がそれを使う前に、馬車の荷台へ声をかけ、使おうとしたその瞬間。
「ギャオォォォォォォォォォォォッ!」
突如として現れた巨大な翼竜。
その強い羽ばたきにより、囲む騎士団の一部が吹き飛ばされる。
「グルゥゥゥゥゥゥ…ガァァァァァァァァァァァ!」
騎士団の目の前に、火炎弾が放たれる。
「て!撤退!撤退だっ!」
翼竜の襲来により、騎士団は散り散りになっていく。
そして残されたのは、ブレスの余波でボロボロになった馬車だけだった。
「ハ…ハハハ…何だよこれ…なぁ…」
竜に驚き腰を抜かした男。
衝撃波で持っていた魔石爆弾も、何処かへ行ってしまった。
「大丈夫ですか?」
竜から降りてきて、声を掛けてきた若い男。
「僕はルーシェと言います。緊急そうでしたので、助けさせていただきました」
「へ?は?た、助け?」
男の混乱は半端じゃなかった。
「先程の会話から、逃亡奴隷と見受けますが…あれ?」
「く、来るんじゃねぇ!てめぇは何もんだ!?どうして助ける必要なんてある!お前みたいな怪しい奴、し、しし、信じねぇぞ!それ以上近づくんじゃねぇ!」
まだ握っていたナイフを向け、威嚇する男。
どうしたものかと悩んでいたところ、セレナスが降りて来た。
「その声…もしかしてロウさんですか?」
「あぁ!?何で俺の名前何て知ってやがる!」
「わ、私です!セレナスです!ちょっと待ってください」
そう言いながら、砂対策のロープと口布を取る。
「そ、その顔は…セレナス!?本当にセレナスか!?」
「そうです!ロウさん!お久しぶりです!」
ロウと呼ばれた男はセレナスの姿を見て、手にしたナイフを落としたのだった。
「というわけで、私はルーシェ様に助けて頂き、今に至ります」
「なるほどなぁ…色々大変だったんだな。お前に買い手が付いて、いなくなってからずっと心配してたんだ」
「それより、何でこんなところに?」
「あ、あぁ…お前なら話しても大丈夫だよな。しかし、そのご主人様に聞かせても大丈夫なのか?」
「信頼出来ます。私が保証します」
(ご主人様じゃないから!)
というツッコミを内心入れるのだが、話が進まなさそうなので、飲み込んだルーシェ。
「そう言うなら…実は…」
今この国は戦争を起こそうと準備していた。
しかし、兵の数には限界がある。
そのため、それの補充名目で、ウェジア伯爵の所有するハーフが大量投入されることに。
ロウ達は大量の引き取り先が出来たとだけ言われ、筒に封印され、出荷されることになったのだ。
その時、筒の数が多過ぎるため、力だけはあるロウが、荷物運びとして唯一封印されずに、働かされることになった。
そして二日前の夜、戦争への強制参加の話をたまたま盗み聞き。
皆で一緒の奴隷先なら、まだ安心と思っていたはずが、物の見事に打ち砕かれてしまった。
「それで、俺は皆を連れて逃げなきゃって、二日前に逃げ出したってわけなんだ。そしてさっきの状況だ。その…すまねぇな…そして、助けてくれてありがとう」
ルーシェに頭を下げた。
「事情はわかりました。それなら早く国外へ逃げた方が安全ですね」
「それはそうだが、馬車があぁなっちまったし…皆を運ぶことも出来ねぇ…」
ブレスや炎弾の余波で、積荷自体は無事なものの、荷台は壊れ、馬は逃げ出してしまっているのだ。
「問題ないです。ジークに運んで貰いましょう。ジーク。重さ的にどうだろ?」
「問題ないよ〜」
いつの間にか子竜姿に戻り、エリスに抱っこされた状態で、のほほんとした声を出して応えて来た。
「というわけで、移動しようか?」
「移動自体は賛成なんですが、どこへ向かいますか?」
「うん。ロウさん。近くに村か町はないですか?」
「確か逃げる途中で見かけた気がする」
「ではそこへ案内して下さい。そこで皆は情報収集や準備をお願い。僕はジークとウォーターガーデンへ行って、蜻蛉返りするからさ」
そんなわけで、早速動くことに。
積荷を移動させ、ジークの炎弾で、荷台をバラバラに崩してもらう。
翼竜に殺されたと思わせる偽装だ。
そしてロウの案内で町へ向かう。
案内のため、荷台の中ではなく手の上に乗っているため、ガクブル状態だ。
そして町から離れたところに三人を降ろして、ルーシェはウォーターガーデンを目指す。
「ジーク。速力上げ目で頼むね」
「おっけぇ〜」
飛び上がったジークが、一気に加速する。
「そぉ〜れぇ〜〜!ビューーーーーン!」
来たときに比べて、かなり速度を上げている。
ルーシェの全力戦闘と、ほぼ同じ速度だ。
人外の速度に、荷台の中で顔を青どころか白くしたロウが、少し漏らしていたことは、彼の名誉のために、内緒にしておこう。
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