七六話 夕日と夕闇
一日に2話分書いてました。
こっちは2話目の方です。
うん。2話書くと結構大変ですね…
普段からそれをこなしてる方や、もっといっぱい書いてる作者の方…
本当に尊敬です!
「ん……」
「あ!起きた?みんな!セレナスが起きたよ」
駆け寄るパーティーメンバー+子竜。
その子竜と目が合い、ホッとした表情を浮かべるセレナス。
「お姉さんのおかげで助かったよ。ありがとう」
「いえ。私は何も…実際に戦って苦労したのは、皆であって、私じゃ…」
「ううん。そんなことはないよ。お姉さんにしか僕の声は届かなかったからね」
セレナスの精神感応魔法。テイマーとしての適性。
その二つがなければ、実際子竜の声は誰にも届かなかったのだ。
もし届かなかった場合、水竜の姿のまま、ルーシェかシリウスに仕留められていたことは間違いない。
文字通りの命の恩人なのだ。
「そんなわけで、お姉さんは命の恩人。本当にありがとう」
改めて頭を下げる。
本当に律儀な性格をしているようだ。
「お礼というと変かもだけど、よかったらお姉さん。僕と契約してくれないかな?」
「契約?」
「そう。お姉さん達に恩返しがしたいんだ。でも、契約してもらえないと、竜族のルールで、何も力が貸せないんだよ」
「私じゃなくても大丈夫なんでは?」
「ううん。テイマーのお姉さんしか、資格がないんだ。……だめかな?色々役に立つよ?」
ウルウルしたつぶらな瞳で見上げてくる。
この上目遣いは反則だ。
みんなを目で確認すると、誰もが頷いて返してくれた。
「私の方こそ…お願いします。その…契約はどうすれば…?」
「ありがとう!手を出して」
言われるままに手を出す。その手に自身の小さな手を合わせる子竜。
「我、七竜王の名の元、契約者セレナスとその契を誓う。我は剣となり、また盾となり、翼とならん」
子竜の体から暖かい何かが、手を伝ってセレナスに流れ込んでくる。
「さぁお姉さん。最後に僕に名前を付けて。それで契約完了だよ」
「名前…名前…うーん…竜の王…バハムート…」
「あはは…それは先王の父の名前だから、流石にちょっと…」
全員がマジかよ!という顔になる。
この世界におけるバハムートは竜の王として、物語に出てくる、伝説の生物である。
実在するとは、誰も思わなかったのだ。
「そ…そうなんですね…なら…ジークはどうかな?」
「ジーク…ジーク…うん!かっこいいね!」
「気に入ってもらえたならなによりです」
「名前の由来は何か聞いてもいいかな?」
「何かの物語の、王子の名前だったかと」
その話を聞いて、ルーシェだけが顔を引き攣らせてしまった。
「何かありました?」
「どうしたの?」
「いえ。な、何でもありません」
何とか誤魔化したルーシェ。
実はその物語は、竜殺しの話であり、その主人公ジークハルトが、まさしくその竜殺しなのだ。
まさか竜のしかも王に、竜殺しの名を付けるとは…
と、言うに言えないルーシェだった。
「えーと…話は変わるけど、セレナスが寝ている間に調査は終わったよ。無事に魔水の数値も下がり始めてる」
「と、言うことは…」
「うん。過剰な増え方はしないかと」
「っていうことは、やっぱりジークが原因だったの?」
その言葉に、ジークがピクリと反応する。
「原因はそうだけど、何故突然それが起こったのか。そこが問題かな?あの門の中で、ずっとジークは…」
「うん。封印されてたよ。だからずっと眠ってたね」
「その間に、ずっと使われてなかった力が、中で溜まってたんだね。それが魔族の侵入で穴が空いて…」
「魔水に流れ込んで、溶け込んだってことですね」
「そういうこと」
「あ!だからか。父に封印されるとき、ちゃんと定期的に体に戻って、竜石を作るように言われてたのか」
「竜石って何?てか親に封印されてたの?」
「余分なエネルギーを溜めて作る、結晶の一つだよ。父に封印されたのは、何か来たるべき日に備えて、眠り待つようにって言われたんだけど…何が来るんだっけ?あ、そうそう!邪神だ!」
「「「邪神!?」」」
シリウス以外の全員が反応した。
「うん。邪神。魔族がここに来たのも、その為のはずだよ。僕の魂だった珠を生贄に捧げる気だったはずだよ。いや〜。お兄さんやお姉さん達が来なかったから、本当に危なかったよ〜」
会話のレベルが急に飛躍して、付いていけなくなる。
「まぁまだ復活したわけじゃないから、そんなビックリしたり、焦って面白い顔になる必要はないよ〜」
そう言われ、気分を変えるために一つ咳払いをしたルーシェ。
「ゴホン。えーと…今すぐどうこうって話じゃないならよかった。話はまた後で聞くとして、竜石だっけ?それはいくつかは作ったの?」
「最初の数十年は作ってたから、5個くらいは作ったはず。あ、取ってくるよ」
そう言って水竜の姿に変わり、地底湖へ潜っていった。
暫くするとジークは戻ってきた。
「おまたせ〜。これがそうだよ〜」
地面に置かれたそれは、思ったほど大きくなかった。
掌サイズの珠が5つ。
「これは…凄い力を感じる」
「僕のエネルギーの塊だからね。色々作れるよ」
「なるほど…戻ったらまた詳しく調べさせてくれるかな?」
「いや、それあげるよ。僕は使わないしね」
竜石を手に入れた。
「じゃああとは、飛竜の捕獲にいこうか?」
気を取り直して、みんなを見る。
「はーい」「任せるのじゃ」「行きましょう」「上に戻りますか」
みんなそれぞれに返事を返す。
「ん?お姉さん達、飛竜なんかに用があるの?」
「そうなんですよ。背に乗せてもらって、行きたいところがありまして」
「あぁ。そういうことか〜。うん。わざわざアイツらをテイムする必要はないよ〜」
「ん?それは王だから従わせられるってこと?」
「それもそうだけど、違うよ〜。外に出てから話すよ」
そう言われ、素直にみんなで地上を目指した。
外に出ると飛竜がまた集まり出していた。
「う〜ん。アイツら五月蝿いなぁ…お姉さん達、ちょっと耳を塞いでてもらえるかな?」
そう言ってジークはトコトコと歩いていく。
広いところに出ると、姿を巨大な翼竜に変える。
「ゴワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
一声鳴いた瞬間に飛竜は硬直し、ビクリと体を震わせた。
驚きダメージを受けるのはパーティーも同じだった。
更にもう一鳴きすると、全飛竜が同じ方向へ飛び去っていった。
「うぅ…耳を塞いでても凄い痛い…」
「おまたせ〜。元いたところに帰るように言ったから、もう安心だよ〜」
デカくなった分、声が野太くなってたジークが声をかけてきた。
「この姿なら、問題なくみんなを運べるよ〜」
確かにその通りといった、堂々たる姿だった。
馬がビビってしまっている。
「ハハハ…凄いねこれは…」
「早速だけど…運んでもらおうか?」
「まかせて〜。ところで…その馬は食べてもいい?」
「「「「だめ!(なのじゃ)」」」」
全員に言われ、しょんぼりするジーク。
ジークの背に乗り、空の快適な旅を…とはならなかった。
少し試しに飛んでもらったところ、落ちて死にかけたルーシェ。
思案したところ、今回は馬車ごと手で運んでもらうことに。
「絶対…絶対に握りつぶさないでね!」
「くださいね!」
と、姉妹の念押しする姿が、面白くもあり可愛くもあったのだ。
そして飛び立つジーク。
彼の手の中。指を少し登り外を見るルーシェ。
沈む夕日が、空も山も森も、全てを黄昏に染め上げている。
「凄い景色だ」
「でしょ?僕も久しぶりだから気持ちいいよ〜」
空の色の変化楽しむ一人と一匹。
馬車の中では一人思い悩むイリスと、悩む妹に気付きながらも、声をかけられない姉の姿が、その夕日の輝きとは対象的だった。
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