七五話 七竜王
2月も半分が過ぎてしまった…
早い…
本当に早い…
へたり込むシリウスに駆け寄る。
「だ!大丈夫 (ですか)!?」
「大丈夫…大丈夫じゃ…ふぅ…それよりエリス、今の技…ちゃんと見たかの?」
コクリと頷きで応える。
「あれは魔力と気を、ピッタリと均一に混ぜて使う合技の一つじゃ。扱いが難しいのが難点じゃの…久々にしたら我も大分消費してこの様じゃ」
確かにシリウスは今までにない消耗を見せていた。
しかし、消耗に見合う以上の威力。
「まだエリスには使えんが…もう少し気の訓練をしたら、徐々に教えていく。しかし…我も鈍ったものじゃのぉ…たかだかあの程度を使うのに、これほど時間とエネルギーを消耗してしまうとはのぉ…」
「なっ!」
「カカカ。何をそんなに驚いておるのじゃ?まだまだ上はある。しかも使い慣れれば、無駄がなくなる分、当然今みたいにへたることもないのじゃ。と、話はここまでにして…すまんが上まで運んでもらえるかの?上の状況も気になるのじゃ」
そう。まだ全部が終わったわけではない。
急いで二人の元へ駆け付けねば。
「そうね!シリウスは担ぐわ。イリス。行くわよ。あれ?イリス?」
「…あ、ごめんなさい…聞いてなかったです…」
「…大丈夫?上に急がなきゃって話よ。シリウスは私が運ぶから」
「そ…そうですね。急ぎましょう」
上へ向かう三人。
どうにも妹に気が入っていないのが心配になる姉。
妹は妹で、今回も役立つ事が出来なかったことを悔やんでいた。
(どうすれば…あの速さと威力についていけるの…?このままじゃ…)
二本剣を握り、踊るようにそれを振るう。
巨体を相手に怯むことは一切ない。
「力を貸して」
「まかせて!」
アクエリアスの力で、水面を走り出す。
水竜を中心に、円を描くように歩を進める。
その姿はまさしく剣舞踊と呼ぶべき代物だった。
しかし、どうにも火力が足りない。
決定打がないのだ。
「私が力を貸そうか?」
「いや…前のアレを使うと、殺しちゃうだろ」
アレとは魔族を倒した水剣のことである。
確かにあれなら斬れるが、今は殺すことではなく、止めることが目的なのだ。
「クギャアァァァァァァァァッ!」
猛る水竜の咆哮と猛攻。
水弾は更に威力をあげる。
剣でその攻撃を切り裂く。
先程までと違い、突進や尻尾、鉤爪なども攻撃に混ぜ合わせてくる。
(白刃剥落で何度も合わせたのに…まだ足りないのか…)
その耐久性を奪い取る能力を持ってしても、削り切れない。
理由は水竜の再生能力の高さ。
それを上回る速度が必須なのだが、ルーシェはすでに、現在一人で出せる限界速度に達していた。
ほとほとこの水竜には驚かされてしまう。
(でも…そのことは途中でわかっていたこと…だから途中から仕込んでいたんだ…あともうちょっと!)
途中から攻撃ではなく、回避に比重を置いていたルーシェ。
「ここだぁ!」
ちょうど一周した足元に、二本の剣を突き立てる。
白と黒の光が、ルーシェの足跡をなぞるように、左右に別れて走り出す。
水竜の巨体を囲み、光の膜を形成する。
やがて完全な球体となり、水竜を中に捕らえた。
「クギャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
そんな薄い膜が何になると言わんばかりに、水弾を放つ。
膜に当たった瞬間、それがそのまま水竜に跳ね返る。
「…ッ!」
自身の攻撃が自身へと還る。
「ギュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…」
予想外のことに驚き、ダメージを受ける。
「成功してよかった…」
剣を見て呟くルーシェ。
「今のは何?」
「精霊式の結界術だよ。剣の精霊が昔見せてくれたことがあってね。ぶっつけ本番で試してみたんだ」
「はぁ!?ぶっつけ本番って!」
「うん」
「何その自信満々の顔は…ぷ…くくく…アハハハハ!あなた面白過ぎね!」
爆笑し出すアクエリアスは実体化し、ルーシェの背中を何度もパシパシとはたいたのだった。
「クギャァァァ!」
水弾が反射したことにより、今度は何度も突進。更には尻尾や鉤爪を。
しかしそれは全て跳ね返る。
自身が傷付くことも省みず、ただただ暴れ回る。
自身の回復力により傷もすぐ治るため、本当の意味でお構いなしである。
しかし、それも限界を迎えた様だ。
「クギュウゥゥゥゥ…」
力のない声。
傷の治りが遅くなり、動きも遅くなっている。
「ルーシェ様っ!」
そんなとき、穴から飛び出てきたセレナス。
「セレナス。無事だったんだね。目的の物は?」
「ルーシェ様もご無事で何よりです!こちらです!」
七色の珠をルーシェに見せる。
「綺麗だね…それに…凄い力を感じる」
「それより…ルーシェ様。あの膜は?」
「あぁ、水竜を結界で閉じ込めてます」
「解いてもらえませんか?」
「危険だ。弱ったとはいえ…まだ危険過ぎる」
「大丈夫です。信じて下さい」
その目には力が籠っている。
「わかった。でも…危ないと思ったら…」
「大丈夫です」
最後まで言わせなかったセレナス。
今までにない彼女の姿に驚きつつも、絶対大丈夫と信じさせる何かを感じた。
突き立てていた剣を抜く。
結界が消えた瞬間に、セレナス目掛けて突撃をする水竜。
(危ないっ!)
ルーシェは剣に手をかけたが、水竜は激突することなく、セレナスの前で止まり、その頭を垂れていた。
「貴方の魂です」
セレナスは飛び、その珠を水竜の額に触れさせると、自然にそれが溶け込んでいった。
水竜の体が光を発し、当時に爆ぜた。
「きゃーーーーーーっ!」
至近距離で衝撃を受け吹き飛ぶセレナス。
それを抱き止めるルーシェ。
やがて光は一つに集まり、小さな体を再整形。いや…再構築していった。
「クゥ〜クゥ〜」
小さな子供サイズの竜がそこにはいた。
「あれは…?ん…?セレナス!セレナス!…気絶しちゃったか…」
セレナスはどうも爆発の衝撃で、気絶してしまったようだ。
「クゥー…そのお姉さん…寝ちゃった?」
「あなたは…さっきまでの水竜でいいのかな?」
「半分はそうだね。お兄さんの戦っていたのは、身体だけで、言わば抜け殻だね」
「抜け殻…つまり、その魂に当たるものが、さっきの七色の?」
「そうそう!理解が早くて助かるよ〜。助けてくれてありがとうね」
「仮にそうだとしても…姿が違いすぎない?」
「あぁ。さっきの姿にもなれるよ」
そう言うと、水竜の姿に変化する。
「な…なるほど。納得」
「わかってもらえたなら何より」
そしてまた子竜の姿に戻る。
「改めて、僕は七竜王【セブンスドラグーン】。助けてくれてありがとう」
礼儀正しく頭を下げる。
子竜の姿も相俟って、かなり愛らしい姿だ。
「永きに渡り封印されていたんだ。いやぁ。お姉さんみたいに声が届く人がいて助かった」
「どういうこと?」
「いやぁ。魔族が僕の魂である七竜の宝玉を狙っててさ。あいつらかなり強引だったから、宝玉が壊れて、死んじゃうところだったよ。まぁ魔族が何をする気だったのかも、だいたいわかるから、本当にありがとう」
「魔族!?今も下にいるの?」
「魔族なら倒したのじゃ〜」
穴から出てきた三人。
背負われたシリウスが、そう声をかけてきた。
三人の無事を確認し、胸を撫で下ろしたルーシェだった。
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