七一話 水竜
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水竜の角が光を放つ。
すると一本の水球が宙に現れ、着地しかけたルーシェ目掛けて、拳くらいの太さで、水をレーザーの様に高速で撃ち出してきた。
空中で体を捻り回避する。
「なっ!」
着弾した場所には風穴が開いている。
ウォーターカッターというものを知っているだろうか。
通常出す穴をより小さくし、高圧で撃ち出さすことにより、水でダイヤモンドをも切断することが可能となる原理である。
この際微細な石などを混ぜると、それが研磨剤となりより切断力が上がる。
水竜はこのウォーターカッターに、自身の鱗を混ぜ、研磨剤としている。
石よりもかなり鋭く尖った鱗を混ぜた結果、その貫通力は、ご覧の通りというものだ。
「これは…当たりどころが悪かったら…即」
言い終わる前に、第二射、三射と、連続して凶悪なレーザーを放ってくる。
縮地が使えるルーシェからすると、避けること自体は何ら問題はない。
と、思っていた時もありました。
水竜の角が更に強く輝き、更に複数の水球が浮かび上がる。
時に同時に、時に時差を付けてと、レーザー砲がルーシェを襲う。
仲間達も援護をしたいのだが、水竜の居場所と相性が悪い。
魔水のせいで近付くことが出来ないエリス。
あの高速レーザー砲により、下手に手を出し目を付けられれば、回避が不可能なイリス。
セレナスの攻撃力では、元よりダメージが与えられない。
更に上位の竜種になると、精神感応系にも耐性が高い。
空を泳いぎ、走れるシリウスに関しては、弱いセレナスの保護で手一杯のため、下手に動けないのだ。
ルーシェの引き付けるような動きにより、他の仲間には目がいっていないのは幸いである。
(とりあえず回避だけなら大丈夫だけど…打開策がないや。どうしたものか)
回避しながら行動パターンはどうか。
自身がどう動けば相手がどう動くのかを、観察。検証し始めた。
自分だけであれば問題なく動けるのだが、セレナスのことを考えれば、下手に介入することが出来ずに、歯痒い状態のシリウス。
「むぅ…どうしたものか…」
一番歯痒い理由は、強者であろう相手と戦えないことだったりする。
守られているセレナスの頭に、何か声が響いてくる。
(タスケテ…イタイ…シニタクナイ…イタイ…イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ…タスケテ)
「何…?何ですかこの声は…誰の声…?」
「ん?どうしたのじゃ?」
「何かが私に…助けを求める声を…」
「我には聞こえぬが、その声の主は誰かわかるかの?」
首を横に振る。
「わかりません…が、応えてくれるかもしれません。やってみます」
その助けを求める悲痛の声に、優しく語りかけるセレナス。
その行為は、恐怖に染まる心に近付くことである。
下手をするとセレナスは、その心に飲まれることもある危険な行為である。
が、何故私だけに語りかけて来るのか、どうにもその声が気になったのだ。
(あなたは誰?どこが痛いのかな?)
小さな子どもに話す様な言葉で、優しく語り寄り添うように。
すると、助けを求めていた声に引き摺り込まれる。
暗い檻の中。
鎖に繋がれた少年。
首に付けられた鎖が、ギチギチと少年を締め上げている。
「タスケテ…シニタクナイ…」
この声は…
セレナスは必死に助けようと足掻くも、鎖どころか檻にすら触ることが出来ない。
ならばせめてと、声を発しよう。
懸命に声を出そうとするも声が出ない。
その少年の前に黒衣の男が現れ、その空間ごと黒い珠に封印してしまったのだ。
(これは…もしかして…?)
そこで視界が暗転し、何もない部屋に飛ばされた。
「ワタシノコエニミミヲカタムケテクレテアリガトウ」
目の前で鎖に繋がれた青年がそう呟いた。
「今の…貴方の過去ですか?」
「ソウダ。ソシテイマ…シニヒンシテイル」
「どうすれば助けられますか?」
「イマ…ワタシノニクタイトタマシイガ、ブンリサセラレテイル…ヒトツニモドシテホシイ…」
「魂と体…それはどこに?」
「カラダハイマアバレテイル…タマシイハトビラノムコウニ…ハヤク…モ…ジ…ナイ…」
「待って!貴方は?誰なんですか?」
「ワ…シハ…ウ…タ…」
そしてセレナスの心は戻ってきた。
「はぁ…はぁ…今のは…」
「だ、大丈夫かの?かなり顔色が悪いのじゃ…」
「大丈夫です。それより…扉は近くにありますか?」
「扉?ふむ…少なくとも近くにはなさそうじゃったが…」
他の仲間にも念話を繋げ聞いてみた。
(扉?それは…この!水竜のいた門のこと?)
回避しながら、何とか話すルーシェ。
(たぶんそれです!そこにたぶんこの水竜の魂が)
(でも…そこ!への道は!水竜が出てくるとき…にぃ!崩壊したので、通れないはず)
回避しながらのため、所々声が上がるのは仕方がないのだが、どうも聞き取りにくくて困る。
(ふむ…今は土砂で埋まっておるということじゃな…それなら我が何とかしてやるのじゃ。エリスとイリスもここで手伝えることはいじゃろう。一緒にくるのじゃ)
その言葉に逡巡する二人。
(いつまでも回避し続けられるかわからない。二人も一緒に早く探して)
早口に捲し立てたルーシェの声に後押しされ、二人はシリウス達と共に行くことに。
シリウスは地に手を触れ、その意志に従うように、地下へと道が出来ていく。
姉妹へと続く穴を掘り、まずは合流。
そして最短ルートで門まで続くトンネルを作り出す。
「一直線じゃ。急ぐかのぉ〜」
遅いセレナスを担ぎ、そこを飛ぶように走り進むシリウス。
イリスは魔法で表面だけを凍らせ、その上を滑るように進んでいく。
「斜めの下り専用、高速移動です」
かなりの速さで移動する妹。
私もイリスを担ぐべきかと思ったのだが、その心配は無用だったようだ。
「お姉ちゃんおいていきますよー!」
と、声が穴の先から声が響く。
慌てて追い掛けるエリスだった。
全員がいなくなったことを確認したルーシェ。
「これで…回りを気にしなくて済むね」
ルーシェはこの強敵を相手に、実験をすることにした。
「これだけの巨体だから、多少無茶しても大丈夫だよね?」
無邪気さを感じさせる笑み。
いや、その笑みは見る者によっては、狂気の類に感じるかもしれない。
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