七十話 地底湖の先に
うーん…
本気で冷えてますね…
誰か温めてください…
主に財布の中身を…
更に奥へと急ぐ最中、どうにも違和感が拭えないエリス。
「何か…私達自身が強くなったのもあるから、余裕はあるんだけど…」
「魔獣が以前来た時より、強い…かな?」
そう。以前出会った魔獣に比べ、個体が一回り大きくなっていたり、力や速さがましていたり、毒針を持つようになっていたり…明らかに強くなっているのだ。
「たぶん…サラマンダーがいなくなったことで、魔水を摂取した個体が多いんだと」
ルーシェの推察は概ね正しい。
「でも…そうだとしても…こんな短期間でここまで魔獣の数が増えるかな?」
そう。おかしいのだ。
確かに魔水があれば成長は早いのだが、それにしても数が極端に増えているのだ。
元々飛竜が餌を求めて来ている段階で、数が増えているのは予想していた。
それにしてもこの数は異常だ。
自身の警戒レベルを1段階上げることにした。
その後も何度かの戦闘を繰り返しながら、目的地の地底湖に到着した。
(これは…凄いわね)
(慎重に進みましょう)
セレナスの魔法により、声を出さずに会話をしながら、地底湖のある空洞を覗き込みながら、慎重論を話す姉妹。
それに同意して頷くセレナス。
だったのだが…そんな三人の慎重論は、この人には全く届かなかった。
ルーシェが睡眠薬を使おうか、はたまた混乱による同士討ちをさせるべきかと悩んでいたところ、シリウスが両手を地面に。
数瞬後、空洞内の地面だけが激しく揺れ出す。
激しい揺れに見動きの取れない魔獣達。
さらに天井の崩落。
落ちてくる岩は何故か全て錐系の鋭い形。
圧殺するのではなく、その鋭い岩の牙による無数の突撃。
揺れが収まったときには、見える限り関しては、全ての魔獣が息を引き取っていた。
「急いでおるのじゃろ?」
えっへんと薄い胸を張るシリウス。
「…今のは何をしたの?」
「ん?我は地を司る一柱の一人じゃ。この程度のことなら造作もないのじゃの〜」
うん。
規格外過ぎる。
深く考え過ぎてはいけないのだ。
全員がそう結論に至った。
「さて、地底湖の調査をやりますか」
ルーシェがいそいそと道具を広げ、水を汲み何かの紙を浸けたりしている。
「私達に何か手伝えることは?」
「ルーシェ様!何なりお申し付け下さい!」
正直言って…ない。
こういった作業はドルマならまだしも、パーティ内だとルーシェ以外誰も何も出来ないのだ。
悩んだ挙げ句、何とか放り出した指示。
「エリスとイリスは、二人で空洞内じゃなくて、その周辺の確認を頼もうかな?セレナスはそれに同行して、テイムの訓練を。シリウスは…そういえば、この洞穴ないの構造がわかってるみたいだったけど、隠し通路とか色々調べられるのかな?」
初めて来たにも関わらず、スタスタと先頭を歩いていたことを思い出したルーシェ。
「ふむ。簡単なのじゃ」
「それじゃあみんなそんな感じで」
一先ずここでの脅威はなさそうなため、何とも緩い雰囲気のみんな。
すぐにわかったのは、以前に比べて魔力が多く含まれていることだ。
「なるほど…この濃度だと、確かに成長は早いはず…ですが、それだけのはずはないよね…」
低級の魔石の成分から、ここまで濃くなるはずがない。
地底湖内部を調査しなければいけないのだが、この濃度の魔水は、人間には毒でしかない。
どう考えてもこの中を泳いで調べることは出来ないが、原因は十中八九この中なのだ。
悩んでいるところ、首飾りのアクアマリンが輝き出した。
「お悩み中に失礼」
「アクエリアス?どうしたの?」
「力になってあげようと思ってね」
「どうやってさ?」
アクエリアスは実体化。
掌から光を放ち、ルーシェを包み込む。
「これは?」
「試しに足を水に浸けてみて」
言われた通りにやってみる。
「あれ?沈まない?」
「それだけじゃないわよ」
指をパチンと鳴らすと、地底湖の水がルーシェを包み込む。
飲んだら死ぬ!と、慌てて口を手で塞いだのだが…おかしい。
手などの体どころか、衣服や装備など、光に覆われているところは、一切濡れないのだ。
「濡れないだけじゃないわ。水中でも問題なく呼吸も可能。しかも移動も自由自在なのよ」
「これは…便利だね。素直に助かるよ」
「どういたしまして。それじゃ早速潜る?」
「ちょっと待って」
近くにいたシリウスに事情を説明し、地底湖へ潜ることを伝えた。
「そんな楽しそうなこと、我もやってみたいのじゃ!」
と、駄々を捏ねられたのだが、調査が終わってからということで、一先ず納得してもらった。
「それじゃあ行ってくるから、三人が戻ったら伝えてね」
「むぅ…やはり我も行ってみたかったのじゃ…残念…気を付けて行ってくるのじゃぞ」
湖内の景色に驚くルーシェ。
普通の地底湖とは違い、魔石の放つ輝きにより、底から輝いているのだ。
「ここまで綺麗だとは思わなかった」
「驚いた?と、そんなことより原因調査だったわね?あっちの奥の方から、力を感じるわ」
アクエリアスの指差す先には、巨大な岩がある。
その裏に何かあるようだ。
「うん。まだ奥に繋がってるみたいだね」
「たぶんそこに原因があるはずね」
何故かそこから先の穴には魔石がないらしく、かなり暗そうだ。
入り口から入った光も、向こう側では闇に飲まれてしまっている。
「アクエリアスはシリウスみたいに、何があるとかはわからないの?」
「ごめんね。この濃過ぎる魔力で、精霊も妖精もここには住めないみたいで、聞いたりできないのよ。水の流れは読めるから見てるんだけど…何かで封鎖されているみたいで…」
何とも歯切れの悪い物言いだが、わからないものは仕方ない。
というわけで、奥に進んで直に確かめることに。
「なっ!でっかい!」
思わずルーシェはそれを見て声を上げた。
全長20mはあるであろう巨大な門。
それを塞ぐ様に、これまた一際デカイ鎖が、幾重にも掛けられている。
そして、急にドゴォン!と、激しい衝撃が、門の向こう側から響いたのだ。
ミシミシギシギシと、異音を立てる鎖。
よく見ると門が部分的に変形しており、僅かに隙間が出来ている。
「あれが…原因…だよね…?」
「あの小さな隙間から、かなりの力が漏れてるから…そうだと思うわ…」
二人の意見が一致したとき、門に再度何かがぶつかる、激し過ぎる衝突が起こった。
「これは…不味くないかな?」
門へと激突する間隔が、少しずつ、確実に早くなっている。
いや、早くなるだけではなく、力も増しているようだ。
そして、衝突の度に門と鎖がさらなる悲鳴を上げている。
その頃。特にテイム出来そうな魔獣はおらず、また、周辺には特に脅威もなさそうだったため、三人はその報告をしに戻ったのだが、ルーシェの姿はなかった。
気付いたシリウスが事情を説明。
「魔水の濃度が高過ぎるから、『くれぐれも近付き過ぎないように。また、絶対間違っても飲まないこと』とのことじゃ…ん?何の揺れじゃ?」
微弱な揺れを感じるシリウス。
「さっきのシリウスさんの技の影響で、地盤が緩くなってしまい、軽度の地震が起きたとか…ですか?」
「そ、そうなのか?いや…我はあの後、しっかり固めたのじゃがのぉ…」
自信のなさそうな声。
「来るときみたいに、地面から情報は得られないの?」
「いや、さっきからやってはいるのじゃが、どうも水が邪魔して、詳しくはわからんのじゃ」
そんな折、セレナスに異変が。
「あ…頭が痛い…この声は…?呼んでる…?私を…?」
ふらつく足取りで、地底湖に近付くセレナスを、慌ててエリスが引き止める。
「セレナス!何してんのよ!?ルーシェが入ったら危険って言ってたでしょう!」
更に激しい揺れが起こる。
そして巨大な水柱が立ち、その天辺からルーシェが飛び出て来たのだ。
「ルーシェさん!」
「みんな離れて!危険だ!」
「キシャーーーーーーーーーーーッ」
水竜の雄叫びが空洞内で反響し、更に激しく響き渡った。
前書きが少し茶番風味でした。
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さて、今夜も確定申告の準備じゃぁ…
徹夜かぁ…




