六八話 妨害工作
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ギャバンの部下の一人が、最初こっそりと馬で付いて行き、動向を探るように命令を受けていた。
向こうは馬が二匹とはいえ馬車だ。
軽装単騎の自分よりは遅いだろうと、高を括っていたのだが…
「な…なんでぇいあの速度は…クソッ」
男の目論見は見事に外れ、後ろ姿どころか、起こしたであろう土煙すら、消えてなくなってしまっている。
方向はわかっているのだ。
追い駆けるべきか、急ぎ戻り報告すべきか…
暫し迷った挙げ句、行き先はわかっているのだからと、ボスへの報告を優先させたのだった。
「うん…予想通り引き返しましたね」
小精霊に付けていた男の動きを聞き、みんなに話すルーシェ。
「じゃあここからは作戦通りに二手に分かれるってぇこったな」
ここからの作戦。
アル達は焔の洞穴付近にある村へこのまま向かってもらう。
村の防衛。
人命優先のため、ルーシェ作の生薬を大量に渡されている。
ルーシェ達で洞穴に向かい、早急な対応をすることで、ギャバン達が仕事を全くしなかったという方向にし、緊急クエストでの大きな失態という汚点を、作ろうという腹積りだ。
「ふむ…アルの言うておった通りじゃのぉ」
地面に手を付け、音を感じ取っていたシリウスが呟いた。
「ギャバンの手口だ。こういうとき、一人だけ付けさせるんだが、これは罠だ。振り切ったと油断させたところ、別でこっそりと遠目につけさせ、こちらの妨害や作戦を逆手に取ろうっていうことをよくしやがるんだ」
その言葉の通り姿の見えない距離で、常に一定で付いて来る足音を複数拾ったのだ。
「じゃあこれも作戦の通りにやるのっじゃ!」
そう言って地面をあちこちぶっ叩く。
少しすると、遠くから馬と人の悲鳴が響いてくる。
「やり過ぎてないよね?」
「ふむ。少し待つのじゃ…少なくとも馬は大丈夫そうじゃの。元気に走って逃げ出しておるのぉ〜」
ダンジョンワームに使った地中爆発の応用で、馬の目の前を爆発させたのだ。
突然の爆発により馬が暴れ、ギャバンの部下達は全員落馬してしまったようだ。
ルーシェからの睨むような視線に耐えかね、
「まぁ何人か骨折くらいはしてるみたいじゃが、死んではおらんみたいじゃのぉ〜」
そう溢していた。
「とりあえず…これで時間もより稼げるってもんだな。じゃあ作戦通りに。また後でな!」
「はい!よろしくお願いします!」
そう言って二手に分かれたのだった。
その暫くあと。
ゆっくりと進行していたギャバンの元に、報告に戻った単騎の男。
「ギャバンさん!アイツら馬車だってのに、俺っちを乗せただけの馬より速いんでさぁ!このままじゃ間に合わねぇかと!」
「ククク…報告御苦労…既に手は打ってあるから安心しろや」
「?ギャ…ギャバンさんがそう言うなら…報告も済んだので、失礼しやす」
男は下がっていった。
更に暫くしたあと、見張りからの報告に声を荒げる羽目になるのだが、このときのギャバンには知りようもないことだった。
ルーシェ達と別れたアルは、馬車の操作を仲間に任せて、追加の妨害工作をしていた。
「アル…何を撒いてるのよ?」
「あぁ。ルーシェが行きながらコイツを撒いとけって頼まれてんだよ」
「…ヤバいもんじゃないでしょうね?」
「あぁ。魔物寄せとかじゃあねぇよ。んなもん使う奴じゃあねって」
口ではこう言っているが、ルーシェから受け取るときに、今のネオンと同じ事を聞いていたりするが、そこは内緒だ。
暫く走り後を見ると、視界が歪んで見える。
「いやはや…こいつぁたまげた」
「あれは…何?」
「蜃気楼とかって言ってたっけな…空気中の水分量と光がどうのとか言ってたが…何か幻というか幻影というか、そういうもんを見せて、進行方向を間違わせるとか言ってたっけな?」
「はぁ…?よくわからないけど…凄いことだけはわかるわね」
アルパーティの面々は今回の騒動で、改めてルーシェ達を敵に回してはいけないと、再認識したのだった。
「まぁそんなことより、こっちはさっさと村へ向かうぞ。やれるこたぁやった。あとは急ぐだけだ」
「わかってるヨ〜!はいヨ〜!」
御者鞭を振る素振りをするパルコ。
馬の獣人である彼女は、御者をするにあたって、鞭は全く必要なかったりする。
馬の言葉がわかるからだ。
それでも鞭を持つ理由は、『コレは様式美というやつヨ〜』とのことである。
一方ルーシェ達は、同じ様に蜃気楼による妨害工作をしていた。
それどだけではなく、所々地面を殴り、嫌な段差や溝を、パット見にわからないようそこらかしこに、シリウスがこっそり作っている。
不審な動きに気付いたルーシェに聞かれたところ、素直にそれを伝えた。
「なるほど…確かに良い考え。でも残したままだと後で他の人に迷惑になるだろうから、ほどほどにね」
「心配せずとも後で神力を解けば、自然に元に戻る故、安心するのじゃ」
そういった妨害工作のアレコレ。
気付けば道を間違えていたり、馬車がハマったりなど、進行速度がどんどん遅くなっていく。
「クソかぁっ!一体どうなってやがる!」
荷台の中で、床を踏み抜かんばかりに地団駄を踏むギャバン。
暴れることを予想した部下達は、全員別の荷台へ移っている。
結果として一つの馬車だけに重量が加算され、更に進行が遅くなっていたりするのだが、それより不機嫌なギャバンに当たられることを回避していたりする。
まさに負のスパイラル状態である。
「クソっ!クソっ!一体何でこんなことに!」
更に地団駄を踏んだ結果、床に穴が開く。
破壊により、少し頭に昇った血が落ち着いてくる。
冷静さを取り戻したギャバンは、そこであることを思い付いた。
「お前ら!進行方向を変えんぞ!」
「へ?へい!?どっちに向かえば良いんでしょうか?」
「風上はどっちだ?そっちから迂回しろ目指すは村じゃねぇ!洞穴だ!」
「わかりやした!ただ…風上へ向かうと、遠くなりやせんか?」
「それでいいんだよ!いいからさっさと言うとおりにしやがれ!ぶっ殺されてぇか?あ゛ぁ゛ん゛!?」
「ひっ!わ、わかりました!」
進路を変え、強く鞭を振るう御者。
「このまま出し抜けるなんて思ってんじゃねぇだろうな…目にモノ見せてやる…」
額に青筋を浮かべるギャバンが、そう呟いていた。
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