六七話 ルーシェの焦りと成長
ティラミスが食べたくて、今朝はフィンガービスケットを焼いてました。
甘い匂いで、胸がいっぱいになってしまった…苦笑
開始早々、卑劣な手段で陥れる気満々だったギャバンは、アルの声を聞いた直後に、意識を刈り取られたのだった。
「ふむ…他愛も無いのぉ…情けない…」
ただただ冷静に的確に、開始直後に目にも止まらぬではなく、映らぬ速度で近付き、貫手を一閃。
ギャバンは自慢の装備も得意の絡めても、何も意味をなさない一撃により、文字通りの瞬殺だった。
一撃で沈んだリーダーを、慌てて介抱するために、担ぎ運ぶギャバンの部下達を横目に、
「しかし…確かに俺が頼んだことだが…いくらなんでもなぁ…」
審判を役のアルが、その決を下す必要すらない状況に、そう呟く他なかった。
「アルといったの?お主の言う通りになったのじゃ。これで良いかの?」
「いやぁ…たぶんアレじゃ記憶にすら残ってないだろうからなぁ…と、それより後でルーシェに、俺ん所に来るように言っといてくれや」
「心得たのじゃ」
その日の夜、呼び出されたルーシェは、アルのテントへ訪れた。
「お呼びとのことですが」
「おう。来たか。ちぃっと座れや」
言われるままに腰を下ろすルーシェ。
「話しってぇのはな、ルーシェ。お前さん…焦り過ぎて、回りが見えてねぇだろ?」
「…」
「その様子じゃあ自覚はあるみてぇだな」
そう。いつもルーシェだったら、あの様な事態にならないように動く。
よしんばどうしても衝突を避け得れない事態になった場合は、敵意を自分だけに向けさせていただろうし、あの様な条件は、例え負けないのがわかっていたとしても、飲まなかったはずだ。
「それだけじゃねぇ。下手したら殺しちまっていたって自覚はあるか?」
その言葉に、ハッと気付かされるルーシェ。
「確かに決闘でのことだから、殺したって別に咎められることじゃねぇが…いつものお前さんなら、そうはしなかったはずだ」
返す言葉が見つからない。
「朝の段階でな、お前さんの様子を心配した嬢ちゃん達から相談を受けていてな…ギャバンの性格的にもこうなるとわかってたから、シリウス嬢ちゃんに先に頼んでいて、正解だったってわけだ」
『たぶんギャバンはイチャモン付けてくる。実力的にルーシェが負けるこたぁ絶対にねぇが…今の冷静さがない状態で当たれば…』
『間違いを起こすじゃろうな』
『そういうこった。それに、仕事が終わるまでの間、ずっと彼奴等に付き纏われるのは、面倒くせぇだろ?だから俺が決闘しろって持っていくからよ。格の差ってヤツを、見せ付けてやってはくれねぇか?』
『ふむ…なるほどのぉ。了解したのじゃ』
というやり取りが行われていた。
「まぁ言いてぇこたぁわかるよな?」
「はい…ご迷惑をおかけしました」
「バカヤロー。俺のこたぁどうでもいいさ。説教するのも、年長者の努めみてぇなもんだ。それより、謝るなら俺じゃねぇだろ。早く行ってこいや」
そう言ってルーシェの背中を、思いっ切り引っ叩いて送り出したのだった。
「今のアル、説教臭いオジサンみたいだったわね」
ニヤニヤ笑いながら、ルーシェのいなくなったテントを覗き込むネオン。
「ウルセェー!俺だってんな柄じゃあねぇってわかってるってぇの」
悪態を付いたアルに、酒瓶とグラスを突き出すネオン。
「な、何でぇ?」
「ま、頑張ったんじゃないの?ご褒美に私からお酒よ」
「…珍しいこともあるもんだな?」
「勿論今は野営中だから一杯だけよ」
「そこは大盤振る舞いじゃあねぇんだな…」
ガックリ肩を落とすアルに、優しい笑みを送るネオンだった。
自分達のテントに戻ったルーシェ。
「みんな…まだ起きてる?」
テントの中では、荷物や装備の点検をしている仲間達が。
「あのぉ…その…ごめん!心配かけて…迷惑かけて…本当にごめんなさい!」
「ちょっと…突然どうしたのよ」
唯一訳知り顔のシリウス以外、みんな謝罪に驚いていた。
アルから話しを聞いたこと。
そして自身の過ちに気付かされたことを話した。
「だから…ごめん…」
「はいはい。別に怒ってるわけじゃないから、謝罪はいらないわよ」
「そうですね。ただ、確かに空気はピリピリしてたので、そこは良くないことでしたね」
「事情が事情でしたし、仕方のないことだったかと」
「我はしたいようにしただけじゃ。別にお主からの謝罪も感謝も特にはいらぬが…どうしてもというなら、旨いものをよろしくなのじゃ。酒はまだイリスに止められとるからのぉ…」
みんなそれ以上は言うなという空気だった。
それでも言いたくなってしまったルーシェ。
「みんな…ごめん。そしてありがとう」
温かく柔らかい空気の中、その日は過ぎていった。
翌朝アルに会ったとき、昨晩のお礼を伝えたところ、過ぎたことだ。と、一笑に付してくれた。
「おぅ。今朝は良い顔になってんじゃねぇか」
「これならもう大丈夫そうね」
自身のテントの片付けに向かうルーシェの背中を見送りながら、アルとネオンはホッとした表情をしていた。
いよいよ出発というときに、ギャバンの部下の一人が、アルとルーシェに声を掛けてきた。
「昨日の決闘の影響で、うちのボスが動けねぇってよ。全く…どうしてくれんだよ」
「決闘のルールくらい知ってんだろ?何いちゃもん付けてんだ?」
部下の男をギロリと睨むアル。
「ちっ…とりあえず、うちは動けねぇからな…クソっ」
言うだけ言って去っていった。
「アルさん…すみません」
「なぁに。お前さんのせいじゃあねぇさ。決闘で負けた腹いせってところだろうしな。それよかどうするよ?」
ルーシェの表情や空気から、焦り急いでいることを知ったギャバンからの、嫌がらせであることは間違いない。
「そうですね…ならいっその事、置いていきませんか?いても進むのが遅いだけですし」
さらっと言ってのけるルーシェの顔には、以前の無邪気さが戻ってきていた。
「その顔は…何か考えがあるってぇこったな?」
こくりと頷くルーシェの顔には、笑みが溢れていた。
ルーシェ組とアル組の馬車は、普通の馬車よりかなりハイペースで移動していた。
「こいつぁはぇぇな!」
「そうでしょう!」
ルーシェの用意した俊敏性と持久力を上げる薬を、馬に飲ませたのだ。
「あの人達、いても面倒くさいだけですから、ほっときましょう。アルさん達と僕達だけで、さっさと行って、全部解決して、手柄を二組で山分け…ってのはどうでしょうか?」
というルーシェの言葉に乗った結果が、今の状況だ。
「この速度で行けば、かなりの速さで到着するな。確かに時間は稼げるだろうが、本当に彼奴等が着くまでに、解決出来るのか?」
「原因が完全に不明のままでしたら、難しかったと思いますが、大体の検討は付いてますので」
「えっ!?ルーシェ君。それは本当なの?」
幌をめくり、御者側に顔を出したネオンも、話に加わる。
「はい。以前僕達が焔の洞穴に入った際、地底湖を発見しました」
「その地底湖に何かあるってぇのか?」
「はい。以前あそこにはサラマンダーが巣を作ってました。理由はその地底湖に溶け込んだ、魔力を求めてのことでした」
地底湖のそこらかしこに魔石が混じっていたため、その魔力が溶け込んでいた。
その魔力水を未だに保存して、少しずつ製薬作業に使っているルーシェ。
「おそらく今回もそこが原因でしょう」
「でも飛竜がそんな奥まで行くのか?」
飛竜は基本翼を折り畳むのが苦手である。その性質上、洞窟などにはあまり入りたがらないのだ。
「飛竜の目当ては、地底湖事態ではなく、そこで肥太った魔獣達だったらどうですか?」
「なるほど…確かサラマンダーを倒したんだったよな。他の魔獣がその地底湖の魔力で、大量繁殖しちまったら…溢れ出てくるしかねぇわな」
洞穴のサイズには当然限界がある。
溢れ出す大量の魔獣は、飛竜にとってはこの上ない狩場なのだ。
「そういうことです。前回入ったお陰で、ルートも大丈夫です。原因も検討がついていたので、地底湖の対応策もしてきています」
「なるほどな…って、お前さん、ルナマリアにはそのこと話してなかったよな?」
その言葉に、口笛を吹くルーシェ。
「プッ…くくく…いやぁ。お前さんも冒険者らしくなったじゃねぇか」
笑いながらルーシェを褒めたのだった。
作者よりお知らせ。
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