六四話 哀れなダンジョンワーム
書き忘れてましたが、先日誤字報告ありがとうございます!
なるべく気を付けているのですが…
またご指摘頂けると助かります!
アクエリアスの話していたであろう転移門を潜る。
中は亜空間のようだ。
不思議な浮遊感。
何処かに体を引っ張られる感覚。
一転、視界がえらく荒涼とした、激しい戦闘の跡地の様だ。
「ここはどこだろ?」
グルリと回りを見る。
ちょうど背後に巨大な何かが倒れ伏している。
「わっと!び…びっくりしたぁ!これはなんだろう?」
「今の光の柱は何でしょうか?」
「ん?本当ね。反対側ね…こいつ本当にデカくて、回るだけでも一苦労だわ」
走って行く姉妹。
その後ろでは、
「何じゃ。助けに行く前に帰って来おったみたいじゃのぉ〜」
と、シリウスは呟いていた。
ルーシェ達を見つけ、お互いに無事の再開を喜び合う仲間達。
少し遅れてその輪に加わったシリウス。
「ふむ…ピンピンしておるようで何よりじゃのぉ。ふむ…今夜は酒盛りかのぉ?」
「シリウスさん?当然まだまだ禁酒ですよ?」
「そ…そんな!此奴を倒すのに、あんなに強力してやったのじゃぞ!?そんな無体過ぎるのじゃ…」
「それはそれ。これはこれです。」
二人のやり取りに、笑い出した面々。
「ん…ここは…?」
その声に起こされるセレナス。
「おはようセレナス!無事で何よりね!」
「エリスさん…ということは、外に出られたのですね…すみませんルーシェ様。最後の最後まで、足手まといのままでした…」
「そんなことはありませんよ」
そんな明るい会話をしていると、ズルズルと何かが動き出す嫌な音が。
「ん?これは…何の音でしょうか?」
「そういえば…アクエリアスが、もうすぐダンジョンワームが目覚めるから、急いで出るように言ってたっけ?」
「「!?」」
「ふむ…予想よりタフ過ぎるようじゃのぉ…」
「ギャシュアアァァァァァァァァァ!」
ダンジョンワームが雄叫びを上げると同時に、エリスはイリスを。
ルーシェはセレナスを抱えて跳び出した。
そんな中、悠然と構えるシリウス。
「ふむ。飲めぬ憂さ晴らしにブチのめすのじゃ…」
起き上がったダンジョンワームより更に高く飛び、先ずは右踵を振り抜く。
その反動を利用して、上体を捻りながら回転し、左踵を即座にほぼ同位置に振り抜く。
「槌天誅」
二連続の踵落としで、地面に頭部を叩きつける。
その頭部を掴み、その小さな体では到底想像出来ない力を発揮する。
「引きずり出してやるのじゃ…ふんっ!」
頭部を起点に綱引きを始める。
「でぇりゃあぁぁぁぁぁぁあっ!」
気合を込めて一本背負い。
地中からブチンッ!と、嫌なちぎれる音が。そして地面から体が引きずり出される。
「ピュギュウゥゥゥゥゥウゥウウウ!」
「ふむ…流石にダンジョンと繋がる部分はちぎれてしもうたみたいじゃのぉ…」
そこからはシリウスの憂さ晴らし名目の暴力の嵐。
しいて表現するのならば…良い子にも悪い子にも、見せてはいけない類のものだった。
何が一番酷いかというと、絶妙な力加減により、殺さないことは勿論、気絶させることもなく、ただただ嬲り続ける、まさに終らぬ生き地獄。
触らぬ神に祟りなしというが…八つ当たりの憂さ晴らしに付き合わされるダンジョンワームに、思わず同情をしてしまう。
「ふむ…流石に飽きて来たのぉ〜」
まさに虫の息といったダンジョンワームを足蹴にして仁王立ちのシリウス。
それを見て立ち竦むセレナス。
ようやく長い生き地獄に終わりが来たようだ。
「さらばじゃ」
そう言って、両手に溜めた特大の闘気砲をぶっ放し、ダンジョンワームが文字通り消炭となり、消えていった。
「ふぅ…スッキリしたのじゃ。ん?皆どうしたのじゃ?」
あまりの暴力。
破壊の権化とも言うべき、悪魔のような所業に、全員何も言えず、開いた口が塞がらないといった様子。
セレナスに至っては、怯えてカタカタと震え上がる始末だった。
暫くし、みんな落ち着いて来たのを見て、ルーシェはダンジョンでのことを話そうとしたところ、先に移動したほうがいいと、シリウスから言われた。
「彼奴が作るダンジョンは、その土地を食らって、体内でそれをダンジョンに作り変えながら、産み出して行くのじゃ。つまりこの一体の地下は空洞が多いのじゃ。その上先に我も爆発を何度も起しておる。いつ崩落が起きてもおかしくはないのじゃ」
とのこと。
移動前にダンジョンワームが残した牙や皮膚片などを回収する。
旧王都跡地とはいえ、ここは王の所有する土地である。
これだけボロボロにしてしまったのだ。
ちゃんとした理由を説明する材料がないと、下手をすれば捕まり斬首される。
そうまでいかなくとも、多額の賠償請求されるかもしれないからと、姉妹二人に言われたからである。
先だっての事で、王家に多大な貸しがルーシェにはあるので、不要な心配だったりする。
一先ず安全なところまで、シリウスの指示で移動した。
「そういえば、残ったダンジョンってどうなるよ?」
「心配せんでも大丈夫じゃ。製作途中で切り離した故、数日で崩壊するのじゃ。別の物が棲み着かぬ限り、魔獣ももう出てくることはないはずじゃ。」
「さて…ダンジョンであった事を話すね」
シルフィが消えてしまったこと。
アクエリアスから聞いたことを話した。
「というわけで、そろそろアクエリアス、出て来て話してくれませんか?」
いつもより棘のある声で、胸元のアクアマリンに話しかける。
それに応えるように、淡い光がだんだん強く輝き出すと同時に水が溢れ出す。
その水が一つに集まり、人型に整形していく。そしてアクエリアスの姿を作り出した。
「シリウス様。お久しゅうございます。ご機嫌如何でございましょうか?」
神であるシリウスに気付き、逸早く挨拶をした。
「ふむ。久しいな。しかし…お主は我の眷属ではないのじゃ。特にそんな堅苦しい話し方をする必要はないのじゃ」
「あ、本当ですかぁ〜?よかった〜。堅っ苦しい喋り方、苦手なんですよね〜」
顔はテヘペロでそう言った。
凄い速さで一気に堅苦しさがなくなる。
合わせて威厳もなくなった気がするが、あえてみんなスルーしていた。
「そんなことより、シルフィにはどこに行けば会えるんですか?」
「そんなピリピリしなくても、ちゃんと教えて上げるから。ね?落ち着いて?風の大精霊のところへ行きましょう。そこの流れに還っているはずだから」
「流れに還るとはどういうことでしょうか…?」
「イリスちゃん…だったわね?そもそも大精霊以外の精霊や妖精が、どのようにして生まれるのかは知ってるかしら?」
「?」
「私を含めて大精霊っていうのは、そもそも自然界のゲートのような存在なの。その自然界の恩恵を、世界中に届けるために、精霊や妖精はいるし、生み出されるのよ。もしその役目の途中に、力を使い切ってしまったらどうなるか?実体化する力も使い切ると、粒子になって、消えて、またゲートにて新たに力を与えられ、生み出されるのよね」
「循環…だから流れに還るということ…ですか?」
「そういうこと。だから会うためには、風の大精霊のところへ向かうことが、一番早いのよね」
話を聞き場所を教えてもらった。
「昔と変わらないなら…凄風の谷に神殿があるはずよ」
「聞いたことないわね…」
「私もありません」
「我が今の地名など、知ってるはずなかろう?そもそも我の眷属ですらないしのぉ〜」
「私も…申し訳ありません…」
と、皆に言われてしまった。
ギルドへ行けば、何か資料があるかもとのことで、一度王都へ戻り、調べることにした。
この日はもう遅いので、野営をすることに。
疲れていたのか、食後にみんな早々に眠ってしまった。
皆寝静まったことを確認したルーシェは、首飾りを持って、一人みんなの元から離れ、アクエリアスに語りかけた。
「…ここなら皆に聞こえないね。さて、何でアクエリアスは僕のことを知っていたのか、話してもらいましょうか?僕は何者で、どうしてシルフィ達の近くで…里の森で捨てられていたのか」
アクエリアスはルーシェと精神世界で会ったときに、知っている素振りだった。
「…話したいのは山々なんだけど…それはまだ待ってもらえないかしら?」
姿は現さず、宝石のまま話すアクエリアス。
「理由は?」
「それもまだ。ただ、四大全てを集めてくれないかしら?みんな集まったとき、必ず話すから」
首飾りを地面に叩きつけたい衝動に駆られるが、何とか理性で抑え込んだ。
「わかりました。ただし…そのとき教えなかったら…」
「大丈夫よ。集まることで、全てが自然にわかるから」
釈然としない。が、今は断固として話さないということが、アクエリアスの出て来ない態度と声音でわかったため、聞き出すことは諦めた。
「わかりました。でも、これだけは教えて下さい」
「?何かしら?」
「四大って何ですか?」
その質問に、宝石の中にいるはずのアクエリアスが、ズルっと転けたように感じたのだった。
作者「さよなら…シルフィ…」
シルフィ「死んでないから!」
作者「えぇ〜!化けて出たぁ!」
シルフィ「う〜ら〜め〜し〜や〜…って、そんなわけないでしょうが〜!」
作者「ナイスノリツッコミ!」
シルフィ「もうえぇわっ!こんな馬鹿はほっといて、皆様いつも読んで頂き、ありがとうございます!ブックマークや高評価、どんどんよろしくお願い致します!」




