三六話 秘密の地下にて
年明け早々、緊急事態宣言がまた関東で出るかも…みたいな状態ですね。
医療従事者の方々、いつも本当にご苦労さまです。
出た場合、皆様が読んで少しでも、辛い時間が緩和されればと思います。
負けるな地球人!
階段から地下へと降りる三人。
思っていたよりもかなり深そうだ。
人一人がギリギリ通れるくらいの道幅で、ところどころ壁に魔石が嵌め込まれているおかげで、道自体は明るいのがまだ救いだった。
(先に下まで降りたけど、特に危険な物は何もないわね。扉が一枚あるだけ)
(シルフィありがとう)
先行偵察したシルフィの報告を受け、ある程度安心して進むルーシェ。
その後ろを歩く二人は少し不安げなものの、先頭を行くルーシェに、遅れないように付いて歩いた。
一番下は少し広くなっており、三人で余裕を持って横並びになり、扉を調べ始めた。
「特にトラップがあるようではないな…でも開きそうにないし…」
そう言いながら、扉をノックしたり謎ったりと、調べを進めるルーシェ。
「しかし…変な扉ね…取ってもなければ鍵穴もないのに、きっちり閉まってる」
エリスもルーシェと一緒に扉を調べる。
「本当ですね…特に扉の周りも…ここの部屋にも鍵穴やヒントになりそうなものは何もないですし…」
イリスの方はあれこれと以外を調べている。
「もしかしたら…二人で一緒に扉に触ってみて?」
その言葉に素直に従い、姉妹は同時に扉に触れると、まるで最初からなかったかのように、扉が消えてなくなった。
「やっぱり二人に反応したね」
「どういうこと?」
「上でもそうだったけど、ここは恐らく二人の血に反応して、開くようになってるんだと思う」
「そうなんですね…なるほど…でも…何で私達二人での反応なんでしょうか?」
「検証したわけじゃないから、確実なことはわかりません。元々開けるために二人必要なのか。それとも二人が双子のため、特殊な何かが足りなかった可能性もあるかと」
イリスの質問に、自分なりの仮説で答えたルーシェ。
「とりあえず進む?」
エリスが中の様子を伺いながら、二人に声をかけた。
奥へ進む三人。
目の前の床には何かの魔法陣がかかれていた。
「これなんだろ?」
「うーん…なんでしょうか?」
「僕も初めて見る術式ですね…この魔法陣を囲むように書いてあるのは、何の文字だろ?」
魔法陣はまだ生きている様だ。
不思議な輝きを放ちつつ、その役目を果たそうと、今か今かと待ち望んでいるかの様だ。
「嫌な気配は感じないね…どうしようか…」
みんなで悩んでいるとき、うっかり足元の段差に躓き、ルーシェは魔法時の中へ入ってしまった。
次の瞬間、魔法陣は起動したようで、光の壁を作り上げ、ルーシェは出れなくなる。
「しまっ………」
シューーーーーーンと音を立てて、ルーシェの姿はそこから消えてしまった。
(ルーシェ!聞こえる!ねぇ!返事してよ!)
必死に念話を飛ばすシルフィ。そして、
「ちょっと!ルーシェ!ルーシェ!」
「今は…まさか強制転移…?…いったい何が!?」
慌てる彼女たちを残し、姿を消したルーシェ。
そこに残されたのは、役目を終えたと、輝きを失くした魔法陣だけだった。
視界が真っ白になった次の瞬間、意識と視界が戻ってきたルーシェ。
(ここは…?さっきのは何だったんだろ?それに…みんなは?)
クリアに戻った視界。
自分の体の無事を確認したあと、周囲を確かめた。
どこか神殿の中の一室、そんな場所を彷彿とさせる、石造りの部屋の中に飛ばされた様だ。
中は何かの儀式を行うためなのか、真ん中に大玉の水晶が、台座に鎮座されていた。
その前には何かの本が一冊。
「これは…何の本だろ?」
本に手を伸ばそうとしたとき、頭に声が響きわたった。
『資格なき者に触れる権利なし』
「え?」
水晶が輝き始める。
そこから光が水のように溢れ出し、溢れ出た光が人の形を象っていく。
『ここに人が来たのはいつ以来か…しかし…お主は資格なき者。本に触れる権利なし』
やがて少女ともいうべき姿になったそれは、頭に声を直接響かせて来ているようだ。
(うーん…これは…昔読んだ冒険譚にも載ってた展開な気がする…面倒くさいのは嫌だな…)
少女らしき者を見ながら、ルーシェはそんなことを考えていた。
『資格なき者よ。今すぐここを去れ』
「わかりました。帰りますので、失礼ですが魔法陣を再起動させてもらえませんか?」
「はぁ?お主何を言っておる?」
ルーシェの物言いに、思わず口から言葉が溢れ出た少女らしき者。
「いえ、だから帰れとのことなので帰ります。早くお願い致します」
「いや、本を求めて来たんではないのか?それにそこはお前は何者だ!とか何か、お約束のやり取りをすべきところであろう?そこをお主…何という物言いを…」
「お約束とか知りません。第一で来たくて来たわけでもありませんし、その本が何かも知らないので」
「そんな…!お主先程本を手に取ろうとしておったではないか!そんな嘘など…嘘だと余にはお見通しぞ!」
「嘘ではありません。ただ本があったから気になって、手に取ってみようと思っただけです。何の本かも知らないので、別にいりません。面倒くさいのはけっこうなので、早く帰して下さい」
「そ…そんな…」
出て来た少女らしき者は、最初はあった威厳たっぷりな雰囲気と言葉遣い。
それが僅かな時間で完全に剥がれ落ちている。
それどころかルーシェの目の前で、四つん這いになって地面を叩きながら、嗚咽まで溢している。
(うん…やっぱりだ…昔色々冒険譚読んでたけど、予想通りだ。この手の輩は大体偉そうに面倒くさい事を、遠回しで言ってくるのが定番。主導権を与えずに、今まで受けたことのない反応で返してやれば、この通りだ)
「というわけで、早く帰して下さい。仲間が待ってますし」
あくまで冷徹に、淡々と言い続けるルーシェ。
「そんな…せっかく何年も何年も…それこそ気が遠くなるような時間、ずっと待っておったのに…この仕打ちかえ…」
むせび泣き始め、流石にいたたまれない気持ちになるルーシェ。
しかしここで主導権を渡してしまうと、調子に乗り始めることがあると、そこも本から学んでいた。
「そちらの事情は知りませんが、帰して下さい」
「お主は本当に…本当につれないのぅ…せめて…ずーーーーーーーーっと一人ぼっちだった我と、少しだけでも話してくれんかのぉ…?」
(よし…もう一押しだ…)
「いや、時間が勿体ないですし」
「うぅぅ…お主…本のことや我のこと…少しだけでも聞いておくれ…本当にずっと一人で…寂しくて寂しくて…仕方ないしのじゃ…」
(よし、語るに落ちたな。これで主導権はこっちのものだ)
「はぁ…仕方ないですね…手短にお願いしますよ?」
あくまで仕方なくというスタンスで、ことを進めるルーシェ。
見た目少女に対しての塩過ぎる対応。
仮に見ている人がいるなら、ルーシェは人でなしなど、悲惨な言葉を浴びせられることになっただろうが、ここには他に人がいないため、そんなツッコミや言葉を投げかける者はいなかった。
(二人が一緒じゃなくてよかった。もし一緒だったら、こういう流れには出来なかったろうな…)
と、内心思っていたりする。
「ありがとう。お主は優しいのじゃなぁ…我はシリウスという。お主の名は何という?」
「シリウスさんですか。僕はルーシェといいます」
「ルーシェか…良い名じゃ。我は長年ここで人が来るのをまっておったのじゃ…」
シリウスは切々と語り始めた。
「ある種族の守り神となった我は、数年に一度ここにやってくる神子に、あの本を与えること。そして種族として役目を伝えること。それを種族の長と契約しておるのじゃ」
「ミコ?それに数年に一度ですか?」
「そう神子じゃ…それがある年から途絶えて誰も来ぬようになってしもうた。それこそ忘れられてしまったのかと…辛く寂しい日々を、ただ虚しく過ごしておった…」
「ミコとはなんですか?」
「えぇっとのう…神子とは神の子と書く。一族を纏める族長とでも言うべきかの?選ばれたその者に、その長たる証を与えること。そしていずれ来るであろう災厄が現れたとき、種族を導いてもらうために、密なる話を聞いておいてもらわねばならぬ。我の使者ということだの」
「なるほど…」
「如何にお主と言えど、災厄に関しては話せぬ。聞きたいじゃろうが、とうしても話せぬのじゃ」
「いえ、別にどっちでもいいです」
ルーシェの切って捨てる言葉に、愕然とした表情を見せるシリウス。
「本もそれに…災厄に関係することが書かれているか、もしくはそれが長の証というところですね。わかりました」
先にネタバレをされて、さらに小さくなって、落ち込むシリウス。
「そろそろ時間ないので、帰してもらえませんか?」
「…仕方ないのぉ…すまんな…長話に付き合わせてしまって…」
「ところで…ここには一人ずつしか入ってこれないのですか?」
「ん?あぁ…転位陣のことかの?長となる者一人が通れればいいと、そう術式を組んでおいたのじゃが、それ自体は何とでも変えられるぞ?」
「複数人当時に通れるようにしてもらえませんか?そうしてもらえるなら…明日また話に来ますよ?」
「ほ!本当かの!嘘ではないな!?」
「嘘は付きません」
「よし!お主を送ったあと、すぐに陣を書き換えておこう!待っておるぞルーシェ!約束じゃからな!」
シリウスと約束を交わし、ルーシェは再び転位陣を蹴ったのであった。
視界が白くなり、少しすると視界が戻った。
「よかった!戻ってきた!」
「ルーシェさん!心配したんですよ!」
そう言いながら、二人はルーシェに抱き付いたのだった。
(ルーシェ!あんた!無事なの!?まったく…念話も届かなかったし…)
(ごめんごめん!大丈夫だよ。話はフォルンさん達にもするから、その時一緒に聞いておいてもらえるかな?)
二人を抱き止めながら、ルーシェはシルフィとも念話を交わしていた。
「心配かけたみたいでごめん。怪我も何もないから。それより、一旦フォルンさん達のところへ戻ろう。すごい発見だからさ」
ルーシェの無事を確認して、思わず安心から、二人は泣き出してしまった。
二人を宥めるのに少し苦労したルーシェだった。
シリウス「初登場の神、シリウスじゃ!よろしくのぉ!」
作者「よろしくお願い致します!」
シリウス「ところでお主、いつも露骨な稼ぎをしておるとか?」
作者「な…なんのことでしょうか?あ、それより美味しい飴あるので、よかったら食べませんか?」
シリウス「おぉ!貢物か?わかっておるのぉ〜…アグ…うむうむ…甘くて美味しいのぉ〜」
作者「喜んでもらえたならよかったです」
(ふふふ…子どもはちょろいぜ…)
シリウス「何かお礼をせんとのぉ…」
作者「なら、代わりにこれを読んで下さい」
シリウス「ん?読みあげればよいのか?お安い御用じゃ。いつも皆様、読んで下さりありがとうなのじゃ!また、ブックマークや評価もとてもありがとうなのじゃ!まだの人も、どんどんして欲しいのじゃ!よろしく頼むのじゃ!」




