三三話 便利で不便な秘薬
年内最後の更新分です!
皆様良いお年を〜!m(_ _)m
男に化けたエリスと別れてから、ルーシェは黒フードの男に運ばれていた。
(うーん…布で包んだせいで、視界が真っ暗…しかもそこそこに走って移動しているようですね…揺れて酔いそう…)
黒フードは誰にも悟られないよう、自身の存在を薄め、闇に溶け込む。
それでいながらかなりの速度で、ほとんど足音を立てずに、走り回っている。
処々から酔っ払いの声が聞こえることと、移動時間から、カロンの街中であると予想した。
(その予想通りよ)
相方のシルフィから念話で正解を告げられた。
男が止まり、ノックの音が3回。
暫くすると、ノックの音が5回返ってくる。
「海鳴り響く洞穴」
フード男がそう呟いた。
「潜みしは」
向こう側から女性の声が響く。
「明日をも知れぬ瞳」
フード男がそう呟き、ノックを3回した。
ズルズルと何か引きずる音がする。
入り口が開いたようだ。
「おかえりなさい。上手くいった?」
女性の声が鮮明に聞こえる。
フード男を出迎えた様だ。
「…話は中に入ってからだ」
「相変わらず堅物ね」
そしてまた扉が閉まる音が響いた。
また扉が開く音が。
そして籠は何処かの部屋に置かれたようだ。
「お疲れ様。ところで実行犯は?」
「手筈通り。今頃獣の餌か、仮に生きていても釘にはなっただろう…問題ない」
二人は会話をしながら扉を閉める。
声が遠くなっていく。
何処かへ立ち去った。
「ふぅ…大丈夫そうかな?どうシルフィ?」
「問題ないわ。大丈夫」
その声を聞いて、内側から籠を開けて、外へ出るルーシェ。
そこから暫くすると、ルーシェの姿が元に戻った。
「あぁ…気持ち悪かった…と…忘れないように籠に重りを入れてと…」
パッと持っただけじゃ気付きにくいように、念の為用意していた重りを入れる。
「しかし…魔女の秘薬ってすごいわね…荷物や服装、持ったまま全部まとめて変身しちゃうんだから」
シルフィが呆れてそう言う。
「たしかに…こんなの市場に出たら、犯罪が横行しまくりだね…と、そんなことより急ごう。どう?人数は?」
「確認出来るのはさっきの二人ね…わかってると思うけど、扉が何枚もありすぎると流石に聞こえないから、絶対じゃないから気を付けてね?」
「わかってるよ。手筈通りよろしく」
「まっかせなさい!」
扉上部の通気口からシルフィは出ていった。
「出て大丈夫よ〜」
ルーシェは部屋を出て、忍び脚で探索を開始した。
最善手としてもし可能なら、シルフィと離れて監視してもらいつつ、念話にて情報を伝達してもらえばいいのだが、あまりにも距離が離れ過ぎると使えない場合もある。
なので、次点での手段を今回採用した。
少し先行してもらい、索敵してもらいつつの、隠密行動である。
しかも僅かな隙間があれば、割とどこでも入れる相方に、内鍵を開けてもらうなども可能なため、かなりスムーズに行動が取れるのだ。
基本会話も念話でのやり取り。
仮に泥棒や暗殺者がいるなら、泣いて欲しがるスキルである。
(さて…どこに裏帳簿や計画書などがあるかな…?)
(そう言えばもしなかったらどうするの?)
(そのときはやりたくないけど、あの二人から聞き出すかな?)
(最初からそっちで済ます方が早いんじゃない?)
(うーん…あの男は強そうだし、正直あんまりやりたくはないな)
(私が吹き飛ばすわよ?)
(…それしたらあいつらどころか、ここいら一帯が吹き飛ぶよね?)
(更地になるけど、悪党もみんなまとめて更地になるから、大丈夫でしょ?)
(それ、絶対に被害甚大なるから却下)
(冗談よ冗談)
(…本気だったでしょ?)
ジト目でシルフィを見るルーシェ。
(それよりこの扉が、内鍵開けてくるわね)
はぐらかすシルフィに、全くもうと、溜息が漏れるルーシェだった。
そこから真剣に探索を続けた。
件の男女は、任務成功を祝い、酒を酌み交わしている。
結果一時間後には、二人とも泥酔した様だ。
おかげで少し安心して物色出来るというものだ。
次に入った部屋は、倉庫の様だ。
(ここには…干し肉や果物…食料庫ってところか)
(待って…空気の流れる音がする…そこの木箱、ずらしてみて?)
シルフィの指示通り動かすと、木箱の配置と認識阻害の魔法により、継ぎ目がわからないようになっているが、小さめの扉になっているようだ。
(これは…見るからに怪しいよね?)
(無理に開けるのは得策じゃないわね)
(里での遊びを思い出すね)
長老が幼いルーシェと遊ぶために、宝探しゲームをよくしていた。
決まって最後にはこういった封印が施されていた。
何度目かの遊びのとき、喜ぶルーシェに機嫌を良くした長老が、仕掛けたもの。
高難易度過ぎるトラップに、案の定失敗。
中に入っていた好物の果物が爆発四散するだけならよかったが、爆炎を巻き上げながらの大爆発だった。
吹き飛ぶルーシェ。
その場にいたシルフィが、咄嗟に真空の層とエアクッションを展開することにより、奇跡的に無傷で済んだものの、森の一部は大炎上することとなった。
当然長老は里の者全員から大説教をくらい、この遊びは封印されることとなった。
(嫌なこと思い出したわね…)
(今回は失敗出来ないから、シルフィ真空にしてもらえるかな?)
仮に失敗した場合、よくあるパターンとしては、中身ごと部屋の爆発。
最悪建物全体の爆破というのも考えられる。
他にもサイレンが鳴り響くパターン。
どちらの場合でも、何層か空気の層と真空の層で覆うことで、ほとんど無音や衝撃などを、吸収させることができる。
ルーシェは刻まれた術式を読み取っていく。
暫くやっていなかったが、案外腕は錆び付いていない。というより、長老が仕掛けたものは、古代封印術レベルの代物のため、現代だと最高位の専門家が、長期間という、長い時間をかけて、ようやく解術できるレベルだ。
割と短時間で解術出来た。
(何か…拍子抜けしたね…本当にここに隠すのかな?もしかしてフェイクかな?)
この術式を行った者は、現代だと高位に位置する術者が行った封印である。
もし本人がこの発言とルーシェの手際を見れば、卒倒してしまっただろう。
(まぁ開いたんだし、確認しましょう)
小さめの扉の中には、数冊の本に紙束、その他小さな小瓶など、色々な物があった。
しっかりと押収し、封印をかけ直す。そして部屋を出たとき、シルフィがルーシェに声をかけた。
(どうもフード男達が、籠の中がただの重りとすり替わってることに気付いたみたいよ…)
「クソッ!どうなってやがる!」
「侵入者が?」
「間違いないだろう!探せ!外へ出た形跡はないんだ。いるはずだ」
「でも、どうやって入ったのよ?ここの入り口は中に居たのは私達にしか…中からしか開けれないのよ!?」
取り乱す女。
「知るか。捕まえて吐かせりゃわかる。そんなことより急げ!探せ!」
「あんたはどうするのよ?」
「ここの出入口は一つだけだ。そこで鼠が逃げないように見張る」
「わ、わかったわ」
最初こそ僅かに戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻し、的確に指示を飛ばすフード男。
(…という感じね。見つからない様に逃げ出すわよ)
(先導頼んだよ)
そう言って隠れながら進む。
出入口はたしかに一つだけ。
出るに出られないと。
しかしルーシェ達には、別の出口。普通では絶対に通れないところを通る方法がある。
探索を続けたことで、すでに外は明るくなっている。
つまり、秘薬を再度飲めるようになったということだ。
ルーシェは姿を鼠に変えて、丈夫にある吸気口から脱出したのだった。
「脱出したのはいいけど、すぐに戻れないのはやっぱり大変だね…みんなのところにすぐ戻れないや」
「たしかに鼠の姿じゃいつもより移動が遅いわね」
「そうじゃなくて…たぶん驚いたみんなに駆除されちゃうよ…」
「…なるほどね…ありえるわ…」
戻れないならと、ルーシェは今のうちに次の手に打ってでたのだった。
早々と仕事を済まし、その後は効果が切れるまで、道場近くでひっそり隠れるハメになったのだった。
姿か戻り、ようやく入れた。
「ただいま戻りました」
「おかえり!大丈夫だった?」
みんなわざわざ道場で待っていてくれた様だ。
「はい。見ての通り無事ですよ」
「それは何よりでございます。成果の方は如何でございましょうか?」
ドルマが聞いてきたので、帳簿や紙束、小瓶などを並べて見せた。
「ふむふむ…これは…それにしても…まさか国家転覆まで図っていたとは…」
フォルンが目を通しつつ、呆れるように呟いた。
「この裏帳簿も酷いものですね…裏金に重税、野盗や商人、他国貴族との裏取引…出るわ出るわ…叩けばホコリの出るからだとは申しますが、これはホコリレベルを越えていますね」
帳簿を見つつ、言葉とは裏腹にニヤニヤとするドルマ。
「はい。こっちの方はお任せしますね?」
「はい。お任せください」
ルーシェの言葉に、力強く応える年長の二人。
姉妹の方は、帰ったルーシェに手作りの食事で労おうと、違う方に切磋琢磨していた。
そこから数時間後、帰ってきたギールが秘密裏に引っ張ってきたのは、国王直下の騎士団に所属する、信頼出来る同期の数人とのことだった。
騎士団員に手に入れた証拠の数々を見せた。
「これは…確かにすごい情報ですね…しかし…」
「ここで渡された物だと、正規ルートの物ではない。つまりは偽造された物。そう主張してくるということですね」
フォルンはそう呟いた。
「はい。ここに押してある印などは明らかに本物。しかし実際の裁判などのとき、金でいくらでも情報操作をしてくるはずです。せめてこれらがゲログ辺境伯の館の中にあり、情報を受けた我らが発見できれば、問答無用で取り締まれますが…申し訳ない…」
ギールの同期は悔しさと申し訳なさが混ざった表情で、頭を下げてきた。
「どうにかならないのかな?」
「流石に相手は貴族です…一筋縄ではいかないと思います」
姉妹はそう話し合っていた。
「その件でちょっとよろしいでしょうか?」
ルーシェが話に入っていった。
「何でしょうか?」
「たぶんそういうことになるんではと…実はとっても信頼出来る、さる筋からの噂話なんですが…」
あえてかなりもったいぶった話し方をして、察してもらおうとするルーシェ。
「噂…ですか??」
「はい…あくまで聞いた話ですが…」
その話を聞いた年長組のみんなは、ある種の汚い大人の笑顔をした。
それを聞いた姉妹は、「「うわぁ…」」と、言わざるを得なかった。
翌日の夜、国王直下の騎士と、ギールの所属する憲兵隊を面々が、ゲログ辺境伯の屋敷へ、電撃的なので強制査察が執行された。
通常普通の騎士団では行えないことだが、国王直下という特殊な騎士団に所属する者は、かなりの裁量が与えられているため、貴族と言えど従うしかない。
「さる筋から辺境伯に謀反の疑いあり。また、裏金など様々な不正行為を行っているのこと。そのため強制査察に参った!皆の者、その場から動くなっ!」
「私が謀反など起こすはずがない!何も見つからなかったら覚悟しておけっ!」と、自信たっぷりにギール達を叱責していたのだが、そこにないはずの証拠がたんまりと出てきた。
「…これは?」
裏帳簿や違法な薬品などなどエトセトラ…
「何故だ!何故そんなモノがここに…」
それを見た辺境伯の狼狽えぶりに、思わずニヤけるギール達。
「…語るに落ちましたね」
こうして辺境伯は捕縛、関係する商人など、芋づる式に逮捕されたそうな。
鼠化したルーシェが辺境伯の館を先に下見をし、その上で辺境伯の館のあちこちに、証拠品を隠せる場所を探しておいたのだ。
そして再度秘薬を服用し、使用人の一人に化け、証拠を隠して回ったのだ。
予め隠し場所を聞いていたが、あえてすぐに見つかった風ではなく、探して見つかったという体をとって、辺境伯をからかったりもしたが、それくらいは許されるだろう。
一方その頃、黒フードの男達は、カロンから離れ闇を彷徨っていた。
「やはり…放棄して正解だったな…」
「そうね。でも…誰がどうやって、隠れ家に侵入したことやら…」
「わからん…が、ここまで辺境伯との繋りが…計画は全て練直しということだ…」
「でもあれよね…せっかくだから、あえて待ち構えて、何人か鬱憤晴らしに殺っちゃえばよかったわ」
好戦的な笑みを浮べる女。
「やめろ…まだ我らの計画が表立つことはならん…いくら脆弱な人間とはいえ、何も考えずに事を起こせば、過去の…1000年前と同じ目に合うぞ」
そう諭す男から、ドス黒い殺気が溢れ出た。
「貴方の方がよっぽど好戦的なんじゃないのよ」
「…我ら魔族からすれば…仕方なきこと…さっさと行くぞ…」
無理矢理殺意を閉じ込め、再び闇へ溶け込んでいったのだった。
皆様いつもありがとうございます!
ここ数日、ブックマークがまた増えて、五体投地でほんに感謝の作者にございます!
まだの方は登録、さらには高評価も付けて頂けると、よりありがたいです!
年末最後は、流石に茶番ではなく、キッチリとした挨拶にて、締めたいと思います。
皆様本当にありがとうございます!
また来年も、拙い文章ではありますが、よろしくお願い致します!
年明けの更新に関しまして。
ちょっと三が日はバタバタしていることが多いので、その間は更新できないかもしれません。
もし更新出来そうでしたら、載せますので、不確実な情報ではありますが、ご容赦願いますm(_ _)m
『おいっ!話が長すぎんぞ!』
作者「え?って、ドアがぱんぱんになってきて………るぅーーーーーーー!?
」
ドガ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!
吹っ飛んできたドアで吹っ飛ぶ作者。
アル「よっしゃあ!作者が消し飛んだ今がチャンスだ!せぇ〜のぉ〜!」
キャラの面々『今年もお世話になりました!来年もよろしくお願い致します!』
作者「結局茶番なるんか〜〜〜〜〜い!ガクッ…」




