一話 初めての村で
一話に最適の文字量がわからないです。
まぁわからないなりに、頑張りま〜す!
隠れ里を出たルーシェは、魔獣除けの結界の前まで来ていた。
今までも何度か結界の外へ出たことはあるが、今回はいつもみたくすぐ戻れるわけでない。
緊張した面持ちでいると、優しい風が頬をなでた。「なぁ〜に緊張してるのよ?」と、シルフィがルーシェの肩に止まる。
「シルフィ!?あれ?何でシルフィがここにいるの?」
「そんなの簡単よ!私も一緒に行くから!」
「え?でも…長老様は許可してくれたの?」
「まぁ…その辺は…ゴニョゴニョ…いいのよ!占いでも一人でなんて出てなかったんだから!それとも一緒に行ったら迷惑なわけ?」
「相変わらず強引だなぁ…でも本当にいいの?暫くどころか、一生帰れない可能性もあるんだよ?」
「いいのよ!それに…私は翔べるんだから、いつでも帰ろうと思えば帰れるしね!GOGOよ!」
と、そんなこんなで強引にシルフィはルーシェと共に里を立ったのである。
一方その頃、なかなか姿を見せないシルフィを心配して、ガンちゃんと長老はシルフィを訪ねたのであった。
大き目の葉には、【やっぱりルーシェと行くことにしたから、みんなによろしくぅ〜】と、妖精言語で書かれていた。
二人はやっぱりか…という表情を、向け合うのであった。
ルンルンとピクニック気分でルーシェの肩に座るシルフィ。
そして道なき道。もしくは獣道や起伏の激しい森を、そこそこのスピードで駆けていくルーシェ。
長年森で育った彼にとって、軽いジョギング気分。
当然一般人や慣れない冒険者などであれば、足をとられたり滑り落ちたりと、かなり厳しい道程である。
単純に山野を駆けることだけではなく、彼は妖精と精霊に囲まれて過ごした結果、意識せずとも妖精や小精霊、大地や木々の力を借りることができる。
そして通常だとその妖精や小精霊の悪戯よって、迷いの森となるところを、彼は最短一直線で駆け抜けて行った。
里を出てから3時間を過ぎるころには、彼は人里近くのところまで来ていた。
「ところで…行先は決めてるのかしら?」
「うーん。とりあえず人里に出て、その後都ってところを目指してみようかな?って。各地を回れってことだから、都まで行けば話で聞いた乗り合い馬車とかもあるだろうし」
「なるほどね〜。ならまず森を抜けて北へ向かいましょ?そこに村があるって、長老が昔言ってたから」
「オッケー!早めに行って、情報収集もしたいから、少し飛ばすよ?」と、脚に力と魔力。そして森の小妖精達から力を分けてもらい、爆発するかの様な加速をみせた。
森は30分ほどで抜け、そして北を目指して平原を跳ぶように駆けること1時間半。目指していた村へ到着した。
「流石にちょっと疲れたかな?シルフィは大丈夫?」
「私は肩に乗せてもらってただけだから。それより大事なこと。普通の人には私の姿は見えないから。話すときは念話じゃないと、頭のおかしな人に見られるわよ?」
「そういえばそんなこと言ってたね…人に会うのは初めてだから緊張するよ…」
「まぁ大丈夫だって!行かなきゃ何も始まんないし!」
「そうだね。とりあえず旅人ってことで、頑張って聞いて回ろう!」
村は木で組まれた簡単な柵で囲まれている。入口には門番らしき人が、槍を携えていた。
「君々〜!こんな田舎の村へどうしたの?見ない顔だから、隣村の人でもないだろうし?」
「こ、こんにちは!(ちゃんと挨拶できたぞ!と、心の中でガッツポーズ)実は旅をしてまして、少し休憩出来ればと」
「なるほどね〜。でも田舎の村で宿屋とかも何にもないよ?」と、笑う門番の青年。
「隣村へ行っても似たようなもんだしなぁ…と、そんなことより、ようこそ我がムギィ村へ!俺は門番のスピカってんだ!よろしくな!」と、軽い調子で手を上げる。
「申し遅れました!ルーシェといいます。こちらこそよろしくお願いします。」と、しっかりとしたお辞儀で返す。
「そんなに硬くならなくても大丈夫さ!と、うちの村は本当に何もないけど、小麦は良いから、よかったら食べてってくれ!道を真っ直ぐ行けば、村唯一の飯屋があるからよ!」
「ありがとうございます!行ってみますね!」と、別れを告げて、早速飯屋へ向かうのであった。
(優しそうな人で助かったよ。)
(ね?何とかなったでしょ?と、それより…本当に普通の人には見えないのね。私。)
(本当だね。ずっとスピカさんの目の前で飛び回ってたのにね。)
(お?何か賑わってるね!良い匂いがする!)
(そこが飯屋さんってところかな?)
(凄い賑やかな声がしてるわね)
二人は初めて飯屋の暖簾を潜った。
「いらっしゃいっ!おや?初顔だね?旅人さんか冒険者さんかな?」
いかにも肝っ玉かぁちゃん!といった体の女性が、元気に声をかけてきた。
「初めまして。旅人です。門番さんに、ここが美味しいからって、紹介を受けたもので…」
「スピカからかい!お客さんの紹介はありがたいことだ!あとでお礼言っとかなきゃね!と、入口に突っ立ってないで、お入んなさいよ!ここのカウンターにどうぞ!」
「あ、ありがとうございます」
初めて入る店は、こじんまりとしている。
奥の部屋から楽しそうな笑い声が響いてくる。
「あんた達が来る前に、森で猪を仕留めたってんで、今日は昼から猟師連中が飲んでるのさ。騒がしくてごめんねぇ」と、愛嬌のある姿で両手を合わせて謝る女将さん。
「それはよかったじゃないですか!猪も美味しいですよね!それに、賑やかななのは良いことですよ!」
「村の作物が荒らされて困ってたからね。ありがたいことさ!さて、ご注文は?今日のオススメは、野菜と猪に、スペルト小麦を加えた煮物だよ!」と言いながら、メニュー表を渡された。
(ど…どうしよう…文字は読めるけど…見ても何なのかわからない…)
ルーシェは森で人以外に育てられた。
読み書き算術など、基本的な勉強(この世界では実は高等教育レベル)は、長老達から教えてもらってきたが、人里での生活は送ったことがない。結果料理なども基本香草と焼いて食べるなどで、料理名とは皆無の生活を送ってきたのである。
(とりあえず…オススメ頼んでみたら?)
(シルフィナイス!それだ!)
「そのオススメお願いします!」
「あいよ〜!オススメ一丁!」と、鍋を温めるはじめる。
暫くすると、良い匂いがしてきた。
「は〜い!おまっとさん!熱いから気を付けて!」
「ありがとうございます!頂きます!」
目の前には初めて見る人の作った料理である。
恐る恐るスプーンで煮汁とよく煮込まれた野菜をすくい、一口頬張る…
程よく煮込まれた野菜と猪から出た少し癖のあるスープ。それらが香草で程よいバランスで鼻孔をくすぐる。
二口目は肉を。こちらもよく煮込まれて、筋の部分もとろけるように柔らかい。
「お…美味しい…」
「口にあったならよかったよ!って、泣いてるのかい?どうしたんだい?
「だ、大丈夫です!すみません。美味しすぎてびっくりしてしまいました」
「ぷっ…あっははは!それならよかったよ!ゆっくり食べな!」
「はい!ありがとうございます!」
あとは一心不乱に料理に没頭したのであった。
そして食べ終わり、皿を名残惜しそうに見つめていたときである。
「た、大変だぁ!」と、駆け込んでくる、革鎧姿の男性。
背には大怪我をしたスピカの姿が。
「ちょ…どうしたんだい!」
「大変なんだ!昨日から森に入った冒険者達が、ワイルドベアの討伐に失敗したみたいで、そいつらに追われて逃げて来たんだ!」
「何だって…」
「冒険者達を助けようとしたスピカが大怪我を!あと、猟師連中の力も借りようって!」
「あいつら飲んだくれてたから、今はただの役立たずだよ…」
「あのぉ…お取り込み中すみません。よかったら…スピカさんの傷を診ましょうか?」と、話に申し訳なさそうに割り込むルーシェの姿であった。