プロローグ 旅立ち
初めて書く冒険譚です。
良ければ感想などコメント下さい。
………
ここは薄暗い森の奥。
人里からは遠く、帰らずの森や黄泉渡りの森など、意味深な呼ばれ方をする地。そんな森の中。
「今日も森の調査〜!でもいつも何も変わらな〜い!退屈な毎日ぃ〜」
どこかの抜けた声で歌いながら、森のあちこちを飛んで回る妖精の姿。
「あ〜ぁ…もう疲れた!シルフィは一休み!」と、いつものサボりポイントにしている、サルノコシカケに寝転ぶ。
「どうせ見回っても、何もありゃしないのに………ん?何の音?」
森の静寂。風そよぎ枝葉の擦れる音。鳥や虫の囀り。
それらに混じる聞き慣れない音。
怪しがりつつ森を進むシルフィ。
音源に近付くにつれ、周囲への警戒を強めつつ進み、そこで彼女は出会った。
白い布で包まれた黒髪の赤子である。
それまで泣いていた赤子は、シルフィを見ると不思議な顔をしたあと、キャッキャッと笑い出した。
これが二人の出会いである。
このときシルフィは自分より大きな赤子を保護すべきか。
悩んだ末見捨てることは出来ず、どうやって自分の集落へ連れて行くか。その後どうするかで、アタフタしまくりであったが、それを楽しげに見つめる赤子を見ると、まぁ何とかするしかない!と、覚悟を決めたのであった。
そして15年の時が流れた。
「シルフィ!待ってよ!」
「ルーシェ!早くしないと置いてくよ〜」
元気に森を駆ける少年と、飛び回る妖精の姿。
二人は日課の森の見回りである。
薬草や木の実など、生活の必要な物を集めつつ、自分達の縄張りに異変はないか。魔獣除けの結界に綻びはないかなど、やることは多い。
(ん…?シルフィ…)
声を出さぬよう、念話でシルフィに話す。
ルーシェの視線の先には大きな鹿の姿が。
(狙うから、援護よろしく!)
(この前みたいにドジらないでよ〜?w)
(わかってるよ…)
そして風下から気配を消し、慎重に近付きショートボウを構える。
(………………今だっ!)
放たれた矢は風を纏い、通常では考えられない速度と威力で、鹿の頭を貫通したのである。
「お見事っ!やれば出来るじゃない!」
「シルフィも援護ありがとう!」
と、二人ははしゃぎながら今日の獲物へ近付く。
近くの川まで運び、手慣れた様子で鹿の首と足首を切り、川の水で冷やしつつ血抜きしていく。
「これで数日はみんなも食べれるね!」
「私は花の蜜しか食べないけどね〜」
この鹿は根植物を食べるので、シルフィなどの一部の妖精からすると、食料事情に関わる害獣であるため、なるべく駆除することになっている。
一人で運ぶには結構重いであろう鹿を担ぎ、ルーシェとシルフィは帰路へ。
2時間ほど進んだところで、まさに天を貫くかのような、立派な木を中心たした里へと戻った。
「「みんな〜!ただいま〜!」」と、二人の声に振り向く巨漢の女性(?)がいる。
「二人ともお帰り!怪我はなかったかい?」優しくも少し野太い声で迎える岩石の精霊ことガンちゃんである。
「ガンちゃんただいま〜!大丈夫!見て見て!この鹿!他にも色々採れたよ!」と、嬉しそうなルーシェ。
「ありゃま!確かに立派だねぇ!すごいじゃないかい!と、そうそう!二人を長老が呼んでたよ!戻ったらすぐ来るようにってことだから」
「長老〜?何の用だろ?」と、柵の上に座るシルフィが首を傾げる。
「ありがとうございます!作業所にこれを届けたらすぐ行きますね」
「いいよ!こっちで運んで処理しとくから、二人共長老のところに、ささっと行っちまいな!」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて!」
と、二人はガンちゃんに鹿を預けて、里の中心部である大木の方へ向かった。
「長老〜!来たよ〜!」と、シルフィは大木の根本にある大穴へと入っていく。
「二人共待っとったぞ〜」
と、シルフィの入った穴から、緑色の大きな玉が転がり出てくる。そしてそれかぷよぷよと形を変えて、やがて大柄の老人の姿になった。
彼はこの大木の精霊である。
「呼び立ててすまんかったのぉ。見回りは無事に終わったかいのぉ?」
「はい!無事に!」と真面目なルーシェ。
「シルフィがいるんだから大丈夫よ!」と、サムズアップしているシルフィ。
「それは何よりじゃのぉ」
「それより長老様。今日は何用でしょうか?」
「そうじゃった!今週末で、ちょうどルーシェ。お前さんがここに来て15年。つまりは成人となるのぉ。初めてこの隠れ里に来た日、占った通り、少し言いにくいのじゃが…昔から話していた通り…時期がきたのじゃ…」
申し訳なさそうに話す長老。
「えぇー…別に昔の占いとかいいじゃん?」と、不満たっぷりな目を長老に向けるシルフィ。
「いえ!昔から聞かされていたことなので…覚悟は出来ています。それに…外の景色も見てみたかったですし!」と、微笑むルーシェ。
初めて会った、里に赤子を連れ帰ったあの日、果たして里に迎え入れて良いものか悩んだ彼等は、その夜彼等の力で星読みをしたのである。
結論としては保護して育てる。ただし成人の日を迎えれば、各地を巡るように。という結果が出たのである。
そしてその日がいよいよ迫ってきたのである。
里の者は皆、彼を自らの子や孫といった気持ちだったため、当然里を出るのに反対する意見も多数あったのだが、精霊の力で行った星読みは、世界の様々なことへ関わることが昔から多く、やはり占いは無視できないと、渋々納得…といった感じである。
そこからの旅立ちの日まで、準備をしつつ、毎晩のように彼への送別会が開かれたのだった。
毎晩森のご馳走を囲み、どんちゃん騒ぎである。
その輪から外れシルフィは一人悩み、そして誰知れず決心をしていた。
そして旅立ちの朝。
「うーん…シルフィの姿が見えませんね…」
「こんな時にどこ行ってんだ?」
「バァカ!こんなときだからだろ!あいつが一番ルーシェの面倒見てたんだから、別れが辛いんだろうさ?」
「シルフィ……ちゃんとお別れしたかったけど…すみません。シルフィによろしく伝えてもらっていいですか?
「おぉ!わぁってらい!任せとけっ!」
「それでは…あんまり長居すると、決心が鈍りそうなので…みんな今までお世話になりました!いってきます!」
「何かあったら、いつでも帰って来いよ〜!」
「ルーシェの故郷はここなんじゃからのぉ!」
みんなの声援を受けて、彼は里を旅立ったのであった。