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よし、ここで一つ、オレが昔話を披露してやろう。

作者: 朝倉ミトン

よし、ここらで一つ、オレが昔ばなしを披露してやろう。


二十一世紀の初頭に、スマートフォンっつーもんが発売されたんだ。


従来の情報機器をおーきく上回るくらい通信性能が高くてな、そんでスゲー機能が盛り沢山だったから、みんなが争うようにこう、ガーって買ってったそうだ。


そのあとも、色んな会社が新たらしいのを作っては売って、作っては売ってを繰り返したんだと。


いっつまでもそんな調子だったおかげで、ソイツの機能性はグーンと上がったらしい。


そして、スマートフォンはとんでもない性能をゲットしたってわけだ。


え? とんでもないって実際はどの程度かって? 


オレも詳しくは知らねーが、何でも、当時は人間の生活をソイツが支えてたそうだ。生活に欠かせないくらいにな。


話を戻すぞ。


っつーわけでスマートフォンは、日常の一部としてその確固たる地位を確立したわけなんだが、同時に新しい問題も発生させちまった。


当時はその問題を、「歩きスマホ」とか「ながらスマホ」とか呼んでたらしい。


「歩きスマホ」ってーのは、スマートフォンを操作しながら歩くことだそうで、歩行中に前が見えねぇもんだから、人間同士の衝突事故がうんたらかんたら~つって問題視されたんだとよ。


オレはもっと大胆に動いてもいいと思うんだが、そんときの奴らは呼びかけやポスターとかの、注意喚起しかやらなかったんだとか。


まぁ、そんなもんじゃあ変わるもんも変わんねーわな。


実際、劇的な改善は見られなっかったってよ。


そんで、とある科学者が、こう言いだしたんだ。


要するに、歩きスマホをしても事故が起こらない“ナニカ”をつくればいいんじゃねーの? ってな。


こいつなかなかやりやがる。


それについて、政治家と科学者の間で口論が起こったそうだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それでは悪行を黙認するようなものだろう。そんなことに研究費を費やして何になる。世の中にはまだまだ研究せねばならん事が多くあるんじゃないのか。それとも何だ。お前ら科学者はみんな暇人なのか?」


「論点をずらさないでいただきたい。私はこの研究にそれなりの価値があると思っていますし、研究費の使い道に関しては我々科学者に、ある程度の裁量が認められているはずでしょう?」


「うるさい! そもそも歩きスマホをする奴が悪いのだろう? では、彼らが歩きスマホをしないよう、呼びかけなり何なりすればいいではないか。」


「それでは改善されないから、“歩きスマホは悪い”という前提ごと覆そうと言っているのです。それを認めないというのなら、歩きスマホを禁止にする法律でも作ってはいかがでしょう。」


「その草案を練っていたところに貴様が来たんじゃないか!」


「未だに法律化されていないのなら、私の研究は大いに価値を秘めています。私の発明でこの町を変えて御覧にいれましょう。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そんで、こいつは遂にやりやがった。


お望みのブツを発明したんだ。そいつぁー何でも靴だったとか。


その機能がまた、ぴったしでな、


「目的地を設定すると、衛星を通じた同種の靴との連携を行い、他者とぶつからない最短進路を自動でとる」


っつーもんだったんだ。


コイツがあれば下を見てようと行きたいところに連れてってくれるわけだからな、まさに画期的な発明ってやつだ。


この靴は町中に広まって、誰もがこの靴を履きながら、歩きスマホをするようになったわけ。


でも! 歩きスマホの問題点は、何も人同士の衝突だけじゃあなかった。


衝突がなくなると、今度はつまずきによる転倒事故が注目されたんだ。


画面を注視するあまり、避けられるはずのちょっとした段差とか隙間とかに、足を引っかけちまうみてーでな。


そんで、今度は革新派の政治家が、こう言ったんだ。


じゃあ、町中から段差や隙間を無くせば解決だなって。


馬鹿げた話だって? オレだってそう思うさ。


もちろん、当時の人間たちもこれに対して議論したんだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それはあまりに荒唐無稽ではないか! ましてや、歩きスマホのために税金を使うなど全くもって言語道断である。」


「しかし、靴の発明によって人々の歩きスマホはエスカレートしていると聞きます。それに、ついこの間、科学者に一本取られたばかりではないですか。ここで一つ思い切った姿勢を見せるのは重要な意味を持つかと愚考しますが。」


「うーむ。確かに、儂とて一本取られたまま終わる気など毛頭ない。これもまた、一つの転機なのやも知れんな。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


っつーわけで、今度は町中から一切の段差や隙間が無くなっちまった。


そのおかげで歩きスマホをしてても、つまずく奴が激減したらしい。


ん? ゼロにはならなかったのかって?


それはまぁ、そうだろうな。


何もないところでズッコケるようなドジな連中は、どの時代にも一定数いるもんなんだろ。


つまり、歩きスマホが原因でこける奴は、事実上はゼロってことだろうな。



まぁそういった感じで、この町がつくられていったってわけさ。


目の不自由な人だって足の不自由な人だって、ストレスなく移動できる、この町がな。

世の中には“セレンディピティ”という言葉が存在しているようで。

何でも、思わぬ幸運に巡り合う才能や、探し物をしているときにそれとは別のモノを見つけ出す能力のことを示すそうです。

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