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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第九十七話『剣の話』

剣、それは男の浪漫。だけど、実際に振り回すとなるとまた話は違うと思うんだ

「こんにちはー、森近さ……って、あれ?」


 森近さんとお茶でもしつつ、ラノベでも紹介しようと香霖堂にやって来た僕は、店内に意外な人物を発見した。


「あ、良也さん。こんにちは」

「妖夢? 珍しいな……。こんにちは」


 珍しい、というのは香霖堂にいるというだけではない。以前の閻魔の一件以来、妖夢が現世に来ること自体、滅多になくなった。

 その気になれば冥界で自給自足できるそうなので、こっちに来るのは宴会のときくらいだ。


 ……宴会などという目的で来てもいいものかどうかちょっと疑問だけど、来てくれること自体は嬉しいので突っ込まない。


「ええ、ちょっと。新しい茶器が欲しくて」

「茶器? なんだ、壊したのか」

「ちょ、ちょっとした事故です」


 妖夢の失敗らしく、少し言い辛そうにしている。

 あー、割とドジっ子だからな、妖夢は。


「……良也さん、なにか?」

「なんでもないなんでもない」


 鋭ぇ。


「それで、良也君は何の用かな?」

「いえ……その。と、特に用事というわけではないんですが」


 森近さんが聞いてくるが、流石に妖夢のいる前で堂々とラノベ談義をするつもりなどない。どうせ妖夢に言っても意味なんてわからないだろうけど、もしスキマ辺りに話が漏れたら……考えるだけで欝だ。


「そうかい。まあお茶でも飲むかい? 最近、新しい銘柄を仕入れてね」

「あ、もちろん頂きます」


 森近さんの淹れるお茶は美味い。流石の目利きで仕入れる茶葉の質もあるし、淹れ方も僕よりずっと上手い。僕も上手くなったと思うけど、まだまだだ。


「君もどうだい?」

「頂きます」


 森近さんは妖夢にも勧めた。


 ちなみに、彼女の淹れたお茶の味は、森近さんの上を行く。

 と、言っても、淹れる技術自体は大差ないんだけど……ほら? やっぱり男の淹れたお茶と可愛い(ここ重要)女の子の淹れたお茶だと、存在に雲泥の差というか、もはや二次元と三次元並みの格の差が。二次元と三次元、どちらが上かは保留しておくとして……。


「しかし、妖夢。茶器を買いたいなら人里でもよかったんじゃあ?」


 何故にわざわざこんな、商品を売る気があるかどうか分からない微妙な店に。


「はあ、それはそうなんですけれども。ここの店主には、以前ちょっとした恩がありまして。売り上げに貢献するのも悪くないかと」

「恩?」


 聞いてみると、去年の冬、『人魂灯』という冥界のアイテムを無くしたところ、森近さんに拾ってもらったらしい。


 そのとき、対価として雪かきをさせられたとのことだが……うーん、妖夢、それ割と根に持ってるだろう。眉間にちょっと皺が寄ってるぞ。


「人魂灯ねえ」

「幽霊を集める効果があります。なくしたことがバレて、幽々子様にこっぴどく怒られましたけど」

「あの幽々子がか?」


 なんか、怒るとかそういう感情をどっかに置き忘れたような奴だが。


「ええ。怒ると怖いですよ、幽々子様は」

「そりゃ、あんな能力を持ってりゃ怖いだろ」

「そういうことじゃないんですが」


 妖夢が苦笑する。

 ……うーん、怖い幽々子なんて想像もつかない。そりゃ、年齢のこととかに突っ込むと怖いような気はするけどさ。


「で、とにかく森近さんに恩があるわけだ」

「ええ。でも、あの人も雪かきで相殺していると思っているらしいですけどね」

「ふーん」


 いつまでもネチネチと妖夢を苛めないだけ、あの人はいい人なのかも知れない。


「おーい、お茶、入ったよ」

「ああ、ありがとうございます」

「どうも。……いい匂いですね」

「ははは……。ま、味わってみてくれ。実はこのお茶、誰かに振舞うのは初めてでね」


 僕と妖夢は湯飲みを受け取り、芳しい香りを楽しみつつ、一口お茶を飲み下す。


 ただのお茶じゃない。僕の乏しい知識と味覚からは的確な表現が出来ないが……そう、美味いお茶だ。そんな貧相な感想しかもてない自分を情けなく思いつつも、森近さんに感想を述べる。


「美味しいです」

「それはありがとう。おかわりは?」

「もちろん、頂きます」


 やはり、自分の淹れたお茶が美味しいといってもらうのは嬉しいのか、森近さんはウキウキと二杯目を入れてくれる。

 その気持ちは、僕にもわかる。いつも傍若無人な霊夢とて、僕の淹れたお茶を美味しそうに飲んでおかわりしてくれるときは愛しいと思うときもあったりなかったりするのだ。


「ああ、そういえば。ここの店は刀剣も扱っているんですね」


 妖夢が、お茶を飲みながらそんな感想を漏らす。

 その視線の先には、言葉通りいくつかの剣に刀が。他にも槍とかもある。


「ああ、見てみるかい?」

「はいっ」


 妖夢は勢いよく頷く。

 刀を二本も携えているからそうだとは思ってたけど……刃物マニアか、妖夢。















「こ、これは……」


 妖夢は、一本の剣を前にワナワナと震えた。


 森近さんと共に将棋(無論、僕フルボッコ)をしていた僕はそちらを振り向く。


「どうかした? 妖夢」

「だ、だって良也さん。これ、緋々色金製ですよ。……ううん、この際、それはどうでもいいことです。これってもしかして」


 それは反りのない古ぼけた直剣。形状からして、かなり昔の日本の剣のはずだけど……はて、緋々色金? なんか、オリハルコンとかと同じ、未知の金属だったっけ?


「あちゃ、それを見つけちゃったか。生憎だけど、それは僕の個人的なコレクションだ。売り物じゃないのであしからず」

「コレクション、って……。これってもしかしなくても草薙の……」

「おっと、それ以上は駄目だ。どこで誰が聞いているか知れたものじゃない。それにそれは霧雨の剣だよ。決して、日本神話に登場する神剣とは関係ない」


 ……えーと。聞かなかったことにした方がいいかな?


 なんで壇ノ浦で消失、もしくはまだ熱田神宮に祭られているはずの剣がここに? とか考えちゃいけない。うん。


「しかし、剣もいいですねえ」


 僕はわざとらしく、話題を逸らすため、立て掛けられている刀の一本を手に取った。


「りょ、良也さん。そんなことを言っている場合じゃ。これは……」

「いやぁ、僕、魔法使いになったといっても、杖も持っていないじゃないですか。それに、剣とか、男の子なら一度は憧れますよね」


 徹底して無視だ。そんな、国宝級の代物を前にして、普段通りの態度を取れるほど僕は器用ではない。


 それに、半分以上は本音だ。剣や杖じゃなくても、槍や斧、銃に弓。とかくそういった武器というのは、男の子の憧れである。 こういうファンタジーな世界と縁が出来て、ロングソード片手にモンスター(妖怪)と切ったはったする自分像を思い浮かべたのは一度や二度ではない。


「ほらほら。その剣はちゃんと元の場所に置いておいて」

「……はい」


 森近さんの言葉に、妖夢は渋々従う。

 そうそう、あんまり気にしないのが吉だって。


「はぁ……欲しかったんですが」

「分かるけれども、これは僕のものだ」


 やはり剣術家。いい剣は欲しいのか。でも、森近さんもこの剣は手放す気がないらしい。

 しばらく名残惜しげにその草薙の……ゴフゴフッ、霧雨の剣を見ていた妖夢だが、しばらくすると諦めたらしく、普通にお茶の続きを飲んでいた。


 僕はというと、半分は誤魔化しだったはずの武器の話題を引き摺って、色々と香霖堂の武具を漁っていた。


「森近さん。この刀、抜いてみてもいいですか?」

「いいよ。でも、危ないから気をつけて」


 持ち主の許可を得て、僕は手に取った刀を鞘から抜き放つ。

 しばらくぶりに持つ真剣の感触は相変わらず見た目以上に重く、ともすれば取り落としてしまいそうだった。


 しかし、鋭く光る刃の波紋は、魅入られそうなほど美しい。……うーん、僕に刃物フェチの趣味はなかったんだけどなぁ。やっぱりオトコノコは剣ですよ、剣。


「良也さん。なにか、刀の取り扱いに慣れているように見えるのは気のせいでしょうか?」

「慣れているってほどじゃないよ。ただ、実家に真剣が何本かあったから」


 母が剣術家で、家には二、三本真剣があった。剣道を無理矢理習わされていた小学生の僕は、興味本位から隠れてそれを何度も抜いて振り回し……バレた時、頭の形が変わるほど拳骨を喰らった。今思うと、当然の話だけど。


 まあ、そのときの経験か、真剣を持つのにも慎重にはなれども、緊張することはない。


「剣術の心得があるんですか」

「ちょっとだけ剣道はやってた。まあ、竹刀持たなくなって八年くらい経っているけど」


 結局、小学生までで終わったからな。他の武道と同じく。

 一応、やったことの証とばかりに初段だけ取ったけどそれだけだ。


「……へぇ」

「ま、まて妖夢。なんだ、その邪悪な『へぇ』は?」


 あ、なんかスイッチ入った。

 これはあれだ。うちの家族は武道一家なんだけど、その家族に通じる感じの笑みだ。危険度マックスだ。


「良也さん。ちょっと手合わせしてみませんか? 最近、私他の武術家の人と手合わせしていなくって」

「断るっ! 僕は武術家なんてレベルじゃない。せいぜい、運動不足解消のため太極拳やっているおじいちゃんてなもんで」


 大体、そんなことは一緒に暮らしていたこともある妖夢はわかるだろうにっ!


「まあまあ。それなら、私が鍛え直して差し上げますし」

「イヤー! だから嫌いだ武道派な連中はー!」


 とりあえず拳を交わせば分かり合える的な価値観は僕には理解できない!


 でも、ああ、なんか無理矢理真剣握らされてずるずる引き摺られているんですけどー!?


「大丈夫です。怪我はしませんて」

「それは心配してないけど、疲れるのが嫌だ!」


 妖夢の腕なら、たかが僕程度を相手にするくらいなら、寸止めくらい余裕だろう。でもそれとこれとは違うんだってばー!

 ぼ、僕はもう武術は嫌なんだって才能ないんだからー!


「楽しみですね」

「魔法使いは体力ないんだぞう!」


 もはや肉体的な抵抗は無意味と、言葉による反論に切り替える。

 でも、当然のように聞き入れられず……


 僕は久方ぶりに、剣道……もとい剣術の修行に汗を流す羽目になった。……うう、二度と御免だ。

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