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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第八話『すぺるかーどをつくってみよう』

これで僕もボム使い!

「スペルカード、ですか?」


 霊夢から聴いたスペルカードというものを作ってみたい、と妖夢に言ってみると意外にあっさりと了解してくれた。


「着いてきてください」


 そして、さっさと歩いていく。

 慌てて追いかける。


「どこ行くの?」

「私の部屋です。墨と符がありますから」


 ほう、女の子の私室。

 ……フラグが立つイベントか?


「また妙なことを考えていませんか?」

「なあ、妖夢。もしかして、ここら辺の人はみんな読心術を使えるのか?」

「否定しないんですね……。読めませんよ、私は」


 そんなに僕って単純な人間かなぁ? そうは思いたくないけど。


 などと思い悩んでいると、妖夢の部屋に到着した。


「? どうしたんですか。入ってください」


 位置は知っていたけど、入るのは初めてだ。

 若干緊張。


「じゃ、お邪魔しまーす……」


 招かれて、なんとか重い足を動かす。

 うぬぅ、我が足ながらこんなにもチキンとは。


 部屋の内装は、いかにも、という感じだった。


 畳敷きの、八畳くらいの部屋。隅に置かれた小さな和ダンス。その隣に丁寧にたたまれた布団。中央に鎮座している小さなちゃぶ台に、部屋の中で一際異彩を放っている刀掛に『半人半霊』と書かれた掛け軸。


「うーむ」


 幽霊だからなのか、それとも性格か、あまり生活感が感じられない。というか、そんなことより掛け軸の四文字熟語のセンスがわからない。いや、熟語……?


 しかし部屋には、香のかすかな甘い匂いが漂っていて、そういえば普段妖夢からこんな匂いしていたなぁ、なんて


 ゴスッ、と頭が叩かれた。鞘つきの剣で。


「あまりじろじろと見ないでください」

「……失礼」


 確かに、不躾だったかもしれない。

 大体、今回の目的はスペルカードの作り方だ。


「じゃあ、妖夢。早速だけど」

「はい、少々お待ちください」


 と、棚から筆と和紙を妖夢は取り出した。


「では、まず私が作りますね」

「うん。僕は作ったことないからな。やり方を教えてくれると助かる」

「やり方と言ってもですね。私の場合、使う技のイメージを浮かべながら、書くだけですが……」


 ちょっと困った顔をして、妖夢は書き始めた。


 筆を通して、符に霊力を込めている。

 ……くらいはなんとかわかるのだが、それ以上はよくわからない。ただ霊力を込めるだけでなく、なにやら複雑な感じがするのだが。


「現世斬、と」

「達筆だな」

「そうですか? 習字はそれほど得意ではないんですが」


 言って、妖夢は席を立ち、僕にその席を譲る。


「どうぞ。書いてみてください」

「失敗するかもしれないぞ。この紙、高価なんじゃないか?」

「それほどでも。私もよく書き損じますし、気にしないでください」


 それなら、遠慮なく書こう。


 しかし、使う技のイメージ……というか、使ってみたい技といえばまっさきに思い浮かぶのがアレ。


「かめ○め波、と」


 うん。筆なんて中学校の授業以来だが、そこそこ書けた。

 霊力も……うまく行っているかどうかはわからないが、ちゃんと符に充填はされている。


「……前から気になっていたんですが、それってなんですか?」


 気になっていたのか。

 まあ、幾度かの訓練で、毎回試しているし。


「男の子の憧れだ」

「よくわかりません」

「わかられても困るけど」


 子供っぽいと言われることは間違いない。


「もう二、三枚書いてみてください。出来たら、庭で試してみましょう」

「ああ」


 かめ○め波だけでは芸がない。他にも書いてみよう。ただ霊力を放出するだけで、それっぽくなりそうな技……っつーと、


 さらさらっ、と。


「よし」


 書き上げた符は三枚。


 龍符『かめ○め波』

 超符『スペ○ウム光線』

 鉄符『ブレス○ファイヤー』


「……我ながら、微妙に古い」

「は? 古い?」

「なんでもない」


 さて、庭に着いた。

 相変わらず広い。下手すると地平線が見えるくらいに。


「くれぐれも、庭を荒らさないでくださいね」

「わかってるよ。一回で十分懲りている」


 空へ飛ぶ。

 十分な高度を取ったところで、先ほどの符のうち、龍符を取り出した。


「……で、どうやって使うのさ」

「符の名を宣言して、中の霊力を開放してください。こんな感じです」


 手本とばかり、妖夢は先ほど作った符を取り出し、気合一閃、吼えた。


「人符『現世斬』!」


 そこからの動きは僕には見えなかった。


 妖夢が消えたかと思うと、空中に一閃、光の軌跡が走る。

 一瞬後、剣を振り抜いた姿勢の妖夢が、二十メートルは離れた位置に出現していた。


「こんな感じです」

「……こんな感じって、簡単に言うけどさ」


 あんなスゴイの見せられても困る。

 だがまぁ、符を開放するやり方は、なんとなく見えた。


 宣言……必殺技の名前を叫ぶのは、ちょっと気が引けるけど。

 まあ、幻想郷の人間は元ネタなんて知らないし、


「行くぞ……龍符『か・○・は・め」


 腰溜めに両手を構える。手の中にある符の霊力を開放……!


「波ぁああーーー』!!」


 前方に両の手のひらを差し出すっ! 途端に溢れる光線っ!


 すげぇ! かめ○め波っぽいっ! 威力も、先日の魔理沙の足元にも及ばないが、結構あるぞっ!


「成功しましたねっ」

「ああ、妖夢のおかげさ!」


 我が事のように喜んでくれる妖夢に、親指を上げて応える。


「それで、なんでドラ○ンボールなのかしら?」


 ギクリ、と体が強張った。


 一体誰だ。なんで、ドラ○ンボールのことを知っている? 顔が赤くなってきた。


「紫さま」

「こんにちわ。妖夢。……で、そこの彼は一体なんでヒーローショーなんてやっているの?」

「は? ひーろーしょう?」


 やっぱアンタかっ! 外の世界に、ほんと詳しいっすね!


「あのね、良也っていったかしら」

「……はい」


 スゴク面白そうな顔で、紫さんはきっぱりと僕のガラスのハートを打ち砕いた。


「その年で、それはないわ」



 身悶えして恥ずかしがる僕が、何とか正常に復帰できたのはその三十分後だった。

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