第三十九話『珍種』
……魔法使いに向いていないと断じられた
僕はパチュリーが戻ってくるまでの間に、貸してもらった初等魔術概論――特に、属性に関する項を深く読み直していた。
要するに、属性っていうのは霊力にどんな色を塗るのが得意か、ってことだ。
赤が得意だったら火だし、青だったら水。そんなイメージ。
別に火属性の人間が風の術を行使するのもなんの問題もない。ただとても使いにくいというだけだ。自分の得意な色から離れれば離れるほどそれは顕著になる。
……で、魔法使いは非効率なことを嫌うので、生来の属性に拠った魔法を行使することが多いらしい。
複数の属性を持つ人間はすごく希少で、パチュリーみたいに七つの属性を併せ持つなんて、それこそ何十年に一度の逸材、とのこと。
まあ複数持つ人間は、それだけ極めるのに時間がかかるみたいだけど。
ところで、色を塗ると言ったが、人間が彩色するわけだから、同じ赤だとしても個々人によって微妙な色合いが違う。
それが個性なわけだが、同じ赤でも四大元素から見ると火で、五行から見ると金だったりもするそうな。
で、時々ファンキーな色合いに染めてしまう前衛芸術家もいるそうで、それがまぁ咲夜さんの『時』みたいなものなのだ。
「さて……そうすると、僕は何色になるんだろうなぁ」
僕なりに教科書の内容を要約して、一人悩んだ。
……んー、物語の主人公だと、四大の火とか風とかが多いよねぇ。でも、火は……僕、熱血系じゃないし。それなら風か?
あ、でも『土』『樹』なんだから、五行の土と木の二重属性ってのもありじゃね?
地味だけど、なんかしっくりくるなぁ。
「なにを悩んでいるのかしら?」
なんて思っていると、パチュリーが戻ってきた。行くときに持っていた、僕の血液を入れた小瓶はない。
……飲んで処分、はしていないと信じている。
「いやぁ、自分の属性がなにかなぁ、って思って。地味なのが思い浮かんだけど、似合っている自分が嫌い」
「地味? どこかの『弾幕はパワーだぜ』とか言う輩じゃないんだから、仮にも魔法使いを志すなら、見た目より実利を取りなさい。地味、堅実、大いに結構じゃない」
「やぁ、流石、僕とちょっと似てる地味目の少女。よくわかっていらっしゃ……」
パチュリーは、無言で、本棚から一冊の本を抜く。その一つ一つの動作に含まれる怒りに、僕は口を開いた状態で硬直を余儀なくされた。
で、引き抜いたそれをパチュリーは広げてみせる
……なんか、本にあるまじきことに、その開いたページからはなんか口とかが見えてて。
「呪われた本なんかも、ここには結構あるのよ? 貴方、この本の一ページになってみる?」
「……謹んで遠慮しとく」
自分が文字の一部になるのなんて、真っ平ゴメンだ。どうせ、軽薄な文章になるのは目に見えている。
「まったく。それで、貴方の属性だけど」
「うんうん」
パチュリーが、手にしたメモを見て、はぁ、とこれ見よがしにため息をつく。
……な、なんだ? そんな変わった属性だったのか僕?
『ツンデレ』とか『ニーソ』とかはたまた『メイド』、もしかして最近流行の『ヤンデレ』とか? ――って、そりゃ別の属性だよっ!
……一人ボケツッコミは空しい。
「ないわね」
「……は?」
な、ない? Nothing? どんな人間でも属性があるってさっきの本に書いてあったのは嘘だったのかー!
「む、『無』ってことか? 魔理沙みたく?」
「違うわよ。ないの。貴方は、得意な属性が」
「Oh,No」
んな絶望的な倒置法を使われたら、思わず外国人になっちゃいますよ、ボク。
「正確に言えば」
魔法は覚えられないのかー、と悲嘆にくれる僕に、パチュリーは再び思いため息をつく。……あ、咳した。
「こほん。……正確には、貴方の属性に対する適性は全部フラットなの」
「ふ、フラット?」
平坦ですか。
「貴方はどんな属性でも変わりなく扱える。火だろうが水だろうがね。ただ、普通に得意な属性を持っている人間に比べて、個々の適性がずーっと下ってこと。でも、普通の人間が苦手とする属性ほどに低くはない」
……えーと。苦手なものがない代わりに、得意なものがない、ってこと?
「貴方の能力から考えれば、不思議じゃないけどね。『自分だけの世界を創る』んでしょ? 世界には全ての要素が含まれているから……どれも均等にね」
「えーっと。それって、ものすごく……珍しい?」
「珍種ね。世界で貴方だけかも。まあ、魔法使いとしては、どうしようもなく大成しないでしょうけど」
得意な属性の一点突破が基本だからね、とパチュリー。
「器用貧乏って、良い事ないわよ? 特に貴方は寿命が限られた人間だから。あれこもこれも、って言ってるうちに、見習いレベルで終わる可能性が大ね」
バッサリとぶった切られた。
よりによって師匠に。『お前は見込みがない』と。
「ま、ある程度特化すれば、逆に多様性が武器になるかも。……しれないわ」
「わざわざ最後に付ける必要ないだろ!?」
ちょっと涙目になっていたかもしれない。
「面白い素材なのは確かよ。……ふふふ。この七曜の魔法使いに任せておきなさい」
「……うわーい」
なんか怖い。
ふふふ、と笑うその姿が、なんかマッドサイエンティストっぽくて怖い。
「とりあえず、今日は帰りなさい。貴方の教育プランは、次に来る時までに作っておくわ。次はいつ?」
「あー、来週の水曜、かな。でも再来週からは大学始まるから……」
週一、二回しか通えない。
ということを伝えると『十分よ』とパチュリーは頷いた。
「あと、魔力の訓練法だけ教えておくわ。暇があればしておくように」
「……本当に教師みたいだなぁ」
「あら? ちょっと違うわよ」
ち、ち、ち、とパチュリーは指を振った。
「例えば、ここに檻があるとしましょう。中にいるのは大変に賢いお猿です。それに私は芸を仕込……」
「もういい。皆まで言うなっ!」
ひどいやひどいやっ! と泣く僕を見て、パチュリーはなんか『ほら芸が出来た』と笑うのだった。
畜生……いつかっ! いつか見返してやる! そのうちにっ!
「あ、そうそう。月謝の本を忘れないようにね?」
「了解だよっ!」
よし、本の内容は思い切り僕の趣味に走ってやる――――
ちなみに、余談ではあるのだが……
僕が(神社に)帰宅したのは、夜も更けた十時前。
当然、霊夢は夕飯を自分で用意していて……なぜか僕が怒られた。
曰く『お腹が減った状態でご飯の支度なんてさせるな』とのこと。昼寝から起きたときには、もう既に結構な時間だったそうだが……
考えるまでもなく、僕が怒られるのはおかしいよな?
さらに余談。
後日、パチュリーにジャ○プとサン○ーとマ○ジンの三大少年誌を持っていった。
問答無用でアグニシャイン撃たれた。髪の毛がちょっと焦げた。
その次の後日。
それならばと、りぼんとなかよしとちゃおという、この年で買うのは少々恥ずかしい三誌を持っていった。
問答無用でアグニシャイン上級を撃たれた。ちょっと『こんがり』になった。
どんなのでもいいと言ったくせに。
ちなみに、流石にエロ漫画は自重した。15禁のグラビア誌をシャレで混ぜたら、永遠に本の中で生きる羽目になりそうだったから。
……さて、次はどんな本を持っていくかな。実家に送ろうとしてたこち亀全巻でも、持って行くか?




