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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第二百八十七話『はじめてのりょうり』

レミリアの指導を受けたフランドールは、意外とテクニシャンであった

 フランドールの趣味は読書である。


 あの子がねえ、とレミリアが時折ぼやくように、昔のフランドールからは考えられない趣味だそうだが、僕の知っている彼女は会ってすぐくらいから本の虫だった。

 案外、出会った頃はパチュリーに弟子入りしたばかりで、好奇心から魔導書に齧りついていた僕の影響もあるのかな、と思ったりもするが……


 いや、それはまあいいとして。


 フランドールは、良く本に影響を受けて、いろんなことに挑戦したりする。

 ……今回は料理らしい。


「いいタイミングに来たわね、良也。今日は私の手料理を振る舞ってあげる!」


 と、フリルの付いた可愛らしいエプロンを身につけ、お玉を持ちながら満面の笑顔でそう張り切るフランドールは非常に可愛らしいのだがちょっと待った。


 ……その、フランドールさん? 貴女の持っているその本って、


「あの、フランドール? 僕の知る限り、『注文の多い料理店』は料理がしたくなるようなお話じゃなかったような」

「えー、でも、この宮沢賢治って人、美味しそうな文章を書くから。私も美味しいの作りたいなって思って」

「……僕に塩とクリームを塗りたくるつもりじゃないよな?」


 僕に、窮地で助けてくれるワンちゃんはいないぞ。


「なに言ってるの。ご馳走するって言ったじゃない。良也にクリームなんて……クリーム……」


 フランドールの視線が僕の首筋に集中!?

 クリーム付き吸血とかレベル高いなオイ! まずはクリームをぺろぺろした後ガブっと行くんですねわかります!


 ……フランドール相手なら『お願いします!』と突撃しそうな人種もいそうな気がするが、僕としては撤退戦術を採用したい。


「フム、なかなか面白いことを思いつくわね」

「僕は面白く無いからな……」

「あら、自分で言っておきながら」


 僕と同じくテーブルについているレミリアがくすくすと笑ってからかってくる。

 こいつ、妹が絡むと機嫌いいんだよな……


「じゃあ、咲夜。よろしくね。くれぐれもフランが包丁で怪我したり、火で火傷したりしないよう」

「かしこまりました」


 なお、初めてのお料理にソロで挑む程フランドールも無謀ではなかったのか、教師兼監督役として咲夜さんが側に付く手筈となっている。

 しかし、レミリア。フランドールにそれはいらん心配だろ。フランドールレベルの吸血鬼を傷つけられる刃物とか火とか、どう考えても料理にはオーバースペックだ。特に自分が火の大剣を使うから、アンデッドの癖にフランドールは火耐性持ってるし。


「よろしくー、咲夜」

「はい。美味しい料理を作って、お嬢様をびっくりさせましょう」


 咲夜さんも、割と楽しんでいるっぽい。まあ、このパーフェクトメイドが側にいる以上、例えフランドールが初心者だとは言っても心配は……心配は……


「……レミリア。ときに聞くが、フランドールにコンロの火にレーヴァテインを使っちゃいけませんってことは伝えてあるよな?」

「なんの心配をしているの、貴方は」


 滅茶苦茶呆れられた。


 ……だってさー、こう、漫画やアニメで定番じゃん? メシマズヒロイン。別にフランドールがヒロインになることを期待しているわけじゃないけどさ。
















 ……などという心配は、フランドールに対して失礼だったらしい。


「和食ね。……初めてにしては美味しそうじゃない」

「頑張ったから」


 おずおずとフランドールがお盆に乗せて持って来た料理は、紅魔館には珍しいことに和風の献立だった。


 炊き込みご飯、大根の味噌汁、川魚の塩焼き、ほうれん草の白和えに……箸休めの漬物はすぐ作れないだろうから、流石に咲夜さんが漬けたやつかな。


「あ、お漬物はちょっとアレンジしてみたの」

「……あれ? 漬物も作ったのか?」

「時間操作による促成漬物です」


 ああ、そういうアレか。


「さて、冷めてしまっては勿体無いわ。早速いただきましょうか」


 と、レミリアは食堂に集まっている紅魔館の主要メンバーに向けて言う。

 レミリアと咲夜さんはもちろんのこと、パチュリー、小悪魔さんに美鈴もいる。


 せっかくなので、とレミリアがみんなを呼んだのだ。


 いただきます、の声が唱和する。


「妹様のご飯、美味しいですねえ。いやー、門番の立ち仕事は疲れるので、お腹が空いて空いて」

「美鈴……貴女、門のところにおやつを常備しているでしょう」

「さ、咲夜さん。なぜそれを……」


 なお、その常備お菓子の一部は僕から購入したものだったりする。


「ん、フラン。頑張ったわね」

「このお漬物、中々いいお味してます。隠し味の血液がなんともいい塩梅で」


 と、パチュリーと小悪魔さんのコンビは素直な感想を漏らしていた。

 ……後、漬物はスルーしとこう。妖怪のみんなはともかく、咲夜さんも流石に遠慮しているようだし。


「良也? 食べないの?」

「うおっと。食べる食べる」


 フランドールからの視線に、僕は慌てて箸を構える。

 いや、決して、他の人を実験台として見ていたわけじゃないよ?


「んじゃ、まずは味噌汁から」


 お椀を取り、ずず、と一口啜る。


 ……うん、大根が硬めだし、出汁がちょいと薄いが、充分美味しい。


 次は炊き込みご飯を……茸がメインの炊き込みご飯は、これは大成功だった。数種類の食感の異なる茸に染みてる醤油味が泣かせる。

 川魚は、塩加減をちょっと失敗してるかな。ただ、外の世界の濃い味付けに慣れた僕は、この少し塩っぱすぎる魚も全然イケる。

 更に白和えを口に運ぶと、優しい味にほっとする。


 気がつけば、僕はガッツガッツと旺盛な食欲を発揮し、フランドールにお茶碗を差し出していた。


「フランドール。おかわり。大盛りでな」

「! あ、うん!」


 普段は紅魔館での食事のおかわりは咲夜さんに言うのだが、やはり今日はフランドールに言うべきだろう。

 茶碗を受け取ったフランドールは、洋風のテーブルの上にでん! と置かれたお櫃からご飯を特盛りによそってくれた。


「はい、良也」

「おう、ありがと」


 ううむ、毒茸が混ざってないか少し心配していたが、見える範囲では全て食用茸だ。

 僕は安心して炊き込みご飯の攻略にかかる。


「フラン、私にもおかわりを頂戴」

「お姉様、いつもあまり食べないのに、今日は沢山食べるのね」

「フフ、まぁね」


 笑いかけるレミリアの表情は、なんとも優しい。……僕にその優しさの十分の一でも与えてくれたら、なお良いのに。


 まあ、そんなこんなで和やかな食事が続き。


 一升は炊いてあったご飯は米粒一つ残さずなくなってしまっていた。主に美鈴が食い尽くした。


「わぁ、みんな沢山食べた」

「妹様のお料理が美味しかったからですよ。今度は洋食に挑戦しましょうか」

「うん! あ、ステーキとかいいな。血の味がいっぱいのやつ」


 フランドールは割とやる気満々だった。いいことだ。『ありとあらゆるものを破壊する程度』という物騒な能力を持ったフランドールが、料理とか生産的なことに精を出すのは、とても貴重なもののように思える。


「おおっと、妹様。洋食も悪くありませんが、ここは是非私が中華の真髄をお教えしましょう」

「……美鈴、料理できたんだ」


 幻想郷の人外どもの料理の腕は、宴会でみんなが食べものを持ち寄るので大体わかるのだが、美鈴の場合はいつも留守番で不参加だったのでできるとは知らなかった。


「良也さん、それはちょっと心外です。こう見えても私、満漢全席も作れますよ」


 うお、それは素直にスゲー。


「マンガンゼンセキ? なにそれ、美味しそうね」

「あー、っと。妹様、流石に初めての中華で満漢全席はちょっと……。餃子辺りから始めましょう。具や皮は色々アレンジできますし、焼き、茹で、揚げ、蒸し、と色んな調理方法があって飽きませんよ」

「餃子かあ」


 おおう、フランドール、結構興味惹かれてるみたいだ。


「小悪魔さんは、サンドイッチとかお菓子とか得意ですよね?」

「ええ? 私ですか? そりゃ、パチュリー様のお夜食とかは私が用意してますけど……」


 いや、たまに僕もご相伴に預かるのだが、小悪魔さんの軽食や菓子は中々絶品なのだ。

 女の子だし、お菓子とか作るのもいいんじゃないかなあ、と思って水を向けてみる。


「こあも?」

「ええと……はい。こうなったら私も一肌脱ぎましょう」


 ふふ、なにやらフランドールを中心に紅魔館の友好の輪が広がっている模様。僕も料理は一通りできるが、流石にあんな女子力高いメンツに割り込む勇気はないので、自然にフェードアウトして、と。


「……で、そっちの女子力低い二人は、料理とかできないのか?」


 話に混ざれずに食後のお茶をすすっていたレミリアとパチュリーに話しかけてみる。


「……この私が、なんで料理なんか」

「そんなことをしている暇があれば、読書に精を出しているわ」


 あ、パチュリーは本気で気にしていないようだが、レミリアの方はアレだな。フランドールの方をチラッチラッと見てて、どこか居心地悪そうにしている。


「ほう、料理なんか、ねえ」

「……良也、なによ? 縊り殺されたいの?」


 フハハハハ! 僕がこうやって強気に出られることは早々ないのだから、こういう機会には反撃しておかなければなるまい!


「いや、別に? ただ、妹が頑張ってる料理を、『なんか』呼ばわりってのはなあー」

「くっ」


 フランドールに聞きとがめられないよう、小声で言ってたのは気付いてるぞ、コラ。


「フランドール?」

「え? なに、良也」

「フランドールは、レミリアと一緒に料理したいだろ?」

「お姉様もするの!?」


 ほーれ、釣れた。

 料理できない姉として、ちょっと妹の尊敬をなくすといい。


「え、ええ。いいわよ。私も、淑女の嗜みとして、当然料理程度は心得ているわ」

「嘘つけ」

「……後で殺す」


 小声でツッコミを入れると、とても恐ろしい宣言をされた。

 ……ちょ、ちょーーっと調子に乗りすぎたかも知れん。


 これは、早めに撤退しよう。そうしよう。


「……うん。さて、っと。ご馳走はおよばれになったし、そろそろ僕は帰ることにするよ」

「まあ、ちょっと待ちなさいな」


 がっし! とレミリアに肩を掴まれ止められた。

 あ、肩の骨がギシギシ言ってる。


「痛っ、痛いんスけど、レミリアさん」

「丁度良いわ、フラン。私が今から料理を見せてあげましょう」

「え? でも、もうみんなお腹いっぱいよ?」


 こ、この流れで『料理』……すごく嫌な予感がしてきた。助けてくれそうなのは……かろうじて、『いえ、私はまだ食べれますけど』などと言っている美鈴くらいか。でも頼りにならねぇ。


「ふふ、デザートというものよ。人間が小癪な知恵で編み出した料理とは次元が違う、吸血鬼料理を教えてあげるわ。

 ……フランも知っていると思うけど。人間はね、恐怖を覚えた奴の血が美味しいのよ?」

「うんうん」

「でも、フランは、人間を美味しく『料理』はできないでしょう?」

「やったことないー」


 はい、これアカン流れですわ。


「さて、丁度良く、食材もあることだし。さ、作りましょうか?」

「はーい!」


 フランドール、めっさいい笑顔だけど、その笑顔超怖いよ。食欲に刺激されたのか、犬歯伸びてる伸びてる。









 なお、僕はレミリアの宣言通り、美味しく『料理』されてしまい。

 吸血鬼姉妹二人の喉を大いに潤したのだが、まあ見えていた展開である。


 ……僕が調子に乗ると、すぐにしっぺ返しが来るな。今後は自重しよう。

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