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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第十七話『三日目~巫女と鬼、そして生霊 後編~』

たまには格好いいところ見せないとね。……え? 別に格好よくない?

「お、おお!?」


 余波で、空中に飛んでいる体が流されそうになる。


「へえ。よく今のを躱したね」

「うる、さいわねっ」


 萃香が『戸隠山投げ』とかいうスペルカードを使って、馬鹿でかい岩を投げつけたのだ。

 まともに喰らったら、人間の身体くらいプチッと潰れそうな奴を。


 霊夢は当たり前のようにひらりとかわし、お返しとばかりに針を投げているのだが、


「……分、悪いかな」


 遠間で見る限り、霊夢の攻撃は萃香に効いていないように見える。

 いや、当たってはいるんだからまるで効いてないということはないはずなのだが……なんだ? スーパーアーマーかなんかか?


「あらあら。傍観かしら?」

「……紫さん」


 いつの間にか、隣には霊夢にあの鬼娘の相手を押し付けた紫さんが立っていた。

 いや、立って? いやぁ、なんか空間の亀裂に腰掛けるのは、立つとは言わないなぁ。


「僕に、傍観以外の何をしろと?」

「特攻?」

「死にます」

「もう死んでるようなものじゃない。貴方の身体見てきたけれど、そろそろ本当に死ぬわよ?」


 この人が言うと冗談に聞こえない。


「や、やめてくださいよ。脅かすのは」

「本当のこと。ご家族の方も心配していたわ。そうね……もって、あと一週間というところかしら」


 MAJIですか。そういえば、幽々子もそろそろヤバいとか言ってたけど……本格的に、戻る方法を考えないといけないかもしれん。


 っと。それも重要だけど、今は霊夢の方だ。


「うわっ、霊夢のスペカ、まともに食らってぴんぴんしてらぁ」


 萃香は、霊夢の『夢想妙珠』を食らっても笑っていた。 

 ……あ、なんか萃香、でかくなった。推定八メートルくらい。


 霊夢、めっさ怒ってる。『反則よーっ!』って、弾幕ごっこにルールなんてあったんだ。


「随分呑気ね。自分の瀬戸際だっていうのに」

「まあ、霊夢に勝ってもらわないと、萃香に喰われちゃいそうですしねー」


 だから、一応霊夢の応援だ。

 フレー、フ・レーッ! R・E・I・M・U!


「違うでしょ」

「は? 何が?」


 それより旗かなんかないですか?


「ちゃんと、自分が生き返るってわかってるんでしょう?」

「なんのことっスか」

「……そ。自覚はしてないってことね」


 うーん。この人の言うことは気にしないのが吉だな。どこまで本当かわからんし、からかわれているだけな気もする。


「まあいいわ。貴方が、幻想郷に新しい風を持ってきてくれるのかもしれないし」

「よくわからないけど、なんか格好良いですねそれ」

「そうね。スカートとかをめくる、助平な風みたいなもの」

「なんでいちいち落とすんですか」


 この人、たまにいいこと言ったと思っても、すぐ前言を覆すからなぁ。信用ならないというか。


「……あ、霊夢のほう、危ないわね」


 紫さんの言葉に、霊夢のほうを見てみると、弾幕ごっこは新たな局面を迎えていた。


「うわ……なんですかあれ」


 萃香が空中に浮かんで、腕をぐるぐるさせている。

 『それ』を中心に、周囲の石やら草やら霊気やらがどんどん集まっていて、同時に萃香からいくつものとんでもない威力の霊弾がぶっ放されている。


 まるで台風だ。


「萃香、勝負に出たわね」

「あれは……霊夢の、負けかな」


 萃香が吸い込んでいるのはなにも無機物や霊気だけというわけではない。

 ついでとばかりに、対戦相手の霊夢も吸い寄せている。おかげで、霊夢は動きづらそうだった。


「そうね。でも、私としてはここで博麗の巫女が負けるのはまずいと思うのよ」

「……はぁ」

「かといって、私クラスの妖怪が助太刀に向かうのもね」


 なんか嫌な予感がする。……即時撤退っ!


「そこでね」

「な、なんですか。肩から、手離して欲しいんですけど」

「折りよく、萃香の萃める力は効かず、でも弾幕ごっこに割って入っても誰も文句が言わない程度に弱い弾除けが、あらこんなところに」


 うわーーーーーっっっ!? なんだこの人、一体全体なに考えてんだーーーーっ!?


「えい」


 そして、僕は空間に出来た隙間に吸い込まれ、













 気がついたら、霊夢の真後ろに立っていた。


「……よぅ、霊夢」

「良也さん!? なにしにきたのよ!?」


 余り僕に構う暇はないのか、霊夢がいつになく慌てた調子で訪ねてくる。

 なにしにきたって……僕が聞きたいんだけどなぁ。


「ああもう。弾は自分で躱してねっ!」

「はぁ!?」


 僕の盾になっていた霊夢が、目の前から消える。

 ついで、僕の目の前に迫る萃香の大玉!


「うわぁぁぁぉあっ!?」


 かろうじて躱す。

 弾速はさほどでもないのだが、威力が半端じゃない。一撃でももらったら昇天確実。


 にもかかわらず、同じ威力の弾がまぁ、出て来る出て来る。

 それら第二波、第三波はもう、自分でもどうやって切り抜けたのか、ぶっちゃけ記憶にありません。


「っっっぶなっ、ぶなっ、ぶなっ!」

「ありゃ、良也来たんだ。じゃ、これおまけね

 心臓は早鐘を打ちっぱなし。僅かな時間、落ち着け……ないっ!

 萃香はおまけと称し、いくつもの小さな弾をこっちへ放ってくる!?


「霊夢ぅぅぅぅーーーーっ! ヘルプミーーーー!」

「なによ、それ」


 なんだかんだで、霊夢が助けてくれた。

 ガキン、と前方に張った符の結界で萃香の霊弾を防いでくれる。


「良也さん、貴方、吸い込まれないの?」

「あ、ああ。そういう能力らしいし」


 いや、理屈はさっぱりわからないんだけどね。


「私も、吸い寄せられる感じがなくなってる……」

「僕の近く、二メートルくらいまでなら、萃香の能力は届かない……はず」


 僕の感覚からしても、霊夢は僕の『世界』の範囲内にいるのだから、萃香の萃める力は届かない。

 紫さんの言うことを信じれば、だが。


「いいわ。これなら、うまく行くかも」

「……は?」

「大技出したかったんだけど、隙がなくてね。発動をつぶされちゃってたんだけど……良也さん」


 なんですか、このパターンッ!? なんか、とんでもないことを頼まれそうな……


「ほんの数秒で良いわ。私に弾が来ないよう、時間を稼いで!」

「やっぱりとんでもないことだったーーーーーっっ!!」


 げしっ、と僕を前方に蹴り出す霊夢ッ!?

 うぉーいっ! 数秒つったって、少なくとも目の前の弾は防がなきゃいかんですよね、僕!?


「まっ、」


 ことここにいたって、逃げることはできない。僕は、半泣きになりながら覚悟を決めた。


 手を前に。

 紫さんが『自分だけの世界に引き篭もる程度』と称した能力を全開で発動。


 強固な壁を作る。

 かつて、ルーミアの弾を防いだときのように。イメージするのは、部屋の扉。固く固く、鍵をかけるように壁を厚くする。


「けっ、」


 萃香の大玉と、僕の壁が接触。

 途端、自分のスペースが侵されるような違和感が走り、壁に亀裂が走……早いっ! 早いよ、オイ!


「るっ、」


 血管が切れるんじゃないか、というくらい霊力ちからを込める。

 弾の進行速度が若干鈍る。


 それを見越し、壁を『斜め』に。直接受けるのは無理無理のム・リーなので、弾を逸らす作戦だ。


 しかし、それでもまだ足りない。

 僅かに軌道を逸らされた弾は、僕の半身を持って行き、後ろの霊夢に直撃するだろう。


 ……それは、だめだ。

 電撃のように、回避方法が脳裏に浮かぶ。


「っっっかーーーーーー!!」


 思い出すのは、一番初めにこの能力を使ったときのこと。

 あの時、僕はルーミアの弾を『曲げた』。


 出来る、と確信さえすれば、自分の領域内の空間を、歪めることは自然とできた。


「っけぇ! 霊夢ッッ!」


 進行を逸らされ、さらに空間の歪みに従い曲がっていく萃香の弾。

 僕の服を危ういところで掠るそれを横目で見送り、準備を終えたであろう霊夢に声をかける。


「神霊」


 まるで海のようにデカイ霊力が発動するのを背中に感じる。

 それは、霊夢の言霊によって、確かなカタチを与えられ、


「『夢想封印』」


 それぞれが意思を持つかのような動きで、萃香に殺到した。


「へ?」


 萃香の間抜けな声がフィナーレだ。


「ぎにゃぁあああああ!?」


 以上……弾幕ごっこ、終了。

 死ぬかと思ったぞー、こらー。

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