第十四話『二日目昼~妖怪賢人の教え~』
何だ、僕の能力は。強いのか? 弱いのか? それすらもよくわからん ※注:弱い
……さて。
萃香に拉致された僕は、なぜか神社の屋根に跨っていた。
「これ、攫うって言うのか?」
「ん~? まあいいじゃん」
朝もはよから酒を呑む萃香は、まったく適当だ。
まあ、足を鎖で縛られているため、逃げることは出来ないんだけど。
「しかし、便利だよな。その萃める力」
「へへ~。そうでしょ」
なにせこいつが指を立てると、どこからともなく朝食が萃まってきたのだ。
どこからかはしらない。いつの間にか朝ごはんがなくなって、怒っていた巫女なんて僕は知らない。
「霊夢……本当に僕のこと、気にしてないな」
「そうだねー」
朝食を食べ終わったらしく(ちなみに、既にお昼近い)、境内に出てきた霊夢は伸びをしていた。
自分が留守番を頼んでおいて、帰ってみたらいなくって。
んで、霊夢の言葉は『まったく、良也さんは責任感が足りないわね』って。少しくらい心配してくれてもバチはあたらないと思うぞー。
「さて、と。今日はどいつのところにいきましょうかね。やっぱり怪しいのはこの妖霧か……」
ああ、まだ宴会の異変は解決していないんだ。
「んー? なんか来たよ」
萃香の言葉に、東の空を見てみると……ん? あれ、妖夢か?
「霊夢っ」
「あら。あんた? お嬢様のところについていなくていいの?」
「私は、今この宴会の異変を調査中だ。それより」
妖夢が剣を抜く。
楼観剣、白楼剣。名前だけは聞いたけど、どちらも相当の名剣らしい。
「良也さんはどこだ? 昨日神社に行ったきり帰ってきていないんだが」
「知らないわよ。ちょっと神社の留守を頼んで、帰ってきたら居なかったんだから」
「なんだと……?」
妖夢の空気が変わる。
「もしかして、お前が良也さんを?」
「なんでそうなるのよ。私が良也さんをどうするって?」
「もういい。斬る」
……おーい。妖夢。いきなりそれはないんじゃないかー?
「物騒ね。なんで斬ることになるのよ」
「斬れば全部わかる。私の師匠の教えだ」
そのお師匠の教え、間違っているって。まるっきり辻斬りじゃないか。
「まあいいわ。私もあんたに聞きたいことがあったし」
「なに?」
「私、今回の異変は『妖霧』が怪しいと思っていたのよね」
こじつけじゃん。
そして始まる弾幕ごっこ。
どうでもいいけど、本当、ここの人間は喧嘩っぱやいなぁ。もう少し落ち着こうぜ。
「おー、おー。どっちもけっこうやるなぁ」
「……こっちはこっちで、呑気に酒呑んでるし」
「ん? 呑みたい?」
「流石に昼間っから呑む気は起きないって。ていうか、昨日から呑みっぱなしじゃないか」
本当、このちっこい身体のどこにアレだけの酒が入るんだ。というか、あの瓢箪は一体どうなっているんだ。
「わっ、あぶなっ」
見てて、思わず声を上げてしまった。
妖夢の居合い斬りを、霊夢は危ういところで空中に逃れ躱す。
そして、無防備な背中をお払い棒で打った。
あれ、躱さなかったら霊夢、上半身と下半身が泣き別れしていたんじゃないのか?
「くっ」
「霊符『夢想妙珠』」
霊夢は続けて、いつぞやに使っていたスペルカードで妖夢に畳み掛けた。
決まるか、と思ったが、妖夢もスペルカードを取り出し、大きく踏み込んだ。
「人符『現世斬』!」
「うわっ!?」
一瞬、僕の目から妖夢の姿が掻き消え、次の瞬間に刀を振り切った体勢で霊夢の後ろに立っていた。
霊夢のお払い棒とスペルカードが、二つに分かれ地に落ちた。
「たたた……やったわね」
……あれ~? 霊夢も斬ったみたいなんだけど、傷ができていないよ~?
ああもう、こいつらの常識についていくのは大変だ。
「ふん。大人しく話す気になったか」
「冗談。これからよ」
どうやら、仕切り直しらしい。
新しいお払い棒を取り出し、霊夢は突撃していった。
「あらあら。元気がいいわねぇ」
「のわぁ!?」
しばし、霊夢と妖夢の弾幕ごっこを見物していると、いきなり隣に紫さんが現れた。
しかも、上半身だけ。下半身は――何だろう? 空中に出来た隙間みたいなものの中だ。
「紫?」
「貴方も久しぶりね」
「まぁね。しかし、久方ぶりに帰ってきてみたら、誰も彼も鬼のことを忘れていて困っちゃったよ」
笑いあう萃香と紫さん。知り合い?
「で、彼を攫ってきたの?」
「おー。でも、誰も探しに来てくれないんだよね」
「待った待った。ほら、あそこで妖夢が頑張ってくれている」
うむ。そう考えると、妖夢ガンバレー、と応援したくなってきた。
フレー! フ・レー! Y・O・U・M・Uッ!
「でも、彼女は未熟よ。なんでも斬れば解決すると思っている」
「いやまぁ、確かに僕もどうだかなぁ、とは思ったけど」
しかし、他の連中とて大して変わらないのではないか? 少なくとも、今まで僕が会った連中はそうだ。
「で、紫。何か用?」
「別に。いい加減、貴方も宴会に参加したら? と思ってね」
「えー? でもなぁ」
「ま、いいわ。今は、貴方をその気にさせるため、色々動いているところだしね」
それって、本人にバラしてもいいのか?
「それはそうと、良也。貴方の能力見せてもらったわよ」
「……いつ、どこで」
「昨日、魔理沙と咲夜が戦っているとき、ここで。おかげでどういう能力かわかったわ」
見てたのか、この人。
ストーカー?
「あまり妙なこと考えていると、隙間ツアーにご招待するわよ」
と、紫さんは自分の下半身を収めている空間を広げ、僕に見せた。
中に見えるのは、目とか手とか道路標識(???)とか。
「御免被ります」
「そ。賢明ね」
賢明って言うか、ここで『どうぞ連れて行ってくださいっ!』なんて言えるようなやつは、人間じゃない。
「で、紫。良也の能力って?」
興味あるのか、萃香が先を促した。
というか、僕も興味しんしんだ。
「そうね……彼の力は、自分の周りに、自分だけの空間を作る力。世界を創る、と言い換えてもいいでしょう」
なんか壮大なのキターーーーーー!?
「世界を一枚の絵としたら、彼は自分と言う紙片をその絵の上に貼り付けている。……咲夜や萃香の力が効かないのも当然ね。貴方たちの力は、世界そのものに干渉するもの。違う世界に身を置いている彼には届かない」
へーほー、ふーん。
よくわからんが、なんかスゴそうだということはわかった。
「そう、これはわかりやすく言うと……『自分だけの世界に引き篭もる程度』の能力っ!」
僕はこけた。
萃香が周りの空気を弄っていなかったら、きっと霊夢たちも気付いただろう。スゴイ音がしたもん。
「なんか、ガクッとグレードが下がった気がするんですが!?」
「だって、貴方の力を見ていると、そうとしか言えないんですもの。みんなが会社や学校に行く時間に『俺に時間は関係ないぜ』と言う引き篭もりと何が違うって言うの? 貴方が咲夜の時間の中で動けたのは、つまりそういうことよ?」
やたら例えが現代的なのはこの際どうでもいいとして、何が違うって色々違うと思うんだがどうでしょう。
「それに、そういうルールを変更するような力に強い反面、直接的な暴力にはとても弱い。引き篭もりそのまんまね」
「引き篭もりってなんなのさ」
一人、例えがわかっていない萃香は首をかしげている。
「ま、要するに。貴方は、自分の周囲二メートル程度を自分の部屋にしているのよ。萃香の存在に気付けたのも、自分の部屋の違和感には誰でも気付くものでしょう?」
「……移動型引き篭もりですか」
「そうよ。理解が早くてなにより」
なんかなー。釈然としないと言うか。
ほらほら。前、弾を曲げたり、壁を作ったりしたじゃん。
「それも、その力の一環。親が部屋に入れないよう、鍵をかけるのと同じこと。儚い抵抗だというところも同じ」
「その例え、いい加減やめません?」
「わかりやすいでしょう?」
わかりやすいけど、わかりやすいけどーっ!
「ま、希少ではあるけれど、私には無意味ね。何せ」
あ、紫さんが近付いた途端、なんかすっごい違和感が。
そう、先ほどの例えを借りると、自分の部屋が、どんどん崩れていくような……
「私がこうやって『現実世界と貴方の世界の境界』を弄れば、貴方の能力は完全に無効化できる」
「わ、わかりましたからやめてくださいっ」
言うと、クスリと笑って紫さんは離れた。
「さて、霊夢のお酒をもらいに来たんだけど、またにしましょうか」
「は? お酒?」
「そのうちわかるわよ。じゃあ萃香。またね」
そう言って、紫さんは去っていった。
なんだろう。あの人は。もしや、僕の能力の種明かしをしに来ただけか?
「お、決着ついたね」
萃香の言葉に、境内のほうを見てみると、服をちょっとボロボロにしている妖夢と、ほとんど無傷で笑っている霊夢の姿があった。




