表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
14/339

第十四話『二日目昼~妖怪賢人の教え~』

何だ、僕の能力は。強いのか? 弱いのか? それすらもよくわからん ※注:弱い

 ……さて。

 萃香に拉致された僕は、なぜか神社の屋根に跨っていた。


「これ、攫うって言うのか?」

「ん~? まあいいじゃん」


 朝もはよから酒を呑む萃香は、まったく適当だ。

 まあ、足を鎖で縛られているため、逃げることは出来ないんだけど。


「しかし、便利だよな。その萃める力」

「へへ~。そうでしょ」


 なにせこいつが指を立てると、どこからともなく朝食が萃まってきたのだ。

 どこからかはしらない。いつの間にか朝ごはんがなくなって、怒っていた巫女なんて僕は知らない。


「霊夢……本当に僕のこと、気にしてないな」

「そうだねー」


 朝食を食べ終わったらしく(ちなみに、既にお昼近い)、境内に出てきた霊夢は伸びをしていた。


 自分が留守番を頼んでおいて、帰ってみたらいなくって。

 んで、霊夢の言葉は『まったく、良也さんは責任感が足りないわね』って。少しくらい心配してくれてもバチはあたらないと思うぞー。


「さて、と。今日はどいつのところにいきましょうかね。やっぱり怪しいのはこの妖霧か……」


 ああ、まだ宴会の異変は解決していないんだ。


「んー? なんか来たよ」


 萃香の言葉に、東の空を見てみると……ん? あれ、妖夢か?


「霊夢っ」

「あら。あんた? お嬢様のところについていなくていいの?」

「私は、今この宴会の異変を調査中だ。それより」


 妖夢が剣を抜く。

 楼観剣、白楼剣。名前だけは聞いたけど、どちらも相当の名剣らしい。


「良也さんはどこだ? 昨日神社に行ったきり帰ってきていないんだが」

「知らないわよ。ちょっと神社の留守を頼んで、帰ってきたら居なかったんだから」

「なんだと……?」


 妖夢の空気が変わる。


「もしかして、お前が良也さんを?」

「なんでそうなるのよ。私が良也さんをどうするって?」

「もういい。斬る」


 ……おーい。妖夢。いきなりそれはないんじゃないかー?


「物騒ね。なんで斬ることになるのよ」

「斬れば全部わかる。私の師匠の教えだ」


 そのお師匠の教え、間違っているって。まるっきり辻斬りじゃないか。


「まあいいわ。私もあんたに聞きたいことがあったし」

「なに?」

「私、今回の異変は『妖霧』が怪しいと思っていたのよね」


 こじつけじゃん。


 そして始まる弾幕ごっこ。

 どうでもいいけど、本当、ここの人間は喧嘩っぱやいなぁ。もう少し落ち着こうぜ。


「おー、おー。どっちもけっこうやるなぁ」

「……こっちはこっちで、呑気に酒呑んでるし」

「ん? 呑みたい?」

「流石に昼間っから呑む気は起きないって。ていうか、昨日から呑みっぱなしじゃないか」


 本当、このちっこい身体のどこにアレだけの酒が入るんだ。というか、あの瓢箪は一体どうなっているんだ。


「わっ、あぶなっ」


 見てて、思わず声を上げてしまった。


 妖夢の居合い斬りを、霊夢は危ういところで空中に逃れ躱す。

 そして、無防備な背中をお払い棒で打った。


 あれ、躱さなかったら霊夢、上半身と下半身が泣き別れしていたんじゃないのか?


「くっ」

「霊符『夢想妙珠』」 


 霊夢は続けて、いつぞやに使っていたスペルカードで妖夢に畳み掛けた。

 決まるか、と思ったが、妖夢もスペルカードを取り出し、大きく踏み込んだ。


「人符『現世斬』!」

「うわっ!?」


 一瞬、僕の目から妖夢の姿が掻き消え、次の瞬間に刀を振り切った体勢で霊夢の後ろに立っていた。

 霊夢のお払い棒とスペルカードが、二つに分かれ地に落ちた。


「たたた……やったわね」


 ……あれ~? 霊夢も斬ったみたいなんだけど、傷ができていないよ~?

 ああもう、こいつらの常識についていくのは大変だ。


「ふん。大人しく話す気になったか」

「冗談。これからよ」


 どうやら、仕切り直しらしい。

 新しいお払い棒を取り出し、霊夢は突撃していった。










「あらあら。元気がいいわねぇ」

「のわぁ!?」


 しばし、霊夢と妖夢の弾幕ごっこを見物していると、いきなり隣に紫さんが現れた。


 しかも、上半身だけ。下半身は――何だろう? 空中に出来た隙間みたいなものの中だ。


「紫?」

「貴方も久しぶりね」

「まぁね。しかし、久方ぶりに帰ってきてみたら、誰も彼も鬼のことを忘れていて困っちゃったよ」


 笑いあう萃香と紫さん。知り合い?


「で、彼を攫ってきたの?」

「おー。でも、誰も探しに来てくれないんだよね」

「待った待った。ほら、あそこで妖夢が頑張ってくれている」


 うむ。そう考えると、妖夢ガンバレー、と応援したくなってきた。

 フレー! フ・レー! Y・O・U・M・Uッ!


「でも、彼女は未熟よ。なんでも斬れば解決すると思っている」

「いやまぁ、確かに僕もどうだかなぁ、とは思ったけど」


 しかし、他の連中とて大して変わらないのではないか? 少なくとも、今まで僕が会った連中はそうだ。


「で、紫。何か用?」

「別に。いい加減、貴方も宴会に参加したら? と思ってね」

「えー? でもなぁ」

「ま、いいわ。今は、貴方をその気にさせるため、色々動いているところだしね」


 それって、本人にバラしてもいいのか?


「それはそうと、良也。貴方の能力チカラ見せてもらったわよ」

「……いつ、どこで」

「昨日、魔理沙と咲夜が戦っているとき、ここで。おかげでどういう能力かわかったわ」


 見てたのか、この人。

 ストーカー?


「あまり妙なこと考えていると、隙間ツアーにご招待するわよ」


 と、紫さんは自分の下半身を収めている空間を広げ、僕に見せた。

 中に見えるのは、目とか手とか道路標識(???)とか。


「御免被ります」

「そ。賢明ね」


 賢明って言うか、ここで『どうぞ連れて行ってくださいっ!』なんて言えるようなやつは、人間じゃない。


「で、紫。良也の能力って?」


 興味あるのか、萃香が先を促した。

 というか、僕も興味しんしんだ。


「そうね……彼の力は、自分の周りに、自分だけの空間を作る力。世界を創る、と言い換えてもいいでしょう」


 なんか壮大なのキターーーーーー!?


「世界を一枚の絵としたら、彼は自分と言う紙片をその絵の上に貼り付けている。……咲夜や萃香の力が効かないのも当然ね。貴方たちの力は、世界そのものに干渉するもの。違う世界に身を置いている彼には届かない」


 へーほー、ふーん。

 よくわからんが、なんかスゴそうだということはわかった。


「そう、これはわかりやすく言うと……『自分だけの世界に引き篭もる程度』の能力っ!」


 僕はこけた。

 萃香が周りの空気を弄っていなかったら、きっと霊夢たちも気付いただろう。スゴイ音がしたもん。


「なんか、ガクッとグレードが下がった気がするんですが!?」

「だって、貴方の力を見ていると、そうとしか言えないんですもの。みんなが会社や学校に行く時間に『俺に時間は関係ないぜ』と言う引き篭もりと何が違うって言うの? 貴方が咲夜の時間の中で動けたのは、つまりそういうことよ?」


 やたら例えが現代的なのはこの際どうでもいいとして、何が違うって色々違うと思うんだがどうでしょう。


「それに、そういうルールを変更するような力に強い反面、直接的な暴力にはとても弱い。引き篭もりそのまんまね」

「引き篭もりってなんなのさ」


 一人、例えがわかっていない萃香は首をかしげている。


「ま、要するに。貴方は、自分の周囲二メートル程度を自分の部屋にしているのよ。萃香の存在に気付けたのも、自分の部屋の違和感には誰でも気付くものでしょう?」

「……移動型引き篭もりですか」

「そうよ。理解が早くてなにより」


 なんかなー。釈然としないと言うか。

 ほらほら。前、弾を曲げたり、壁を作ったりしたじゃん。


「それも、その力の一環。親が部屋に入れないよう、鍵をかけるのと同じこと。儚い抵抗だというところも同じ」

「その例え、いい加減やめません?」

「わかりやすいでしょう?」


 わかりやすいけど、わかりやすいけどーっ!


「ま、希少ではあるけれど、私には無意味ね。何せ」


 あ、紫さんが近付いた途端、なんかすっごい違和感が。

 そう、先ほどの例えを借りると、自分の部屋が、どんどん崩れていくような……


「私がこうやって『現実世界と貴方の世界の境界』を弄れば、貴方の能力は完全に無効化できる」

「わ、わかりましたからやめてくださいっ」


 言うと、クスリと笑って紫さんは離れた。


「さて、霊夢のお酒をもらいに来たんだけど、またにしましょうか」

「は? お酒?」

「そのうちわかるわよ。じゃあ萃香。またね」


 そう言って、紫さんは去っていった。

 なんだろう。あの人は。もしや、僕の能力の種明かしをしに来ただけか?


「お、決着ついたね」


 萃香の言葉に、境内のほうを見てみると、服をちょっとボロボロにしている妖夢と、ほとんど無傷で笑っている霊夢の姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ