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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第百二十話『里の依頼』

ぷんすか怒っていた。なんか、すごく自分勝手な気がする

「あれえ!?」


 僕が人里でお菓子を売り終わり、帰る準備をしていると、そんな素っ頓狂な声が聞こえた。


「……どうしたんですか、冬美さん」

「あ、いやね。君が来るまで、私が食べていたお団子がなくなっちゃっているから」


 と、お茶屋の席を指差して、我が菓子店の常連である冬美さんは言った。

 ……ふむ。


「店員さんが間違えて下げちゃったんじゃないですか?」


 この茶屋は、天気のいい日は外にも席を出している。そのため、僕が来たことをすぐに嗅ぎつけた冬美さんは、食べている途中の団子を放り出してこちらに来たのだ。

 ……店員さんが間違えても仕方がない気がする。


「そんなことないわよ。私、一言言っておいたもん」

「確認して来ればいいじゃないですか」


 大きな声を上げるから何かと思えば。たいした話ではない。

 ったく、とっとと帰る準備を。


「ああー!」

「……今度はなんですか」


 またしても声を上げた冬美さんに、少々うんざりしながら振り向く。

 彼女は、僕の背後の空を指差して固まっていた。


「わ、私のお団子!」

「はあ?」


 空を飛んでいるとでも言うのか、と後ろを振り向いてみると……空を飛んでいた。

 正確には、その団子をパクつきながら飛んでいる妖精がいた。


「サニー?」


 飛んでいるのは、見覚えのある妖精だった。神社によく悪戯をしに来る光の妖精。

 いや、確かに奴は悪戯好きではあるし、妖精らしく常識は通じない奴ではあるが、団子を食べていただけで犯人扱いは可哀想では?


「えっと、あれって本当に冬美さんの団子なんですか?」

「間違いないわっ! 私が、お菓子のことで、誤るはずが、ないっ!」


 力強く断言されてしまった。

 ……それはどうもごめんなさい。


 しかし、そうするとお得意の光の屈折を使って、姿を消して盗んだんだろう。まあ、妖精の窃盗事件は、この人里では大して珍しくもない。


 ……なんて、このときは思っていたんだけどなあ。













「……なんですか、みんなして」


 次の日。

 お菓子は売りさばいたものの、ちょっとした買い物があって人里にやってきた僕は、里の人たち住人ほどに囲まれていた。


「いや、良也君。実はね、折り入って君に頼みたいことがあるんだよ」

「構いませんけど……とりあえず、みんなで囲むのはやめてくれません? ちょっと怖いですよ」


 言うと、みんなは顔を見合わせる。そしてちょっと困った顔になって、少し距離を離してくれた。

 ……ったく。なんだっていうんだろう。


「それで、頼みたいこととは? 言っておきますが、お菓子の件は来週までお預けですよ」

「そうじゃないのよ」


 昨日、お団子の被害にあっていた冬美さんが代表して前に出てきた。


「はあ?」

「貴方も知ってのとおり、この里では頻繁に妖精の被害にあっているわ。ここ最近、特にとある三人の妖精が調子に乗っててね」


 ……三人、ね。

 大体話が読めてきたんだけど。


「サニーたちのことですか?」

「そういう名前なの? 昨日、私のお団子を盗んだあの妖精のことだけど」

「あいつはサニーミルク。三人って事は、他二人はルナチャイルドとスターサファイアでしょう。あいつらいっつもつるんでいますし。幻想郷縁起読めば載ってますよ、連中」


 妖精の中では結構力が強い方だしな。

 いや、弾幕は一般妖精並なんだけど、能力の悪戯適性が高すぎるんだよ。なんだよ、姿を消すとか音を消すとか気配を読むとかって、僕だったら絶対に覗きにつか……ゲフンゲフン。


 か、考えるだけで多分実行できないよ。うん、多分。ちょ~っと興味はなくはないというか、アリアリですが。


 と、とにかくっ。そんなある意味素晴らしい能力をケチな窃盗に使うとは、許せないな、うん。


「私だけじゃないの。他にも米や野菜も盗まれているし、池に落とされたり道に迷わされたりした人もいるのよ。いい加減、放っておけなくて」

「わかりました。要するに、僕にあいつらを懲らしめて来いってことでしょう?」

「話が早いわね。慧音様はもっと恐ろしい妖怪の対処だけで精一杯みたいだし……。報酬は取れ立て夏野菜一週間分でどう?」

「構いませんけど」


 下手にお金を貰うより、そっちの方がお互い嬉しいだろう。

 僕だって、そんなたくさんお金があっても困るし。あ、でも。


「あの、茄子だけはやめてくれます? 僕、苦手なんで」

「あれ? そうなの?」

「ええ。どうも昔っからあれだけはちょっと」


 麻婆茄子とか僕にとっては拷問に等しい。……うう、あの食感を思い出してしまった。


「じゃあ、ちょっくら行ってきます。ゲンコの一発もくれてやれば自粛するでしょう」

「ええ、よろしくね」


 ……さてはて。ちょいと妙なことになったな。














 で、サニーたちの住処にやってきた。

 と、言っても魔法の森のどっかに住んでいるらしい、程度にしか知らない。


 ……さて、どうやって探そうかなあ。


 なんて、ぼーっとしていたのが悪かったのかもしれない。足元にぴんと張られた蔦に気付かず、引っ掛けてしまった。


「げっ!?」


 身体が傾いてからようやく気付いたけれど、もう遅い。僕は宙に留まることも出来ず、見事顔面から地面に倒れこん……いってええ!


「ぎゃあああ!? 石があああ!?」


 顔を抑えて転がる、転がる!

 いや、マジ痛いって。額のところに思い切り小石が当たったって!


「キャハハ! ひっかかったひっかかった!」

「能力が効かないって言っても、間抜けなんじゃあ仕方ないわね!」


 ……こ、この声は。


 がばっ、と顔を上げるっ。

 視界に入ってきたのは、腹を抱えて笑い転げている三妖精ども。


 ふ、ふふふ、森に入って五分とかからず発見しちゃったヨ。しかも、僕の中にほんのちょっぴりはあった彼奴らに対する同情心など欠片も残らず吹き飛ばしてネ。


「ははは! ねえ、不細工な顔が、ちょっとはマシになったんじゃない?」

「スタァァァァーー!」


 走る。我ながら鬼のような表情だと確信できた。……いや、こんな言い方をしたら萃香が怒るか。


 そう、今の僕は一匹の修羅。とりあえず、三人の妖精に『ごめんなさい』と言わせるためだけに生きる魔物なのだ。


「きゃぁあ! 逃げるわよっ、なんか今日はマジだわ!」

「怖っ! こ、怖!」

「大人気ない!」


 ふふふ、反省の色ナッシングですね。


「上等だぁ! 風符!」

「す、スペルカードよ。サニー、早く姿消して……」


 確かに、連中から十メートルは離れているこの状況。姿と音を消されたら、奴らを追う術はなくなる。


 しかしっ、間に合わせるか!


「『シルフィウインド』!」


 間一髪、姿を消したサニーたちだが、直後に魔法が発動したため、どこにいるかは十分に分かる。

 多少避けても意味がないくらいに範囲を広く取って、僕は風の魔法を制御する。


「おらおらおらぁ!」


 カマイタチは発生させない。代わりに、竜巻のようにぐるぐる回し……ああ、あれだ。エア洗濯機。

 まあ、とりあえずそんな感じでグルグル回す。勝手に腕もぐるぐる回しちゃってるけど、気分というか、えっと……あれだ、魔法の儀式みたいなのだから、気にしない。


 さて、それはそうと、手応えはあるから、三人とも逃げてはいない……はず。中で、洗濯機に現れる衣服の気分を味わっているだろう。こっちに洗濯機なんてないからわからないだろうが。

 考えてみたら、拳骨するまでもなく、これでお仕置きオッケーだな。


「ふっ、そろそろ許してやるか」


 小規模とは言え、竜巻みたいなのをいつまでも起こしておけるほど僕の霊力に余裕なんてもんはない。……あ、ちょっとフラっときた。


「ほいっ、と」


 徐々に風を緩め、三妖精たちを地面に降ろす。

 流石にこの状況で能力を使う余裕なんてものはなかったのか、全員姿をちゃんを現している。


 ……ふっ、完全勝利。もしかして僕が一般妖精以外に対してまともに勝ったのって初めてじゃ……ね!?!!??


「……お、落ち着け僕っ! 連中は子供だ!」


 三人は完全に目を回して、めちゃめちゃな形で絡み合って倒れている。


 それで、うん。その、スカートがね? いや、その……露に。


「落ち着け、僕。連中は子供だ」


 大事なことなので二回言いました、とかなんとか頷きながら視線を逸らす。

 そ、そう。あれだよ。たとえどんな状況だろうが、女性のスカートがめくれたら思わず目を向けずにはいられない。そういう人種なんだよ男ってのは。


 だから、今僕が一瞬視線をやってしまったのも、極めて生理的な現象であり、決してその手の欲情を抱いたわけでは断じてない。


「……ふっ、理論武装完了」


 ま、まあしかし、あのままにしておくのも哀れだ。完全に目を回しているようだし、ちゃんと横にしてやるくらいはしてやろう。


 と、サニーたちに近付く。


「落ち着けばなんてことないな、うん」


 声に出して確認する。


 そうして、改めて三人に目を向けて、怪我をしていないことを再確認。ちゃんと加減してやったとは言え、弾みで怪我でもされていたら後味が悪かった。

 妖精なんだからすぐ治るだろうけど、僕の男としての矜持みたいなものだ。


 とりあえず、乱れている衣服を整えてやろうと手を伸ばした、そのとき!


「あら? 良也じゃない。森で一体なにをしてい……」


 どこからともなく、まるで運命に導かれたように現れたのは……同じくこの魔法の森に居を構える人形師、アリスだった。

 アリスの言葉は、倒れている妖精を見て途切れ、次いで僕と見比べる。


 少し悩んでから、アリスはぽん、と手を打つと、


「……こういうのはどうかと思うわよ?」

「違うっ!」


 なにを勘違いしているのか、もう聞くのも嫌だった。











 余談ではあるのだが。

 三妖精を懲らしめたことで得た報酬の、籠一杯の野菜は、今回の仕打ちで大変機嫌を損ねたサニーたちに献上することになってしまった。


 ……意味がなかった気がする。

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