第十二話『一日目昼~メイドと魔法使い~』
今回の僕はちょっとエロかった。自重しよう、自重。……でもメイドさんだったしなぁ
「ふーむ」
神社の後片付けは大体終了した。
ゴミは集めたし、掃き掃除も終了。
一人でするのはなかなか骨が折れたが、これで霊夢も文句は言えないだろう。
「……で、ゴミどこに捨てよう?」
霊夢は『幹事の魔理沙が怪しいわね』と、昼ごはんを食べてすぐに飛んで行ってしまった。
僕は、彼女みたくゴミの山をスペルカードで消滅させたりは出来ないし、処分方法がわからない。
生ゴミの類は、まだ埋めればいいとして、空き瓶とかはどうすりゃいいんだ……
「霊夢、居るかしら?」
などと、うんうん唸っていると、後ろから声が聞こえた。
いかんいかん。ちょっと油断しすぎだ。いつ後ろから妖怪が来るかもわからないと言うのに。
「あー、霊夢は今、お出かけ中……――!!!?!?!?!!?」
「? なに」
なに、とはこちらが聞きたいっ!
「め、メイド、さん?」
「あら。初めましてかしら? 紅魔館のメイド、十六夜咲夜です。以後お見知りおきを」
と、いきなり僕の目の前に現れたメイドさんは、垢抜けた仕草で一礼する。
っていうかっ! め、メイドさんだよ、メイドさん! コスプレとかじゃない、リアルメイドさんっ!
なんだなんだなんだ!? もしかしてこれは夢か!? 僕の妄想の生み出した幻覚かなにかか!?
「なにしているのかしら?」
ぎゅ~、と、頬を抓ると、痛覚は律儀に痛みを訴えてくれる。
……げ、現実だっ。
すっげぇ! さすが幻想郷! というか、もしかして幻想郷って、僕らの妄想が生み出したユートピアかなにかか!? もしかして!
「貴方は……土樹良也さん、でよかったかしら?」
「ぼ、僕のこと知ってるの!?」
「宴席で何度か見かけました。名は幽々子から」
ま、まさかあの宴会に参加していたのか? やっべぇ。僕としたことが気付かなかったとは。
「え、えと。じゃあ、改めて、土樹良也、です。よろしく」
「ええ。よろしく」
むむむ……見れば見るほど、完璧なメイドだ。
そう。完璧。ドジっ娘系じゃなく、完璧系だな。きっと、すごく有能に違いない。
年は、きっと僕とタメか一つか二つ下。う~む、この若さでここまでメイド服を着こなすとは、ただものじゃあない。
「なにか……すごく悪寒が走るんだけど」
「き、気のせいじゃないですか」
いかんいかん。これじゃあまるっきり変態だ。
いかに、現代日本じゃまずお目にかかれないレベルのパーフェクトメイドに出会えたからって、我を忘れてはイカン。それじゃ嫌われる。
「で、なんの用です? 霊夢なら、しばらく帰ってこないと思うけど」
「あら、どこに行ったのかしら?」
「ここんとこの宴会がやたら怪しいとか言い出して。幹事の魔理沙のところに。僕は留守番を任されました」
まったく。多少宴会が連続したくらいで大げさな。
……なんて、僕は思っていたんだけれども、目の前の咲夜さんはまた別の感想を持ったらしい。
「なるほど。まあ、そろそろ動く頃だろうとは思っていましたが」
「……咲夜さんも、怪しいって?」
「宴会になるごとに妖気が強くなっている。なにかあると考える方が自然ね」
どういう自然かはよくわからない。
「さて、それじゃあ」
「ああ、じゃあ、また」
名残惜しいが、彼女は霊夢を訪ねてきたのだ。いないとなったら、帰るのだろう。
僕は、見送ろうとして、
「私は、怪しい奴を改めるとましょうか」
と、なにやらナイフを突きつけられた。
「……はい?」
「貴方が現れた前後から、この現象は起き始めた。それに、生霊……怪しすぎるわ」
「ま、待って!? ほんの偶然っつーかっ」
「それに、宴会の参加者で貴方だけが欠席したことがある。さあ正体を現しなさい」
ぅおーい、話についていけないぞー。
しかし、目の前に突きつけられたナイフは本物。ぎらりと光る刀身が、なんだかとてもイヤーンな感じ。
「おいおい」
と、そんな僕と咲夜さんの間に降り立つ黒い影っ!
「最近のメイドは、カツアゲまで職務に入っているのか?」
「ま、魔理沙っ! ヘルプミー!」
以前も助けてもらった、普通の魔法使い。
彼女なら、この物騒なメイドさんをきっと何とかしてくれるに違いないっ。
「……って、魔理沙。なんかボロボロじゃないか?」
見ると、魔理沙の服はところどころが破れていた。
「霊夢の奴にやられたんだよ。いきなり人を犯人扱いで、ボコったら『やっぱ魔理沙じゃないわね』っつって行っちまった。一言、文句を言いに来たんだが……」
……おい、霊夢。
それは通り魔とほとんど変わらないぞ。
「邪魔をする気?」
「こいつに、そんな大それたことできるわけないだろ。ルーミアに食べられかけてたんだぜ」
「演技かもしれない」
それは誤解だヨー。
って、言っても咲夜さんは聞く耳持たない。
「まあいいわ。庇い立てするということは、あなたも共犯者なのかもしれない。幹事だし」
「おいおい、そいつは誤解だぜ」
「ふんっ。犯人はみんなそう言うのよ!」
咲夜さんがナイフを投擲し、魔理沙はそれを箒で払う。
……おーい。なにいきなり喧嘩――いや、弾幕ごっこなんてはじめているんだー?
そして、僕は置いてけぼりかー?
「ほんぎゃああああ!?」
魔理沙と咲夜さんの弾幕ごっこの衝撃波に、木っ端のごとく翻弄される僕。
耳元を通り過ぎるナイフとか、星型の魔弾とか、一発でもまともに喰らったら、昏倒すること請け合いだ。
当の二人は、互いの攻撃を受けても服が破れる程度だというのに……
「ぐ、ぐぐ」
しかし、なんとか安全圏まで退避することができた。
神社の賽銭箱に、なんとか身体を預け、二人の争いに目をやる。
「……む、ドロワーズか」
なんとまあレトロな下着を着てるんだ、魔理沙は。
まあ、あんだけ派手に動き回るんだから、当然の防備だろうが……スパッツとかないのか?
なんて、当の本人からしたら余計なお世話と思われることを考えつつ、咲夜さんに目を向ける。
彼女のスカートの丈からして、ドロワーズということはない、はず?
「え、ATフィールドか何かか?」
どんな魔術を使っているのか、咲夜さんのほうは蹴りどころかバック転までしているというのに、スカートの中がさっぱり見えない。
インチキだ。断固抗議したい。
……と、思っていたら、サクっ、と地面についた右手の指の間に、ナイフが突き刺さった。流れ弾などではなく、明確な殺意をもって。
「は、は?」
咲夜さんは、こちらを冷たい眼で見ている。
よく見ると、魔理沙も若干ジト目だ。
あんな激しい弾幕ごっこをしておきながら、僕の不埒な視線くらい、お見通しだったらしい。
くわばらくわばら。
「あーもう、なんかやる気なくなるなぁ」
「そう思うんだったら、彼をどうにかしてくれないかしら」
「お前をやったあとでな」
……おーい。終わったあと、僕はなにをされるんだー?
「いくぜっ! 魔符『スターダスト……」
「遅いっ」
魔理沙がスペルカードを発動させる寸前、咲夜さんがポケットからカードを取り出して宣言した。
「時符『プライベートスクウェア』」
……あれ?
なんか、魔理沙が箒に跨ろうとした中途半端な姿勢で固まっている。
「も、もしもーし? 魔理沙ー?」
呼びかけると、なぜか咲夜さんが、ありえない速度で振り向いた。
「は、な、なんでしょうか?」
「貴方……なぜ動けるの?」
なにを言って……あれ? 遠くを飛んでいる鳥も、空中で止まっている?
「ちょ、なにこれ?」
「時を止めたのよ」
もはやなんでもアリか!?
「時間を止める上にそのナイフ! DI○様か、D○O様なのか!?」
「誰よ、○IOって」
ぐっ、今日ほどこっちの言葉が通じなくてもどかしい思いをしたことはないっ。
「やっぱり、貴方怪しいわ」
「わけがわからないっ!」
咲夜さんから放たれたナイフを必死で躱す。
カカカ、と石畳に突き刺さるナイフに、背筋が冷たくなった。
「ちょ、それ本当に死ぬってっ」
「この異変を起こした者がこの程度で」
誤解だああああああああ!!
「魔理沙っ! 魔理沙ヘルプーーーーーー!!」
呼びかけに一切答えない魔理沙。ほ、本当に時間が止まってる?
は、そうだ。僕も止まった振りをすれば、見逃してくれるかも。熊も死んだ振りすれば見逃してくれるしっ。
はいっ、ピタッ!
「馬鹿にしているのですか」
「ぎゃーーーーーー!?」
顔めがけてナイフが迫り、僕はぎりぎりで首を傾けた。
恐る恐る頬に触れてみると、べったりと血が。
「血ぃ!?」
「くっ、器用に躱すっ」
いや、めっちゃ偶然です。
と、ふと消えていた音が蘇った。
「『レヴァリエーー!』」
「え? きゃあーーーっ!?」
あ。
「へっ、私の勝ちだぜ!」
いきなり動き出した魔理沙が、箒に乗り星を纏って突撃。まるで交通事故のように咲夜さんを轢いた。
……し、死んだんじゃないのか?
「いたたた」
「無傷ですか」
ここの住人の耐久力は一体どうなっているんだ。
「おーい、良也。終わったぜ。私の勝ちだ」
「見ればわかる」
魔理沙は咲夜さんの背中に足を置き、高々と勝利宣言している。
咲夜さんもまだ戦う力は残しているんだろうけど、もうやりあう気はなさそうだ。
……なるほど。前ルーミアが僕を襲ってきたときは、捕食するためだったが、あの時のとこれとは全然違う。
弾幕ごっこ、ねえ。
まあ、僕みたいなパンピーには危険でしかないけど。
それはそれとして。
「……むう」
「こらこら、敗者をやらしい目で見るんじゃない」
いや、だってね? メイド服が破れて、こうあられもない姿が
「やめろっつーの」
「ぐはっ!?」
そして、僕は魔理沙の魔弾の直撃を受け、気を失った。




