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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第百十九話『閻魔と良也』

あ、貰ったこれ、美味い

「おーい、小町ー?」


 僕は、久々に小町の元を訪れていた。

 前、天子が起こした異変で、その原因とかを教えてもらったし、そのお礼というところだ。


 まあ、たまにはあいつとも一緒に呑みたいしね。色々面白い話をしてくれるし、静かではないが騒がしすぎない丁度いい雰囲気で呑めるやつだし。


 と、言うわけで差し入れとばかりに人里で買ってきた酒を持参している。徳利で量り売りとか、今時ないよなぁ……風情があっていい感じだ。


「小町ー?」


 しかし、問題の小町が見つからない。いつもこの三途の川の辺りで船浮かべているんだけど。

 もしかして、向こうに渡している最中かな? なら待つしかないけど。


「あれ?」


 三途の川の向こうから、なにか飛んでくる。


 おかしい。小町なら船を使って来るはず……って、小町の小船あるじゃん。係留してあるよ、おい。

 ってことは。


「良也。貴方だけですか。小町を知りませんか?」


 と、僕を見つけて降りてきたのは、閻魔様だった。……映姫が現世に来るなんて珍しいな。


「あ、いや。僕も探している最中なんだけど」

「……と、いうことはまたサボりですか。どこぞへ散歩にでも行っているのでしょう」


 はぁ、とため息をついた映姫は、僕が肩に下げている徳利を見つけ、矛先を僕に向けた。


「そして貴方はそのお酒をどうするつもりだったんですか?」

「あ、いや、その……」

「大方小町と一緒になって酒盛りでもしようとしていたのでしょう。……まったく、死神の仕事なんだと思っているのやら。貴方も、小町も」


 もう一度、大きなため息をついて、映姫は大きな岩のところに腰掛けた。


「えっと、いいのか? 戻らなくて」


 っていうか戻ってください。説教されるのはゴメンです。


「もうこちらに来た霊は裁ききってしまいました。だから小町を急かしに来たんですが、いないのならどうしようもありません」

「あー、そういうことね」


 ヤバい。ってことは今映姫は暇だって事で、そんでもって丁度説教しやすい対象がホラここにーーー!?


「あ、じゃあ休憩の邪魔をするのもアレだし、僕はそろそろ……」

「待ちなさい」


 ピキ、と僕が固まる。……逃げられない、か。わかっていたことだけどね、フフフ。


「な、んでしょうか?」


 今回は特別なにもしていないけれど、それでも説教のネタ探しには困らないだろう。映姫には過去の行いが全てわかってしまうという、プライバシーという言葉を投げっ放しジャーマンするかのような道具、浄玻璃の鏡がある。

 前、あれで照らされた時は、もう身悶えも出来ないほど恥ずかしかった。能力? 脅迫されて解いたよ。


 あの経験で、つくづく思った。閻魔という職は是非、男女二人ペアでやるべきだと思う。男の霊なら男の閻魔に、女の霊なら女の閻魔に、という風に。同じ男同士なら分かり合えることだってあるはずだっ!


「なんでしょうか、と言うことはないでしょう。貴方はココへ酒盛りをしに来たのでしょう?」

「い、いや。でも小町がいないから、帰って霊夢とでも呑もうかなぁ、って」

「たまには私とどうかしら?」


 ……え?


 僕は思わず固まってしまった。














「おっとと……ありがとう」


 呆気に取られたまま酌をしたのでちょっと目測を誤った。若干溢れそうになっているお猪口に映姫は口を付けて、くい、と一口呑んだ。


「さて、私からも」

「あ、こりゃありがとう」


 映姫から酌を受ける。……すごく妙な感じだ。

 もちろん、映姫だって頻度は少ないものの宴会には参加している。でも、それ以外でも酒呑むんだ……。しかもまだ日は傾いているとは言え沈んでいない時間から。


「どうも、腑に落ちない顔をしていますね」

「まあ……。映姫は普段は呑まないと思っていたから」

「嗜む程度ですが、たまに呑んでいますよ」


 ちろちろと舐める程度のペースだけど、ゆっくり確実に呑んでいっている。空になったところで、僕はすかさず注いだ。


「いや、でも仕事は……?」


 注いでおいて聞くのもなんだけど。


「言ったでしょう。小町が帰ってこないと、裁判する霊もいないのです。事後処理なんかの書類仕事は全て済ませてきましたし」

「はあ。でも、帰ってきたらすぐ仕事に復帰なんじゃあ?」

「大丈夫ですよ。今はほとんど霊もいないようですし」


 周囲を見渡して、映姫が言う。……けど、僕にはよくわかんない。普段見えている霊はある程度強い連中で、弱い連中ともなると僕の貧弱な霊視じゃあ見えないんだよな。

 むう、集中すれば……なんとか。


「まあ、そういうことなら僕は別にいいけど……」


 普段、サボっている小町を叱り飛ばしている映姫だから、そういうのには煩いと思っていたけど。いや、実際煩いんだろうけど、仕事がないならいいのか。


 とにかく、映姫とはほとんど一緒に呑まないので、こういうのも新鮮だ。


「ところで、ちゃんと善行は積んでいますか? 私から見ると、死神をサボらせたり、破廉恥な行動に出たり、毎日ダラダラしたりしているようにしか見えないのですが」

「……言いたい放題だな、相変わらず」


 大体、小町は僕がいなくてもサボっているって。そんな、いつも僕がそそのかしているように言うのはやめて欲しい。


「いや、まあ否定できるところはないけどさ。今日はそういうのはなしにしない? 折角こうやって膝を突き合わせて呑んでいるって言うのに」


 とりあえず逃げてみる。でも、映姫が説教をこれくらいでやめるとは……


「いいでしょう。確かに無粋でした」


 ……へ?


「ほら、空いていますよ」

「あ、ああ。ありがとう」


 い、意外だ。こんなにあっさりと(説教の)矛を収めるなんて。なんていうのか、今までの映姫のイメージじゃないっつーか……もしかして偽者?


「……なんでしょう? 果てしなく無礼ですね、貴方は」

「いや、ごめん。ちょっとした確認」


 ほっぺをちょっとだけ引っ張ってみた。ルパンみたいに皮がずるっと剥けるかと思ったけど……やはり本物か。柔らかいし。


「なにを確認しているのかは知りませんが、みだりに女性の肌に触れるのはやめなさい」

「ごめんー」


 でも、映姫ってば、女性っつーより女の子だし。霊夢と同じくらい? いや、勘だけど。


「また失礼なことを考えていませんか?」

「なんでこう、みんな鋭いんだろうねえ」


 僕が分かりやすいだけか?


「やっぱりですか……。まったく」

「ほらほら、気にしない気にしない」


 映姫は憮然としながらも、徳利を向けると渋々酌を受ける。……なんだろうね。いつも説教されてたから苦手意識が強かったけど、こうして呑んでみると意外と付き合いやすいのかもしれない。他の連中と違って、精神的に大人だし。


 ……いや、説教好きな辺り、むしろおばさんくさ、


「やめやめ」

「?」


 流石にこの手の思考を万が一にでも読み取られたら、殺されかねん。歳のことに関しては、あの幽々子ですら怒るというのに。


「そういえばさー、映姫って閻魔なんだよな」

「はい、そうですがなにか」

「いや、うちの婆ちゃんはけっこう前に死んだんだけどさ。天国にちゃんと行けたかどうか聞きたいかなぁ、って」


 聞くと、映姫はちょっと悩むそぶりを見せて、


「いえ、ここ数十年ほどの間に『土樹』という苗字の霊を裁いた記憶はありませんね」

「覚えているのかよ……」


 すごい記憶力。


「と、いうことは遠方で亡くなられたんでしょう? 私の担当は、この幻想郷とその近隣だけですので」

「た、担当とかあるんだ」

「ええ。ヤマザナドゥは『楽園の閻魔』という意味。つまり、私は幻想郷の担当閻魔ということになります」


 閻魔って何人いるんだよ……。キリスト教圏とかにもいるのか?


「じゃあ、霊夢とか魔理沙とかはいずれ映姫に裁かれるわけか……」


 そう考えると、なかなか寂しいものがある。まだまだ実感なんて沸かないけどさ。連中、殺しても死にそうにないくらい元気だしね。


「……ええ、そういうことになりますね」

「ふーん」


 知り合ってたらやりにくいんじゃない? とか思っていると、ごそごそ近くの草むらが動いた。


「ふぃ~、たっだいまー、っと。……ってあれ? 良也。来てたん……」


 暢気に服に付いた葉っぱを払いながら小町が戻ってきた。


 ……で、僕と一緒に呑んでいる映姫の姿を認め、ピシリと固まった。


「お帰りなさい、小町。早速ですが……毎度毎度、サボるのはやめなさいっ!」

「きゃんっ」


 ……あ~、平和だ。死神と閻魔という怖いはずの連中なのに、なんだろうね、この問答無用の平和さは。








 三十分ほどで説教は終わり、『今日はもう上がります。貴方は仕事をしておくように』と小町に言い含めた映姫は帰った。

 ずっと正座させられていた小町は、伸びをする。


「いや、でも珍しいね。映姫様が他人と一緒に呑むなんて」

「……そうなの?」


 いや、霊夢たちとはよく呑んでいるじゃん。


「そうだよ。それも宴会みたいな大人数の場じゃなくて、サシで。滅多に……ていうか、初めて見たよあたいは」

「一人で呑むのが好きなんだろ」

「いやあ、あたいも気持ちはわかるけどねえ」


 くくく、とちょっと笑って、小町は頭の後ろで手を組む。


「あたいだって、お前以外と呑んだりは滅多にしないしね」

「なんだよ、どういうこった」

「簡単な話さ。死者を裁くっていうのに、私情が入っちゃいけないだろ? だから特定の人間や妖怪とは仲良くしない。特に閻魔である映姫様はそこらへんかなり気にしている」


 ……あ~。あ~。なるほど。

 理解できるけど、あんまり理解したくない類の話だな。


「死なないあんたなら、ある意味気軽に付き合えるってことさ。妖怪連中は不老長寿ではあるけど、完全な不死のやつなんていないしな」

「輝夜や妹紅は……」


 は、来るはずないか。輝夜は引き篭もりだし、妹紅は若干人間嫌いの気がある。


「っていうわけだから、頑張って死なないでくれよ。死ねないはずだけど」

「……はあ」


 そう聞いているけど、どこまで本当やら。実は回数制限がありましたー、とか日々ドキドキしているよ。


「ま、堅苦しい話はなしにしよう。なあ、まだ酒残っているだろう?」

「……残ってるけど、お前ね」


 ついさっき説教されたこと、もう忘れたのか。


「大丈夫だって。ここんとこ死者はちょっと少ないんだ。今日一日くらいサボったって……」

「一日だけなら、私も大目に見てもよかったんですけどね」


 ここにいるはずのない、第三者の声。

 たらり、と小町のこめかみを一筋の汗が伝う。


「良也。こちら、お酒を頂いたお礼です。帰って巫女と一緒に食べてください」

「あ、ありがとう」


 受け取ったのは、えっと漬物かな? いい飯の友になりそうだ。さて帰るかぁ。


「あ、ちょっと良也助け……」


 無理。


「さて、小町?」


 飛び立った直後、後ろからなにやら間抜けな悲鳴が聞こえた気がしたが、僕は全力で無視することにした。

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