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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第百十八話『起工記念祭』

あ~あ、また呑みすぎた

 ……昨日はえらい目にあった。

 またしても神社が倒壊。そして、運命に嫌われているかのような奇跡的なタイミングで、その倒壊に巻き込まれた僕は、またしても復活の際真っ裸になってしまった。


 その場は我ながら見事な機転で切り抜けることが出来たのだけど、まさかあそこで鈴仙が登場するなんて。あの娘も僕とはまた違った意味で、素晴らしく間が悪いなあ。

 単に僕との相性が悪いだけという説もあるが、考えないことにしておこう。


 ……んで、また壊れてしまったんだから、作り直さないといけない。


 今回は母屋のほうは無事だったので一夜明かすのに大事はなかったけど、霊夢的には神社のほうが大切らしい。

 朝の爽やかな日差しに照らされる神社の残骸を見て、絶望的な表情で膝を突いていた。


「ああ~、また壊れちゃった」

「いや、今更なにを。昨日だぞ」

「うるさいわね。昨日のは悪夢だと思いたかったのよ。空を飛ぶパンツさん」

「やめろ」


 その妙なあだ名で呼ぶのは、神社が壊れた腹いせか? 確かに昨日は、パンツいっちょで大空を自由に飛びまわっていたけど。

 ……でもなあ。僕みたいなむさくるしい男が飛んでも需要はないだろう。お前らなんか、人里の大きいお友達(僕の)に大人気っぽいぞ。真下に近付くと攻撃されるってんで怖がられているけど。


 ちなみに、人里の若い衆の間で人気のあるのは咲夜さんだ。買い出しでよく人里に行っているから顔も割れているし、あの異国風の衣装がいいらしい。クールな感じもたまらんのだとか。


 あと、最近名前が売れ始めた東風谷の人気もなかなかのものだ。咲夜さんと同じくよく人里に行っているし、信仰集めを兼ねて人里で困ったことがあればその奇跡の力で解決している。咲夜さんとは違った親しみやすい雰囲気も後押ししているそうだ。


 全体として、ロリには興味ないらしい。


 ……わかっている、と言わざるを得ない。


「ねえ、良也さん。なにかすごく妙なことを考えていない?」

「気にするな」


 いかん顔が緩んでいたか。

 ちょい、ちょい、と顔を揉んで真面目な顔に戻す。


「で、どうする? 今度こそ人里の大工に頼むか? なに、金ならスキマが出してくれるだろ。というか出させろ。壊したのあいつなんだから」

「そうね……。でも人間の工事だと、天女たちほどの早い仕事は期待できないんじゃない?」


 そうだなあ……。それはネックだ。里の方でも当然仕事はあるんだろうし、すぐに取り掛かるというわけにもいかないだろう。

 そもそも、ここから人里までは微妙に遠い。通ってもらうにしろ、工期中は滞在してもらうことにするにしろ、準備は大変だ。


「大体、なんでスキマは壊したんだよ? あいつなら、壊さないようやりあうことも出来ただろうに」

「なんか、天子のやつがここを自分の神社にしようとしたらしいけど……。あの子も神社を持っている家系だそうだから」


 あ~、なんかここを別荘にするとか言ってたっけ? なんだっけ、昨日潰れていたとき、そんなことを天子とスキマが話していた気がする。

 別荘ねえ……別荘、別荘かあ。


「とにかく、天人はもう頼れないってことみたい。はあ……どうしましょ?」

「僕に聞くなよ」


 二人して悩む。


 と、霧みたいなのが僕たちの周りに集まってきた。……って、これって。


「そこで私の出番さっ」

「萃香?」


 なにやら、霧の中から捻り鉢巻をした萃香が登場した。


「紫から頼まれてね。神社の再建、次は私が引き受けてやるよ」

「やってくれるの?」

「うん。まあ任せておきな、霊夢。鬼はこういうのも得意なんだ」


 くるくると萃香が周囲に萃まった霧に向けて指を動かすと、霧状になっていたものは徐々に形を成し、最後には建材となってしまった。

 ちゃんと揃えて切ってあるし、既に準備はバッチリっぽいな……


「うん、壊れちゃいるけど、基礎と要石は無事だね。これなら割と早く直るよ」

「あ、要石は本物か」


 神社を別荘にしているくらいだから、もしかしたら偽者かとも思ったけど。


「そうだよ。だから絶対に抜いちゃ駄目。さてっと。工事を始めるけど……その前に起工式と行こうじゃないか」

「起工式?」


 霊夢が鸚鵡返しに問い返す。えっと……工事を始める前の儀式だよな。地鎮祭だっけ? 天子も工事に着手する前にやってたな、そういえば。

 ……起工式にかこつけて呑んでたけど。萃香のことだから、間違いなくそうだろう。


「そう。起工記念祭だ。今回の異変の発端の天界で呑もう。私ゃしばらくあそこで暮らしてたけど、いい所だよ。暇だけどねえ」


 やはりか。確かに天界はいいところだ。空気は美味いし、桃も美味い。食べ物の種類がないのがネックだが……まあ、それは各々持ち寄ればいい。

 なんて思っていたら、萃香はちょっと息を潜めて言った。


「……とかいうのは名目でね。今回、好き勝手やってくれた天人をちょいとみんなで虐めてやろうじゃないか」

「はあ?」

「うん、題して『起工記念祭と言いつつみんなで天人を虐める祭』。もちろん、弾幕ごっこの後は酒もやるよ」


 えー。なにその野蛮なお祭り。でも、天子にムカついているのは結構な数いるみたいだし(魔理沙とかアリスとかも色々あったらしい)、参加したがる人は多いかも。


「で、どうだい? 私としては霊夢には参加して欲しいんだけど」

「パスね。面倒くさい。後から宴会だけ行くわ」


 霊夢は即断した。

 ……あ~、確かに、異変解決でもない限り、コイツは動かないな。妖怪でも、通り道で見かけたら退治するけど、わざわざ退治に出向いたりしないし。


「ええ~? なんでさ」

「私は前一度倒したしね」


 ……ああ、そうそう。東風谷と組んでもうボッコボコにしていたよな。最後の大技は僕を盾にしてまで。


「一度倒したくらいで気が晴れるかなぁ? まあいいや。良也はどう?」

「パスに決まっているだろう。返り討ちに遭うのが目に見えている」


 いくら巫女コンビにあっさりやられたとは言っても、僕など遥かに超えた力を持っている。まあ、面白そうだし呑みのほうには参加するけどさ。


「……ちぇっ。じゃあ、明日ね。他の皆萃めてくる」


 萃香は残念そうにして、自分の身体を霧に変えた。


 ふむ……明日も宴会か。まあいいけどね。














 次の日。

 僕は一旦外の世界に帰って、向こうの食材を仕入れてきた。まあ、スナックとか乾き物を少し。


 で、博麗神社に戻ってみると、勝ち誇っている天子と、憮然とした表情で倒れている霊夢の姿があった。


「……結局、やったのか」


 どうしてこういうことになったのか、経緯は良く分からないけど、この二人も弾幕ごっこをしたらしい。


「おーい、天子。なにやってんの」

「ちょっとね。私を虐める祭なんて舐めたことをしていたから、全員を返り討ちにね。そういう貴方こそ、貴方はどこに行っていたの?」


 うっわ、天子実は強かったんだな。全員返り討ちって……どういうメンバーが集まっているかは知らないけど、そんな簡単にやれる連中じゃないだろう。

 異変解決に乗り出してなんか無敵っぽくなっていない状態とはいえ、霊夢にも勝っちゃったみたいだし。


「僕は、ちょっとこのあとの宴会のため、つまみを仕入れにな」


 ビニール袋に入った諸々を天子に見せると、奴は目を輝かせた。


「わっ、また変な包装のやつね」

「……スナックだ。まあ、お酒にはあまり合わないけど麦酒なんかにはけっこういい」


 ポテトチップとか齧りながら第三のビールを呑むとか。安く上がる割に幸福度は高いのでよくやっている。


「ふんふん。じゃあ、宴会の方に行きましょうか。巫女も来るわよね?」

「……いくわよ。ったく、着替えてくるからちょっと待っていなさい」


 破れた袖を気にしながら霊夢が立ち上がる。……やれやれ、また森近さんのところに持っていって直してもらわないと。僕はもちろんだが、霊夢も裁縫はイマイチ苦手だ。


 まあ、巫女服は何着も持っているから大丈夫だろうけど。でも、いつも巫女服なんだから、これを機会に普通の娘さんらしい服でも着ればいいのになあ。


「そういえば、次はあの鬼が神社を直すそうね」

「まあ、そうらしい。材木も用意してあるし」


 どこから切り出してきたのか知らないけれど、萃香が昨日持って来た木材が用意されている。……とっとと工事始めればいいのに。


「そういえば、この神社を別荘にするつもりだったんだって?」

「まあね。天界もいいけれど、地上にも遊びに来たいもの。あの妖怪が僻んで壊しちゃったけど」

「僻みねえ……」


 それはとはちょっと違う気がするが。スキマは、博麗神社のこととなると容赦がないからな。


「別に、神社じゃなくてもいいんだろ? そこらの土地を切り開いて、また建物作ればいいんじゃないか?」


 そう、だから他の土地に家を建てるくらいなら別になにも言われないだろう。人んちを無断で別荘に仕立て上げようとしたコイツが非常識なだけだ。


「……む、そうね」

「わざわざ喧嘩売ってくる連中のところじゃなくてもいいだろ。考えなしなんだから」

「なんか馬鹿にされている気がするわ」


 馬鹿にされるようなことをしただろ、お前。


 ……まあでも、遊びに来たいって言うのにわざわざ追い返すほどでもない。こっちに来たいなら、僕に迷惑のかからない範囲で来ればいい。


「お待たせ」

「おーう。じゃあ、行くか」


 さっきとほぼ同じ衣装を纏って、霊夢がやってくる。ついさっき、天子にやられてたというのに、むやみに元気だ。とりあえず、その元気さを少しは僕に分けて欲しい。


「ちょっと良也さん、待って。お酒持って行かなきゃ」

「あ、大丈夫よ、それは」


 裏の蔵に向かおうとした霊夢を天子が止めた。


「天界で宴会やるってんで、酒は私のほうで用意しておいたから」


 天子の言葉に、僕はよっしゃとガッツポーズ。


 以前、萃香と一緒に呑んだとき供された天界の酒は、それはもう美味かった。あれがもう一回呑めるのかぁ……よし、今日はリミッターオフにしていこう。


「喜べ霊夢。天界の酒は美味いぞー」

「あら、そうなの? 楽しみね」

「ふふ……土臭い地上の酒との格の違いを、今日はとことん教授してやるわ」


 自慢げに言う天子だが、別にコイツが作ったわけじゃないだろうに……

 でも、ま。ある意味わかりやすい奴かもしれない。


 そんな感想を抱きつつ、僕は飛び上がる二人を追いかけるのだった。










 後日。

 完成した神社の近所に、そこそこ大きい屋敷を立てた天子が、たまに遊びに来るようになったんだけど……まあ余談だ。

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