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東方奇縁譚  作者: 久櫛縁
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第百十七話『神社、倒壊再び』

欝だ、死のう。※死ねません

 とうとう、神社が完成した。

 天子が一仕事終えた顔で、ほとんど働いていないくせにかいてもいない汗を拭う。


「ふう、あとは落成式だけね」

「落成式ねえ……もう使えるんでしょ?」

「もちろん」

「中を見せてもらうわよ」


 と、霊夢はさっさと新しい神社の中へ入っていく。……やれやれ。ちょっとくらい礼を言ってもいいのに。いや、もちろんこれは天子の自業自得だというのは間違いないんだけどさ。


「ふう、なかなかしんどかったわ」

「はあ……。で、落成式ってなにするもんなんだ?」

「まあ、経過報告とか、祝辞とか。最後は祝宴よ。天界の酒、かっぱらってきたから楽しみにしておきなさい」

「……結局それか。最近、酒呑みすぎで肝臓が心配なんだよなあ」


 永琳さんに診てもらったほうがいいかもしれない。この年で脂肪肝とか、洒落にもならない。

 ……ん? そういう病気とかは僕ってどうなんだ? 蓬莱人って……いや、でも前風邪は引いたし、病気にはかかるのか?


「式には誰を呼ぼうかしら。ふむ、貴方、巫女の交友関係は知っている?」

「無闇に知っているけど。えっと……」


 頭の中で人数を数える。……二十、えっと、三十。……ざっと三十人以上はいる。僕が把握している連中だけでも。


 とりあえず、人数を天子に告げ、恐る恐る聞いてみた。


「ぜ、全員呼ぶのか?」


 その、多いというだけではなく、全員が顔をあわせたらどんな乱痴気騒ぎになるかわかったものじゃないぞ。


「そうねえ。あまり多すぎても煩わしいだけね。いいわ、祝宴はあとで考えるとして、さきに天女たちだけで落成式やっちゃいましょう」


 ……いいんだろうか。いや、どうせ式なんて面倒なだけだろうからいいんだけど。


「んじゃ、施工主である私の挨拶ね」

「あ、僕も神社の中見てくる。退屈そうだから」


 あ、ちょっと! と天子が引き止める声も無視して、僕は霊夢の後を追って神社の中に入った。

 ……昔から、式と名の付くものは嫌いなんだよ。式神は好きだけど。














 神社の中を見物してみると、やっぱり細部がどことなく違う気がする。まあ、前の神社の設計図など残っておらず、僕と霊夢の不確かな記憶を元に作ってもらったんだからこのくらいは当然だろう。


 しかし、


「おー、新しい畳の匂い」


 いつも寛いでいた座敷は再現されていた。神社の中だというのに、ここはすごい寛ぎスペースだったんだよな。

 見ると、霊夢も座敷の中央でごろごろしていた。


「……気持ちよさそうだな」

「ええ。い草の匂いっていいわね」

「どれ、じゃあ僕もちょっと失礼して」


 霊夢と同じように寝っ転がる。


 おお……寝ると、草の匂いが更によく匂える。これはあれだね、干したての布団と同じ類の心地よさだ。

 ……むう、このまま昼寝しちまうか。どうも、霊夢もそんな感じだし。


「おーい、霊夢ー。外で天子が神社の落成式をやるそうだぞ? 主が出なくてもいいのか」

「いいわよ。別に。面倒くさい」


 ですよねー。一応忠告はしたものの、最初から聞き入れるとは思っていない。天子だって、霊夢を呼んでいないんだから、同じ意見なんだろう。


 はあ……しかし、本当にいい心地だ。っと、霊夢もうとうとし始めているな。

 外はそろそろ夏らしい暑さになって来ているが、僕が気を利かせてこの部屋内の温度を適温に保っている。障子から漏れてくる淡い太陽光が、全般的にぬくい。


 ……これは、熟睡、しちゃいそう、


「ん!?」


 霊夢が飛び起きた。それを見て、睡魔にとらわれていた意識が少し覚醒する。


「……どうした?」

「良也さんっ! 今すぐ逃げて!」


 はい?


 言うが早いか、霊夢は既に新しい障子を蹴り破って外に出た。って、なんでいきなり壊しているんだあいつは!?


「あ~、もう。これ天子になんて言えばいいのや……」


 ゴスン! と、とんでもない音がした。まるで、馬鹿でかいハンマーで空間全部を押しつぶすような、そんな打撃音。

 それは、僕の頭上で巻き起こっており、つまりはまあ神社がぶっ叩かれたってわけか。


 嫌な予感がして上を見ると、いつかの地震のときのように、神社の屋根が僕を押しつぶさんと迫っている。


 僕は外に出ようと走り始めるが、絶望的なまでに遅い。あと数秒、それだけあれば崩落から免れるというのに、ええい、霊夢のやつが逃げろと言った瞬間逃げていればとか考えている暇もないはずなんだけど考えなくても間に合わねえええええええ!!


 ズズン、と、間抜けな音が響いて、


 僕は先ほどの霊夢の言葉の意味を、身体いっぱいで理解するのだった。


 ……っていうか、勘良すぎだろ、あいつ。













 ……見事にまた死んだな。いい加減、パターン化されてんだよ。そろそろ学習しようぜ、僕。


 さてはて、こんな状態でも外の音くらいは聞こえる。肉体は死んでても、ちゃんと魂か何かで聞こえているんだなぁ、と人体の神秘(本当に神秘だ)に感激しつつ、耳を澄ませる。


『ああ~~、私の別荘がぁ』


 この悲しそうな声は……天子か?


『ふん、こんな神社、壊れて当然よ。あんたは要するに、天界だけじゃあ飽き足らず、地上にも拠点が欲しかったんでしょ? ざ~んねん』


 って、スキマぁ!? も、もしかしてここ壊したのあいつか!?


『ちょっと紫! なにしてくれてんのよっ! ああ~、神社がぁ』

『あら霊夢。無事に逃げたみたいね。中にいるのは知ってたから、壊すのはあとにしようと思ってたんだけど……この天人が頑強に抵抗してねえ。ごめんごめん』


 誠意が感じられねえ!

 ごめんごめんで済ませんなっ。現在進行形でその神社に生き埋め……もとい死に埋めになっている僕がいるんだぞっ。


 くっそ! 今すぐ文句を言いに出て行って……駄目だっつーの!? またしても裸を晒す気か!?


 外で肉体を再構築して服は作れないっての。むぐぅ……しかしいつまでもこのままってわけにはいかないし。


『……大体。良也さんはまだあの下にいるんだけど』

『え? またあの人間が? トロいわねえ。……ってか、もしかしてまた裸で出てくるんじゃないでしょうね』


 せめてまったく意に介さない霊夢とスキマだけなら出て行っても良かったけど……意外に純情な天子がいるんだったら、出るわけには行かない。

 ……ってか、どっか行ってくれよっ! 頼むから!


『多分、今頃この話を聞いて、出るに出られなくなっているんじゃないかしら』


 鋭すぎるだろっ!

 心の中で叫んでも、当然のように声は届かない。


 ……くっ、屋根を吹っ飛ばせるような力が僕にあれば、この場で生き返って服もあって万々歳なのにっ!


 な、なら神社からさらにもっと離れた場所で身体を再構築……しても服がないのには違いない。結局、この神社にある僕のリュックから着替えを取らないといけないんだから、離れた場所でも……


 ば、万事休すか!? 考えろ、考えるんだ僕っ!


 はっ、そ、そうだっ!


「あら? 観念したのかしら?」


 スキマがなにかを言っているが、聞こえないということにする。

 僕の魂というべきものを、火の粉のように拡散した元の肉体が彩り、再生が始まる。


「あ……ちょ、ちょっと!」


 天子がストップをかけようとするが……そもそもお前、どっか行ってりゃいいだろ。

 考えが及んでいないのか、それとも口では嫌がってても興味しんしんなのか……どっちにしろ、奴は阿呆だと断言できる。


 しかしっ! 二度も三度もあんな恥ずかしい真似をしてたまるかっ!


「食らえっ! 太○拳!」


 肉体が見えるかどうか、というところで、必殺技をぶちかます。スペルカードなしなので光力は弱いが、一瞬目を眩ます程度なら十分だ。


 これで、霊夢と天子の目は見えなくなったはず。スキマは知らんが……とりあえず、今のうちにリュックをっ!


「っしゃぁ!」


 一番手間取ると思ったけど、運良くすぐ発見できた! よし、あの二人の視力が回復する前に森の茂みのほうに退散して、ゆっくり着替えようっ!


「はぁ、はぁ、はぁ」


 ちょっと大きな木の影に隠れた僕は、一息つく。裸のままこんな息が荒いと色々と誤解を生みそうだけど。


「妙に役に立つな。太○拳。ありがとう天さん」


 この際、ちゃんとした魔法として呪文作ってみようかな。

 ……っと、それは後で検討するとしてさっさと着替えないと。


「ん?」


 ガサッ、と、目の前の草むらが動いた気がした。


「………………………………」

「………………………………」


 いきなり出てきたウサギ耳装備の紅い狂気の瞳と視線が絡み合う。

 痛いほどの沈黙。僕は身体を隠すことも忘れ、呆然と鈴仙を見る。


「ふぅ」


 ちゃき、とまるで本物の拳銃を構えるように鈴仙が指鉄砲を向けてくる。


「……殺すわ」

「いや待っ!?」


 光速でトランクスだけ穿いて飛んで逃げる!

 全力で、逃げろぉおぉぉおおおーー!!








 ……なんか鈴仙も途中で追いかけるのが嫌になったのか、なんとか逃げられた。

 でも、その様子を見ていた霊夢に『空飛ぶパンツ』とか嫌なあだ名を付けられた。


 欝だ、死のう……。


 っていうか、お前らもドロワ見せてんじゃん。一部、どう見てもドロワじゃないけど絶対領域の効果で中が見えない人もいるけどさぁ。

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