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点P

作者: maipacest

液状化している。

噂は広まっていたけど、まさか。


1時間に1センチずつ、生物が一斉に地面にめり込んでいく。

わたしは162cmの身長だから約7日でめり込みきってしまう。


裏庭のわんこなんか、危険を察知してぶるぶる震えている。

そうだよな、お前は2日ともたないもんな。


地面がめり込み始めたのは、世界的なペンキメーカーが、あるアニメの発明を真似ようと作った液体が爆発して地表が覆われたらしい。

試験段階でなぜそんな大量に生産したのか問い詰めたいが、そんな暇がない程危機に瀕しているからまぁいい。


人々がめり込んでいるというか、どちらかというと沈殿していることに気づいたのは沈みはじめて5時間後だ。

普通に歩けるし座れるんだけど、なんていうか、沈殿って表現は正しいのかなぁ。でもめり込むとはちょっと違う。


両親なんか、残り7日の命だからあらゆる贅の限りを尽くそうと銀行に向かった。

けれどバンクはパンクしており、やかましいわ。とにかく人混みに時間を費やすなら家族で普段通り過ごすのがいいか、と引き返してきた。


ネットを開けば阿鼻叫喚で、人の嘆きなんか見てても気分がますます落ちるだけだから、とりあえず不思議.netを開いてみたりした。

宇宙人と陰謀論がハッピーなフラワーガーデンに見えるくらいに沈殿は恐ろしい。


弟が声をかけてきた。

「おーい、お茶。」

プークスクス。そいつぁ、今日一番のヒットソングだよ。


呑気なことをしている間にも地球では1時間で1センチ沈殿している。

だけど膝を越えたあたりから、沈殿慣れが始まった。

地面の下を覗こうとしても真っ暗だし、きっと世界の学者が調べ倒してくれてるだろうし。わたしゃー無力だよ。焦っても仕方ない。黙って沈もう。

沈殿生活が始まってから、学校や会社は登校や出勤が自由になった。

普段通りの生活をする方が安心するって人も少なくない。


3日ほど経過して下半身が沈殿しきった時、恐怖がまたやってきた。

このまま元に戻らなかったらどうしよう。

朝方鳴いていた鶏の声はもうしない。世界から小動物が消え失せてしまった。

とりあえずイヤホンを耳に突っ込んで音楽をガンガン流す。

真の絶望に現実逃避などという概念はない。


4日が経つと、弟の姿が消えてしまった。

「おーい、お茶。」

と言いながら沈んでいった。なんて気丈なんだろうか。


5日目、胸まで沈殿したくらいで速報が入った。

地面を固める薬品が完成したらしい。

ペンキメーカー社員が成分表をもとに、なんかアレしてコレしてしたらしい。

ただ、固められても解決はしない。ほら、水にビー玉入れてそのまま氷にしたらビー玉取り出せないじゃん。

ため息をつきながら脚を組んで斜め45度を保ってぼんやり物思いに耽ってると、知らない人に告白された。

「好きだーーー!!」

お前は誰なんだ。


6日目、ほぼ沈殿している。

顔しか地上に出ていない。こんなことなら最後の晩餐を体型気にせずガツガツ食べとけばよかったなぁ。

みーんな顔しか地上に出てないから、フォアグラにでもなった気分ですわね。おーほっほっほ。

速報が入る。沈殿を止める薬が発明されたらしい。

薬の発明には無数の犠牲が伴ったらしい。地面の上でぽよんぽよん跳ねて止まらなくなった者。地球の裏側まで突き抜けそのまま空に消えた者。

できたての薬なんて信用できないけど、今は他に方法がない。

ペンキメーカーはお得意の大量生産で世界中に薬を届けるそうだ。


そして7日目。残った人々は勝利した。

かなりの人数が沈殿したが、研究によるとまた地球の裏側から出てくるそうだ。

地球の核に向かうほど沈殿速度は加速するらしい。そのうち弟はどこかに現れる。

民族の垣根を越えた生活を想像すると悪くない。

アフリカゾウとボルシチがある毎日。


「あの、この間告白した者なんですけど…」

あ、ほんとだこの間告白した者だ。

「やっぱりキャンセルとかってできませんかね。」

クーリングオフ、承っておりまーす。

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