聞きたかった言葉、知りたかった気持ち。
「先輩っ、私ずっと前から先輩のことが好きです。私と付き合ってくださいっ」
放課後の廊下。暮れる夕日が眩しいほどの緋色で、辺りを染め上げている。他に生徒の姿はなくて、外の喧騒も遠くに聞こえる。私は今、ずっと想いを寄せていた先輩に、その気持ちを伝えた。
「……俺もさ、好きな子がいるんだ」
帰って来た返事は、私の心に深く刺さった。ショックで足元がふらつきそうになった。
分かっていたことだ。先輩は優しいし、誰にだって親しく声をかけてくれる。部活でも毎日一生懸命頑張っていて、そんな先輩のことを周りのみんなも認めている。
だけど私は、目立つ取り柄もなく、何をやっても上手くいかない。先輩のことだって、いつも遠くから見ていることしかできなかった。
最初から分かっていた。私なんか先輩と釣り合うわけがない。こんな私なんか、好きになってもらえるわけがない。そう何度も自分に言い聞かせても、動揺を抑えることはできなかった。
「……先輩の好きな子って、どんな子、ですか?」
震える唇でそうつぶやいた。こんなこと聞くの、みっともないことだって分かっている。先輩を困らせるだけだ。それでも、溢れ出る感情が抑えられなくて、聞かずにはいられなかった。
「うん、その子さ、あんまり話すことはないんだけど、いつも俺のこと応援してくれてさ。と言っても、遠くから見ているだけなんだけど」
ああ、聞きたくなかった。
「でもそういうのってさ、結構励みになったりしてさ。あの子が見ているから、かっこ悪いところを見せられない、今日も頑張ろうって、思えるんだ」
やっぱり聞くんじゃなかった。私じゃない他の女の子のことを話している。本当に嬉しそうに、でもどこか恥ずかしそうに話している。そんな先輩の顔を見たくなかった。
耳を塞きたい、走って逃げたい。それでも震える足は動いてくれなくて。涙が溢れそうになるのを、その場で必死に我慢した。
「だらかさ、そんな君から、好きですって言ってもらえたのが、本当に凄く嬉しくてさ」
「……え?」
「俺も、君のことが好きです。俺と付き合ってください」
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