第六話
歩いていくと、少し開けた場所を見つけた。見通しもよいためここで食べることにした。
僕たちはここの真ん中の方に布を敷く。そして、朝買ってきた弁当を出す。
「じゃあ、食べようか」
「うん」
開けた場所と言ってもそれほど広くはないが、その広さがちょうどよかった。少し西寄りに高く昇った太陽は、僕たちを優しく照らしている。
弁当は今日の朝、受け取ったものだ。宿でのご飯がおいしかったので昨日の夕食後、お金払うから作ってくれないかと頼んみでみたのだ。
冷めているが十分美味しい。異次元の箱か魔法を使えば温かいまま食べることもできるがしない。昼頃に冷めた状態で食べることが想定されて作られているからだ。
「美味しいね。こういうのも」
リーネが満足そうに言う。それほど高い食材とかは使われてないが、そういうのとは違ったよさがある。
「そうだね。旅を続けていけば、さらに美味しいものにたくさん出会えるよ」
「そうね」
リーネは微笑みながらそう返す。危険な森の中でつかの間の穏やかな時間が流れる。
食べた後、少し休憩をとって出発した。昼食休憩は、四十分ぐらいと多めにとった。幸い、その間に魔物が襲撃をしてくることもなかった。
歩いていると、またレンボアーに出会った。
こっちに向かってレンボアーが来るが、その突進を正面から押し返し、できた隙に喉を突き刺し絶命させる。
丸ごと持って行ってもいいがさすがにもう一体はいらない。
「牙だけでいいよね」
「そうね」
皮を剥いでもいいがそれは面倒くさいのでやめておいた。
牙を取ったレンボアーの死体を、その場に置いたまま歩き出す。死体は、この森にいる他の生物によって処理される。そのため、多くの場合はこのようにしても問題はない。
すると突然何かが僕に向かって跳びかかってきた。僕は特に焦らず、それを斬った。すると、二つに分かれたそれ、狼が地面に落ちた。
リーネにも別の個体が襲い掛かったが、杖でたたき落とされていた。
「グルァ・・・」
周りを見ると、十匹弱の狼が僕たちを囲んでいた。だが、不意打ちが失敗するどころか一撃で絶命させられたことに少し驚いているようだ。
そもそも僕たちは、狼たちがいることに気付いていた。特に有用なものが得られるわけでもないので、襲ってこなければこちらからは何もしないつもりだった。今のを見て、逃げていったとしても攻撃しないつもりだがはたして。
僕が軽く殺気を放ち、剣を向けると狼たちは森の奥へと逃げていった。
モンスターは脅威だが、だからといって動物は弱いというわけではない。狼は最高時速六十キロをだすことができる。モンスターの定義は一定以上の魔力を持つことなので、能力は高いとはいえ、動物がモンスターより強い場合もある。また、狼は群れると、自分よりも強い生き物を倒すこともあるので侮れない。
狼は、羽毛がよく使われるが、普通の狼のならたいしていらないと思う。狼肉もいらないから、倒した狼からは何も取らなかった。
空が赤く染まる前に今日のキャンプ地についた。そこは森の中にある開けた広場だ。見通しがいいため、敵を発見しやすい。近くには小川が流れている。そのため野営に適している。ここは、この森を横断する人たちが作り、よく使われる場所らしい。フィルミレの町の人に聞いた。人がよく使う野営場所には、危険だと理解しているのか、他の生き物たちは絶対ではないがあまり近寄らない。
ここに来るまでに何匹かのモンスターと出会ったが、特に問題なく倒せた。
早めにここに着くことができてよかった。日が暮れる前に野営の準備を始めることは重要だ。夜は暗く見通しが悪く危険だからだ。
「じゃあ、始めようか」
「うん」
二人で準備を始める。
まず協力して天幕を張る。危険な場所や天幕がない場合は、毛布か何かにくるまって寝るというのも珍しくはないが、ここは問題ない。
次に焚火を炊く。燃やすためには、枯れ木や薪などの乾燥したものじゃないとだめだ。ここには、それらがまとめておいてあり、使ってもいいのだが自分たちで持ってきたものを使う。親切と助け合いで置いてあるものだが、有限だし、余裕があるためだ。
僕は、それと落葉を一か所にまとめて置いて、《ファイア》という火属性の魔法を、微かな魔力に絞って使う。すると、それによって出た火種がそれらに落ちて、燃え上がった。魔法を使わず火を起こすこともできるが、そうしないのは、こうしたほうが楽なためだ。
その後、僕は、今日狩ったレンボアーの解体をする。解体に関しては、リーネもできるが僕のほうが少し上手だ。
その間にリーネには水を汲みに行ってもらった。魔法で水を出すこともできるが、森の中の水は美味しい。だから、できるだけ自然の中の水を使える時は使うようにしている。
それらが終わると、夕焼け空になっていた。
僕たちは、協力して料理を作る。料理には、焚火の火を使う。今日は、レンボアーを使ってジビエ料理を作る。
ロースは厚切りで串にさし塩をかけて焼く、肩ロースやランプは持ってきた野菜などの他の具材と一緒に煮込む、ヒレはステーキにするなど、贅沢に一匹使って調理した。調理方法のおすすめは、屋台のおじさんから聞いた。
料理が完成したころには、既に日が落ちていた。
暗い森を、焚火の明かりが照らす。
「食べましょうか」
リーネは、この料理が楽しみなようだ。少しわくわくとした声音で言った。
「うん。食べようか」
僕はそう返して、食べ始める。
食べてみると、どの料理もおいしかった。多分、自分たちで作ったというのもあるだろう。シンプルな味付けで少し野性的な味もした。
リーネも美味しそうに食べている。
かなりの量を作ってしまい、食べれるかなと思ったが、意外と食べきれた。二人共満足した。
その後、交代で近くの小川に行って、汗を流した。温かくなってきたとはいえ、夜だからか少し寒かった。
今は、二人で焚火を囲んでいる。
「綺麗ね」
リーネが空を見上げながら言う。
空には、三日月といくつかの星々が輝いている。
「そうだね」
僕は夜空が好きだ。暗い闇の中に煌めく光が美しく思えるからだ。
「いつか、もっときれいな夜空を見てみたいな」
「それはいいね。今の私たちは、どこへでも行けるものね」
僕の言葉にリーネは、晴れやかな笑顔を浮かべてそう返す。
「うん。どこまでもね」
暗く美しい空の下、二人はそんな言葉を交わしあった。
夜が深い時間になってきたので、僕たちは寝ることにした。
大抵の場合は夜の間、交代で見張りを立てる。危険な場所ならもちろんだが、比較的安全なキャンプでも万が一のために立てることが多い。だが、僕たちの場合、何かが近づいてきたら起きてすぐ戦える。これは必須技能で、一人の場合は高く求められる。僕たちは、気配、魔力にも敏感なため、さらに高い精度を持っている。それに、リーネが魔物が近寄りづらくなる魔法を使っているため、見張りを立てずに二人で眠ることにする。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
天幕の下、二人でそう声をかけてまどろみの中に身をゆだねていく。
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