プロローグ
どこか広い庭園で、十歳ぐらいの男の子と女の子が向き合っている。
男の子は剣を持っていて、服は上品なものだが動きやすいよう作られていて、機能性も重視されている。
女の子は、宝石など装飾品が施された煌びやかなドレスをまとっている。
周りには、きれいに植えられた花々が咲き乱れている。
「僕たちが大人になる前に旅に出ようよ」
男の子は、そう女の子に声をかける。
「そうね。それはいいわね」
女の子は、その言葉に少し笑みを浮かべつつ答えた。
「広い世界を見てみたいわ。それに冒険とかもしたりしたいわね」
「うん、そうだね。色々なことを知ったり、体験してみたりもしたい。そして、美しい世界というものを見てみたい」
そのようなことを話し、二人、笑いあう。
「すべて捨ててさ、どこまでも遠い場所を目指そう。二人を縛るものがない場所へ」
男の子は、言葉に少し真剣さを漂わせながら言った。
「そうしましょう。その旅はきっと―――」
生い茂る木々で囲まれた森の中を少年が走る。
十五、六歳ぐらいだろうか。体つきはしっかりしてきているが、その顔には、まだ幼さが残っている。髪は深く暗い青、ネイビーで、瞳は灰色。普段は、優しそうな印象を抱きそうな顔だが、今は、獲物を狩る獣のように鋭い眼をしている。
その少年の視線の先にいるのは、茶色の熊のようなモンスターだ。
2.5メートルほどもあり、二本足で立っている。これが、普通の熊だったら、少しは可愛げがあっただろうが、その獰猛で醜い顔と、不釣り合いな大きな目、獲物への歓喜か、大きく歪んだ口が台無しにしている。その顔には余裕と、向かってくる少年への嘲りが浮かんでいる。
「ウインドアクセル」
少年がそうつぶやくと、その体がぶれて、熊との十メートルほどあった距離が一瞬で縮まる。
熊が驚いた表情を見せている間に、脇腹のあたりを片手で握った剣で浅く斬りつける。そのまま、加速した勢いを利用して熊の後ろに抜ける。
そして、そのすぐ後ろで止まり、振り向き様に大きく剣を振るった。その一撃は、熊の背中を大きく切り裂き血しぶきが舞う。熊は苦悶の声を上げる。
少年がバックステップを踏んだ。そのすぐ後に、少年が数舜前までいた場所に振熊のきな腕が振り落とされる。
ある程度距離をおき、少しの膠着状態が生まれた。
その時の熊には余裕、油断などは全くなくなり、その醜い顔には、自分を傷つけた少年への怒りを浮かべていた。
「グゥァーーーー!」
熊は大きな声を上げて、少年に向かって突進していった。
それをまたバックステップでかわし、続いてふるわれた腕もかわす。そして、できた隙に熊の腕を軽く斬る。
腕に浅い傷をつけられた熊は、顔をゆがめつつも鋭い爪を少年に向かって振るう。
それを少年は、どこにそんな力があるのか剣で受け止めた。
互いの力が拮抗する。
「ライトニング」
少年がそうつぶやくと、熊にかざされていた左手から、光がはじけた。
そう思った時には、それは、一本の線を描き熊に当たる。
熊はそれにより痺れて隙ができる。
その間に、少年が押し返しがら空きになった胴を深く切り裂く。
熊は叫び声をあげるが、少年は構わずにもう一度斬る。
熊も反撃にと腕を大きく振るうが、戦いで蓄積された傷とさっきの稲妻による痺れが残っているのか動きが遅くなっていて、少年は余裕を持って躱す。
熊のその反撃には無理があったようで大きな隙ができる。
少年は剣を大きく振りかぶって溜める。すると、剣が淡く光りだした。
「オーバースラッシュ」
そう言って、大きく踏み込み、剣を振り下ろす。
その一連の動きは何度も繰り返してきた熟練した技を感じさせ、その踏み込みはとても力強くて速かった。
素早く振り抜かれた剣から出た光が尾を引き、滑らかな曲線を描く。
剣はあっさりと熊の体を深く切り裂き、その体にこれまた滑らかな一本の直線が刻まれた。
「グァッーーーーーーッ!」
熊は大きな断末魔をあげる。
そして、最後の力を振り絞り殴りかかってきたが、少年はすでに後ろに下がったため空を切る。
そこで力尽きた熊は倒れる。
少年は念のために熊の喉笛を斬ると、熊は完全に動かなくなった。
そこで少年は、警戒を解かず、振り返りこちらを見ている狼のようなモンスターを見る。三十メートルぐらい先から5匹の群れがこちらに向かってくる。
少年は、剣を構えるがその場から動かない。
あと15メートルのところまで迫ってきている。
「アイシクル」
どこからか少女の声が聞こえてきて、その方向から5つの10センチ程のするどい氷柱が飛来する。それは、まず先頭の狼に突き刺さり、そのほかの氷柱も順に狼たちに刺さっていく。狼たちは、その氷柱によって、一瞬で絶命させられた。
「さすがだね」
この惨状を引き起こした少女の方へ振り向きつつ、そう声をかける。
その少女、もとい美少女はその言葉に嬉しそうにしつつ、プラチナブロンドのポニーテールをゆらしてこちらに歩いてくる。
フィルミレの町を歩く二人の少年と少女がいた。
フィルミレの町は、人口三千人ほどと、町にしてはかなり大きい。また、この世界にはモンスターがいるため、大抵の町も城壁に囲まれている。
日が出ているうちは、町の外の村から、物を売りに来たりする人や、旅人、露天商などもいて、とても賑やかだ。武器を帯剣している人もいる。
「遠くまで来たね」
僕は、隣を歩いている少女リーネに言う。
「そうね」
彼女は微笑みながら言う。
プラチナブロンドの太陽の光を反射して輝くさらさらとした髪は、背中の半ばほどで切りそろえられていて、その髪から一房まとめてハーフアップにしている。前髪は両端を少し、肩にかかるぐらいまで伸ばしている。
眼は垂れ目気味で、優しそうな印象を受け、瞳の色は吸い込まれそうなどほど深い青。
肌は、澄んだ白磁色。
全体的に華奢なように見えるが、出るところは出ている。その見た目とは裏腹に、実は見えない部分でしっかりと筋肉はついている。
そんな美少女なリーネの微笑に、僕もつられて頬が緩む。
そんなリーネといるからか、僕たちは少し目立つ。
「でも来てよかった」
少し間を開けて
「今がとっても楽しいの」
そう言って、さらに笑みを深くする。
リーネは、今は、どこにでもあるような白いシンプルなワンピースを着ているが、それが、逆に彼女の有り余る魅力を引き立てている。その姿は、まるで一枚の絵になるように思える。
リーネは、穏やかだけど明るくて元気だ。一見相反しているようにも見えるけど、それが一番しっくりくる。
言ったように、今がほんとに楽しいようで、軽くステップをふみながら。歩いている。こういうところも元気で穏やかというかなんというか。
また、仕草や行動の中で、ちょっとした上品さが見えることもある。
そのステップを踏んで歩いているところにも、上品さというか気品というかが少し見える。
「そうだね」
僕も、笑みを浮かべながら答える。
僕たちは、もう少し歩いて駅の前まで来た。駅とは、魔導列車の乗り場のことだ。魔導列車は、科学と呼ばれる体系化された知識と、魔導と呼ばれる魔法などの神秘的な力の知識と、職人の技が合わさってできた、長距離をすごい速さで移動する乗り物だ。レールの上などを、魔力を燃料に走る。この街に人が多いのも、これの影響が多々あるだろう。余談だが、何でも科学が発展したある所では、魔力を燃料に使わない蒸気機関車というものもあるらしい。
僕たちは、切符という、電車に乗るために必要な券を買い、駅のホームの中に入る。
すでにその金色と、ところどころ赤と青が入ったその巨体は止まっていて、ドアが開いていた。だけど、出発はもう少し後だ。
「これに乗ったらもう後戻りはできないよ」
ぼくはリーネに向けて、いや、自分にも向けていった。
「わかっているよ、レイ」
彼女は、優しい笑顔で言った。
「二人を縛るものがない、どこまでも遠い場所へ行きましょう。その旅はきっと、君と一緒なら全てが楽しいから」
頬を少し赤く染めて彼女はそう言った。
「ああ、そうだね。どこまでも遠い場所へ行こう。いつまでも終わらない旅を君といつまでもし続けよう」
僕の言葉に、彼女はしっかりとうなずいた。
あの質問は儀式だった。
今までの全てを捨てて、約束をかなえるための。
だから答えは、ずっと前から決まっていた。
色々な場所へ行って、様々なことを体験したりしよう。知らないことを知ったり、おいしいものも食べたりしよう。色々な人と出会おう。冒険もしよう。そして、広い世界と、その美しさも知ろう。さあ、そんな楽しい旅を始めよう。僕ら二人で。
そして、僕たちは魔導列車の中に入っていった。
初めまして。碧空零です。
僕の作品を読んでくれてありがとうございます。物語は書いたりとかしたことはあるのですが、これが初投稿です。美しいけど、読みやすい作品を書きたいと思っています。
面白い作品にしていきたいと思うのでこれからよろしくお願いします。
しばらくは、不定期になると思います。調子が乗ってきたら、二日に一回、一日一回という風にして行けたらなと思います。