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激昂 1

「そんなの許される訳がないだろう!」

 開口一番聞こえてきたのは、村の大人衆の中でも比較的若い部類に入る狩人の男の、ヒナの意見を一蹴する言葉であった。

「ロアの民はハウロア様を敬い、ハウロア様からのお恵みを戴いて生きる、ハウロア様の化身

 であるこの島の外のものに、我々が関わる必要はない。余計な混乱を招くだけだ!」

「そうだ! あんな余所者に関わって、俺達に何の意味がある!」

「何をされるか分かったものじゃないわ!」

 続けて何人もの人間が同調するように反対意見を述べ、あっという間にヒナに対する反発が高まっていく。

「っ、ネイトは! ……あいつは私達に悪い事はしない! 今同じ島にいる人間同士なら、関

 わりあったって何もおかしくないでしょ!」

 しかしヒナも、今まで共に生きてきた村の仲間達の見た事のない剥き出しの感情に身が竦みそうになるが、このまま引き下がるつもりなど毛頭なく、すぐさま反論する。

「大有りだ! 奴が俺達の村を襲ってきたらどうするつもりだ!」

「ネイトは一人、こっちは大勢、普通に考えれば戦ったところで私達に勝てない事ぐらい、あ

 いつだって分かってる! 村を襲ったりなんてしない!」

「食べ物や道具を奪いに、身を隠して侵入してきたりするかもしれないじゃない!」

「あいつはこの島に来てから今まで、自分で森の中の果物や動物を獲って食べて生きてきた。

 ……私が追い出したから頼れる相手もいなくて、それでも慣れない環境の中で必死に独りで

 生活してきた。そんな人が今更私達から物を奪おうだなんて……!」

「ありえないって、本当に言えるの!?」

「そうだ! ヤケになって向かってきたらどうするんだ! 儂の妻に手を出してみろ、そいつ

 の四肢を引き千切ってやる!」

 鎮まるどころかネイトへの憎悪を強め、状況を眺めていた中立の立場の村人達にもネイトに対する反感が伝染していく。

(まずい、このままじゃ逆効果じゃない……!)

 ネイトが危険な人物ではないと村人達に説明しようとしているのに、むしろ彼への恐怖心を煽ってしまっているのではないか。

 憶測でしかないものの、正体の知れない存在への不安は誰にだってある。

 さらに殆どの村人がロアの民以外の人間との交流経験がないという排他的な歴史が加わり、ここまでの反発を招いてしまっているのだろう。

「そんっ……あいつの目的はあいつのいた世界に戻る事、私達の敵になる事じゃない! そん

 なつもりだったら私が今も無事でいるなんておかしいじゃないの!」

「どうだか、今のヒナちゃんは普通には見えんがの、考えを毒されておるんじゃないか!?」

 ついこの前隠居組の仲間入りをしたばかりの中年の男が、意地悪げにそう吐き捨てる。

「なっ、にを……デタラメな……!」

 無茶苦茶な事を言うなと間もなく、他の村人達もそうだそうだと捲し立てる。

「隙を伺って良い顔をしているだけかもしれん!」

「下心があるから女には優しかっただけじゃないのか?」

「他にも余所者がいないとは限らないわよね!? もしかしたら近くにいるのかも……!」

「ヒナに擦り寄って俺達に関する情報を手に入れてから、村を潰しに来る気なんじゃ? それ

 ならヒナをたぶらかしたのも納得がいく!」

 どいつもこいつも勝手な事を、とヒナは腹立たしさから奥歯を食いしばっていたが、

『いずれ村の誰かが余所者の野郎に傷つけられるのも時間の問題だぞ』

 巻き起こる喧騒の中、誰かが口にしたその一言が耳に届いた瞬間、ヒナの頭の中で何かがプツリと千切れ、理性を保っていた枷が外れる音がした。

「ふざ、けるなああああ!」

 気づけば右手に木の槍を握りしめて自身を取り囲む村人達に突きつけ、喉が裂ける程の獣のような雄叫びを上げていた。


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