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氷の世界③

 明とヨキを乗せたWC-001は大気圏に突入する。

 その前方にシャトルが先行していた。<フロンティア号>と同程度の大きさだ。月からの定期便のようだ。さすがに目的地は違うと思う。

 シャトルは蛇行をはじめる。見る見る高度が落ちて行く。突入角度が深すぎる。

「あぶねーな」

「応答しろ!こちら・・」

 シャトルから応答は無い。救難信号も出ていない。このままでは燃え尽きてしまう。

「事故か?」

「接近する」

 明はWC-001をシャトルへ近づけた。

 シャトルの操縦室が見える。・・二人のパイロットは気絶している。

「やばいぞ」

 乗客が窓越しにこちらを見て騒いでいるのが見える。

「ヨキ。操縦代わってくれ」

 明はヘルメットをかぶる。通常の宇宙空間ならこのまま外に出られるが、今は大気圏突入の真っ最中、さすがに無理だ。

「テレポートで俺をシャトルのコクピットに送ってくれ」

「わかった」

 次の瞬間、明はシャトルの操縦室にいた。

 パイロットの首に手を当て生存を確認する。 

「睡眠ガスか?スタン(グレネード)?ヘルメットは取らない方がいいな」

 操縦室の外でキャビンアテンダントがドアを叩いている。だがドアを開ければ彼女や乗客にも危害が及ぶ危険がある。事情を説明している時間はない。

 明はパイロットを床に移して、操縦席に座る。

 操縦桿を握る。機名と行き先を確認する。通信機のスイッチを入れる。

「エマージェンシー。ラ・ムー管制塔。こちらシャトル7890便。パイロットが二人とも気絶している。緊急時のため自分が操縦する」

『誰だ。お前は?名前を言え』

「え~と・・国際救助隊だ」

 ようやくシャトルが安定する。

『ザー』

「!」管制塔との通信が途絶えた。

 シャトルと並行して飛ぶWC-001のヨキは後方より接近する機体に気付く。

 ステルス化した宇宙船だ。明に伝えたいが、今は妨害電波のため通信不能だ。

 何かを射出した。

 パワードスーツ。数は3体。

「事故じゃない。テロか?」

 ヨキは迎撃に向かう。

 スーツ1体がこちらへ、2体はシャトルへ。

 武装はレーザーバルカンしかない。

 トリガーを握る。発射。

 スーツ背部のエンジンに命中。

 致命傷にはならないが、推力を失ったスーツは落下して行く。パラシュートが開く。

 残り2体のパワードスーツはシャトルに襲いかかる。

 銃火器を使わずに素手で操縦室とエンジンを狙う。隕石衝突か何かによる事故にみせかけるつもりか?

 明はシャトルを上昇下降させ、スーツの突進をかわす。武器がないシャトルでは逃げる事しかできない。

 客室では乗客が悲鳴をあげていた。

 ファーストクラスの老紳士だけは黙って窓からその光景を眺めている。

「上手い。たいしたもんだな」

 ヨキが追いつく。レーザーバルカンを発射。

 スーツは避ける。が、もう1体と衝突、共に落下する。

 何者かは分からないが、腕は大したことない。

 高度1万5千メートル。ステルス母艦は引き上げたようだ。

 シャトルとWC-001は青空の中を滑空して行く。その先に軌道エレベーターのある大陸が見える。

 シャトル7890便はラ・ムー宇宙港に無事着陸した。

「エンジン停止。ふう。・・ヨキ!戻してくれ」もう通信可能だ。

『3分以上経っちゃってるからテレポートは無理だよ。あと10分程待って。せっかくだからヒーローインタビュー受けちゃえ』

「やだよ。めんどくさい・・あ、やばい」

 操縦席に完全武装した警官がなだれ込んで来る。

「大丈夫か?」

 操縦室の床に倒れているヘルメットをつけたスペーススーツの男を介抱する。

「わ、私よりも機長を・・」

 警官達は機長と副機長を介抱。その隙にヘルメットの男はそ~っと操縦室を抜け出す。シャトルから降りて、滑走路を走って離れる。

 一番最初に救出された老紳士は走る明を見ながら、通信する。

「ローザか。調べてほしい事があるんだ」


 <エンゼル=ヘア>は次の目的地・オリオン星雲に到着した。

 地球から見えるオリオン座の三ツ星の下の小三ツ星の一つ。地球からは約1500光年の彼方にある。約30光年におよぶ広大な大散光星雲。そこは星が生まれ死んでいく処。

 その眩い光の雲は生徒達を魅了した。

 ここにも観光用ステーションが多数あるが、船は接舷せずに丸一日かけて星雲の周囲を巡る。次のX-1でも“上陸“は無い(観光用ステーションそのものが無い)。最終目的地の地球では、数班に分かれてシャトルで降下し地球のホテルに泊まる予定になっている。

 巨大な<エンゼル=ヘア>の中には様々な娯楽施設がある。映画館にスポーツジムに遊園地、未成年の入れないカジノにパチンコまで。

「きゃー」

 美理と麗子が乗っているのはチューブの中を走るジェットコースター。

「次はあれ行こ」

 他にも外(宇宙)が見える観覧車や鏡の無重力迷路といったアトラクションがある。

「あら?」

 視線を感じた麗子が振り向くと、幼稚園か小学生位の男の子が見つめていた。

 アイスクリームをなめている。両脇にボヂィガードのような精悍な男性が二人。

「麗子」ナオミに呼ばれ、

「ごめん。いま行く」

 男の子は急に立ち去る。それを遠巻きに眺めていたグレイも歩き出す。

 三人はVIP専用エリアに入って行った。


 ピンニョはステルス化して特等室のエリアにいた。

 その中でも特にゴージャスなエンペラールーム。オーナーのレオナルド=アダムスはそこにいるはずだ。おそらくあの鳥も。さっき小さな男の子が中に入って行った。

 部屋の前にはガードマンが二人。ロボット犬もいる。ピンニョの匂いを察知したのか、こちらを見上げている。

「無理か」とあきらめかけた時、部屋のドアが開いた。

 アダムスが出て来た。その肩に青い小鳥。間違いない。ガルーダだ。

 目線が合った。


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