表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

氷の世界①

 第2章  氷の世界


 ルリウス星上空を巨大な宇宙客船が出航して行く。

 中央に全長1000mの長細い船体、その上下左右に直径500mの円盤状船体、これら5つの船体から成る巨大な船だ。護衛を務める地球連邦の巡洋艦が小さく見える。

 その中継を明たちはククコカ星のホテルの部屋で観ていた。

 大規模な恒星フレアのため、この星に足止めされていたのだ。ホテル代はククコカ政府がもってくれた。ラッキー。 

『アダムスグループ総帥・レオナルド=アダムス氏の好意により、招待された真理之花女学院の生徒達を乗せ、<エンゼル=ヘア>は処女航海に出発しました』

 画面の隅で羽根を振るピンニョ。ちゃっかり乗船している。 

「い~な~あいつ」

 一瞬映る背広姿のアナウンサー。

「あら?今のグレイじゃなかった?」 

「まさかあ」

「じゃ、俺たち部屋に戻るわ。おやすみ」

「天体予報だと、明日は出発できそうだな。じゃあ8時に朝食、9時チェックアウトな」

 明と啓作を残して退室。二人きりになる。

 部屋割りはくじ引きで決めた。ボッケンはヨキとマーチンと同室、今夜はよく眠れそうだ。紅一点のシャーロットは一人部屋。

 啓作は冷蔵庫からビールを取り出す。「飲むか?」

「ああ」

 うなずく明に缶ビールを投げる。

 プシュ。ふたりで黙って飲む。

「啓作・・美理ちゃんのこと、教えてくれ」

「お。興味あるのか・・・まあ当然か。恋人と瓜二つなんだからな」

「恋人じゃねーよ」

 啓作は妹のことを話した。

 異父兄妹な事。母親が異星人な事。母親がそっくりな事。すぐに泣く事。でも芯は強い事。自分には冷たいが、実は優しい事。etc.

「応援はするが、泣かしたらただじゃすまさないぞ」

「はは・・・そうだ!<フロンティア号>のこと、教えてくれよ」

「俺の知ってる限りだが・・・宇宙暦478年―親父・流啓三の地球連邦パトロール船は漂流していた宇宙船を発見した。

 船には攻撃を受けた跡があり、中に地球人型(ヒューマノイド)の異星人の母子がいた。

 俺はまだ生まれたばかりで、母はエレーヌという名前以外の記憶を失っていた。

 地球連邦に反感を持っていた親父はこの事を上層部に報告せず、親子の面倒をみた。

 やがて親父は母と結婚、美理が生まれた。

 ・・・あ<フロンティア号>のことだったな。俺たちの乗っていた異星の船は、当時のパトロール船の機関長が管理した。マーチンの父親だ」

「え?」

「当時のパトロール船の乗組員は親父と船医(Dr.Q)と機関長の三人しかいない。船長と言ってもたった三人の船の船長だぜ。でマーチンの父親がこの船を修理・整備・改造した。費用は親父持ちだったようだ。父子でせこい。でも実際費用を出していたのは、親父の友人らしい。プロトン砲は軍のおさがりで文字通り取って付けた」

「この事をマーチンは知らない?」

「奴の父親に口止めされた。いつか自分が話すと言っていた」

「それにしても・・よく物を見つける父子だな。父親はこの船を見つけて、息子は俺を見つけた」

 明はカーテンを開けて外を見る。

 オーロラの下、<フロンティア号>のある宇宙港の灯りが見える。

「記憶もどってどうだ?まだ“あの夢“は見るのか?」

「そう言えば・・見なくなった」

 地球に隕石が落ちる夢(記憶)。本当の記憶が戻ったから?

「なあ、俺って弓月姓を名乗っていていいのか?」

 蘇生した明を目覚めさせるのに“精神移植”を利用した治療を施したのは、啓作の恩師Dr.Qこと弓月丈太郎だった。使用した記憶は彼の亡くなった息子・弓月了のものだった。

「Q先生自ら義理の息子って事にしたんだ。お前が嫌じゃなければ構わないだろ」

「この名字に慣れちゃったからなあ」ビールを飲み干す。

「啓作、次の仕事は確かアルタイルから火星だよな?」

「ああ。余裕があると思っていたが、足止めくったからギリギリだ」

「その後はしばらくヒマだったよな?・・行きたい所があるんだ」

「どこだ?」

「地球」


 豪華客船<エンゼル=ヘア>船内。

 中央の船体にはブリッジやメインレーダーやエンジン等があり、円盤型船体のうち左右の二つは一般客室、下部は貨物用、上部は特等船室とアミューズメント施設となっている。各船体にもエンジンはあり、緊急時には分離し各々単独でも航行可能となっている。

 真理之花女学園の生徒らの船室は左の円盤型船体にあり、美理と麗子は二人同室だった。

 寮でも同室なのだが、この旅行でも同室を希望した。内緒でピンニョを連れているせいもある。

 二等船室との事だが、彼女達の部屋はホテルのツインルームより豪華だった。

「すごいなあ。<フロンティア号>と違って動いているのが分からない」

「ピンニョちゃん。それは遅いってこと?」麗子が尋ねる。

「違うよ。静かだってこと。防音壁やGキャンセラーが優秀なんだと思う。発進のGもほとんど感じなかった」

 美理は話に参加せずにぼーとしていた。

 自宅で見つけた明の記事や論文が気になっていた。内容は<フロンティア号>で明が自分に話した事と相違ない。だけど・・自己嫌悪。

「(あー、よく考えたら大変な事じゃない。500年の冷凍睡眠?どうしてああさらっと言えたの?話を聞いた時は自分の事でいっぱいいっぱいだったから、何も言ってあげられなかった。明さん、あんなに優しくしてくれたのに。冷たいと思われただろうか。たった一人で違う時代に目覚めて、どんなに寂しかったろう。私だったら・・)はあ」ため息をつく。

「み~り~」

 麗子が抱きついて来る。

「暗いぞ―。今は楽しまなくちゃ。せっかくの修学旅行なんだもの」

「そうね」頷く。「落ち込んでいても何にも変わらない」

「でも雑魚寝と思っていたのに、こんな二人部屋だなんて」

「豪華客船だものね。朋ちゃんとナオミ、枕投げ用にマイ枕持って来てたよ」

 船内放送が流れる。

『これよりワープに入ります。座席ベルトを締めて、衝撃に備えてください。ワープアウト後は右手にプレアデス星団が見られる筈です』

 ふたりは固定された椅子に座り、シートベルトを締める。麗子はピンニョを両手で包む。

 軽い衝撃と浮遊感。

『ワープ終了しました。座席ベルトを外しておくつろぎください』再びアナウンス。

「え?もう?」

「何だ、ワープって大したことないのね」と麗子。

「今度<フロンティア号>に乗ってもらおう」

 ピンニョが悪戯っぽく言う。美理が笑う。

「プレアデス見に行こう」

 ふたりはベルトを外してドアの外へ。通路も広い。学校の廊下と同じ位か。

 客船<エンゼル=ヘア>はプレアデス星団の近くを航行。

 生徒達は星団をバックに記念写真を撮ったりしていた。その中に美理と麗子の姿もあった。

 グレイはその近くで少女達を見ていた。

 その肩にステルス状態のピンニョがとまる。

「びっくりした。何で乗ってんの?」

「それは企業秘密。あの娘が啓作の妹か」

 黙って見つめる。いつもの鋭い眼光は無い、優しいまなざし。

「きれ~い。(兄さん達、何してるのかな?ここにも来た事あるのかな?)」 

 青い昴は静かに輝いていた。

「!」

 グレイの表情が曇る。途端に鋭い目つきに変わる。

「ん?」

 ふと視線を感じて麗子は振り返る。

 その先には一人の女性がいた。

 背が高くスタイルも良い。歳は30代半ばか。サングラスをかけ、高級ブランドに身を包んでいる。

「(誰かの父兄だろうか?だとしたら過保護だ)」

 麗子がそう思った時、女性は舌なめずりをした。そして背を向けて立ち去る。

「じゃあな」

 グレイはピンニョにそう言って歩き出す。女性の後をつける。

 女性は中央船体から上部船体へ。その先はVIP専用だ。

 グレイは追跡を断念せざるを得なかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ