最も危険な輸送④
ワープアウトする<フロンティア号>。
前方にアステロイド帯。ククコカ星はその向こうだ。
高熱帯ではないが、自動迎撃システムを備えた無人の砲台が無数存在していた。これらは昔の戦争で使われ、放棄されたものである。一方、迂回する航行予定コース上には、30隻もの海賊船隊が待ち構えていた。
「・・やば」
「そうだよなー。自ずと航行コースは限られるもんなー」
<フロンティア号>の後方にも海賊船がワープアウト。その数、約20隻。囲まれた。
「通信が入ってるけど、どうする?」ヨキが明に尋ねる。
「戦闘準備。アステロイド帯に突っ込む。通信はヨキ、あの手で行こう」
ヨキは親指を立てて合図。明たちは耳栓を付ける。
メインパネルに海賊のボスが映る。
『もう逃げ場はない。大人しく“反物質コア”をわたせ!』
「・・・・・」
明が口パクするが、相手には何も聞こえない。
「何だ?故障か?」
焦るボス。耳をそばだてる。通信兵は通信のボリュームを上げる。
画面がヨキのアップになる。息を吸い込んで・・
「あ――――――――――――――――――――――――――――――――――」
物凄い音量。
海賊達は耳がキーンとなる。海賊船の通信機器が火を噴く。
「全速前進!」耳栓を外しながら明が叫ぶ。
<フロンティア号>は全てのエンジンを噴射し、アステロイド帯へ突入する。
Gがかかる。それは医務室の技師達も同じ。
「追えー!」
海賊船50隻が後を追う。
迫る小惑星。明は操縦桿を倒す。
<フロンティア号>は小惑星をかすめ、回避。
次の小惑星が迫る。姿勢制御ノズル噴射。回避。
海賊船は避けきれずに小惑星に衝突、爆発。
「美理がいなくてよかったな」
「ああ」
別の海賊船が発砲。
ビームが<フロンティア号>に迫る。
小惑星を盾にして防ぐ。
針路上に小惑星。プロトン砲発射。
破壊できないが、針路を逸らし、回避成功。
小惑星帯の中では武器のホーミング能力は役に立たない。今の明たちにとってそれは短所と言うより長所だった。
明の操縦技術は海賊達とは比べ物にならない。あっという間に海賊船を引き離す。
最初にそれに気付いたのはボッケンだった。
小惑星に紛れて浮遊するメカ。
赤い光が点灯する。無数の“砲台”が目を覚ます。
続いて明も異変に気付く。
殺気といってもいい、空間の異様な雰囲気(機械なのに)。
光の輪が現れる。
海賊船が爆発。衝突ではない。“砲台“による攻撃だ。
彼らは移動手段を持たず、補足した目標をただ攻撃するだけ。躊躇なく冷静に冷酷に。
無数のビームが小惑星帯に溢れる。
<フロンティア号>に当たらなかったのは偶然だった。
「ありったけのダミーを放出!ステルスバリアー展開!」
明の命令に答え、啓作が操作。
ダミーバルーンが周りに出現、並行しリモコン航行。
「過去のデータではステルスバリアーは無効だ。速度低下するから止めとこう」
「わあった」
明が答えた瞬間、ダミーバルーンが破裂。
明は操縦桿を引く。光線が機体下方を通過。
海賊船隊は半数以下に減っていた。ボスの顔はひきつっている。
「撤収!!は・反転180度。この宙域より脱出する」
海賊船隊は被弾・爆発しながらも、小惑星帯から離れていく。
<フロンティア号>は小惑星帯の中を飛ぶ。
敵の攻撃は益々激しさを増している。
前方から無数の光。避けきれる数ではない。
「バリアー!」
ヨキは<フロンティア号>周囲にESPバリアーを張った。
ビームはバリアーに阻まれ、当たらない。
ヨキがESPを使える時間は3分。その間に小惑星帯を出なければ“砲台”の餌食だ。
「フルパワー噴射!」明の命令。
「エンジンフルスロットル!」マーチンがエンジン出力を最大まで上げる。
さらにGがかかる。医務室の技師達は気絶していた。
啓作はめくら撃ちで<フロンティア号>から全方位に一斉射撃。
向かって来る敵のビームを防御。幾つかの“砲台”を破壊する。
ヨキは必死で耐えていた。機体周囲100m近いエリアにバリアーを張るのは至難の業だ。
ボッケンはヨキに代わってプロトン砲を担当。前方に固定し連続発射。
「あと5万キロ!」シャーロットはレーダー他残り全てを担当。
“砲台”から無数のビームが飛び交う。
その中を<フロンティア号>は猛スピードで駆け抜ける。
プロトン砲を発射。
針路上の“砲台”を破壊。
避けずにその爆発の中を飛ぶ。
遂に小惑星帯を突破!
敵の攻撃が止む。“砲台”の赤い光が消えていく。
彼らは再び眠りについた。
「やった」
安心したヨキは気を失う。体力の限界だった。バリアー消失。
前方に黄色い惑星。目的地のククコカ星だ。
<フロンティア号>は減速しつつ、大気圏に突入して行った。
<フロンティア号>はククコカ星首都の宇宙港の外れに着陸。
啓作たちは医師団と協力し、騙されたふりをして運んで来た“ワクチン”を渡した。
本物のワクチンはカーゴに積んだまま、本日はこの星のホテルに一泊(勿論料金は相手持ち)、その後ユバ星に戻り、ディラノイ教授に事情を説明して返還する予定だ。
彼らが到着して4時間後。
ようやくヨキが目を覚ました頃、銀河パトロール艦隊が到着した。歓声の中、宇宙港の中央に着陸。“反物質コア”が発電所に渡された。恒星突入性能を持つ最新鋭艦だが、砲台ルートを迂回してきたので明たちの方が早かった。
反物質発電の復活により、ククコカ星に灯りが蘇った。
「なあ・・」啓作が明に尋ねる。
「・・俺たちの運んで来たモノって本物だったんだろうか?俺たちの方が囮だったんじゃないのかな?」
「それでもいいさ」明が答えた。
ルリウス星。
「遠慮せず入って」
「おじゃましまーす」
美理は修学旅行用の荷物を取りに自宅に来ていた。麗子とピンニョも同行。
「鞄と・・兄さんのパスポート入れ・・借りまーす。・・あ!」
机の上の本を落としてしまった。
拾う。何かが本の中に挟まっていた。
「何?」
資料(3Dメディア)のようだ。
「まさかアダルト?」麗子の目がキラキラ。
「ないない。明じゃあるまいし」ピンニョが即答。
「美理。明さんって、どういう人?」
どう答えていいのか?「・・あ」
スイッチが入る。映像が投影される。
『クリスマスの奇跡』 『500年前の冷凍睡眠カプセル見つかる』
『眠れる王子未だ目覚めず』
「新聞記事だ。・・この写真の人・・明さん?」
『冷凍睡眠後の覚醒に記憶移植が有効だった一例』
「こっちは兄さんの論文?・・明さんの?」
論文には大きなバッテンが書かれていた。発表されていないようだった。